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野性の花嫁 [ジュリア・ジャスティス]

SHALOCKMEMO475
野性の花嫁 The Untamed Heiress 2003」
ジュリア・ジャスティス 江田さだえ





 「独立心のある(飼いならされていない)女相続人」という原題のちょっと厚手のヒストリカルです。「untamed」には,「社交界の常識にはあてはまらない」とか,「社交界に慣れていない」という意味も含まれているでしょうが,「社交界の常識に汚されていない」というふうな強い意味も含まれていそうなので,「野性の…」と邦題がつけられたのかもしれません。
ヒロインのヘレナ・ランバース。表紙の絵では亜麻色の髪と濃いグリーンの目の口元が可愛い割には気の強そうな美女が振り向いている姿が,豪華な屋敷の大広間で,濃いブルーの生地と白いレースの襟元のドレス姿で描かれています。この背丈のこの若さの少女がもし少年の格好をし,長い髪を帽子に隠していれば,当然少年と見誤られるでしょう。ヘレナは時に屋敷の中で息が詰まると,少年の格好をして,自由の空気を吸いに屋敷を抜け出して行くのです。好奇心の塊であり,知りたい事には危険を顧みず,いわば社交界の女性の常識では考えられない行動をするのですが,それが,いちいち清々しく,愛らしく感じられるのです。もともと,幼いころ母が愛人のもとに出奔して父のもとに残され,徹底的に苛め抜かれるというDVを体験するのですが,そのため,社交界の礼法を全く身に付けずに育ちます。背中や首には鞭打たれた跡が残っているため,常にのど元までのドレスを着たがり,くるぶしがすっかり隠れるような長いドレスを着ているため,妙齢の婦人としては社交界の常識を外れた格好をしているのでした。しかし,頭の回転が速く,男性顔負けの知識をもち,読書に没頭するという,まさに好奇心の塊でもあるのです。しかも,父が亡くなり,一人では使いきれないほどの遺産を手にしているとあっては,格好ばかりで手元がさびしい貴族男性の格好の標的,花嫁候補にもなるのです。
結婚が遺産相続の上では非常に有効な手段だった当時,一家を支え,妹を社交界にデビューさせようとしていたヒーローの陸軍大尉アダム・ダーネルにとっては,当時社交界でなかなか男性の好みがうるさいといわれていた幼馴染で持参金の豊富なプリシラに求婚していたところに現れた,この不思議な少女(実は20才だったのですが)ヘレナ・ランバースが豊富な遺産と結婚が許されない後見人的な存在となったことは,いかにもややこしい関係になってしまっています。しかも,この風変わりな少女が莫大な遺産の持ち主であることは,知られていなかったのですから。
 生まれて初めて自分の行動に優しさと理解を持って接してくれたダーネル一家とその使用人たち,そして母親の事務弁護士だった男性によって徐々に社交界に登場していったヘレナではありましたが,アダムとの思いを断ち切り,遠くから自分を見つめていた母の愛人の母親から,出生の秘密を聞かされた時,無慈悲で認否人の自分の父親の血をひいていないことに心から安どして,本当の父のいる南国の島へと渡るのです。しかし,アダムを失った心の痛みは本当の父に会ってもなかなか癒されるものではありませんでした。大団円ではアダムが光の向こうから現れ,まるで映画の一シーンのよーに素晴らしい再会を喜び合う二人の姿に読者は,心の底から安どと温かい心に包まれるのです。一気に読み進められる377ページの傑作です。


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