家庭教師の恋わずらい [アン・メイザー]
SHALOCKMEMO1060
「家庭教師の恋わずらい The Reluctant Governess 1971」
アン・メイザー 小泉まや
失恋の痛手から逃れるためにイギリスを離れ,オーストリアの男爵ホルスト・フォン・ライヒスタインの一人娘ソフィの家庭教師に応募したヴィクトリア・モンローのロマンスです。原題は「いやいやながらの家庭教師」。原題どおり家庭教師の経験のないヴィクトリアですが,ソフィが反抗的で,しかも父親のホルストがとんでもないハンサムで男らしい,しかも男爵位を持っているとあって,これまで二人の家庭教師が応募してきましたが長続きせず,ヴィクトリアもまたすぐに辞めるだろうと皆に思われています。立派な城であるホッフェンスタインのライヒスタイン家にやってきたヴィクトリアですが,家政婦と使用人,そして男爵とソフィの4人しかおらず,男爵夫人は?結構半ばまでその存在は謎です。ソフィもヴィクトリアを追い出すためにいろいろと企てをしますが,10歳の少女の企てなど子供っぽいもの。でも父親との仲は良さそうです。しかしソフィにとって頼れる存在は父親ばかり,その心の中には母親に捨てられた傷が深く,それに気付いたヴィクトリアは,なんとか傷を癒やせる存在になろうと心がけます。前の家庭教師よりは信頼できるとソフィ思い始めるきっかけになったのはなんと,男爵家を訪れたマーガレット・スピーグルという元恋人?1971年の作品ということで二人の関係はボンヤリとしていて,はっきり示されませんが,舞台がそっくりな,あの「サウンド・オブ・ミュージック」では男爵夫人のように高慢で子供に全く興味を示さない女性のように描かれています。美貌も経済力も家柄も,全てを兼ね備えたマーガレットが,表面的には相手にしないまでも内心では男爵の心を手に入れようとヴィクトリアにきつく当たっていく様子を目にした男爵が,反ってヴィクトリアへの思いを強め,さらにソフィまでがヴィクトリアに頼っていくという過程が,本作を面白くしています。強がる男爵の本当は心に深い傷を負い,その本質に優しさと自然や家族を愛する生活を望んでいることを直感的に感じたヴィクトリアが男爵に惹かれていく過程も読みどころです。しかしながら,なんといっても古い作品で,現代との男女間の関係の価値観の違いがはっきりしすぎていて違和感を感じることも多いかもしれません。上品ではありますが,アッサリしすぎていて盛り上がりに欠けると感じる人も多いのではないでしょうか。
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