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せつない献身 [テレサ・カーペンター]

SHALOCKMEMO1351
せつない献身 His Unforgettable Fiancee 2015」
テレサ・カーペンター 秋庭葉瑠





 原題は「彼の忘れられない婚約者」
 ヒロイン:グレース・ディレイニー(30歳)/カリフォルニア州ウッドパークの元保安官,元海軍士官/身長170センチ強,柔らかな曲線を描くほっそりした体,長く美しい脚,8歳の時母が亡くなる,1年半前父を失う/
 ヒーロー:記憶喪失の男JDことジェイソン・ホーク(34歳?)/「ピナクル・エンタープライズ」オーナー,ゲーム開発,ホテルチェーン,コミック出版,テレビ・ラジオ局。アメフトチーム等/身長190センチ弱,5歳で母を亡くし,里子に出され転々としたのち寄宿学校で成長,父とは連絡を取っていない,カリフォルニア大学バークレー校卒,22歳で成功し,27歳で10億ドルの収益を挙げる/
 カルティエの高級時計のみを身に付け,財布をはじめ身分を証明するものを持たずに保安官事務所に身一つで保護された男性,アメリカでは身元不明男性をJDと略称するようです。ミスター・スミスというのもあったような。女性の場合は何でしたっけ?アニーでしたっけ?JDは警察用語でしょうか。ともあれ,ストーリーの前半はこのJDが記憶障害とともに自分の身元を思い出そうとするとひどい頭痛に陥る男性と,父の跡を継いで町の保安官を務めていたグレースとが,身元を確かめるために珍道中をしながら,ちょっとした軽い身体の触れあいに戸惑いながらサンフランシスコまで行くことを中心に描かれています。身元不審なJDをグレースは何かの犯罪に巻き込まれたため記憶を失ったと直感で感じ,決して悪人ではなく,カルティエの腕時計を持っていたことから裕福であろうと想像して元の生活に戻そうと努力します。そしてなにより体調を気遣ううちに,さらにちょっとした身体のふれあいで電流が走ってしまうことに戸惑いながら,次第に惹かれていく様子が描かれるのです。サンフランシスコでFBIの友人にJDの身元の確認を依頼すると,やはり予想どおり彼は有名人でした。コンピュータ用ゲームソフトを開発して大金持ちとなり,さらにホテルチェーンや出版社などエンターテインメントの複合企業を統括するジェイソン・ホークがその正体でした。マスコミには彼のプライベートはあまり知られていませんでした。いわゆるオタクでるジェイソンは雑誌の記事にも長髪でひげを伸ばした状態の写真ぐらいしか公開されていなかったためひげを剃った状態のジェイソンにウッドパークの町の人たちは誰も気付かなかったのでした。自分の住まいにしているサンフランシスコのホテルではもちろんフロントをはじめジェイソンの顔をすぐに見分け,無事に送り届けたグレースですが,記憶はまだ戻りません。2週間を期限にジェイソンの記憶が戻る手伝いをする契約をしたグレースとジェイソンは,互いに惹かれ合っていることに気付きますが,片や超億万長者,片や保安官を失職して職探しをこれからしなければならない女性と社会的な立場の差にグレースは所詮二人の将来はないものと自制します。「彼がただのJDなら良かったのに。そんな思いが突然湧いてきた。同じ世界の人だったら,つきあって一緒に家庭を築くチャンスだってあったかもしれない。」とグレースはつぶやきます。MB版の表紙にはグレースのイメージモデルは,茶色で散切り風のショートカットヘアーでブルーがかったグレイの目の引き締まった顔立ちのモデルが使われています。ヒョウ柄のノースリーブのトップスに腕にはダイヤがちりばめられた腕輪をしています。印象的なのはなんといってもその鋭いながら優しそうな色合いの瞳と高い鼻,そして自己主張をしっかりしそうな口もとです。本文中に描かれたグレースのイメージを見事に伝えているよい表紙です。「私は根をおろした暮らしを望むけれど,彼はホテル住まい。私は秩序を重んじ,彼は混乱を生きがいとするゲームをつくっている」
 さて彼の所有するサンフランシスコの「ピナクル」本社ビルに入ると,さまざまな記憶がよみがえってきます。きっかけはエレベーターのなかで出会った婦人の香水だったり,彼自身のペントハウスからの眺めだったりしますが,完全に記憶が戻るのは,なんと彼を裏切り,しかも彼の脇腹の刺し傷の原因となったかつての恋人だったりするのです。彼が激しい頭痛を訴えるたびにグレースは敏感にそれを察知し,薬を飲ませたり,すぐに対応するのでした。そんなグレースにジェイソンはすっかり頼っていきます。そしてグレースを組み伏せて唇を奪い,そのまま・・・。しかしそれはグレースも望んでいたことでした。一度深い関係になってみると二人は一時も離れがたくなっていきます。どこへ行くにも二人で行動するのをジェイソンの仲間やスタッフは,はじめは警戒しているのですが,やがてそれを認めるようになっていくのでした。でもいずれこんな関係は長くは続かないとグレースは思っています。そして記憶が完全に戻り,会社のパーティが開かれた翌日,いよいよグレースはジェイソンの元を去る決意をするのでした。仕事から戻ったジェイソンはまとめた荷物を脇に置いているグレースに仕事を提供するから出ていかないでと頼み込むのですが,グレースが聞きたかった言葉は仕事のことではないのはいうまでもありません。すでに自分からは愛の告白をしているグレースは,だから出ていくのだと言いますが,その言葉の意味をジェイソンは理解できないのでした。やがてグレースが出ていって数日後,ホテルのスタッフがジェイソンの仲間の元にペントハウスで大きな音がしてノックをしても返事がないという訴えがありました。仲間が駆けつけるとジェイソンは取り乱しており,部屋のあちこちにものが散乱しています。グレースを求める気持ちが整理できずに腹を立てていたのでした。そんなジェイソンに仲間はそっとジェイソンの気持ちを思いやり,グレースを追いかけるべきではとアドバイスするのですが・・・。
 たくましいヒロインのグレースにオタクで繊細なジェイソン。身元不明者だったときからずっと面倒を見続けてきたJDと,身元が分かって億万長者で仲間もいることが分かってからのジェイソン,二つの人格のどちらにも恋しい気持ちを感じていくグレースの複雑な心境がしっかりと描かれ,ちょっと甘えん坊かなと思えるジェイソンが最後は男らしく告白していくまでを描いた好著です。記憶喪失ものとしてもストーリーのほころびがなく,脳震盪がキーワードとなってジェイソンの症状がうまく説明されたり,二人の間でジョークのネタになったりと便利に使われているところがうまいなと思わせられました。なお,原題の「Fieancee」が誰を指しているのか,ちょっとわかりにくいですね。グレースとは婚約者の振りはしますが正式に婚約していたわけではありません。ただ,マスコミが彼女と婚約したかのように報じたという伝聞が書かれています。あるいはかつての恋人ヴァネッサのことを指しているのでしょうか,最後にデートした相手としか書いてなかったと思いますが,行方不明事件の直接的きっかけになったのですから。一方,邦題の「せつない献身」は蓋し名訳ですね。グレースの気持ちと行動が込められたタイトルです。


タグ:イマージュ
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