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運命の王女をさがして [ジョアンナ・リンジー]

SHALOCKMEMO1245
運命の王女をさがして Once a Princess 1991」
ジョアンナ・リンジー 池本仁美





 原題は「かつての王女」
 ヒロイン:タチアナ(ターニャ)・ヤナーチェク(20歳)/酒場で働く娘,実はカルディニア王国王女/淡い緑の瞳,身長167センチ,柔らかな肌,漆黒の眉,愛らしい顔立ち/
 ヒーロー:ステファン・バラニー(?歳)/カルディニア王国新国王/長身,固く引き締まった体,広い肩幅,引き締まった腰/
 もし自分が王女だと言われたら,あなたは信じますか?そんな設定で始まる本作。しかもアメリカとヨーロッパの大陸を隔てた19世紀前半の時代で・・・。内戦に明け暮れてついに一族の全てが殺害され,たった一人生き残った赤ん坊の王女も命を狙われていたカルディニア王国。新国王はいずれ正統の後継者になるこの王女を信頼できるナニーに託してアメリカに逃がします。ところがこのナニーもアメリカで病に倒れ,ひょんなことで赤ん坊を引き取ったのは酒場の主の妻でした。その後王女は酒場の主ウィルバート・ドブズにこき使われる生活を送りますが,彼女を引き取ったドブズの妻アイリスは王女タチアナを可愛がり,読み書きなどの基本的知識と裁縫,家事をすべて教えるのです。アイリス亡き後タチアナが実質的に店を切り盛りし,ドブズの世話も一手に引き受けているのですが,そんなところにカルディニア王国の新国王ステファンと,その護衛のワシーリー,ラザール,セルジュがやって来ます。タチアナのヤナーチェク一族と死闘を繰り広げた僭主スタンボロス一族が全て亡くなり,王女がやっと王国に帰れる日がやってきたのでした。ステファンの父は前国王との約束に従って自分の息子と王女の結婚を遺言として残していたのです。アメリカを探しながら南部の街にたどり着いたステファン一行は王女のナニーの足取りを追ってこの街までたどり着きました。しかし王女の行方はまだ分かりません。酒場で踊っていた踊り子に目をとめたステファンですが,その踊り子こそ探し求める王女タチアナだとは気付きません。タチアナは自分の身を守るためわざと少年のような格好と見にくい化粧をして酒場で働いていたのでした。王女は赤ん坊の時に国を離れており,成長した今の姿を誰も知りませんし,当のタチアナ自身も自分が王女だとは知らされていなかったのです。さまざまな状況証拠から,タチアナこそ探し求める王女だという結論にたどり着いたステファン一行ですが,ステファン自身も顔に傷を負っていて自分の風貌には自信が持てず,護衛でいとこのワシリーに王と名告らせ,表向きは自分が護衛だということにしていたのです。酒場の女だということで身持ちが悪く数々の男たちを渡り歩いていたと信じ込んでしまったステファン一行。そしてカルディニアに帰るために自分たちについてこいと誘拐同然に連れて行かれるタチアナ。病のドブズが亡くなれば,今まで苦労して維持してきた酒場は自分のものになると,一行を追い払おうとするタチアナ。聞いたこともないカルディニアというヨーロッパの小国のそれも王女だということなど,すっかり作り話だと信じてステファンたちから逃げようとあらゆる算段をするタチアナ。この奇妙な取り合わせの一行の珍道中が物語の前半を占めています。ミシシッピ川を下る蒸気船のなかの様子,川へ飛び降りて酒場に帰ろうとするタチアナ,そのタチアナを追って川に飛び込む4人の若者など,冒険譚が続きます。結局連れ戻され,ニューオーリンズからヨーロッパに向かう船に乗るタチアナたちは,船中という閉じられた空間でその人間関係が次第に複雑になって行きます。「嫌いだ」と面と向かって言うタチアナに何故か惹かれ始めるステファン。栗では嫌いだと言いながら,ついそのたくましい肉体に惹かれてしまうタチアナ。そして遂にヨーロッパに到着してからも,カルディニアへの陸路の道中が続きます。治安の悪い地域を通ったとき,タチアナは誘拐されてしまいます。そして独特の方法でタチアナを救出するステファン。実は一族が皆なくなってしまったと思われていたヤナーチェク家に敵対する一族の最後の生き残りがこの誘拐劇を実行するのですが,残念ながらタチアナの勝ち気な立ち居振る舞いに誘拐犯の方がタチアナの見方をしてしまうというドタバタもあり,長い道中の後やっとのことで王国にたどり着く一行でした。そして国王としての衣装に着替えたステファンを見てタチアナはこの道中にすっかりステファンを愛してしまっていることに気付くのでした。しかしステファンは自分の顔の傷を気にしてタチアナに嫌われているのは傷のせいだと思い込んでいます。さて,二人の関係はどんな進展を見せるのでしょうか。
 リンダ・ハワードの冒険譚を彷彿とさせるすばらしいストーリーです。


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伯爵の悪戯なラプソティ [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1244
伯爵の悪戯なラプソディ The Lady Confesses
(3姉妹シリーズ 3) 2011」
キャロル・モーティマー 古沢絵里





