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遅咲きの花と貴公子 [リズ・カーライル]

SHALOCKMEMO1233
遅咲きの花と貴公子 In Love with a Wicked Man
( MacLachlan Family & Friends 5 ) 2013」
リズ・カーライル 兒島みなこ





 原題は「不道徳な男と恋に落ち」
 時代/場所:1850年サマセット州,ベルコーム館
 ヒロイン:キャサリン(ケイト)・ウェントワース(28歳)/第14代ダレネイ女男爵/灰色の目,茶色の髪,アルトの声,誠実で純粋でウィットを備えている/
 ヒーロー:ナイル(ネッド)・エドワード・ダゲナム・クォーターメイン(歳)/ロンドンの賭博場の経営者にしてギャンブラー/公爵の私生児?実は賭博師の私生児/緑色の瞳/
 さて,記憶喪失もの第3作目になります。でも,本作は記憶喪失がストーリーの中心的な要素というより,物語のきっかけに過ぎないと思います。ヒーローが落馬して頭を石にぶつけて記憶喪失になるのですが,館の執事フェンダーショットによってその身分が突き止められ,しかも知り合いが続々登場してしまい,まもなく記憶も完全復活してしまうからです。記憶喪失中も自分があまりいい生活をしてこなかったことをなんとなく感じ,館の主人である女男爵に惹かれる気持ちをなんとか抑えようとしているのですが,ヒロインの女男爵の方がヒーローに強く惹かれ,身を投げ出してしまうという結果になるのです。
 ヒストリカルは久しぶりでしたが,本作の魅力はなんと言っても登場人物たちの個性の豊かさでしょう。確かにヒーロー,ヒロインが中心に描かれてるのですが,ヒロインの家族たち,母のオレリーはじめ,妹のナンシー,家政婦のミセス・ペピーなどケイトを取り巻く人々はもとより,敵役のレジー卿,管財人のアンストラザーなど,個性あふれる行動が克明に描かれているために,物語の中で生き生きと人物が動き回り,物語を盛り上げていきます。各章の冒頭にタイトルがついており,全体的にはシェークスピアの喜劇を思わせるハチャメチャぶりが読者を飽きさせません。もっぱら前半はナンシーと牧師のリチャードの騒動,そしてオレリーの登場の後はもっぱらオレリーの一人舞台となって母子3人のロマンスが成立するまで次から次へと事件が続いていきます。最後はケイトの冒険譚,そして白馬の騎士になるエドワードの活躍で締めくくられ,物語は最終場面に・・・。と思いきや,さらにオレリーの思いつき行動のように見える振る舞いが周囲を振り回していくのです。イチオシの作品です。
 ところで,訳の兒島みなこさんは初訳作品でしょうか。違ったら申し訳ないですが,書店の検索では該当なしだったので。ちなみに気になった部分は,位置ナンバー4288で距離を無理やり1.5キロ強としていますが,1マイルのことでしょう。翻訳物をたしなむ人たちにはマイル表記はなかば当たり前になっていると思うのですが・・・。もう一つ,位置ナンバー2124「勝手にクレッシェンドへと高まっていき」とありますが,クレッシェンドが高まっていくことを意味していますので,「勝手にクレッシェンドしていき」若しくは「クレッシェンドしてエンディングに向けて高まっていき」という方がわかりやすいのではないかと思います。


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記憶なき富豪への贈り物 [ポーラ・ロウ]

