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待ちきれなくて [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO631
待ちきれなくて The Reluctant Performer 2002」
リンゼイ・サンズ  Lynsay Sands  lynsaysands.net 上條ひろみ





NHKでドラマ化もされたミステリ小説に「覆面作家は二人いる」というのがありました。本作のヒロインも覆面作家として,小説ではなくコラムニストなので覆面コラムニストというのが正しいかもしれませんが,プロフィールを明かさずペンネームで執筆する謎の人物という職業(というよりはフリーのライターというべきでしょうか)をもっています。しかも時代はリージェンシー。まだ上流階級の女性が職業をもつということが一般的ではなく,せいぜいあるとすれば,家庭教師かコンパニオンといった上流階級の中の子女の教育か未婚の女性の付き添いぐらいの所だったのでしょう。社交界にこの職業のことが知られたら出入り禁止という厳しい状況だったはずです。そんなことをいっていられない状況がヒロイン,マーガレット(マギー)・ウェントワースにはあったのです。もともとG.W.クラーク(このGWが何の略なのかは明かされませんが)というペンネームでコラムを書いていたのはマギーの兄,ジェラルドだったのですが,ナポレオン戦争で落命してしまいます。マギーは自分と一緒に暮らし続けていた使用人たちを路頭に迷わせて一人田舎の一軒家に引っ越すわけにはいきません。この覆面コラムニストの職業で収入を得,なんとかロンドンの屋敷を維持することができていたのです。時に,戦争から戻ってきた兄の友人たち,ラムジー卿ジェイムズとマリン卿ロバートは,ボウ街の探偵を雇って戦友であり事後を託されたジェラルドの妹を探しますが,探偵が持ち帰ったのはとんでもない情報でした。それは,マギーが今をときめく娼館の謎の女性レディXだというのです。実はマギーはコラムの取材で娼館のマダム・デュバリーの許可を得てメイジーという娘に話を聞きに行っていただけなのですが,そこにやってきたジェイムズに拉致され,ジェイムズの屋敷に幽閉されてしまいます。幽閉とはちょっと大げさですが,「隠されて職業」というキーワードが二人の会話の中で微妙なすれ違いを生じさせ,互いに勘違いしたまま二人の微妙な生活が始まります。このすれ違いは,何度かマギーの身に不思議な出来事が起こる中で,その捜査を継続していたボウ街の探偵の勘違いが判明することとなりますが,そんな勘違いをしたことを断固として許せないのになぜかジェイムズに惹かれていくマギーと,ぎくしゃくしそうになった二人の間を取り持つジェイムズの叔母レディ・バーロウがとてもいい味を出し,愛らしい憎めない女性たちとして描かれている,読後感のさわやかな一作です。


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