 原題は「淑女の告白」
 ヒロイン:エリザベス・コープランド(ベッツィ・トンプソン)(19歳)/伯爵家令嬢,貴婦人のコンパニオン/濃い青の瞳,黒檀の色の巻き毛,身長150センチあまり,形の良い黒い眉,小さな鼻,弓形を描く唇/
 ヒーロー:ナサニエル・ソーン(28歳)/オズボーン伯爵,エリザベスの雇い主の甥/流行の形に整えられた小麦色の髪と美しい茶色の瞳,顔立ちはどこまでも男らしく,高い頬骨と貴族的な鼻,くっきりと形の良い唇の下に意志の強そうな四角い顎/ケントとサフォークにに広大な領地を所有しロンドンにも美しい邸宅をもつ/
 いよいよ最終巻です。二人の姉が金髪なのに対して末娘のエリザベスはブルネットです。その他の特徴でも母に一番似ていると言われているのでした。さて,第1巻からしばしば登場していたのですが,偶然にも正体に気付かれずにきたエリザベス。実はミセス・ガートルード・ウィルソンにコンパニオンとして雇われていて,カロラインもロンドンでそれらしき人影をみていたのですが,遠距離であったことと,妹がロンドンにいるわけがないという思い込みで,二人は出会うことなく通り過ぎてしまっていたのでした。この当たりはもう,テレビドラマのようで目に見えるような場面ですね。カロラインが出奔してから数日後にエリザベスも家を出たのですが,偶然広場で道路に飛びだしたミセス・ガートルードの犬を助けたことから,コンパニオンとして雇われたのでした。その時,すぐに出自が知られないようにコープランドとは名告らずに,ショアレイ・パークの執事トンプソンの姓を借りていたのです。そして雇い主がコンパニオンにエリザベスは少し立派すぎる名前だということでベッツィと呼ばれるようになったのでした。そこにナサニエルがやって来ます。ナサニエルはミセス・ガートルードの甥。ブラックストーン伯爵ドミニク・ヴォーン,ガブリエル・フォークナー伯爵とは戦地で苦楽を共にした中で,第1巻で登場したようにドミニクの所有する賭博クラブ「ニック」での乱闘で,ドミニクに間違えられてぼこぼこにされ,その後治療に専念していたのでした。もちろんカロラインとはこの時点で出会っているのですが,なにせブロンドとブルネットの違いがあり,エリザベスとカロラインが姉妹であることは想像もしていませんでした。しかもそれが3姉妹で長女ダイアナとガブリエルが結婚することになることとは思いも寄らなかったからです。ミセス・ガートルードに押し切られて領地のマナーハウスで療養することになったナサニエルは,屋敷に見かけたことのない美女エリザベスがいることに驚きます。あくまでも叔母と飼い犬の世話係として雇われたこの娘が,伯爵である自分に対してもずけずけとものを言い,自分の出自について語りたがらないということにいささか腹を立て通しの生活が始まります。エリザベスが似ている,姉妹の母であるハリエット・コープランドは,10年前,エリザベスが幼い頃夫と三人の娘を捨ててショアレイ・パークを飛びだし,ロンドンの若い愛人の腕の中に飛び込みます。そして僅か数ヶ月後に駆け落ち相手に射殺され,相手の男も自殺してしまうというスキャンダルの持ち主でした。数ヶ月前に父を亡くしてガブリエルが新伯爵になって自分たちの後見人になって姉妹の誰でもいいから結婚する意向だということを知り,次姉に続いて家出したのですが,コープランドを名告れば,あのスキャンダルを思い出されてしまうということで貴族の館では本名を名告りたくなかったのでした。
 ナサニエルはなんとかしてエリザベスの本性を引き出そうとしますが,口が堅く,頭も切れるエリザベスのシッポをなかなか捕まえることが出来ません。しかも母の使用人に邪な気持ちをもつことにも世間からなんと言われるか分からないので遠慮もありましたが,しかしその話し方や身分が上の自分に対しても堂々と意見を述べることなどから,きっとどこかの没落貴族の娘だったのではないかと想像してみるのでした。未亡人で叔母のミセス・ガートルード・ウィルソンはまだ40代前半で自己主張が強く,伯爵の甥に対しても多大な影響力をもっていました。「息子を正しい道に導くべき母親がいない以上,本人にその気があろうとなかろうと甥が伯爵の妻としても伯爵家の子供たちの母としてもふさわしい女性を選ぶよう気を配るのが叔母である自分の務めだ」と公言してはばからないミセス・ガートでした。ところで,ソーンの館デヴォンシャーのヘプワース・マナーの隣人にルーファス・テナントという陰気な紳士が住んでいます。犬の散歩中に道端で出会い,エリザベスの美しさに惹かれたルーファスは頻りに館を訪ね,エリザベスを誘おうとします。実はこのルーファスは表面的な紳士らしさとは裏腹に,動物を嫌い,一人薔薇の新種づくりに熱中するいわゆるオタクでした。しかもなんとなくエリザベスに対して良からぬ思いをもっているようなのです。男性的なナサニエルとは違い,このねちねちして自分を追い回すルーファスに嫌悪感を覚えるエリザベスでしたが,雇い主の甥であるナサニエルと不適切な関係をもてば,解雇されてしまう危険性を避けるためにも,ルーファスの誘いに乗らざるを得ないという二重の苦しみを味わうことになってしまいます。そして,ルーファスの弟,ジャイルズが自分の母ハリエットと駆け落ちした相手であったことを噂で聞き及び,なんとしても事の真相を知りたいという欲求に勝てずにルーファスの誘いに乗って隣家の温室を訪ねるのでした。エリザベスの行方を聞いたナサニエルは,その実を心配し,ルーファス邸を訪れ,危ういところでエリザベスを救い出します。しかし,自分が使用人であるエリザベスとの間に不適切な関係を持てないという状態とどうしてもエリザベスに惹かれてします自分の気持ちとの間の葛藤に苦しむのでした。なんどかしつこくエリザベスを誘いに来るルーファスは,自分の育てた新種の白いバラをエリザベスに送りつけたり,散歩をしないかと誘いに来たりするのですが,なんとかナサニエルはその企てを阻止し,ルーファスとの間に緊張が高まります。そして母とルーファスの弟との真実を究明したいエリザベスはなんとかルーファスにそのことを聞き出そうとするのですが,するりと話しをすり替えられてしまいます。そして,ナサニエルが留守をしている時,ついにルーファスの魔の手がエリザベスに伸びてくるでした。母と似ているエリザベスをルーファスはハリエットと呼び,すっかり正気を失ってしまっていたのでした。そして,10年前に出奔した母ハリエットの亡くなった8年前の事件の真相が明らかになります。
 ミセス・ガートルードにはひた隠しにしてきたエリザベスへの思いは,敏感で何事も見逃さない叔母の関知するところとなりました。しかもエリザベスが出自に関して何か隠していることにも気付いているようです。ルーファスの事件の後,ナサニエルはかつて会ったことのあるハリエット・コープランドとエリザベスの共通点に思い至り,伯爵令嬢であることに気づくのでした。さて,エリザベスをどうやって説得しよう・・・。もしエリザベスが,エリザベス・コープランドならば,その後見人である親友ガブリエルの許可を得なければならず,最後の手段はガブリエルとの決闘となるかもしれない。
 19章からいよいよシリーズの大団円となります。3姉妹と3親友のそれぞれがくっついてしまうという都合のいいなりゆきに,いささか食傷する向きもあるかもしれませんが,私はこのシンプルでわかりやすいストーリー展開こそがキャロル・モーティマーの魅力であると思います。そして一度もロンドンの社交界に登場したことのない美人3姉妹がそれぞれ愛する人と出会い幸せな生活を送っていくだろうというハッピーエンディングに,うまい隠し味だなと作者に拍手を送りたくなってしまいます。
邦訳版のそれぞれのモデルが,ちょっと年代的に合わないようにも思えますが,なんとかそれぞれ愛らしいモデルさんを使っているのに比して,MB版の本作のモデルは,末娘と言うより長女といったほうがいいような,よくヒストリカルには登場するモデルさんですが,作品を無視した人選にはちょっと腹が立ちます。単にブルネットだからという理由しか思いつきません。いつもすばらしい表紙をつくっているMBにしては,なんともお粗末です。


