鷹王と純潔の踊り子 [アンディ・ブロック]
SHALOCKMEMO1298
「鷹王と純潔の踊り子 The Sheikh's Wedding Contract
( 大富豪と結婚の条件 4 ) 2015」
アンディ・ブロック 東 みなみ
原題は「シークの結婚の契約」
ヒロイン:ナディア・アイーシャ・アマニ(歳)/ハリス国王女/豊かな黒い巻き毛,薄紫色の目,非の打ち所のない美貌/
ヒーロー:ザイード・オマル・ジャマル・アル・アフザル(歳)/ガズビア国王/鷹を見ればザイードがどこにいるかが分かると言われる/
シリーズ第4弾で,アンディ・ブロックの初邦訳本です。2014年にデビュー作「The Last Heir of Monterrato」を上梓し,以降中編は「Wedlocked」「One Night with Consequences」などのシリーズものを書いています。短編も多く,ハーレクインシリーズで其のうち翻訳されることと思います。さて本作ですが,コロンビア・フォーの面々のうちすでに3人が伴侶を見つけ残る一人がザイードです。母の死の縁での爆弾発言により自由な事業家としての暮らしから一転してガズビアの王権を継がなければならなくなったザイードの元にやって来たのは隣国ハリスの王女ナディア。王位を失った兄の出奔によって戦争ぎりぎりの状態になっていたガズビアとハリスの関係修復の秘策を胸に大胆果敢に踊り子の服装でザイードの王宮に忍び込み,結婚を承諾させてしまった行動力と信念と美貌の持ち主ナディア。本作はまさにこのナディアの冒険と愛と成長の物語です。
「(ナディア)は本当に謎めいている。必要なら虎のように怒りっぽく危険な存在にもなるし,思いどおりにならないときには反抗的に,いかにも王女らしくふるまう。だがこれまで知り合った誰よりも勇敢で,広い心を持ち,思いやりに満ちている。」これが,王女としての育ちの気高さと幼少から女性ゆえに虐げられてきたナディアがザイードとの結婚によって得た新たな人生を現す姿だと思います。ザイードとナディアの結婚式ではコロンビア・フォーの他の3人とその伴侶たちが集まり,結局コロンビア・エイトというか,女子フォーもみなそれぞれの美貌と知性をきらめかせ団結力を高めるシーンがありますが,世界に対するそれぞれの影響力を駆使したらどんな団体も敵わないほどの大きな影響力をもたらすでしょう。しかもそれぞれが若く,才能に満ちあふれしかも財力を持ち・・・。まさにロマンス小説でなければ見られないゴージャスなシーンです。そして4組の男女がみな愛にあふれた関係を築き,家族と友情を大切にしているのですから,理想の世界ですね。
さて,ザイードが兄アジードと再会する砂漠の夕食の場面で酒を飲むシーンがありますが,たしか戒律では制限されていたような。しかし兄弟間での和解の席であればこれも許されているのかもしれません。または戒律にあまり厳しい国柄ではないのでしょうか。アジードとザイードの和解はとてもうまくいき,ハリス国に向かうザイードとナディア。いよいよナディアの兄との対決ですが,ナディアをみそくそに貶めるナディアの兄イムランにはっきりと,しかも理性的に道理を説き,必要であれば脅しもするザイードの振る舞いをわきで見ているナディアは自分の夫に対する信頼と頼もしさに惚れ直すのでした。会談を終えて帰国した二人は,これで互いの目的を達したことで,ザイードはナディアを自由にすると言い,ナディアもまたガズビヤを去るときが来たと覚悟しているのですが,ここでナディアに異変が起こります。そう,砂漠での一夜の関係でナディアが身ごもったのです。自分一人で子供を育てることを覚悟したナディアですが,ザイードの態度は・・・。
シリーズ最終巻らしく,そしてエピローグは2016年晩春と時期が示され,再びコロンビア・フォーが集まります。さらに後日談として「秘密のエピソード」という章があり,前作で登場したヒロイン,クリオとステファンのことが書かれているのですが,斜麓駈はこの作品を読了していないので,あれっという感じでした。タラ・パミーが描いた前作にこんなふうに注記的に他の作家が付け足しすることはかなり異例なことなのでしょうが,あるいは編集部の考えかもしれません。若い作家たちの描いた本シリーズ,それぞれの作家たちの次の作品に期待です。
ためらいの花嫁 [アンナ・クリアリー]
SHALOCKMEMO1297
「ためらいの花嫁 Wedding Night with a Stranger
( Conveniently Wedded and Bedded 2 ) 2010」
アンナ・クリアリー 松島なお子
原題は「他人との初夜」
ヒロイン:アリアドネ・サラ・クリスティアーナ・ジョルジアス(24歳)/両親を亡くしおじおばに育てられた娘/貝殻のように美しい曲線を描いた耳,ほっそりした首,バイオリンのようになめらかで繊細な曲線を描く体/
ヒーロー:セバスチャン・ニコスト(33-34歳)/人工衛星設計会社「セレストリアル」社長/190センチはありそうな長身/
