愛は序曲に始まって [ジェシカ・スティール]
SHALOCKMEMO1441
「愛は序曲に始まって Facade 1984」
ジェシカ・スティール 中井京子
原題は「ファサード(建物の正面)」
ヒロイン:ソレル・メイトランド(25歳)/元秘書/金髪交じりの明るい茶色の髪,緑色の目/
ヒーロー:エリス・ガルブレイス(歳)/会社役員/長身,浅黒い肌,がっしりした顎,引き締まった口,黒い目/
ボスのエリスに首にされた後,老紳士の世話係をしていたソレルは,アルバート・オルレンショウという紳士が亡くなると遺産が残されたことを知ります。オルレンショウの娘シンシア・アーミテッジは,お金にしか目のない,自分の父親を全く世話しようとしなかったにもかかわらず,ソレルに遺産が残されたことを非難するのでした。その遺産によって上流階級の仲間入りをしたソレルは29歳の弁護士ロデリック・ドルーリィにプロポーズされますが,ロデリックの両親モイラとネヴィルはいい人なのですが,ロデリックも良い人過ぎてソレルは惹かれるものを感じませんでした。ずるずると慰められつつ付き合いを続けていましたが,両親の誕生日パーティへの出席を最後にきっぱり付き合いを辞めるつもりでした。ところがこのパーティで,かつての上司で自分をクビにして路頭に迷わせた件のエリスと再会してしまいます。ここからソレルは8年前の17歳で本気で結婚を考えた男性エリスに未だに魅力を感じ,愛していることを自らに否定しようとかなり苦しい思いをするのでした。憎みたいけれども憎めない,離れていたいけれども離れられない,そんな自己矛盾の中でろくに眠れなくなってしまうソレル。このソレルの内面の葛藤が本作の中心テーマになっていきます。エリスもまた,すっかり大人の女性に変身したソレルに再会して混乱します。ソレルと別れた後婚約したウェンダ・サイクスが金銭目当ての中身のない女性であることに気づいたエリスは,婚約を破棄した経験があり,金銭目当ての女性を毛嫌いしていることを知り,ソレルもまた,自分がオルレンショウの遺産を受けたことでエリスに蔑まれるのではないかと気に病むのでした。しかしソレルとの会話はちょっと油断するとジョークの応酬のような砕けたものになってしまい,かつての関係が再燃してしまいがちです。なんとか自分の気持ちを引き締めてエリスをここの中から追い出そうと試みるソレルですが・・・。
「ぼくは,それほど君を傷つけたんだね」などとやさしく言われると「もう何年も前に克服したわ」と意地を張ってしまうソレルですが,反面遺産相続に関わってエリスに軽蔑されるのではという恐れも同時に感じてしまうのでした。ドルーリィ家と関係を絶てばエリスとの邂逅はなくなるだろうと,密かに引っ越しまでしようとしたソレルですが,引っ越し当日にエリスがアパートに現れ,結局引っ越し先を業者に聞き出されてしまいます。そして部屋に飾る絵を画廊に見に行ったとき,あのシンシアとばったり出会ってしまい,遺産の件をエリスにバラされてしまうのでした。さてエリスの反応は? ここから物語は急展開を迎えますが,ストーリー展開のカタルシスとソレルの心中描写の見事さ,やはり巧者ジェシカ・スティールの面目躍如たる傑作です。
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