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後見人に愛のソネットを [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1243
後見人に愛のソネットを The Lady Forfeits
(3姉妹シリーズ 2) 2011」
キャロル・モーティマー 古沢絵里





 原題は「剥奪された淑女」
 ヒロイン:ダイアナ・コープランド(21歳)/伯爵家令嬢/金と赤の中間の髪の色,燃えるように赤い頬,傲慢なほどきっぱりともたげられた顎,挑むようなきらめきを宿した青空を思わせる瞳の色と金色の眉/
 ヒーロー:ガブリエル・フォークナー(28歳)/新ウェストボーン伯爵,3姉妹の後見人/力強い角張った顎,形の良い唇,高い頬骨と長く細い鼻梁,黒に近い青の瞳/
 シリーズ2作目です。8年前の1件。これがキーワードになります。さて,ヒロイン,ダイアナは自分が長女であり,11歳で母を失った後は自分が妹たちの母代わり,そしてショアレイ・パークの女主人として,とにかく父と妹たちを助け,自分のことは常に後回しにして生きてきました。後見人のガブリエルから結婚の話を聞き,結局は自分がその相手にならざるを得ないのだろうと覚悟していたようです。それにしても妹たちの相次ぐ出奔に,行き先はロンドンだろうと当たりを付けて家を出てきたダイアナ。大胆なことにロンドンのウェストボーン・ハウスに出向き,ガブリエルが帰郷する前に館の修繕をしていたのです。そして,ガブリエルとの出会い。想像していたのとは全く異なるガブリエルの風貌に,ダイアナは惹かれてしまうのです。ガブリエルは金と赤の中間の髪の色の気位の高そうな美女が3姉妹の誰であるかも分からないまま,一目で惹かれてしまいます。まさに運命的出会いでした。最も,始めに3姉妹の誰に出会ったにしろ,ガブリエルは惹かれていたでしょうが・・・。それほど,父の言いつけによってロンドンの社交界に一歩も足を踏み入れていない3姉妹の美貌の噂は,ロンドンでは知られていなかったのです。分別のあるしっかり者の長女としての十年間は,常に自分のことを後回しにして軽率で衝動的な行動を取ったり,父親や妹たちよりも自分のしたいようすることなど十の昔に忘れてしまったダイアナですが,ガブリエルに出会った瞬間,この人こそと思えるようになって行きます。かつて隣家の御曹司マルコム・カッスルとの付き合いがあったダイアナでしたが,父親が亡くなってその財産が手に入らないことが分かって心変わりし,金持ちの商人の娘ヴェラ・ダグラスと婚約してしまった苦い経験から,いずれにせよ後見人のガブリエルが自分を好きになるはずがないという気持ちが先立ち,それならいっそ自分がガブリエルとの結婚に踏み切ろうとしていたダイアナにとって,ガブリエルの気持ちに寄り添い,自分を好きになってくれるだろうかという不安の方が勝っていたことも事実です。ガブリエルは比類ない美貌の持ち主であるだけでなく,聡明で有能なようすのうかがえるダイアナとの結婚こそ,宿命だと思えるのですが,8年前のスキャンダルが邪魔をしています。当時自分の言い分を誰も聞こうともせず,スキャンダルだと決めつけた周囲の人とは異なり,ダイアナは正面切って8年前のことの真相を聞き出そうと質問をぶつけてくるのです。この明かな公平性にもガブリエルは感心します。そしてガブリエルの言葉を「その言葉を信じてはいけませんか?」と切り返してくるダイアナの誠実さにも・・・。「この娘がすでにそこまで深く僕という人間を理解しているとは」と,ガブリエルは驚きを隠せませんでした。
 そして二人の結婚公示が新聞にも出されます。これを妹たちは見るだろうか,そんな期待も含めて,結婚という未知の領域に踏み込むダイアナに不安は隠しきれませんが,「実際的で有能な一面の下に,情熱的で誠意あふれる若い女性を見出した」ガブリエルは結婚への期待が高まっていくのでした。反面8年前の裏切りにより愛を信じられないガブリエルとマルコムに裏切られて結婚に懐疑的になっているダイアナですが,ダイアナの気持ちは,しかしながらガブリエルを愛してしまっていることをうすうすは感じ始めているのでした。そして,やって来たガブリエルの叔母と話している内にダイアナたち姉妹の母と親友だったことが分かり,安堵します。いよいよガブリエルの母との出会い。二人のいわば便宜的な結婚が次第に本物の愛による結婚に向かって走り出します。互いに裏切られた経験を互いに支え合うことで乗り越え,二人がふたたび愛を取り戻すことが出来るでしょうか。
 ストーリーは妹捜しの方にも向かいます。そんな時次女カロラインとガブリエルの親友ドミニク・ヴォーンが訪ねてきたのでした。二人の愛にあふれた姿にダイアナもカロラインの行動を許すことにします。同時に自分とガブリエルの冷めた関係と比べてうらやましくも思うのでした。そして8年前のスキャンダルの真相,そして愛アナの元婚約者マルコムの訪問と立て続けにストーリーが進行していき,二人の気持ちはこれらの事件をとおして確実に深まっていくのでした。あとは末娘エリザベスの行方だけが残っていますが,読者にはすでにその行方は匂わされているのです。この当たりが作者の憎いばかりの仕掛けですね。


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伯爵に捧げるセレナーデ [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1242
伯爵に捧げるセレナーデ The Lady Gambles
(3姉妹シリーズ 1) 2011」
キャロル・モーティマー 古沢絵里





