SSブログ

眠れる森の公爵 [テレサ・マデイラス]

SHALOCKMEMO539
眠れる森の公爵 A Kiss to Remember 2001」
テレサ・マデイラス 松本 都





 テレサ・マデイラスの書を取り上げるのは,このブログでは初めてですが,本書の前にすでに2作品が翻訳されています。2009年10月にハヤカワ文庫から「月の光に魅せられて」,ラズベリーブックスから「100万ドルの魔法使い」。このように,複数の出版元から取り上げられる作家も珍しいのではないでしょうか。テレサ・マデイラスは1962年アメリカ生まれ。初めの作品が1989年の「Lady of Conquest」というヒストリカルのようです。また,いくつかのシリーズものがありますが,本書も「フェアリー」という連作ものの第1作にあたります。
 「眠れる森の美女」は,白馬に乗った王子様のキスで目覚めるのですが,もし王子様である公爵がシンデレラを夢見る乙女にキスされて目覚めたらどうなるのか,という換骨奪胎を見事に成し遂げたのが本書でしょう。
 登場人物がすべて良い人で,敵役は登場しません。強いて言えば,ちょこっと顔を出す探偵ぐらいのものです。しかし,ヒーローの父親,そして,ヒーローを親のもとから金で買い上げたと言われる先代公爵こそが,ヒーローにとっては敵役になっているようです。
 さて,ヒロインは教区牧師の娘で,両親を失った後,弟,妹と一緒にヒーローであるスターリング・ハーロウの実の母親レディ・エリナーの家に引き取られたローラ・フェアリーです。白馬に乗った王子様が自分にプロポーズしてくれるのを夢見て,村の男性たちのプロポーズを断り続けていましたが,レディ・エリナーが亡くなり,悪魔と呼ばれている公爵が自分たちを追い出すために館を訪れようとしているのを,なんとかしたいと物思いにふけって森の中を歩き回っているときに,ふと目にしたのは,ハンサムな男性が倒れているところ。自分の夢想に従って,いたづら心でキスをしますが,それが,とんでもないことに発展することになろうとは…。

状況そのものも,ヒロインの心の言葉もとてもユーモラスで読みながら思わず笑みを浮かべてしまう場面ですが,ハンサムな男性こそ,実の母が亡くなったと聞いてレディ・エリナーの館を訪ねてきた公爵スターリングだったのです。しかも,目を覚ましたスターリングは,頭を打ったせいで自分が何者かを思い出せなくなっていたのでした。
レディ・エリナーの館にスターリングを担ぎこんだヒロインのローラは,弟ジョージ,妹ロティ,そして3人の兄弟の面倒を見てくれているダワーとクーキーの夫妻の反対を押し切って,自分の名前を思い出せないスターリングにニコラスという名前で,自分の婚約者であると嘘をつき,自分で看病を始めてしまいます。ひょっとしてロンドンから流れてきた殺人者・逃亡者かもしれないというダワーの言葉を真に受けた弟・妹,特に妹のロティがスターリングを追い出そうと危険ないたづらを仕掛けますが,なぜか偶然にその試みはいつも失敗してしまいます。この愛らしいロティの行動が,読者に温かい読後感を与えてくれます。
後半,自分を思い出したスターリングに求婚され,ロンドンの屋敷に一緒に住まうことになったローラを待っていたのは,スターリングの義理の姉に当たるダイアナの冷たい視線でした。互いに惹かれながらも,素直になれないスターリングとローラ。そして,かつて惹かれあいながらも若さゆえにけんか別れしてしまったダイアナとスターリングの親友セイン・デミル。ふた組の男女が最後はどんなふうにロマンスを取り戻していくのか。スターリングの心の中の悪魔との戦いにも触れ,作者の作り出す独特な世界に見事に引き込まれる作品です。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

時を超えた恋人黒き公爵の花嫁 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。