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湖の秘密 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1455
湖の秘密 The Secret Pool 1986」
ベティ・ニールズ 塚田由美子




HQB-805
17.05/¥670/200p

B-127
95.09/¥510/186p
R-0575
87.12/¥550/156p


 原題は「秘密の湖」
 ヒロイン:フランセスカ(フラン)・マニング(25歳)/看護師長/濃いまつげ,はしばみ色の美しい瞳,やさしい口元,美人ではないけれど周囲の人に親しまれる性格,小柄/
 ヒーロー:リトリック・ファン・レイゲン(36歳)/医学博士/長身,広い肩幅,白いものが混じる金髪,女性なら誰しも振り返る美貌/
 美しくも命のはかなさを歌い上げた珠玉の小品。HQ文庫版表紙にはオランダの象徴である色様々なチューリップが咲き乱れる様子が描かれていますが,この存在感と明るさが余計本作読後のはかなさを引き立てるとはなんと皮肉に満ちた表紙をつくったものでしょう。コツワルド給料のコテージホスピタルの看護師長フランセスカ(フラン)・マニングは,12歳の時両親を飛行機事故で亡くし,以来3人の独身の伯母たちと生活してきました。末っ子だったフランの母だけが結婚し,13年後に命をとしてしまったのでした。フランもなんとか家から独立し看護師としてブリストルの大学病院で研修を積み,現在はこの片田舎にある小さいけれど設備の整った病院で看護師長として勤務するところまでキャリアを積んできたのでした。その病院に時々やってくる熱帯病専門医のリトリク・ファン・レイゲン博士というオランダ人の医師の依頼により病院側が白羽の矢を立てたのがフランでした。その依頼とは,博士の幼い娘リサの世話をするというものでした。もはや治癒の見込みのない病に冒され終末医療を施されようとしている可憐な少女に最後の希望を持たせたいという周囲の心遣いから,博士と結婚し,家族として数ヶ月生活して欲しいというとんでもない依頼だったのです。終末医療,それは少しでも患者の苦痛を除き,最期の期間を充実させたいという将来の見込みのない治療法ではありますが,それによって少しでも患者に明るさと希望を与えられるものならと,現在ではごく当たり前に行われるようになったものではありますが,作者が本作を描いた今から30年も前の1986年当時は,それほど一般的ではなかったのではないでしょうか。そういう状況では本作はかなり重要な提言をする作品だったのかも知れません。そのため治療の一部として結婚というセンセーショナルな方法をとらざるを得なかったのかも知れませんし,ロマンス作品であることを考慮すればこの方法もうなづけるものと言えるのかも知れません。
 さて,とりいそぎ結婚してオランダのハールレム(ハーレムともいい,ニューヨークのハーレム地区の名称の元になった町)へと移動します。そこでリサと知り合い,リサもまたフランの優しさに触れて,すっかり打ち解けていくのです。しかし病人や使用人の前でのリトリックの態度と二人きりの時のフランへの態度は全く異なっていました。リトリックもまたリサがいなくなった後にフランと別れることを前提としていたため,過剰に親しくなっては若いフランの今後に問題を残すことを考え敢えて冷たい態度ととって余計な期待を抱かせないようにと言う配慮だったのです。しかし若いフランに取ってみれば自分がこの親子にとって何だったのか,また自分のリトリックへの愛がこの後も続いていくのに,それを諦めてかなければならないことの苦しさとの狭間で苦しみます。生前フランとリサは,家から散歩に出たときに偶然見つけた古い農家の林の中にある美しい湖の畔で過ごす時間が多くありました。静かな湖の畔にたたずみ何も考えずにじっと時をすごし,景色の美しさに浸るというのが二人にとっては大切な時間だったのです。この湖が表題にもなっている「secret pool」です。静かにそして幸福の内にこの世を旅立ったリサを見送った後,フランは再びこの湖を訪れ,リサとの共有した時間に自らの身を浸していくのでした。ところが,ある日,農家に住んでいた婦人にいくら声を掛けても返事がありません。心配になって家の中に入ってみると婦人が倒れているのを見つけます。なかなか帰宅しないフランが心配になったリトリックが使用人の言葉を頼りにフランを探して,この農家を発見します。そしてフランとリトリックとでこの婦人の命を救うのでした。看護師としての本領を久しぶりで発揮することのできたフランは再びイギリスでの仕事に戻ろうと決意します。帰国前にリトリックの大伯母オルダ夫人を訪ねたフランは,「あなた,あの子を愛しているわね,フランセスカ?」とリトリックへの愛を見抜かれてしまうのでした。「はい,彼を愛していますわ,心から」とすぐに言葉が口をついて出てしまいます。この言葉を偶然聞いたリトリックのこの後の行動が,なんとも気が利いていて,ベティ・ニールズの本領発揮というところです。イギリスまで送るという言い訳をしながらリトリックの取った行動とは・・・。最後の大団円がいつもどおり見事な作品でした。


タグ:ロマンス
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