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氷の富豪が授けた天使 [アンナ・クリアリー]

SHALOCKMEMO1462
氷の富豪が授けた天使 The Night That Started It All 2013」
アンナ・クリアリー 土屋 恵





 原題は「すべてが始まった夜」
 ヒロイン:シャリ・レイシー(28歳)/絵本作家/グリーンの瞳,ブロンド,なめらかな脚/
 ヒーロー:リュック・バレンティン(36歳)/「ダビオン社」重役/長身,黒い瞳/
 2011年7月に「禁じられたスクープ」が邦訳されてから2016年4月に「侯爵に言えない秘密(SHALOCKMEMO1226)2009」まで4年半邦訳のなかったアンナ・クリアリーですが,ここのところ立て続けに邦訳が出ています。シリーズものや短編作品が多い中で非シリーズ作となっているようです。
 魅力的なヒロインが登場する彼女の作品ですが,本作のヒロインはシャリ・レイシー。ヒーローやヒロインの名前のリストを作ろうと考えたときもありますが,なかなか時間が取れずにいます。そのなかでも,シャリというヒロイン名はあまりないのではないでしょうか。オーストラリア作家のアンナ・クリアリーですが,豪州ではありふれた名前なのでしょうか。どちらかというとイギリスのビクトリア朝風の名前がかいま見られる豪州ですが,「シャリ」って有名人いたのかな?あるパーティで出会ったヒーロー,リュックとシャリ。一夜の関係を結びますが,後で知った事実,リュックはシャリの元婚約者の従兄弟だった。という設定です。シャリの人間性を疑いつつもシャリの魅力に嵌まってしまうリュックとのロマンスというねじれ現象がどう解決されるのかを描いているので「氷の富豪が授けた天使」という邦題が作品内容を見事に言い表していると思いました。会社の金を使い込んで逃亡したレミー・シェニエールはシャリの兄ニールの妻エイミーと双子のきょうだい。そしてリュックはエイミーとレミーのいとこ(男女が交じっているため,きょうだい,いとこをひらがな表記),双子の母親マリスとリュックの母親ラレーヌは姉妹の関係ですが,ちょっと関係が入り組んでいるので,混乱してしまいがちです。リュックにはマノンという恋人がいたのですが,妊娠に対する拒絶反応から二人は別れてしまいました。パリの本社からシドニー支社にやってきたリュックはレミーの不在を知らされます。数日間連絡が取れないと言います。会社の口座の残高不足を説明させ,横領の事実を突きつけようと勢い込んでやって来たのです。レミーのアパートを訪ねてみるとメイドだというシャリが応対しますが,体よく追い払われてしまいます。リュック自身,かつてスキャンダル記事に悩まされたことがあるのですが,今回の社員の使い込みによって会社に与える損害は金額に留まらずイメージダウンに繋がってしまうことは必死です。できれば本格的捜査が入る前に問題解決を図りたいところです。一方,昨日レミーに暴力を振るわれたシャリは顔に青あざができてしまっています。関係が悪化して豪勢なアパートから引っ越す準備をしていた矢先の出来事だったのでレミーとの決別を決意していたシャリでした。しかし兄ニールの40歳の誕生日パーティには何をさておいても参加しなければなりません。絵本作家のシャリはアザを隠すために右の頬骨の上に蛙の絵を描くという奇抜な格好でパーティに参加します。100人を超える友人たちが集まっているニールとエミリーの屋敷のパーティでリュックとシャリは出会います。昨日のアパートではインターホンの応対だけだったため顔は合わせていません。エミリーにレミーが来ないと言うのも辛そうなシャリの様子をエミリーは心配そうに見守ります。シャリを見かけたリュックはゾクゾクするような興奮が背筋を走り抜けます。魅力的な瞳は男の心を奪う瞳だと興奮を覚えてしまうリュック。視線を感じたシャリですが,高級そうなスーツに黒いシルクシャツ,長身で均整の取れた体をしている見知らぬ男性が兄ニールのそばに立っていて,自分に視線を向けているのです。兄に誕生日のお祝いの言葉をかけると,シャリはリュックに紹介されて驚くのでした。自分の婚約者だったレミーのいとこ,昨日アパートを訪ねてきた男性だと気づいたのです。かつて女性とのなんらかのスキャンダルをきいたことを思いだしたシャリは,リュックにエミリーとは似ていないのねといいますが,自分はシェニエール一族ではなくバレンティン一族だと説明されます。