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小さな愛の願い [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1074
小さな愛の願い Only by Chance
(ベティ・ニールズ選集 4) 1996」
ベティ・ニールズ 久坂 翠





1996年というと今から20年ほど前ということになりますが,本作に登場する登場人物たちの価値観はまるで数世紀前のような古めかしい感じです。イギリスの地方を舞台にした本作はベティ・ニールズらしい,礼儀正しく,心温かい登場人物たちによって描かれており,ロマンス色の薄い作品となっています。例えば,ヒーローとヒロインが挨拶としてほっぺにキスすることはあっても本格的なキスは一度もないのです。
さて,養護施設で21歳まで過ごし,僅かな手持ち金しか持たず,難の資格も持たないでロンドンの病院の雑役係をしているヘンリエッタ・クーパー(コーパーという誤植が一個所あります)は,ひどいインフルエンザにかかります。その時偶然居合わせた脳外科専門顧問医のアダム・ロス=ピットは彼女を病院まで運び入院させることになります。それまで病院で身を粉にして働いているヘンリエッタのことをアダムは少し気にしながらも,特に目立つ美人でもなく,よく働く気の付く女の子だというぐらいの感覚しかありませんでした。しかし,迷子の猫を愛情を込めて育てようとしている様子や,病院の勤務の他にも早朝のオフィスの掃除をしてお金を無駄遣いしないようにしている様子などを見て,次第に彼女を守ってやりたくなっていくのでした。アダムには周囲の人が婚約者になるだろうと噂していて当人もその気になっている上流階級のお嬢さんデアドラ・ストーンがいます。しかし,全くの俗物で階級を鼻にかけ,使用人などの下の階級のものには人間扱いすらしない傲慢さに嫌気がさしているのでした。インフルエンザはさらに悪化して肺炎を起こしてしまったヘンリエッタは,彼女を嫌っている病院の病院の作業療法士が首にされ,住んでいた屋根裏部屋も家主のミセス・グレッグにより追い出されてしまいます。そのことを知ったアダムはヘンリエッタが退院後に仕事ができるように彼の家の近くのマナーハウスのヘンセン夫人が人を捜していることを知り,住み込みでの仕事を見つけてあげるのでした。アダムの家の家政婦ミセス・パッチも,マナーハウスでヘンリエッタと同室になるミセス・ペティファーも,マナーハウスの他のスタッフたちも,働き者で物覚えが良く,つましく生きようとしているヘンリエッタをすぐに気に入り,とても温かい心遣いをしてくれるようになります。また近所のアダムの母親の元家政婦マッティや,ティールームの女主人ミセス・ティッブズ,そしてアダムの母親もみんなヘンリエッタを気に入るようになるのでした。アダムに何度も助けてもらい,アダムを愛するようになるヘンリエッタですが,階級の違い,そしてなにより婚約者候補のデアドラの存在が,この恋は封印すべきだと固くヘンリエッタを苦しめていくのです。初心で無垢なヘンリエッタにいたづらを仕掛けようとするヘンセン夫妻の甥マイクや,牧師館の息子デイビッドなどがヘンリエッタの周辺に登場し,アダムに嫉妬心を抱かせると同時に,年齢の違いを気にしたアダムは若い人と幸せになって欲しいとヘンリエッタから距離を置こうとしたりと,二人は回り道を余儀なくさせられるなど,読者をやきもきさせます。このあたりの描き方が作者の特にうまい部分です。しかし,二人の周辺の暖かい人々の配慮と企てが果たして功を奏するのでしょうか。最後の大どんでん返しがすっきりした読後感をもたらします。周囲の人たちはみんな気付いているのに,必死にそれを隠そうとしているアダムとヘンリエッタの恋が思わず読者のほほえみを誘う傑作です。


タグ:イマージュ
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