SHALOCKMEMO1232
記憶なき富豪への贈り物 Forgotten Marriage 2007」
ポーラ・ロウ 秋庭葉瑠





 原題は「忘れられた結婚」
 ヒロイン:アレクサンドラ(アリー)・マックナイト(29歳)/フリーライター/豊かな栗色の髪,可愛らしい顔立ち,160センチの小柄な体/
 ヒーロー:フィン・ジェイコブ・ソレンセン(?歳)/「ソレンセン・シルバー社」副社長/デンマーク人,高い頬骨,角張った顎,長いまつげに鮮やかなエメラルドグリーンの瞳/
 「結婚していた。僕には妻がいた。どうやらその女性はオーストラリアに住んでいるらしい。ああ,なんて厄介なんだ。」で始まる本作は,ヒーロー側の記憶喪失の物語です。「その謎の妻もまた,父ニコライが統べるジュエリー帝国(ソレンセン・シルバー社)の支配株を10パーセント相続することになる。」記憶喪失ものの要素として,遺産相続が絡んできます。しかもヒーローの継母マレーネの身勝手さが敵役的要素をふんだんに醸し出します。「12月に起きた交通事故で父が集中治療室に入り,彼自身も記憶の大部分を失ってから,フィンの人生において現実離れした事実が次々と発覚した。」とあり,会社経営と結婚生活の記憶を取り戻すためにフィンの行動が説明されていくのですが,本作では記憶喪失期間は二ヶ月と三週間と五日と比較的短い期間です。さらに,ヒロイン,アリーの妊娠。夫の出奔の後に発覚した妊娠。記憶喪失と妊娠という2つの現実の間で奮闘するヒロイン,アリーがちょっと身勝手な感じがするのですが,そこはオーストラリア人のおおらかさが救ってくれています。それでも,名家の出身のフィンに対して,無責任な飲んだくれの母をもつ自分に対して相手にふさわしくないのではないかと考えてしまうヒロインのアリーは,記憶を失っているフィンとの関係修復の絶好の機会ではないかと考えます。もしそれがうまくいかなかったら離婚届にサインしよう。でも子供は産みたい。もし離婚したら二人の関係は子供を挟んでどうしていったら良いだろう。そんな不安な気持ちを隠したままアリーは記憶喪失後のフィンが,かつての傲慢な人から別人のように変化したことを感じていました。そんな二人に復縁はあるのでしょうか。やがて妊娠を知ってしまったフィンはどう行動しようとするのでしょうか。「過去は変えられないとしても,未来を正しいものにすることは出来るだろう。それは彼女の真実を打ち明けることを意味する。」記憶を取り戻したフィンは,一大決心をするのでした。もつれた糸を見事に解きほぐしていく作者の腕前は見事です。記憶喪失ものの醍醐味を味わえる秀作です。そして,シルエット・ディザイア版の表紙に描かれたヒーローとヒロインの姿。フィンの北欧人らしい長身と,顔がフィンの胸までしかない小柄なアリーの姿が印象的です。


タグ:ディザイア
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失われた愛の記憶 [ケイト・ウォーカー]

SHALOCKMEMO1231
失われた愛の記憶 Shattered Mirror 1993」
ケイト・ウォーカー 鏑木ゆみ




HQSP-069
14.08/¥540/201p

R-1191
95.08/¥652/156p


 原題は「閉じた鏡」
 ヒロイン:イヴ・モンタギュー(本名・ジェネビーブ・ブキャナン)(26歳)/図書館の助手,記憶喪失/ブロンドの髪,卵形の顔,濃いブルーの瞳,僅かに反り返った鼻,柔らかくふっくらとした唇,美しい曲線を描く体,身長168センチ,誕生日5月10日/
 ヒーロー:カイル・ジェンセン(35歳)/出版社のオーナー/力強い手首,幅の広い手のひら,爪の形の整った長い指,深い褐色の瞳/
 記憶喪失ものを3作品続けて読んでいました。3作品読了後に一気にアップしようと思い,数日かかってしまいました。
 まず,本作です。これはヒロインが記憶喪失になったという設定です。美女イブ・モンタギュー。イヴがジェネビーブの愛称であり,モンタギューは住んでいた館の名前で,記憶喪失後無意識のうちにこの名前を名告っていたことが後から分かります。記憶喪失後2年間で,図書館の司書助手として僅かなアルバイト代を稼ぐだけでしたが,親友となった看護師夫婦の家に住まわせてもらい,心の赴くままに書いた小説を,出版社に送ったのでした。そしてゴミ箱に捨てられようとしていた原稿が偶然,出版社オーナーの目にとまり,その内容が,失踪した妻でしか知らなかったことが書かれていたことに気付いたヒーローのカイル・ジェンセンが,イブの住まいを訪れ,二人のプライベートなことを小説に書いたことを責め立てたとき,精神科医でイヴの姉のように思っていたダイアンとその夫のジムのベネット夫妻から,イヴの記憶喪失のことを聞かされ,記憶の復活のために手を尽くすというストーリーです。何故イヴがカイルの元を去ったのか,そしてどんな経緯で記憶喪失になったのかを中心にストーリーが展開していきますが,イヴの記憶喪失そのものを芝居ではないかと疑うカイルの心理と,カイルをふたたび愛し始めたイヴがカイルとの間に何か秘密があるのではと疑心に囚われ,それがきっと記憶喪失の要因になっているはずだと気付き始めて行くストーリーが,妻側と夫側からの二人の心理描写を複線化させることで膨らみをもたせています。イヴの誕生日5月10日という日が運命の日で,そのタイムリミットを設けることでさらに物語に緊張感をもたせています。記憶喪失ものはサスペンス的要素をふんだんにもたせられるのですが,何をその要因にするかに作家としては心を砕くのでしょう。そんな様々な要素が見事に絡み合った秀作です。「記憶喪失とはまるでゆがんだ鏡を見ているようだと思っていた。鏡の中には彼女の姿だけが映っていて,それ以外には何もみえない。その鏡が粉々に割れた今,始めて分かった。他の全ての鏡と同様に,実際には逆さの映像を彼女は見ていたのだ」という表現が見事です。
 またあまり物語の舞台にならないイギリス東部のノーリッジとその近郊も登場し,興味深い要素となっています。


タグ:ロマンス
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