ギリシア系美女とオーストラリアの富豪との便宜的結婚とロマンス。この作品の場合,便宜的というより,契約的といったほうが良いかもしれませんね。7歳で両親を亡くし,ギリシアの造船業者のおじおばに育てられたアリアドネ。両親からの遺産は結婚するか,25歳にならないと受け取れないことになっています。婚約者との結婚式当日,どうしても踏ん切りがつかずに逃げだしてしまうというスキャンダルを起こしてしまい,おじから強く非難されました。一族の名誉も会社の信頼も傷つけたとして・・・。オーストラリアでの休暇を提案されたのは体よくギリシアから追い出された格好でしたが,まさかその背景にスキャンダルにまみれた自分を結婚させようと,おじが自分を会社の契約の見返りとして,取引相手に姪を差し出す暴挙に出たとは知らなかったのです。その企みを知ったアリアドネは(名前が長いね,アリーとかドネとか愛称がなかったのでしょうかね)出会った相手セバスチャンに結婚するつもりはないとはっきりと告げたのでした。一方のセバスチャンは,会社の出資者としてジョルジアス家との取引がうまくいけばかなり長い期間経営が順調にいくことが分かり,かなり無理な条件でしたがあとは契約書へのサインが残るばかりでした。とりあえずアリアドネに会ってから・・・。しかしセバスチャンもまた3年前に妻をガンで亡くし,結婚によってまた愛する人に去られてしまうことは避けたいと考えていました。富豪の姪で我が儘に育ったお嬢様と思っていたアリアドネに結婚を断られたセバスチャンは意外に思い,改めてアリアドネの魅力に気付きます。会社間の契約,そして遺産の受け取りと両者が互いに利用できることが分かり,二人は早急に結婚式を挙げるのでした。そして,式の夜。アリアドネは始めて女性としての喜びを感じます。セバスチャンもまた妻を亡くしてから始めて一人の女性に夢中になっている自分に気付きました。もう,この時点で二人は名目的な結婚というより互いに離れていられないほどの愛を感じていたのですが,やがてアリアドネの遺産もおり,契約書へのサインも終わり,アリアドネはセバスチャンが出勤した後,荷物を持って充実した時を過ごしたセバスチャンの家を後にしたのでした。その後両親の過ごしたオーストラリア中をバックパッカーとして回り,母方の大伯母の元を訪れたとき,そこにセバスチャンの姿を見るのでした。
両親を亡くしたとはいえ,富裕な家で大切に育てられたヒロインと,妻を亡くして仕事に明け暮れていたヒーローとの特別な状況での出会いという設定で,ロマンスとしてはありがちな設定だと思いますが,表紙イメージにあるようにギリシア神話に登場する女神の名前を持つアリアドネのすっきりした上品無垢さが光る作品です。
脅されたプリンセス [ケイトリン・クルーズ]
SHALOCKMEMO1296
「脅されたプリンセス The Reluctant Queen
(サマー・シズラー 2012 真夏の恋の物語) 2011」
ケイトリン・クルーズ 霜月 桂
原題は「いやいやながらの女王」
ヒロイン:レイラ・キャノン(28歳)/アラクル国王女/女王/黒い巻き毛,豊かなバスト,長い脚としなやかなヒップ,ピンクのペディキュア,グレーとシルバーブルーの瞳/
ヒーロー:アーデル・クァデリ(?歳)/アラクル国親衛隊員/国王/戦士のようにがっしりとした長身の体,漆黒の髪,深いグレーの目,固く結ばれた唇,筋肉質のたくましい胸,力強い脚/
デンバーに住んでいたレイラをスーパーマーケットの駐車場で待ち伏せしていたのは,国王の親衛隊員でレイラの許婿アーデルだった。父国王の訃報とともに,アラクルへの帰還,そしてアーデルとの結婚の約束を実行させるためだった。ユーラシア大陸の旧ソビエト領の山々に囲まれた小さな国アラクル,父王が亡くなったことにより,一人娘のレイラが女王位を継ぐことになるのでした。16歳で専制君主だった父の元を母とともに逃れ,アメリカ国内を転々としながらデンバーに落ち着いて成長してきたレイラもすでに出奔から12年たち,少女から28歳の美しい女性へと変身を遂げていました。普段はグレーですが時にシルバーブルーに色の変わる瞳をもつ長身の美女,まさに女王にふさわしい体躯と美貌をもつレイラ。ここでアーデルから逃れても,母が出国の際に持ち出した90万ドルと宝石類の返還を求められ,レイラが戻らなければ内乱が起こり多くの国民が犠牲になるかもしれないと言われては断る選択肢はありませんでした。しかし首都近郊の空港に着いてみると,国民からの大歓迎,そして父の葬儀の主催と次々に女王への階段を上らざるを得なくなっていくレイラ。そして週末に控えたレイラとアーデルの伝統的結婚式。父と同じように自分を支配しようとするのか,本当に自分と結婚したいのかというアーデルへの思いの狭間で揺れ動くレイラに,かつて母が言っていた言葉が次々に蘇ります。ついに結婚式当日,司祭の「あなたの自由意志できましたか」という問いに「はい。私は自分の意志できました。」と答えるレイラ。結婚によって国王となったアーデルには,なにかレイラに言っていないことがありそうです。
順調に女王と国王として過ごし,やがて夏が去り季節が秋に入った頃,レイラは自信の妊娠に気付きます。と同時に,アーデルが欲しいのは,アザト国王の娘とアラクルの王位であり,相手が自分である必要は無かったということに気づきます。「彼にとって私は駒に過ぎない。戦略の一つ」我が子を再び自分の両親のように憎しみ合う両親の元で過ごさせてはならないと,国を出ようとするのでした。しかしジェットは予定されていたアメリカには到着せず,北欧の小国のホテルに泊まることになり,スイートで待っていたのはアーデルでした。さあ,アーデルはなんと言ってレイラの不信感を振り払い,本当の愛を告げるのでしょうか。
まさにおとぎ話の世界。わくわくしながら読み進められる小篇です。