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再会は情事の幕開け [ジャネット・ケニー]

SHALOCKMEMO878
再会は情事の幕開け Bound by the Italian's Contract 2014」
ジャネット・ケニー 麦田あかり





理学療法士ものです。肉体的に傷を負った人たちが,そのことで精神的にも傷を負うということは,これまでも理学療法士ものを読んできて一つのパターンとなっていましたが,本作のヒロインのように,つまり意に沿わずに女性として傷を負った結果,男性不信になるパターンと,本作のヒーローのように妻に裏切られた男性が女性を信じられなくなるパターン,そして兄弟間で過去に取り返しのつかない傷を負わせてしまったことへの心理的負担と,二重/三重に傷を負った二人のロマンスは,その複雑な経緯の説明とそれを一気に乗り越えて行くカタルシスの爽快感と相俟って,筆力のある作家でなければなかなかものにすることの出来ないことだと思いました。そんな意味で,本作はちょっと難しい作品になっていると思います。
理学療法士カプリース・トレゴーアは,障害を負った人でも,将来車椅子スキーができるようになる新たな治療プログラムを開発し,自分の所有するスキーロッジを改装しようとしていました。しかし,その資金繰りのめどが立たず,かつて自分が恋心を抱いていた元スキー選手で今は富豪となっているルチアーノ・ドゥケリーニに援助を申し込みます。しかし,ルチアーノは7年前に自分を捨てた男性。成功の見通しは少なかったので改めて自分が傷つくことも恐れていましたが,ルチアーノの弟ジュリアンが自分とエクストリームスキーに挑んでいるときに大きな怪我を負わせてしまい,その治療をカプリースに任せてみようと思っていたところでした。二人の利益が一致し,イタリアでジュリアンの治療に当たる代わりに,ロッジの改装資金を提供することで二人の間に契約が成立します。イタリアに飛んだ二人は互いの気持ちの中に未だに惹かれるものが燃え残っていることに気づきますが,再び互いを傷つけ合うことを怖れ,他人行儀に契約的関係でいようと思っています。イタリアにもカプリース・プログラムを実践する場所を作るために,設計の最終段階で専門家たちにルチアーノの私邸がデザインとしてふさわしいとアドバイスを受け,二人は山中の私邸に向かうのでした。そのとき,大きな雪崩に襲われた二人は命からがらに被害を逃れたものの,道路はふさがれてしまい,私邸に閉じ込められる格好になってしまいます。三日三晩こもりっきりになった二人は,することもなく,そしてカプリースの方からルチアーノに体を預けることになってしまうのでした。しかし,イタリアとアメリカ,しかもかつてカプリースを傷つけたのはルチアーノの親友マリオであることで,自分たちに将来はないと考えていたカプリースは,ジュリアンの治療のめどが立ち次第アメリカに帰ることを頑なに主張するのでした。最後の日は互いに気遣いつつも冷たい雰囲気のままでカプリースはアメリカ,ロッキー山中の自分のロッジに帰っていきます。数ヶ月後,ロッジの完成披露パーティにルチアーノが訪れるのですが・・・。
二人の傷を負った経緯が物語の進行とともに徐々に明らかになり,それを互いに言葉にしていく過程が,緊張感があり面白いところですが,156頁という制約のせいか,解決に至る過程がちょっと急激すぎておもしろみに欠けるきらいがあります。280頁ぐらいにして,カタルシスの過程がもう少し丁寧に描かれていけばさらに素晴らしいストーリー展開になっただろうと思います。とは言え,過去の傷を癒やしていくストーリーが得意な作家ならではの設定のすばらしさはやはり見事です。


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