魅力的なリュックの深い声と唇につい引き寄せられそうになる自分に戸惑うシャリ。シャリの奇抜な格好を見たリュックはシャリを「刺激的で,セクシーで,遊び心のある女性」と表面的な判断をしてしまいます。しかし「鈍感で,内気で,退屈な女性」とシャリは自分を評したのです。外のテラスに誘われ,二人は欲望にさそわれるままに近くのボートハウスで体を重ねるのでした。その時使用したのはシャリのバッグの中に入っていた小さな包み。それは何年か前に路上で渡されたものですでに使用期限を過ぎていたものだったのです。たった一夜の出来事がその後の二人の運命をすっかり変えてしまいます。一度家に戻って翌朝パリに戻るというリュックの滞在先のホテルで逢おうとしていたとき,リュックはシャリが昨日アパートにいた女性だということに気づいたのでした。シャリとレミーとの関係を知ったリュックはすっかりシャリへの不信感にとらわれてしまいます。リュックに非難されてシャリはパーティ会場から逃げだし,アパートに逃げ帰ります。アパートの前で待ち伏せしていたリュックに化粧を落として青あざに気づかれたシャリはレミーに暴力を振るわれたことを打ち明けざるを得なくなりました。数週間後,レミーが事故で命を亡くしたことを兄に告げられたシャリは,胃の中のものを戻してしまいます。双子のきょうだいを亡くしたエミリーを気遣うシャリ。しかしシャリはレミーの死を悼む気持ちはなく,反ってリュックへの激しい感情は止められずにいるんのでした。一方パリに戻ったリュックもレミーの事故死の報に接しますが,シャリへの心の揺らぎは消えずに残っていたのです。レミーの告別式でリュックとシャリは再会します。10歳の時に母親の葬儀で葬儀に対してトラウマを負って以来,歳の離れた兄が親代わりとしてシャリを支えてきました。兄が妊娠している妻を気遣いレミーの葬儀にはシャリに参加して欲しいと頼まれたのを断ることができなかったのです。そして葬儀の最中に気分が悪くなりあわてて外へ走り出て戻しているときリュックが追いかけてきます。レミーの母親マリスを始め,婚約者の死を悼んでいると周囲の人たちは同情してくれたのですが,リュックに連れ出されてリッツホテルに連れて行かれます。車中でのキスは二人の欲望の再燃を告げる結果となりました。「はっきりさせておきたいの。シドニーでのことはすべて,一夜限りのことだった,と。お互いに,すべて忘れるべきだと思う」とシャリはリュックを敬遠するのですが,いつのまにかリュックはスイートルームを取り,そこで再び二人の熱い思いは燃え上がるのでした。翌朝再び吐き気を催したシャリはさすがに自分の体の変調に気付き始めていました。そしてキットでの検査で陽性が出たことに呆然としてしまいます。「私は子供を産みたいの?」と疑問形。シングルマザーになる覚悟などもなく,経済的不安も大きい状態で自分の母親が生活を維持するのに大きな苦労をしていたことが思い出されます。リュックに伝えるべきだろうか・・・?絵本作家であるシャリにとってパリの美術館巡りは大きな経験でした。2日間の滞在の予定を変更し,リッツでの1週間の滞在という夢のような日常は,いずれ妊娠の発覚とともに消え去るのだろうと予想されます。「不安は増すばかりだった。今でこそリュックは好意を抱いてくれている。でも妊娠を打ち明けたらどうなるだろう?たちまち手のひらを返したように冷たくなるかも知れない。」と甘い考えをもってしまうシャリですが,読者はここできっと妊娠の事実を知ればリュックはレミーの子供かと疑いシャリを非難するだろうと想像してしまいます。それより,シャリは自分とリュックの将来に期待を持ってしまっており,リュックのかつての恋人マノンのことなどをのんびりと聞いているのです。リュックの母親ラレーヌのもとに連れて行かれて,周囲はレミーの婚約者としてシャリを見ていることに気付き,リュックの子供を身ごもっている自分がいたたまれなくなってしまいます。そしてサイドボードに置かれた壺を見た途端,シャリはレミーに受けた暴行のフラッシュバックに襲われ気を失ってしまうのでした。医師の診察を受けるまでもなくリュックの母親に妊娠を気づかれてしまうシャリ。さぁ二人はどうなる?
 シドニーとパリ,地球の反対側で暮らす二人に将来はあるのか。リュックはどんな決意をするのでしょうか。そしてシャリは?魅力的な二人の愛の行方を,見事に描ききった秀作です。絵本作家らしいシャリの末尾の言葉が,とても洒落ています。


タグ:ディザイア
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