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気高き心は海を越えて [MIRA文庫]

SHALOCKMEMO478
気高き心は海を越えて Heart of Honor 2007」
キャット・マーティン Kat Martin katbooks.com 岡 聖子





ハート・トリロジーの第1作。クリスタ・ハートと彼女を取り巻く人々をヒロイン・ヒーローとする3部作になるようです。第2作目の「熱き心は迷宮を照らし」がこの3月に翻訳されました。第3作目の「Heart of Courage 2009」は,未訳です。
生粋のバイキングで,古ノルド語を日常語とするドローグル島(架空の島のようです)を船出したウールフル族の族長の息子リーフは,1842年,イギリスに漂着します。仲間の船乗りたちは海の犠牲になってしまい,一人生き残ったリーフは,サーカスにつかまり,見世物にされてしまいます。そのサーカス一座がロンドンの興行をしていた時,リーフは運命のひと女,クリスタ・チャップマン・ハートに出会うのでした。
古ノルド語を研究していた父のパクストン・ハートに古ノルド語の手ほどきを受けていた伯爵の孫娘であったクリスタは,サーカスを見物に来ていた他のひとには理解できなかったリーフのつぶやきが古ノルド語であることに気付き,悲惨な見世物になっていたリーフを,父とともにサーカスから解放し,自宅で英語やイギリスの風習,上流階級のマナーを教える代わりに古ノルド語やドローグル島のことを学ぶことにしたのです。当時,クリスタは,女性向けの新聞の編集人であり,過酷な労働条件で工場で働かされていた子供や婦人,労働者たちの権利の向上のための記事を掲載しており,記事の掲載のたびに工場経営者たちから批判と警告を受けていたのでした。
そんなクリスタに女性としての魅力を感じたリーフは,自分の妻にと考えるようになりますが,イギリスでは何の力も財力もありません。リーフは,英語だけではなく,カード・ギャンブルにも才能があることに気付き,貴族の館やカジノで開かれるカードの会で次々に賭けに勝ち,蓄財を始めたのでした。
クリスタは祖父の伯爵から早く結婚し,後継ぎの男性を設けるように急かされていたのでしたが,候補者として名乗りを上げていた貴族の次男,マシュー・カールトンから求婚されていました。やさしいマシューとリーフの男らしさを比較したとき,クリスタはリーフのほうにときめきと熱い思いを抱くのでした。しかし,リーフが蓄財したお金で船を購入し,ドローグル島に帰ることを真剣に考えているのに気付き,新聞編集と伯爵家の後継ぎを設けるという自分の義務と,リーフの愛情との間で,何度も眠れない夜を過ごすことになります。そんなとき,新聞社の裏手から火の手が上がり危ういところで延焼を免れたり,帰宅途中の馬車が襲われ,脅迫を受けるなどの事件が起こります。クリスタの身の安全のためリーフは日中はクリスタとともに新聞社で働き,夜はカード・ゲームで蓄財をするという着々と自分の帰国のための準備を進めていきます。
リーフの愛と義務との間で揺れ動くクリスタの気持ちと,望郷の念とクリスタとの愛の両立を図ろうとするリーフ,二人の葛藤が延々と語られ,緊張感の中で物語は進みます。クリスタに求婚し,船を手に入れたリーフは出港の日,ついにクリスタを拉致し,ドローグル島への船旅に出かけます。クリスタの父のパクストンは,そんなことが起こるのではないかと予感はしていたものの,クリスタがいなくなってからは,気の抜けたビールのような生活を送るのでした。
ドローグル島に無事帰還したリーフは,結婚をなかなか承諾しないクリスタを気遣い,いつかは承諾してくれるものという希望を捨てずに,ドローグル島の長老たちに,外国との交易をすることを提案します。しかし,他国との交渉をたち,保守的な生活を送ろうとする長老たちの理解は得られず,このままドローグル島に残っていいものかという悩みを抱えていきます。他の部族に襲われ,ウールフル族の危機を迎えたとき,なんとか敵を撃退したものの,クリスタに危険な目にあわせたくないという深い愛情を抱いていることに気付いたリーフは,弟やクリスタを伴ってイギリスに再び帰るのでした。
結局,イギリスでの生活を送ることにしたのは,再度ドローグル島を出港するときに,長老の一人から渡された,亡き父から送られた小さな箱の中に,迷った時には自分の信じる道を進むように書かれたという言葉でした。
新聞社や馬車を襲った人物が,工場経営者の一人の息子であることが判明し,さらに,マシュー・カールトンが自分を愛しているのではなく,財産をほしがっているだけであることを知ったクリスタは,ついにリーフの愛を受け入れ,結婚するのです。
数年後,男の子に恵まれた二人は,そののちも深い愛情に結ばれた生活を送るのでした。
当時のイギリス産業革命や女性・労働者の権利の向上を目指していた,時代の最先端を生きるクリスタと,古くからの生活を尊重し,男らしく生きようとするリーフという価値観の異なる二人が,深い愛情に結ばれ,権利や義務より愛情が人間にとって最も大切な価値であることに気付かせてくれる,深いテーマを見事に描ききった傑作です。一気読みも可能ですが,時代背景やバイキングの生活という蘊蓄も身に付くよう,じっくり読むことも可能です。


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