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700年後の魔法使い [テレサ・マデイラス]

SHALOCKMEMO593
700年後の魔法使い Touch of Enchantment 1997」
テレサ・マデイラス 阿尾正子





新年1作目の読了本です。 
テレサ・マデイラスの時空を超えたロマンス。
父は天才科学者で億万長者のトリスタン・レノックス,母は1669年生まれの魔女アリアン。こんな風変わりな両親をもつ2020年に生きる風変わりな少女タバサ・レノックスがヒロイン。前作「100万ドルの魔法使い」は未読ですが,トリスタンとアリアンの娘タバサは,幼いころからセレブでありながら,魔法をうまく使えない孤独な少女で,いつも魔法ではとんでもないことが起こってしまいます。父親譲りの科学の能力を発揮して,父親の会社の事業部長を務めるほどの才媛ですが,そんなタバサに知らされたのは両親が旅行途中で安否も知れぬ行方不明になってしまったということでした。万が一の場合にタバサに渡されるように託されたのは茶封筒の中の手紙とエメラルドのペンダント。そのペンダントを握ったところタバサが飛ばされたのは,なんと1254年のスコットランド。という風に,タイムトラベルものと魔女もの,さらにはセレブなお嬢様と野蛮な騎士,そして中世の生活の中にバリバリの現代女性が放り込まれたらどうなるか,といろいろな要素をごった煮してかき混ぜた作品でありながら,きちんと筋立てしてあって破綻をきたしていない秀作です。
 さて13世紀のヒーローは敵役の男爵の城の地下牢にタバサと一緒に閉じ込められてしまうコリン。レイヴンショーの領地を受け継ぎながら,妻になる女性を死なせてしまった後悔から十字軍に従軍し,自分の命をかけて闘ってきた戦士です。敵役のブリスベーン男爵ロジャーは亡きコリンの妻の双子の兄で,レイヴンショーの領地を狙い,陰謀の数々を繰り返します。コリンを騎士として育ててくれた恩人マグダフをもその陰謀に巻き込まれ,さらにコリンのいいなづけだった可憐なリサンドラも狙われています。
 人には知られないように魔法を使って地下牢から逃れたタバサとコリンですが,二人がコリンの領地に戻ると,城はすでに焼き尽くされて廃墟となり,残った塔から夜な夜な赤ん坊の泣き声が聞こえるという不気味なところに変わっていました。それでもコリンが戻ると領民たちが復讐を誓い,日々の生活をとりもどそうと生き生きと活動し始めます。そんな日常の中にタバサはこれまでの人生で感じたことのない安らぎと生きがいを感じ始めます。そしてコリンへの思いも高まっていきます。コリンとタバサの会話は決して恋人同士のように甘い会話ではなく,しょっちゅう言い合いのようになってしまうのですが,女性が男性の所有物のように扱われていた13世紀で男性,しかも領主に向かって自分の主張をするような若い女性は珍しく,しかも魔女だと知られてしまってからもコリンはタバサにますます惹かれていくのでした。領地を取り戻すため師であったマグダフのもとを訪れた二人を出迎えたのは,美しく優しい女性に成長したいいなづけリサンドラの存在。ひそかに対抗意識を燃やすタバサでしたが,コリンと自分の関係をどのようにしていくことができるのかに悩みます。21世紀に戻り両親の安否を確認しなければならないという思いとコリンとも別れたくないという思いに挟まれて。
 後半では,陰謀の限りを尽くした男爵ロジャーがとんでもない姿に変身したり,正に魔法が信じられていた中世の時代の雰囲気がふんだんに伝わってきますが,現代に再び戻ったタバサとコリンはどうなるのだろうかという興味を,ずっと脇役でいた黒猫ルーシーが,そして男爵の子孫かと思われる会社のガードマンの存在がすんなりと大団円の伏線となってくるところがストーリー・テラーとしての作者の質の高さを感じ取らせる秀作です。


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