情熱の赤いガラス [ノーラ・ロバーツ]
SHALOCKMEMO679
「情熱の赤いガラス Born in Fire 1994」
ノーラ・ロバーツ 清水はるか
ガラス工芸芸術家のマーガレット・メアリ・コンカノン(通称マギー)と国際的画廊の支配人ローガン・スウィーニー。職人気質のマギーと経営者気質のローガンという対局の二人のロマンス。マギーと妹のブリアンナも全く性格の違う二人,そして常に周囲の人々に笑いと話題を振りまくコンカノン家の亡きトーマスの存在と姉妹の母メイヴとの確執,さらにローガンと幼なじみの未亡人パトリシアの存在など,多くの人間関係が織りなす長編傑作シリーズ。アイルランドの片田舎を主な舞台としながらも,田舎と大都会ダブリンの人間関係の違いも織り交ぜるなど多くの対局を配置し,それぞれが密接に結びつきながらストーリーが展開していくノーラらしい満足のいく作品です。
アイルランド人の頑固さ,女性が赤毛で気性が激しいことで知られていますが,マギーとブリアンナの姉妹の激しさは対照的です。マギーの激しさとブリアンナの芯の強さ,外面的には全く対照的なのに,両者に共通する強さは,ノーラが描きたかったアイルランド人の特徴なのでしょう。祖先をアイルランドに持つノーラもやはり,芯の強さと気性の激しさが根底にひそんでいるのかもしれません。そして,父親っ子であり,母親に憎まれているマギーと,そんな母親であるにもかかわらずこき使われながらも見捨てることができずに,なんでも言うことを聞いてしまうブリアンナ,その頑固さにも,二人の対照が見て取れます。両親の不幸な結婚を見て育ったマギーが,ローガンからプロポーズされても結婚だけは断り続けるところに,親子関係の複雑さ,そして断り切れなくするためにローガン流の方法で次々とマギーにアタックしていく小気味よさも本書の魅力の一つでしょう。
原題の「Born in Fire」は直訳すると「火の中で生まれて」とでもなるのでしょうか。”Fire”はマギーの火のでるような激しい性格とマギーの職業であるガラス工芸の作業場の火の両方を指していると思われますが,邦題の「情熱の」でその激しさを表しているように思います。
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