時を越えて乙女に口づけを [ヒストリカル]
SHALOCKMEMO611
「時を越えて乙女に口づけを The Very Thought of You 」
リン・カーランド Lynn Kurland lynnkurland.com 旦 紀子
前作「夢の騎士にふたたび」につづく,マクラウド・シリーズの第2弾です。前作でジェイミー・マクラウドと結婚したエリザベスの兄,アレックスがヒーローです。アレックスがジェイミーの作成したと思われる地図の×印がついた箇所に避暑にでも行くように行ってみると,フェアリー・リングと呼ばれる植物の繁茂状況でした。そこに立ってみると,なんと12世紀にタイムトラベル。女性ながら鎖帷子で全身を覆い,長剣をもつ女領主マーガレットの城に連れて行かれます。父や兄たちを相次いで亡くし,マーガレットは密かに10年間も領地を管理し,立派に治めていたのでした。その豊かな領地を狙い,隣国の残忍で領地管理の全くできないブラックウォルド領主ラルフに,その秘密を嗅ぎつけられ,ここ1年間はマーガレットに結婚を迫りつつも,マーガレットの領地ファルコンバーグをゲリラ的に襲撃していたのです。
義弟ジェイミーから多少の剣術を指南されていたとはいえ,所詮現代人のアレックスですが,ファルコンバーグの人々から慕われ,ついにはマーガレットの関心も買うことになり,互いに深く愛する気持ちが芽生えていきます。しかし,表面的にはふたりはいつも言い合いを続け,互いに自分の言い分を譲りません。しかし後半には二人の言い合いは互いを思いやることから出てくるものだという風に微妙に変化していきます。そのあたりの変化が読者を物語に大きく引き付ける一因になっているように思います。
再びフェアリー・リングを通って1996年のジェイミーとエリザベスのスコットランドの城に世話になる二人ですが,マーガレットは,アレックスが現代に残りたがっていると思い,単身12世紀に戻ります。この時間と空間の門は,ただ願うだけでは移動ができず,なんらかの歴史的必然が働かないと,そう簡単には開かないようです。現代と中世の移動の必然性を筆者は歴史的事実とからみあわせ実にうまく説明しています。その辺のほころびがない点からしても,ロマンス小説とSF小説の見事な融合と言える作品に仕上がっています。リン・カーランドの多くの作品を訳されている旦 紀子さんの訳が冴えわたる一作です。特に,前作にも登場する吟遊詩人。本作のホルドリックの傑作な人物造型は,ちょっと例を見ない,現代のお笑い芸人にも通じる素晴らしさです。
次作が訳されていませんが,是非続きを読みたいものです。
コメント 0