砂漠のラプンツェル [スザンナ・カー]
SHALOCKMEMO1007
「砂漠のラプンツェル Prince Fafiz's Only Vice 2014」
スザンナ・カー 藤村華奈美
"Royal and Ruthless"シリーズの第5巻になります。ロビン・ドナルド,ケイト・ウォーカー,ケイトリン・クルーズ,キム・ローレンスと名うてのロマンス作家の競演ですが,本作も素晴らしい作品でした。魅惑のシークやプリンスたちと,どちらかというとそれぞれに背景を抱えた令嬢たちのアリアリのロマンスですので,経済的なものよりも気持ちの問題や境遇の問題でロマンスを盛り上げるパターンの作品群です。かなり独立性の強いシリーズという点は変わりませんが,少しずつ共通性が見えてきたような気がします。それでも長い年月に渡って書き継がれてきた作品群ですので,読了の内容も余り覚えていないのが実情ですが,読後感を読み返してみると面白いですね。本作も二日前に読了していたので,内容を振り返ってみます。歌手のレイシー・マックスウェル。そしてルーデイナ・スルタン国の王子ハフィズ・イビン・ユスフ・カーティーの2人のロマンスですが,かつて出会い,愛し合った二人。しかしハフィズは若い頃浮き名を流しすぎて長男でありながら国の人々の信頼を大きく損ねる行為をしてしまっています。それを深く反省し,弟のものになってしまった皇太子の地位を取り返そうと国のために尽くしてきました。父王に認められるまでもう少し。そしてそのためには父王が決めた相手と結婚することが最後の切り札になるところまで来ていました。ところがレイシーと再会してしまい,二人は再度ロマンスに溺れてしまいます。「愛しているけれども君とは結婚できない」とハフィズはレイシーに残酷なことを言い続けます。レイシーと過ごした何日間かの間にレイシーのなかには再びハフィズとともに過ごすことが出来るのではないかという期待感が生まれてきますが,愛人としてではなく,ハフィズを助けるために正式な妻としての立場が必要になってきます。「私を取るか,婚約者を取るか」その言葉がハフィズの立場を危なくすることに気づいたレイシーは,やはり別れを決意し,アブダビに逃避していくのでした。究極の選択を迫られたハフィズは,しかし,レイシーを逃してしまえば自分にとって何も残らないことに気づくのでした・・・。
これまでハフィズを愛する余り彼の要求は何でも呑んできたレイシーにも,愛人という立場を選択する決意は出来ないほどハフィズを愛してしまっていたのでした。互いの切ない想いが交錯し,そしてなぜ自分の気持ちに気づかないのかと読者をハラハラさせ通しのハフィズですが,レイシーの破滅的な魅力よりも国の立場を尊重してしまうハフィズの行動にも,哀れを感じてしまい,腹立たしさよりもせつなすぎる気持ちを抱かせる美しい作品になっています。果たしてラプンツェルはレイシーなのかハフィズなのか,と読者に問いかける意味深い邦題ですね。シリーズはまだ続くようですので,翻訳が待たれます。
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