 原題は「ギャンブル淑女」
 ヒロイン:カロライン・コープランド(カロ・モートン)(20歳)/伯爵令嬢/仮面の歌姫/
 ヒーロー:ドミニク・ヴォーン(28歳)/ブラックストーン伯爵,賭博クラブ「ニックス」経営者/
 PHS(ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル)を更新していて見つけたシリーズです。かつてはほとんどヒストリカルばかり読んでいた時期がありましたが,ハーレクイン・ヒストリカルからヒストリカル・スペシャルに変わって,ちょっとヒストリカルの分量の重さに食傷していた時期があり,新刊購入を控えていた時期が長く続きました。最近KINDLEでの読書がほとんどになり,分量が感じられなくなったこともあり,またそれへの興味も増してきました。なにより,本国版の表紙の美しさはヒストリカルならではのものがありそれに惹かれているのも否定できません。また,MIRA文庫でのヒストリカルの出版数もちょっとずつ増えているように思います。このシリーズはキャロル・モーティマー作品ということもあり,あまり好きではないリージェンシーではあるものの,ダウンロードしてみたわけです。(ちなみに好きなジャンルはなんといっても中世,もしくはバイキングものですが・・・。)
 さて,このシリーズ,「3姉妹シリーズ」は,伯爵家の3人の美人姉妹がヒロインです。それぞれ単独で次女のカロライン(20歳),長女のダイアナ(21歳),そして末娘のエリザベス(19歳)のコープランド家のロマンスを描いていますが,かなり関連性が深く,3作品で1作のロマンスの各章を為しているともいって良いほどです。そんなわけで,3作読了後にSHALOCKMEMOをアップすることにしました。時は1817年,舞台はイギリスですが,物語はロンドンで始まり,その後ヒーローを務める3人の伯爵の領地に場所を移します。姉妹の住まいであったウェストボーン領地,ショアレイ・パークの4伯爵領が舞台となります。前ウェストボーン伯爵が亡くなり,3人の姉妹の後見人になったのは新ウェストボーン伯爵,前ウェストボーン伯爵の遠縁ガブリエル・フォークナーでした。ガブリエルとその親友のブラックストーン伯爵ドミニク・ヴォーン,オズボーン伯爵ナサニエル・ソーンの3人はナポレオン戦争でともに戦い,兄弟以上に強い絆で結ばれた軍隊仲間。そしてガブリエルの10年前のスキャンダルの真相を知る数少ない友人でもありました。ガブリエルが被後見人である姉妹の内の一人と結婚するという話しを誰もまともではないと考え,それでも本人がそうするなら仕方がないと考えています。その経緯がプロローグで語られます。まず,本作のヒーローはブラックストーン伯ドミニクですが,目の下から頬にかけての傷跡が戦争の傷跡を物語る顔でありながら,その傷さえなければ堂々とした風貌に恵まれた美貌の男性です。ギャンブルに才能を発揮し,ロンドンの賭博クラブ「ニック」の経営者ニコラス・ブラウンとの賭に勝ち,「ニック」を手に入れます。ニコラス・ブラウンは複数の賭博クラブを経営し,ロンドンの裏事情に詳しい,いわゆる犯罪者の親玉のような男です。「ニック」の経営状態は良く,支配人のアンドルー・バトラー(ドルー)やボディガードでドアマンのベン・ジャクソンといった「ニック」をこれまで実質的に運営してきた使用人のおかげで客入りが良いのですが,ドミニクが店に行ってみるとドアマンのベンが持ち場についていません。さらに客の目が全てステージに向けられているではありませんか。そしてステージに登場したのは美しい歌姫。この歌姫こそヒロイン,カロラインの仮の姿。つまり結婚を無理強いされることを避けるためにショアレイ・パークを家出してきたカロライン改めカロ・モートンだったのです。ドミニクはこれに腹を立てます。ギャンブルを愉しむために集まった客たちに,違う期待を抱かせる店に成り下がってしまうと考えたのでした。すぐにもこの歌姫をクビにしようとステージが終わったところで控え室に行きますが。これが二人の運命の出会いとなったのでした。治安の良くない住まいに住んでいることを突き止め,自分の屋敷に連れてきたドミニクですが,カロの魅力にすっかり惹かれてしまいます。カロもまた外見とは違って公正で男らしく優しさも兼ね備えているドミニクの本性を一目で見抜き,その誘惑にすっかり心を惹かれていくのでした。しかし表面的にはカロは歌姫に身をやつしていますが本来は伯爵令嬢。傲慢に自分に命令しようとするドミニクの言葉を逆手にとっては言うことを聞きません。これまで出会った女性たちは皆自分に言い寄るか怖がるかのどちらかでしたが,カロのように正面切ってものをいう女性は初めてでした。二人の舌戦がとても見事に描かれており,これは3姉妹に共通した特質でもあるようです。美貌だけでなく,頭の回転が速く,しかも他人や動物に対する深い愛情をもっていることが次第にドミニクにも分かってきます。しかし,何か秘密を抱えているカロに対して愛情を抱いてもそれは欲望に過ぎないと言い訳し続けるドミニク。二人の気持ちのすれ違いが本作の最大の魅力といっても良いでしょう。そしていつ二人が互いの愛情を素直に出し合えるようになるのか,カロの正体がいつどんな場面で分かってしまうのか,読者を最後まで引っ張ります。そして事件が起きます。ドミニクが賭に勝った相手ニコラス・ブラウンの悪行により窮地に陥るカロ。そして彼女を助けるために白馬の騎士となるドミニク。事件の解決が二人の急接近に最大の出来事になるのです。
 本作の結末は自然に次作の幕開けにもなります。単独作品としてみればかなり唐突に終わる感じですが,もう次作が始まっているようです。そして次作のヒロインは長女ダイアナです。


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無垢な乙女の変身 [アンドレア・ローレンス]

SHALOCKMEMO1241
無垢な乙女の変身 One Week with the Best Man
(予期せぬウエディング・ベル 3) 2015」
アンドレア・ローレンス 八坂よしみ





