SSブログ

かりそめのプリンセス [ジュールズ・ベネット]

SHALOCKMEMO1157
かりそめのプリンセス Behind Palace Doors 2013」
ジュールズ・ベネット 藤倉詩音





 作者ジュールズ・ベネットの邦訳はようやく2作目ですが,どちらもイチオシ間違いなしの傑作揃いです。前訳作「ボスと偽りの蜜月(SHALOCKMEMO1093)でも書きましたが,姉妹編の片割れでした。本作も「ハリウッド」シリーズ3部作の第3弾という大団円の作品に当たります。第1作[Caught in the Spotlight],第2作の[Whatever the Price]は未訳です。ハリウッドの大女優オリビア・デーンの3人の子どもたち,ブロンソン・デーン,アンソニー・プライス,そして本作のヒロインで末娘のビクトリア・デーンを主人公にした3部作です。もちろん第3弾ですので,エピローグでは前2作の主な登場人物が勢揃いしての戴冠式の華々しい場面で締めくくられるのですが,デーン家の家長オリビアを中心として家族が広がっていく様子がよくわかります。
 ヒーロー側のことについては,ガリーニ・アイルというエーゲ海のギリシア近郊の小国の次期国王ステファン・アレクサンダー王子がヒーローです。父王が亡くなり自分が王位を継がなければアレクサンダー家から王権が取り上げられ,ギリシア領になってしまう。それを防ぐためにはなんとしても結婚して安定した国家経営ができることを証明しなければなりません。しかし,不慮の事故で母王妃を亡くし,かつて父王が不倫し,母王妃を事故を装って殺害したのではないかという不名誉な記事がでてマスコミにたたかれ,王家の信頼をすっかり失った今,戴冠式を無事迎えるには王妃にふさわしい女性との結婚がなによりの方法なのでした。ステファンが白羽の矢を立てたのは幼いころから知っていたかつての親友ブロンソン・デーンの妹ビクトリアでした。気心の知れたビクトリアであれば,例え二人の間に愛がなくとも,この便宜的結婚をうまく乗り切ってくれるはずだと考えたステファンは正直にビクトリアにこのことを打ち明け,とりあえず半年間結婚し,戴冠式を乗り越えたらビクトリアの選択で離婚も考慮しようと持ちかけます。ファッションデザイナーとしてすでに成功し仕事に打ち込んでいたビクトリアは自分の結婚式のためのウエディングドレスの構想をいくつも持っていましたが,まさに王子様からのプロポーズという夢のような申し出と,最近恋人だと思っていた男性に裏切られたという心の傷を抱えたまま過ごすのに耐えられなくなりつつあったことから,ステファンとの結婚を了承するのでした。ステファンは婚約者の名前を伏せ,近親者ばかりの小さな結婚式を行い,披露宴でマスコミやVIPを招いての舞踏会を開いてビクトリアを紹介したのです。大女優の娘として小さい頃からマスコミの冷たい仕打ちに慣れていたビクトリアはステファンの計画が自分への気遣いであることに感謝し,その後マスコミ向けに二人の親しい様子をわざと見せたいという言葉の意味を良く理解していました。しかし,マスコミ向けの行動が次第に自分の正直な気持ちを表していることに戸惑いを感じ始めます。そして二人の寝室での相性も抜群であり,ステファンにどんどんのめり込んでしまう自分を止めることができなくなってしまうのでした。どこでもステファンに求められれば応えてしまう自分が,予想以上に深くステファンを愛してしまった気持ちを打ち明けてしまえば,きっとステファンに捨てられるかもしれないと逆に不安になってしまうのでした。一方ステファンの方も,愛が絡むと自分の計画がやっかいなことになってしまうという想いから,ビクトリアに完全に恋しているのをなんとか否定しようと躍起になっています。そして,ビクトリアにはそのうち打ち明けようと考えていた義兄たちとのドキュメンタリー映画の制作のことを,義兄からの電話で偶然知ってしまったビクトリアに,あなたも自分を利用しただけなのねと非難されたときも,反論ができないままビクトリアが去ってしまうのを止めようとはしなかったのです。くどいほど繰り返されるステファンのこの自問自答が,作者のストーリーづくりの要だと思われます。互いにすれ違う気持ちを解消し,二人が互いの気持ちを認め合うのはいつになるのでしょうか。ステファンはその機会として,自分の戴冠式を利用する計画をたてるのですが・・・。高いプライドと素晴らしい才能を持ったビクトリアがステファンにメロメロになって行くところが特に愛らしく,最期まで一気読み確実のイチオシ傑作です。


タグ:ディザイア
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。