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買い取られた伯爵 [オーロラブックス]

SHALOCKMEMO451
買い取られた伯爵 Not Quite Married 2004」
ベティーナ・クラハン Betina Krahn betinakrehn.com 山田香里





邦題をつけるとしたら「未完の結婚」というのはどうでしょう。「Not Quite!」で,「惜しい!」といわれそうですが( ̄ー ̄)ニヤリ。
独立戦争直後のアメリカとイギリスを舞台にしたヒストリカル・ロマンスです。独立心旺盛な伯爵令嬢ブライアン。ちょっと男の子のような名前ですが,貿易を営む父伯爵にずっと放っておかれたため,社交界にもデビューしないまま20代になってしまいます。アメリカの営業所が,独立戦争の影響で経営が思わしくなく父親の代理人としてヒロインは少数のお伴とともにアメリカに渡ろうとします。その船の船長は,なんとブライアンがフランス貴族の三男ラウルとの結婚を逃れるため,一夜だけ臨時の夫として結婚するよう迫り,崩壊寸前の教会で怪しげな牧師のもとで結婚式を挙げた相手,アーロンでした。しかも結婚の代償としてブライアンはアーロンに4,000ポンドという代金を支払っていたのです。いわば,買い取られた夫というわけです。しかし,その結婚の証明書も,式を執り行った牧師もなくなってしまい,結婚の事実は証明できないまま,ブライアンはフランス貴族のラウルと新婚生活を送ることになってしまいます。予想どおり,ラウルは見かけや人当たりはいいものの,ブライアンの伯爵令嬢の身分と財産狙いに,さらには,美しいブライアンの美貌を狙って結婚したのでした。逃げようとするブライアンでしたが,ラウルの使用人で大男のダイソーを見張りに立て,いうことをきかないブライアンを屋敷に監禁してしまいます。夜中に火事が発生し,煙に巻きこまれて意識を失おうとしたとき,なんとダイソーがブライアンを助け出し,反対に鎮火した屋敷跡からはラウルの遺体が見つかるのでした。不仲であった父親のもとに避難したブライアンは,父から経営のノウハウを本格的に学び,実地に仕事をしようとしたとき,アメリカの営業所の件が起こり,火災後ブライアンの忠実な使用人兼ボディガードとなったダイソー,身の周りの世話をするジェニーと3人でアメリカに渡ることになりました。
その船,「レディース・シークレット号」は,アーロン・ダラムが父の反対を押し切って,設計から独力で作り上げた第1号の船だったのです。ブライアンが支払った4,000ポンドはこの船の建造費としてどうしても必要な金額だったというわけです。二人の結婚が証明できないということ,独立心の強いブライアンから,女性の人格や権利・自由を認めるよう要求されたアーロンは船旅の間,ブライアンと言葉の応酬を交わしながらも,次第にブライアンの優れた人柄に気付いていきます。同時になんとしてもブライアンの歓心を買い愛してほしいと願うようになります。ブライアンもアーロンの男としての価値に次第に惹かれていくものの,再び結婚すれば夫に従う貞淑な妻にならなければならなくなることに抵抗を感じ,アーロンを意識的に遠ざけようとします。
アメリカ,ボストンに到着した後は,ブライアンは営業所の在庫の処理をできるだけ高額でさばこうとし,オランダ人商人ヴァン・ザントと交渉しますが,この人物は独立戦争当時アメリカとイギリスの両国を騙し,巨額の利益を得るような悪徳商人でした。アーロンはそのことに気付いており,陰でブライアンを支援します。偶然酒場で見かけた元ブライアンの使用人エラとも出会い,その借金を代替わりして自分の手元で使用人として雇うことにしますが,そのことはブライアンには話しませんでした。
営業所と在庫はザントの魔の手を逃れ,なんとか良心的な商人に売り渡すことができたブライアンは,イギリスにもどってきます。しかし,そこで待ち構えていたのは,フランス革命前夜を逃れてイギリスに来ていたラウルの父侯爵とラウルの弟でした。ラウルの父トレショー侯爵はこの弟とブライアンを結婚させ,イギリスでの身分と財産を手に入れようと,ブライアンを脅迫して契約書にサインさせたり,社交界に偽の噂を流したり,甥の悪漢を使ってブライアンを誘拐したりします。それを阻み,アーロンとともにブライアンを救い出したのは,使用人のダイソーでした。口のきけないダイソーが,アーロンやブライアンの父伯爵にブライアンの危機をどのように伝えたのかが描かれていますが,ブライアンの身を案じ,ダイソーの言うことを理解しようとする人たちでなければ,おそらくブライアンは救われなかったでしょう。情報伝達手段の少ない時代に,聾者がどのような手段で情報を伝えることができたのか,そこには人としての誠実さと人を思いやる気持ちがなければ,とてもかなわなかったことだろうということが,直接的ではなく,とても巧妙に語られています。おそらくダイソーは字を書くこともなく,すべて身振りでブライアンの危険を伝えたのです。アーロンの調査で,ブライアンとアーロンの結婚証明書も発見され,その証明書を国教会司教も認めたことから,二人は晴れて夫婦として認められます。しかもブライアンのお腹の中にはアーロンとの愛の結晶も宿っていました。
エピローグでは,ボストンに渡った二人のもとに,両家の父親たちが訪れます。祖父に抱かれた一人息子ギャレットが,次の物語のヒーローになるのでしょうか。


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