 原題は「花婿付添人との一週間」
 ヒロイン:グレッチェン・マカリスター(28歳)/「フロム・ディス・モーメント」共同経営者,カリグラファー(招待状やプログラムなどの印刷物のデザイン)/身長157センチ,シミ一つない肌,ふっくらした桃色の唇,長く濃いまつげ/
 ヒーロー:ジュリアン・クーパー(本名:カーティス)(?歳)/アクション俳優/端正な顔,濃い茶色のまつげ,青緑色の瞳,栗色の髪,小麦色の肌,引き締まった体と腹筋/
 シリーズ第3作です。第2作をすっ飛ばしてしまいましたが,とりあえず今月号を先に手を取ってしまいました。写真家のブリー,シェフのアメリアと来て,本作は最も目立たない女性グレッチェンがヒロインです。最後は会社の要,ウエディングプランナーのナタリーになるのでしょう。何故か謎めいたナタリーの男性関係に,今から興味が沸きます。さて,本作ヒロインのグレッチェンの仕事であるカリグラファーというはあまり聞き慣れない単語ですが文字装飾を担当する仕事のようです。(Wiki) パソコンをいじっていて時々苦労する「フォント」の選択。このフォント(書体)をいろいろと生かして芸術作品に仕上げていく作業がカリグラフィーで,それを職業とする人をカリグラファーというのでしょう。結婚式の招待状や当日のプログラムなどは式のかなり前に準備するものでしょうから,グレッチェンの仕事は式当日よりその前が忙しいというわけで,大富豪マレーの結婚式にベストマン(花婿付添人)を務めるジュリアンの同伴者としてグレッチェンが選ばれたのは,納得できる理由です。しかし,自分の体型に全く自信がない内気なグレッチェンが,世界一ハンサムとも言える俳優のジュリアンのお相手にふさわしいとは,本人は思ってもいなかったのです。バレリーナの母をもち,姉や妹もスリムな体型を維持している3姉妹の中でグレッチェンだけは父の遺伝子を強く引き継ぐずんぐりむっくりポッチャリ体型で,昔から肩身の狭い思いをしてきたので,男性との付き合いよりもこつこつと文字を描く仕事をし続けてきたのは,愛すべき女性だということのなによりの証拠だったのです。いずれ,このグレッチェンの美人姉妹たちもヒロインとして登場してくれば良いですね。今回,ヒーローのジュリアンはベストマンとしての仕事が,俳優としての仕事の合間の時期にちょうど来たことと,病をもつ双子の弟(マスコミには明かされていないのですが)の療養所の近くだということで,式より少し早めに南部のナッシュビルにやって来ています。式の前後の1週間が二人に与えられたロマンスの時間でした。ジュリアンの交際相手が自分に金銭的な欲望を果たすためだけの,美貌だけを武器にする女性だということに気付いたジュリアンは交際を打ち切ったつもりでいるのですが,相手のブリジッド・マーティンは,自分が浮気をしていたにもかかわらず,ジュリアンとグレッチェンの姿が報道されるや,なんとかジュリアンを取り戻そうとマスコミに双子の弟ジェームズの存在をリークしてしまうのですが,逆にグレッチェンに対するジュリアンの思いを強めることになるという皮肉な展開が用意されているのです。自分の財力を少しも当てにしていない女性はジュリアンには物珍しく,そのことがグレッチェンに惹かれる大きな理由の一つだったのですが,このマスコミへのリークがグレッチェンによって為されたと勘違いしたことで,ジュリアンに逆に裏切られた想いを抱かせてしまうのでした。そんなこんなの事件がありますが,おおむね二人の関係は順調に進展していきます。このシリーズは割と短い時間の中で同時的に進行していきますが,エピローグでは次作のヒロイン,ナタリーの憂鬱が匂わされていて,かなりシリーズを意識した終わり方だなと思います。
 今月は何故か読書が進まず,2日に1作程度の読了状況ですが,期待していたGW中も仕事に明け暮れてしまったためで,少し時間が出来たら,一気に読了が進むように思います。


タグ:ディザイア
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砂の檻 [ケイトリン・クルーズ]

SHALOCKMEMO1240
砂の檻 Protecting the Desert Heir 2015」
ケイトリン・クルーズ 水木はな





 原題は「砂漠の相続人を守って」
 ヒロイン:スターリング・マクレー(27歳)/元モデルで妊娠中/
 ヒーロー:リハド・アル・バクリ(?歳)/バクリ王国国王/
 作者得意のシークものです。ヒロイン,スターリングの美貌,男を惑わせるスタイルの良さなどが嫌というほど文中に表れているのですが,翻訳版もMB版もこの雰囲気を伝えるモデルさんを使っていません。まぁ強いていえばですが,MB版はそのアンニュイな雰囲気がちょっと感じられる表情は見えますが,あの意志の強さが十分には伝わってきていないのが残念です。5月5日刊のロマンス4作品の中では,やはり「授かりし受難」のヒロイン,グレイス・ドノヴァンのモデルさんがベストイメージでしょうか。
 さて,最近刊のケイトリン・クルーズ作品はほとんど読んでいるのですが,なぜかオススメやイチオシマークを付けられる作品と出会っていませんでした。しかし,本作は少なくともオススメは付けられる内容の深さが感じられました。強大な国に隣接するペルシャ湾岸の砂漠の国バクリ。現実にはサウジアラビア近隣の小国の一つと考えれば良いのでしょうが,ベドウィンが住み,かなり伝統的な考え方が色濃く残っている国柄です。父親が数年前に逝去して国王となった兄弟の長男リハドは弟オマールや異母妹アマヤが昔から何かとお騒がせな行動を取り,その尻ぬぐいをしてきました。ハリドはかつて結婚していましたが,妻をガンで亡くし,現在は独身のままでいます。今回弟オマールが自動車レースに出てクラッシュし,命を落としてしまうという不幸に見舞われますが,弟は国を離れてからのここ10年間,モデルの女性と同棲し,しかも彼女はオマールの子を宿していることがわかったのです。アメリカのオマールのフラットにこのスキャンダルを納めるためリハドは自ら出かけたのでした。初めはリハドを自分を迎えに来た運転手だと勘違いして横柄な言葉遣いをして自分のいうとおりにしようとしたスターリングですが,車が止まってみると私設空港。そして運転手は自分がハリド国王だと名乗ったのでした。そこからはスターリンのいうことなど誰も聞かずに,バクリ国に向かわざるを得なくなったスターリング。王子の子である彼女のお腹の中の子は,バクリ国の王族であり,継承順位第2位の位置にあることになります。しかしその子にはある秘密がありました。実はスターリングは処女懐胎だったのです。つまり同性愛者のオマールはその秘密を隠すため,精子提供者となりスターリングは妊娠したのでした。そのことをハリドが知るのは物語も後半に入った第7章です。スキャンダルにまみれた王国にはもう一つ,ハリドの異母妹アマヤが隣国ダール・タラースの王子カヴィアンとの婚約を拒否し,逃亡生活を送っていることでした。こちらは物語の進行上は小さな扱いになっていますが,本作の姉妹編が書かれれば,おそらくヒロインとなるでしょう。さて,ハリドはスターリングの子が王位継承権を持つことを盾に取り,スターリングとの結婚を強行します。断固これを拒否しようとするスターリング。しかしスターリングにも両親を失い里親の元で育ちますが,外に見えないところで養父から暴力を振るわれ続けていたという過去がありました。そのため男性から触れられそうになると思わず手を挙げて防御の姿勢を取る習慣が身についてしまっていました。自分には触れなかったオマールとの交際が長年続いたのもこれが原因でした。そして王宮についてハリドが結婚を強要しようとスターリングに思わず近づいたときこの防御の姿勢が出てしまい,ハリドはスターリングに大きな心の傷があることに敏感に気付いたのでした。しかしハリドはスターリングを殴ることをせず,あくまで尊大に自分に命じただけだったため,スターリングはハリドに対する緊張を少し解くことになって行きます。常に長男として国への義務を優先して生きてきたハリド。マスコミからたたかれ,自分がいかにも砂漠の国の王子を誑かしてきた妖婦のように喧伝されてきたスターリングを,ハリドもまた報道どおりの女性だと思い込んでいたのですが,この心の傷に気付いたとき,スターリングの美貌はその本姓とは別物であることに気づくのでした。美貌の陰に自分の悲惨な少女時代を隠してきた,しかも国王の権威などを恐れない意志の強い女性,そんなスターリングの新たな面を知ることになったハリドは,スターリングに対する認識を新たにするのでした。そして強く惹かれていることを知るのでした。スターリングもまた,言動とは異なったハリドの真のやさしさと,常に国に対する義務を背負って生きなければならないハリドの生き方に同情を覚え,と同時に愛しい人としてのハリドに深い尊敬の念を抱くのでした。スターリングは急に破水し,愛らしい娘レイラを出産します。出産後1カ月ほどして,ハリドとスターリングは砂漠のオアシスでのハネムーンに出かけます。しかし,王宮に戻って政治的なパーティに出席したとき,参加者から,さらにはマスコミの記者から悪意に満ちた中傷の言葉を向けられ,このままでは愛するハリドとレイラに今後も多大な迷惑をかけてしまうと王宮を離れる決心をするのです。しかし国境に向かったスターリングを追いかけたハリドはそんなことは気にしない,ただ君が一生を共にしてくれればいい,と愛の言葉を叫ぶのでした。エピローグは10年後,すでに二人の間にはレイラの他に3人の子どもが出来ています。10年経っても二人が互いを求める気持ちには変化がなく,返って強まる一方です。このエピローグの長さも本作の特徴かもしれません。長大なシリーズもののエピローグのような大団円に,読後の満足感もひとしおです。


