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ハイランドの略奪された乙女 [マヤ・バンクス]

SHALOCKMEMO1027
ハイランドの略奪された乙女 Highlander Most Wanted
( Montgomerys and Armstrongs 2 ) 2013」
マヤ・バンクス 草鹿佐恵子





13世紀前半のハイランド。シリーズ第2弾です。前作「ハイランドの政略結婚」でエヴリンの居所をグレアムたちにそっと教えたフード付きマントの女性の正体が明かされます。それは,許嫁の元に嫁ぐ途中で連れ去られ,イアン・マクヒューに想像を絶する虐待と一族の女性たちに嘲られていた女性,ジュヌヴィエーヴ・マキニスでした。イアンはマクヒューの城に駆けつけたグレアムの剣によってひと突きで命を絶たれたのですが,父のパトリックはマクヒューの戦士たちと財産をすべて持ち逃げし,城はもはや残骸とどこにも行けない哀れでひ弱な人たちだけが亡霊のように暮らす場所になってしまっていました。その後,グレアムの弟ボウエンとエヴリンの兄ブロディが駐留し,城の整備に取りかかろうとしていますが,その時,ジュヌヴィエーヴもやっとイアンから解放されたのでした。しかしマクヒューの人たちはジュヌヴィエーヴへの嘲りを止めようとしません。イアンによって左の頬に一生消えない切り傷を負い,イアンの部下のコーウェンによっても傷つけられ,今度はまたモンゴメリーの戦士たちによって傷つけられるのではないかと恐れていたジュヌヴィエーヴですが,それはエヴリンの誘拐を企てたのがジュヌヴィエーヴであることを知られたからでした。イアンからの,マクヒュー一族からの虐待から解放されたくて,その計画をたてたのですが,エヴリンを傷つけるつもりは元々なく,ただイアンがエヴリンを誘拐すればモンゴメリーとアームストロングの一族によってイアンが成敗されることが予想されたからでした。しかもエヴリンがイアンに虐待されようとしたとき,ジュヌヴィエーヴは自らイアンを誘惑し,目先を自分の方に向けさせるという方法をとったのでした。そしてパトリックが他の一族を引き連れてマクヒューの城を襲ったとき,ジュヌヴィエーヴは得意の弓矢を使ってパトリックやボウエンを後ろから襲おうとしたマクヒューの戦士たちを敵を討ち,ボウエンの命を救ったのです。もし,妹のロリーがジュヌヴィエーヴのような立場になったらどうしていただろうか。それを考えただけで,ボウエンはジュヌヴィエーヴの成し遂げた勇気と智慧に脱帽したのです。そして傷つけられた側の頬をいつも他の人から見られないように隠す仕草や,イアンの情婦と呼ばれてマクヒューの一族から精神的虐待を受け続けているジュヌヴィエーヴが愛おしくなる気持ちに戸惑います。同時に自分の所属するクランの族長夫人であるエヴリンの誘拐を計画したジュヌヴィエーヴを許すことが出来るのか,イアンにもてあそばれていた女性を信頼できるのか,悩みはつきませんでした。しかし傷の反対側の顔や,沐浴しているジュヌヴィエーヴがとてつもなく美しいということだけは事実でした。ボウエンの葛藤は,パトリックを葬り,自分の命をも救ってくれた女性に対する愛に次第に変わっていったのです。ジュヌヴィエーヴもまた,うわべだけでなく自分の告白を真摯に受け止めてくれ,しかもマクヒューの一族に蔑まれないように注意を払ってくれるボウエンを,庇護者として信頼することが出来る男性として受け入れていくのでした。二人の間に強い愛が結ばれていきます。
前作に引き続き,とてつもない不幸な時期を過ごした,しかし本来は美しく,気高い心をもったヒロインが登場しています。不幸に立ち向かい,生きるための手立てを工夫し,有事の際には戦士の心を持って物事に対処するそんなすばらしい女性。まさにヒロインとしての理想像です。ジュヌヴィエーヴはローランドの王の宮廷にも出入りしていた貴族の一人娘でした。甘やかされて育てられはしましたが,男子ではないけれど,将来族長を継ぐ立場として幼いころから父の教えを受けて戦士同様に弓矢の使い方を教わり,強く,しなやかな心をもった女性に成長していたのです。年齢の記述はありませんが,ロリーよりは年上,エヴリンよりは下,というイメージです。保護されてモンゴメリーの一族の元にやってきた彼女を,ロリーやエヴリンは心から歓迎しすぐに仲良くなります。エヴリンへの罪悪感をもっていたジュヌヴィエーヴですが,エヴリンからは逆にグレアムに自分の居所を教えてくれた恩人だと感謝され,わだかまりが解消されます。そしてボウエンと一生添い遂げたいという気持ちが強まったとき,出身クランの戦士たちがモンゴメリーの城を訪れたのでした。ボウエンはマクヒューの城を跡にするとき,ジュヌヴィエーヴの両親に彼女が生きていることを知らせ,モンゴメリーを訪れるよう連絡していたのでした。イアンの元で虐待されたことを親に知られたくないことをボウエンに懇願していたジュヌヴィエーヴですが,勝手にボウエンが親に自分のことを知らせたのだと許せない気持ちをもちますが,それでもやってきた両親が自分が生きていることに驚喜している様子に,それを承知でボウエンが傷ついた自分を癒やすために両親に会えて知らせたのだと知り,さらにボウエンへの愛が深まるのでした。両親とともにマキニスの一族の元に返っていくジュヌヴィエーヴを,ボウエンはただひたすら彼女の降伏を願って敢えて別れを選んだ自分の判断に間違いはなかったと複雑な気持ちでいます。数週間後,再びマキニスの一行がモンゴメリーの城を訪れます。籠を捜すボウエン,ところが騎馬姿の一騎がものすごいスピードで馬を走らせてきて,それがジュヌヴィエーヴでした。ボウエンの子供を身ごもり,両親の許しを得て,ボウエンとの婚姻を切望してジュヌヴィエーヴが帰ってきたのです。マキニスの族長とボウエンの間に今後のことが話し合われ,再びジュヌヴィエーヴはボウエンの腕の中に戻ってきます。モンゴメリーの一族もこの二人を目を細めて喜ぶのでした。
中世のヒストリカルを読んでいて,いつも,言葉の重さに驚かされます。識字率がとても低かった時代。人が発する言葉,約束は文字以上に重い責任と行動で示されるべき重要な事柄になったのだと思います。愛し合いながらも別れなければならなくなった二人が,立場を乗り越えて互いの腕の中に戻るところは,言葉以上に深い愛が感じられ,充実した読後感をもたらしてくれます。前作に引き続き,イチオシ度がアップした本作です。これで,モンゴメリー,アームストロング,そしてマキニスという三つの有力なクランが姻戚関係で結ばれました。しかも単なる姻戚というだけでなく愛と信頼で結ばれた姻戚です。国王はある意味,この巨大なクランが結びつくことにひょっとして危惧感を抱くかもしれません。それがちょっと心配です。アームストロングとマキニスの族長たちは年配ですから,3つのクランを統合するとするとグレアムが最有力になるのでしょうね。そんなことで国王対グレアムの構図が見えてきてしまうのもちょっと心配です。第3作目"Highland Ever After"はまだ翻訳が出ていませんが,3男ティーグはどんなロマンスを,そしてヒロインにはどんな不幸と幸せが待っているのでしょう。楽しみです。


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