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舞踏室の微熱 [デボラ・シモンズ]

SHALOCKMEMO460
舞踏室の微熱 A Lady of Distinction 2004」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons deborahsimmons.com 小長光弘美





ハーレクイン文庫は通常過去にハーレクイン社から出版されたものの文庫化が多いのですが,この作品は初訳のようです。しかもデボラ・シモンズ!
案の定,通常のヒストリカルには乗りにくい題材だったのかもしれません。
舞台はナポレオン戦争後のロンドン。まだ,エジプト学が確立する前で,シャンポリオンによるロゼッタストーンの解読が成功する前のことのようです。そのため,エジプトから多くの遺跡や文化財がイギリスに運ばれることにいろいろな意見あることが(これは,現在でもあるのでしょうが),随所に現れています。
大英博物館も登場しますが,まだ収蔵品としては現在の何十分の一,何百分の一という規模のものだったでしょう。貴族たちが金にあかせて個人的趣味で遺跡を買い集めていた,いわゆるブームとなっていたのでしょう。
さて,ヒロインのジュリエットは,背が高すぎてやせぎみ,眼鏡をかけ,地味な服装をしているという,当時の美女の基準からするとやや変わり種ですが,社交界よりもヒエログリフやエジプトの遺跡・遺物の方に興味があうぃ,数種類の言語に通じているという才媛でもあります。エジプト研究は男性の領域,父親にも構ってもらえないことをいいことに,自分の好きなエジプト研究に没頭する毎日でした。そこに,モーガン・ビーチャムという冒険家が多くの遺物やパピルスをエジプトから運び込み,ジュリエットの父親のカーライル伯爵がそれを買い込んだというところから物語は始まります。少々変わり種のジュリエットと冒険家らしい,いわば野蛮な格好のモーガンは出会った時から口論をし合いますが,ふしぎと二人とも互いをこれまでとは異なった価値観で認め合う気持ちが生まれてきます。もう一人敵役のシリル・リンドハ-スト卿が登場しますが,青白くいかにも研究者らしい,しかも威張りくさっている学者風な準男爵です。カーライル邸で自由に研究させてもらっているところからジュリエットも自分に気があるものと自分勝手に思い込んでいる,いかにも現代風な貴族崩れの敵役にふさわしい人物造型です。さて,カーライル邸の舞踏室に運び込まれた遺物を整理しようとしていた三人ですが,どうにも三角関係になってしまいますが,同時に誰もいない夜の間に,物が動かされた形跡や,パピルスの紛失,そしてミイラの手が夜中に空中を浮遊し,驚いた使用人が階段から転げて足を骨折するというような小さな事件が頻繁に起こるようになり,リンドハースト卿はこれをミイラの呪いと吹聴するようになります。それらの小さな事件が次第に大きな事件に発展し,緊張感を高めていきますが,なにせ450ページ足らずの本書ではそんなに綿密なミステリは期待できないと思われます。入口に昼夜を分かたず見張りが立っていても舞踏室ではいろいろな異変が起こったり,いかにも物語は謎めいていきますが,結局はあっけなくその謎が明かされたり,いかにも怪しげなカーライル伯爵やリンドハースト卿が,思い通りの行動をしたりと,謎の深まりはかなり薄いストーリー展開になっています。このあたりがミステリとロマンスの違いなのでしょうね。最後は売り物ではない宝の地図を元にジュリエットとモーガンが一夜のうちに結婚してエジプトに出発したりと,ストーリーはスピードはあるものの,現実離れしたいかにも作り物の感じがしていきます。デボラ・シモンズがストーリーテラーであることは間違いないのですが,本来もう少しエジプト学の蘊蓄が出てきたり,大英博物館の歴史を詳述するなどの工夫があってもよかったかな,と思わせる作品でした。


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