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授かりし受難 [リン・グレアム]

SHALOCKMEMO1239
授かりし受難 The Greek Demands His Heir
(噂のギリシア大富豪 1) 2015」
リン・グレアム 槇 由子





 原題は「ギリシア人は彼の相続人を要求する」
 舞台:トルコのマルマリス・リゾート
 ヒロイン:グレイス・ドノヴァン(24歳)/医学部学生/燃えるような赤毛,小柄で豊満,豊穣の女神を思わせる豊かな胸に細くくびれた女性らしいウエスト,肌にはそばかす,淡いグリーンの目,作り物でない自然な美しさ/ウェールズ出身
 ヒーロー:レオス(レオ)・ジコス(30歳)/実業家/彫りの深い端正な顔,東洋的な黒髪と黄金色の肌,長身,古典的なカーブを描く力強い鼻,表情豊かな大きな口,黄褐色に近い金色の目/
 父に捨てられ,母を亡くしたグレイスは伯父伯母に引き取られますが,そこには同年代の従姉妹ジェナがいます。引き取られはしたものの,我が儘放題に育ち美しい容貌のジェナは容赦なくグレイスを罵倒し,こき使います。伯母もそれを支持するので,肩身が狭い思いをずっと続けてきました。伯父は多少同情的ではありますが,基本的にグレイスに味方することはありません。それでも里子に出されるよりは血のつながりのある家に住まわせてもらった恩義を感じ,懸命に勉強して医学部の最終学年を迎えるところまで来ていました。努力の成果があり学年トップの成績を収めており,卒業すれば家から離れられます。そんな時,ジェナにトルコ旅行に一緒に行って欲しいと言われます。旅費は伯母が出すとは言っていますが,アルバイトをして学費を貯めようとしていたのに1週間もロンドンを離れることは,大きな痛手です。しかしこれまでの経験からすると,ジェナや伯母に逆らうと家においてもらえなくなる可能性もあり,あと1年で医学部を卒業できるのにその望みを無にすることなどできません。しぶしぶ承知したグレイスですが,この旅行が彼女の運命を大きく変えることになるとは思ってもみませんでした。旅行の初日からジェナは男性と知り合い,マルマリス・リゾートのコンドミニアムの1つしかない寝室をその男性との付き合いで占領してしまいます。仕方なく1日目の夜は共用部分のロビーで過ごしたグレイス,しかし翌日も同様の状況が続きます。守衛からはロビーで夜を過ごすことは規則違反だと言われてしまいます。3日目にジェナに勧められるままに「クラブ・フィーバー」に踊りに行こうと誘われますが,そこで一瞬目にとまった男性,それがレオ・ジコスでした。レオもまたグレイスに目をとめ,二人は遠距離から見つめ合います。そして,VIP席に招かれたグレイス。そこで,レオがそのクラブのオーナーであると言われます。20代半ばまで男性との親密な付き合いをする間もなかったグレイスですが,レオからの誘いを断るよりも,さっさと自分の殻を破ってしまいたいと思う男性に初めて出会ったのでした。さっそく,誘いに乗ってレオの所有する「レディ・ヘレナ号」というクルーザーについて行ったグレイス。そして目眩く一夜を過ごしたのでした。どうせ一夜の仮の情事と割り切ったグレイスですが,その時の行為が,妊娠という結果を招きます。レオもまた父親の不倫と異母弟の存在に悩まされた過去を持ち,幼なじみであった女性と婚約し互いに束縛し合わない存在でいようと話し合っていたのです。そしてその女性には愛する男性がいて,しかも妻帯者だという告白を受け,二人の関係を考え直す時期にも来ていました。グレイスとの関係も一夜では済まなくなり,それでもグレイスはレオとの永続的な関係を望んでいないという言葉に驚きとグレイスの意志の強さ,そしてこれまで付き合った女性とは違う魅力に強く惹かれていくのでした。そしてグレイスの妊娠。自分の子どもを持てるということに父親と同じように子どもを捨てるなどと言う選択肢はレオにはありませんでした。しかしグレイスはレオのプロポーズを断るのです。
 結局,グレイスはレオとの関係を清算することが出来ずに,1年間の休学の後に大学に戻ることを条件にレオとの結婚に踏み切らざるを得なくなるのでした。ところが,ある日,グレイスの元にレオの元婚約者が訪ねてきます。そしてグレイスが妊娠していることも,お金を出すからレオと別れるようにという要求とともにレオとの関係を復活させたいと仄めかすのでした。もう一緒にはいられない,しかし泣き寝入りはゴメンだと,グレイスは荷物をまとめてレオの元を去ろうとするのですが,そこにレオが帰宅して言い合いになるのでした。されに,出血して急ぎ病院に行ったグレイスは流産したのだと早合点してしまいます。子どもの養育を理由に結婚したグレイスにしてみれば,子どもを失ってしまえば,レオとの結婚を続けていく理由がなくなります。手厳しい言葉でレオにその言葉をぶつけたグレイス。そしてその言葉に傷ついたレオも仕事にかこつけて1週間外国に出張に出てしまうのでした。ところが翌日に検査の結果が出て,流産はしていないことを知らされたグレイス。喜びのあまりレオに電話しますが,電話は通じなくなっていました。レオは腹立ち紛れに携帯のメモリーを投げ捨ててしまっていたのでした。グレイスはこの事態にどう対処するのでしょうか。「恩寵」という意味を持つグレイスという名前。レオにとって本当の意味で「グレイス」になるのでしょうか・・・。
 邦訳版の表紙には赤毛の女性が写っていますが,どうも文中のグレイスとはイメージがそぐわない感じがします。その点,MB版のカバーのイメージの女性はグレイスの若々しさと小柄で豊かな体型が良く表れており,しかも卵形の若々しい顔かたちが,レオのいう「女神のような」という形容にふさわしいように思います。このモデルさんはよく登場しますが,まさにグレイスのイメージそっくりの美少女といって良いモデルさんですね。


