砂漠のシンデレラ [シークもの]
SHALOCKMEMO570
「砂漠のシンデレラ The Sheik and the Pregnant Princess 2002」
スーザン・マレリー Susan Mallery susanmallery.com 新号友子
バハニア王国には4人のプリンスがいます。本書でのヒーローは次男のサディク。経済に強く,国の財政担当大臣とでもいう立場で活躍しています。そのサディクと,前作でヒロインだったザーラの血のつながりのない妹クリオ・ウィルソンは,ザーラがバハニアを訪れた際に出会い,愛を交わしあってしまうのです。前作でクリオが急にアメリカに帰ったわけは,伏線が張られていたのですが,本書の冒頭で,クリオが妊娠に気付いたことで明らかにされます。親から見捨てられ,奔放な少女時代を送り,ザーラとその母に里子として家族同然に育てられたクリオでしたが,ザーラと異なり勉強面よりも世事に強いものの,本物のプリンセスではないことや,いわばどこの馬の骨とも知れない自分が本物のプリンスとの将来などはないことや,もし自分の子供の父親がバハニアの王族であるとしたら,きっと自分から引き離されてしまうだろうということに思い至り,バハニアを去ってしまっていたのです。つわりで苦しむ自分が,ザーラの結婚式のためとはいえ,再びバハニアを訪れるには,かなりの勇気を振り絞らなければなりませんでした。しかもサディクと再会することは確実なのに,アメリカに帰ってからの彼女にサディクからは電話一本かかってこなかったのです。
そんなクリオにサディクは子供の母親としての価値しか認めず,彼女を愛することはできないとはっきり言葉に出して言います。かつて婚約者を亡くした時,女性に対する愛も失ったという理由で。本作は妊娠による精神的な不安定さと夫になる人に愛されないという現実にけなげに立ち向かっていく一人の女性と,彼女を励まし,自分の息子に対しても愛の素晴らしさに気付かせるために奔走する国王という,信じがたい設定を見事に描き切っている作品です。
サディクが本当はクリオを愛していることにいつ気付くのか。生まれてくる子供は男か女か。ハネムーンから帰ってきたザーラと盗賊の都に住むサブリナとクリオという三人の対照的な義理の姉妹がどのような関係になっていくのか。そんないくつかのプロットが自然に交錯し,ストーリーテラーとしての作者の腕が見事に表された一作です。そして,次作のヒーロー,レイハンが最後に衝撃の告白をして本書は締めくくられます。
さて,次作の「砂塵のかなたに」は平成6年3月に既読(SHALOCKMEMO256)なのですが,記憶に残っていないので,再読したいと思います。
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