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百万ポンドの偽の花嫁 [シャンテル・ショー]

SHALOCKMEMO1238
百万ポンドの偽の花嫁 A Bride Worth Millions
( Howard Sister 2 ) 2015」
シャンテル・ショー 柴田礼子





 原題は「百万の価値の花嫁」
 ヒロイン:アテナ・ハワード(25歳)/元保育士助手/サファイアブルーの瞳,卵形の顔,頑固な性格を物語るしっかりした顎/
 ヒーロー:ルカ・デ・ロッシ(35歳)/「デ・ロッシ・エンタープライズ」経営者,ファッションデザイナー/琥珀色の虹彩に金色の斑点が散る珍しい瞳/
 「国王の許されぬ愛人(SHALOCKMEMO1155)」で見事な活躍を見せたレクシー・ハワードの妹(養父母の実子)アテナのロマンスです。ヒーローのルカ・デ・ロッシは「デ・ロッシ・エンタープライズ」の経営者で,ファッションデザイナー。婚外子として父親から捨てられ,母親を亡くし,祖父母もいやいや引き取りはしたものの,直系の孫ということで会社の経営を引き継いでいますが,祖母の遺言で,35歳までに結婚しなければデ・ロッシ家の全ての財産を従兄弟に譲らなければならないことになっています。フランス人モデルと契約的結婚をしようとしていましたが,結婚式場から逃げだしたアテナとの行動が大々的に報道されてしまったために契約結婚を諦めざるを得なくなり,仕方なく選んだ選択はアテナとの結婚でした。姉レクシーとは違って小柄で豊満な体型をしたアテナ。MB版の表紙モデルはいささか美しすぎて,アテナの感じはでていませんが,それでもアテナが両親から常に姉レクシーと比べられ自分に自信がないことによる思い過ごしだとすると,ルカが魅力を感じるほどの美しさを秘めた女性なのかもしれません。ギリシア神話のアフロディーテのようだと形容されるととたんに恐怖に囚われてしまうのは,かつて家庭教師から受けた性的暴行を思い出すからです。ルカのような美しい男性が自分を好きになるはずがない,しかも,契約結婚で初めから愛を期待しないようにと念押しされていた二人の関係ですが,傲慢ながらも時に優しさが垣間見えるルカの行動に次第に惹かれてしまうアテナでした。契約結婚ではあるものの一族,特に大叔父には本物の結婚のようにみせなければならないため,パパラッチにわざと二人の甘い関係のように見せようと始終触れあっている間に,男性恐怖症も次第に薄まっていくのですが,いざ寝室に入ってみると恐怖心が戻ってきてしまうアテネに,ルカは自分をじらすためのわざとらしい行動と取り,アテナを非難するのですが,モデル体形ではないアテナに強烈な魅力を感じ,しかも普段女性に話したことのないことまで話してしまう自分に驚いてもいるのでした。ルカにはロザリーという娘がいました。結婚はしなかったものの,かつて愛した女性との間の娘で,退行性の遺伝的病気でベッドを離れるときは車椅子が必要だったのですが,ロザリーもまた病気が表れると母親に捨てられてしまい,ヴィラ・デ・ロッシというコモ湖畔の屋敷での生活が,ロザリーの病気療養にとっては,最も必要な条件なのでした。アテナもまた,インドのジャイプールにある「ハッピースマイル」という施設で捨てられたこどもたちの養育に支援していたのですが,そのためにルカに提示された100万ポンドのお金があれば,施設の改修と維持費としてはまさにうってつけの条件だったのです。100万ポンドを自分の贅沢のために要求されたと思っていたルカは,アテナがちっとも宝石や服を買おうとせず,着飾ることをしないのを不思議に思いますが,何のためにお金が必要なのかを聞くところまではしませんでした。ラスヴェガスでの簡単な式で正式に夫婦になったアテナとルカ。次第にルカはアテナの女性としての魅力に惹かれ,そしてアテナもルカとの関係が深まって本物の結婚にしたいと思うほどルカを愛してしまいます。そこに,姉が嫁いだゼンフルから知らせが届きます。姉の生んだ子どもの心臓に欠陥があることが分かったのです。急ぎ砂漠の国に向かうルカとアテナ。幸いファイサルと名づけられた息子の病は軽いもので大事はなかったのですが,アテナを愛し始めたルカには,娘ロザリーに遺伝した病気の遺伝子があり,アテナが望む自分の子供たちを与えられないことが分かっていました。いずれアテナの希望に添う健康的な男性と再婚することを願って,自分の事業を整理して遺産を断り,契約を打ち切ることを決意したルカ。傷心の内にアテナはその夜の内にルカの元を去ってしまうのでした。そしてインドの「ハッピースマイル」に直行したアテナの元を,数日後にルカが訪れます。さぁ,二人の関係は復活するのでしょうか。今度はルカはどんな提案をアテナにするのでしょうか。
 前作のヒロインで姉レクシーとは正反対の要望と性格を持つアテナもまた魅力的なヒロインです。どちらも両親や祖父母から認められなかった過去を持つ二人が運命的な出会いをして愛を手に入れるまでのロマンスらしいストーリー展開で,一気読み間違いなしの秀作です。


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伯爵と壁の花 [ジャニス・プレストン]

SHALOCKMEMO1237
伯爵と壁の花 From Wallflower to Countess 2015」
ジャニス・プレストン 高山 恵





 原題は「壁の花から伯爵夫人へ」
 ヒロイン:フェリシティ・ジョイ・プレストン(25歳)/伯爵家令嬢/卵形の顔は繊細というには少し長すぎ,顎は頑固そう,鼻筋は通っているが,優美とは言いがたい,褐色の髪,瞳は際立つ琥珀色/
 ヒーロー:リチャード・デュラント(32歳)/スタントン伯爵/チョコレート色の瞳,朗々としたバリトンの声,勇敢な騎乗と正確な手綱さばき,フェンシングの名手,銃の腕前も一級のスポーツマン/
 1810年8月から始まり1816年7月に終わる6年間の物語です。後見人であるチェリトン公爵レオ・ビーチャムの友人スタントン伯爵リチャード・デュラントは社交界のあらゆる母親から娘の相手にと望まれている最高の独身男性。しかし当分結婚する気はなかったのですが,「良家のおとなしい女性で屋敷を心地よく整え,子どもを育てることに何の不足も覚えない女性」であれば,と都合のいいことを考えています。現在の愛人のハリエットとの関係も諦めたくはありませんでした。一方,社交界では目立たない存在で,母や姉が注目を惹くだけの美貌をもっているのに対して,常に壁の花としてすでに社交界で6年。最近はパーティにもあまり顔を出さない伯爵家の令嬢フェリシティです。それでもなんとか結婚と子どもが欲しいという望みを捨てきれず,母の再婚相手が自分を見る目つきに怖れを感じて,ついに母に結婚相手を捜して欲しいと頼むのでした。この2人をマッチングさせたのが公爵レオ。話はとんとん拍子に進み二人の結婚はフェリシティの家では歓迎されてしまいますが,フェリシティは亡くなった姉のエマにシスターコンプレックスをもっていました。美貌の姉と比べて自分に自信がなかったのですが。その上,母親は常に亡くなった姉と自分を比較し,フェリシティを蔑むような発言を平気で周りの人がいるときにもしてしまうのです。結婚後そのことに気付いたリチャードは,このことに腹を立てるようになります。確かに眼を引くような美人ではないフェリシティですが,孤児院に多大な支援をし,孤児たちが学んで社会に出られるよう働きかけをしていることに,彼女の優しさと意志の強さを見抜いていました。フェリシティの義父は彼女の財産こんなことのために使われていると,彼女の行動を非難しています。リチャードはそのことにも腹を立てていきます。次第にフェリシティに魅力を感じ,惹かれていくリチャード。そしてフェリシティは夜の生活では驚くほど積極的にリチャードにすがっていくのですが,昼は他人の目を異常に気遣い,リチャードに触れるのを最低限にしようとするのです。この昼と夜のギャップの原因を不思議に思い始めたリチャード。その背景には,姉エマの死があったのでした。男性に捨てられて自ら命を絶ったと思われているエマ。いずれ自分もリチャードに捨てられてしまうという恐怖がフェリシティの心の奥にあったのです。また,リチャードも兄アダムの死によって,父が絶望のあまり自ら命を絶ち,それ以降母も自分を疎んじてきたと思い,母との折り合いが悪いまま10数年も経っていたのでした。ところが母とフェリシティはいつの間にか互いを気遣い寄り添うようになって行きます。自分の母に見捨てられたフェリシティにとってはリチャードの母には気を許すことが出来たのでした。そんな複雑でよじれた家族関係の中で二人の結婚生活は続いていきます。互いに心を寄せ合いながらも「愛」という言葉を発することなく・・・。そして不思議な人間関係はさらに複雑化していきます。なんとリチャードの愛人とフェリシティが仲良くなってしまい,相手を信頼したフェリシティは,夫の愛人だとも知らずに姉の秘密すら告白してしまうのでした。ところがある日偶然夫と彼女が手を握り合っているのを目撃し,最近の夫がフェリシティに触れたがらないわけが分かってしまったのです。全てのプライドを賭けて,フェリシティは平然としていようとします。しかしついに夫に感情をぶつけてしまったとき・・・。
 家族によって心を傷つけられた二人が,互いのために為したことで次第に過去を乗り越え,遂に愛を見つけて行くまでの軌跡を描いた作品です。時間経過を克明に描いてしまったためにちょっと大河小説的な説明口調な趣になってしまい,深いところでの感動を呼ぶまでにはいきませんが,なかなかの秀作だと思います。


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白いページ [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1236
白いページ Forgotten Lover 1982」
キャロル・モーティマー みずきみずこ




K-399
16.05/¥670/156p

R-0326
84.06/¥500/156p


 原題は「忘れられた恋人」
 ヒロイン:ベルベット・デイル(22歳)/トップモデル/ストロベリー・ブロンドの髪,すらりとした長身/結婚前後の11カ月間の記憶を喪失している/1歳半の息子トニーの母/
 ヒーロー:ジェラード・ダニエルズ(39歳)/スタイル服飾社オーナー/180センチ以上,黒に近い髪の色,深いブルーの瞳,真っ直ぐに通った鼻筋,引き締まった顎,力強い広い肩,細いウエストと腰/8歳の娘ビッキの父/
 これも,記憶喪失ものでした。トップモデルのベルベットは撮影のためマイアミにやってきていました。撮影が始まるそうそう,写真を依頼した会社のオーナーとの食事会があるというのでホテルに戻ると,「ベルベット」と声を掛けられます。そして全く覚えのないハンサムな男性,ジェラードが自分とかつて恋人同士だったというのです。そして自分を置き去りにしてさっさと他の男性と結婚してしまい,一人息子までいることを知っているのでした。しかしジェラードとの関係は勿論その存在すら記憶にはないのです。自分を非難するジェラードに無頼バシーだとは思いながらも,結局は記憶がないことを話すのですが,ジェラードは信じてくれません。翌日ジェラードの娘ビッキとベルベットは水族館で偶然出逢います。そしてビッキはすぐにベルベットに懐いてしまうのでした。自分に対する冷たい態度とは全く正反対に娘には笑顔を向けるジェラード。しかし撮影が終わればもう二度と会うことはないだろうと,数日間は我慢することにしたベルベットですが・・・。
 そこからはストーリーテラー,キャロル・モーティマーの独壇場です。つぎつぎにジェラードとの関係がビッキを挟んで深まっていく様子が描かれていきます。そして撮影終了後イギリスに帰国したベルベットが家に戻ってみるとなんとジェラードがそこにいるではありませんか。そして息子のトニーに会ってみたいというのです。トニーもまた,ジェラードにすぐに懐いてしまいます。子供たちのためにという便宜的な理由でプロポーズするジェラード。彼を愛してしまったベルベットはその言葉に反発しますが,離れて暮らすことに比べればそのうち彼も自分を愛してくれるかもしれないと結婚を承諾するのですが・・・。ジェラードの母からも気に入られ,またベルベットの兄夫婦もジェラードを気に入り,ととんとん拍子に話が進んでいくのですが,結婚式当日までジェラードの本当の気持ちに気付かないまま二人は夫婦になります。しかしその晩二人は口論になってしまうのでした。互いの家族を巻き込んでのこのロマンスは,一体どこに行き着くのか?そんな興味も最後の最後まで作者の思惑にすっかり乗せられてしまう,相変わらず筋達者なモーティマー作品です。ベルベットの記憶は戻るのか?・・・。
 [Forgotten Lover]を「白いページ」と記憶喪失を匂わす邦題にしたことに拍手です。


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