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ひと月だけの恋人 [サブリナ・フィリップス]

SHALOCKMEMO1355
ひと月だけの恋人 Valenti's One-Month Mistress 2009」
サブリナ・フィリップス 柿沼摩耶





 原題は「ヴァレンティのひと月の愛人」
 ヒロイン:フェイ・マトソン(25歳)/デザイナー,レストラン経営/蜂蜜のような髪,美しい脚,緑色の瞳/
 ヒーロー:ダンテ・バレンティ(?歳)/レストラン・チェーン「バレンティ・エンタープライズ」オーナー/身長190センチ超,広い肩,筋肉質な体,高い鼻梁,突き出した顎,オニキス色の瞳/
 ひと月だけの契約愛人,本来はレストランの経営困難に陥ったヒロインがヒーローに資金繰りを依頼しに行き,そのまま愛人化されてしまう,しかもひと月の契約でというお話しです。永遠に愛人にして欲しくなってしまうヒロインですが,自分を軽く見ているヒーローに反抗してひと月だけであればなんとか我慢するという態度を示したために,逆にヒーローがヒロインから離れがたくなる,という展開です。
 父親の跡を継ぎ,レストラン「マトソンズ」を経営し始めたフェイは,ある日自分の店にやってきた男性の姿に驚きます。6年前,両親の経営していたレストランでウエイトレスをしていた時,メニューのデザインに目をとめた男性がいました。デザイナーの勉強をしていたフェイは店のデザインを手がけたところだったのですが,そのデザインに目をとめたのはレストランチェーンを経営するダンテでした。カリスマ性を持っているダンテに無垢なフェイはたちまちのぼせ上がってしまいます。ダンテが経営する「イル・マイヤ(「成長の女神」という意味)」という五つ星ホテル内のレストラン「ペルフェッツィオーネ」。そのきらびやかなホスピタリティと,ダンテの魅力その両方に心を奪われてしまいます。身も心も捧げたのち,フェイはイタリアを離れアメリカに渡ってしまいます。裏切られたという思いを引きずってきたダンテ。イギリスの母親からフェイが男性とともにアメリカに渡ったことを聞かされたからです。フェイの相手は同性愛者の男性だということはダンテは知りませんでした。そして父親の死によりイギリスに帰ってきて「マトソンズ」の経営を手がけていたフェイですが,時代とともに客足が伸びなくなってきて,設備投資をしないとこのままでは経営不振に陥ることになってしまいます。提案書を持って銀行を回り融資を頼んで回りますが,どこもOKを出してくれません。万策尽きたフェイはダンテがイギリスにやってくるということを報道で知り,思い切って会いに出かけていくのでした。フェイが自分を裏切ったとダンテが思い込んでいる様子。話し合いの結果出された驚きのダンテの条件。一カ月間彼の経営するホテルで働くこと。ホテルでの修行を完了したら店に融資しようということでした。これはダンテの復讐か?それとも自分に対する未練か?少なくともダンテに対する反応は6年前と変わっていないことに困惑するフェイ。ダンテのいうとおり,厨房でのいイモの皮むきからスタートしたフェイですが,飛び級的に部署が変わり,結局ダンテとの深い関係が復活してしまいます。謂わば愛人化してしまうのでした。トスカーナの別荘地でのダンテとの二人だけの生活。そして,ダンテの妹エレーナが登場します。フェイはエレーナとはすぐに旧知の仲になりますが,ダンテがフェイを心の底からは信用していないことを言葉の端端から感じられます。とにかくひと月我慢すれば,また「マトソンズ」に帰れる。その思いが次第にダンテとの別離を意味することに引き裂かれる思いを感じて戸惑うフェイ。すでにダンテを愛してしまっていることにフェイは傷つきます。「感情のままに行動した結果(中略)大きな借金を背負って」しまったことに気付き,「まるでダンテが彼女の内臓の位置まで変えて,いくら配置し直しても元の自分に戻ることができないかのように」感じたフェイは,涙を流すのでした。そして,ひと月の終了を待たずに,フェイの妊娠が明らかになり,ダンテの元を去ります。一方ダンテは,かつてフェイがともにアメリカに渡った男性クリスがフェイの友人に過ぎなかったことを知り,フェイを去らせたことを初めて後悔します。再び「マトソンズ」を訪れたダンテ。すでにダンテの出資により「マトソンズ」の改修も順調に進み,銀行も改めて融資を認めてきたことから,ダンテに返済のめども立ち始めます。そんな時,フェイは突然腹痛を訴え,出血してしまいます。病院に連れてきてくれたダンテにフェイは「赤ちゃんがいなくなってしまった。あなたはもう自由よ」と自分の気持ちとは裏腹なことを言うしかないフェイ。「自分が本当に愛する男性がダンテだということをフェイは今ほど強く感じたことはなかった。苦しんでいるとき,彼にそばにいて欲しいと思うからだ。ずっと一人で生きてきたのだから誰も必要ないと思っていたが,彼女にはダンテが必要だった。」とダンテへの愛を自分に認めざるを得なくなるフェイでした。ダンテはこのフェイの気持ちに応えられるのでしょうか・・・。
 ちょっと気付いたミスプリント。KINDLE位置ナンバー5049の「道徳規準」が位置ナンバー5050では「道徳基準」になっていました。前後の文脈からは「道徳規準」が正しいのでしょうね。


タグ:ロマンス
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愛と掟のはざまで [ペニー・ジョーダン]

SHALOCKMEMO1354
愛と掟のはざまで A Bride for His Majesty's Pleasure 2009」
ペニー・ジョーダン 橋 由美





 原題は「陛下の喜びの花嫁」
 ヒロイン:アイオナンス(27歳)/エコノミスト/暗い色の髪,古風な顔立ち,ほっそりした喉/
 ヒーロー:マックス(34歳)/フォーテネグロの皇太子/長身,肩幅が広く,豊かな黒髪,彫りの深い顔立ち,灰色がかったブルーの目/
 久方ぶり,半年ぶりのペニー・ジョーダン作品です。
 「黒い崖」という意味の地中海の島国フォーテネグロ。彼の皇太子コスモが遊興の末亡くなってしまい,その従兄弟のマックスは,国民のため,また皇位継承のため,皇太子(皇太孫)位を継ぎ,勧められるままに結婚しますが,相手に裏切られ,恥をかかせられたら相手に復讐することが国民性という廷臣たちの勧めるままにその妹アイオナンスと再婚することに承諾せざるを得なくなります。国際的慈善団体「ヴェリタス・ファンデーション」に力を貸すエコノミストとしてベルギーで働いていたアイオナンスは,姉が犯した不倫の罪を償うための人身御供としてマックスとの結婚を承諾するのですが,故郷フォーテネグロの国民生活の向上に資することができるチャンスだと割り切って結婚を決意するのでした。伝統的な掟が色濃く残っているフォーテネグロ。そして皇太子マックスが国のことを考えずに遊びほうけていた前皇太子の従兄弟と同じ血を引いていると考え,事務的に皇位継承者である息子を産みその息子の代新しい国づくりの基礎ができるのだと決意したのでした。一方マックスも表面的な美しさや楽しさのみを思い求めていた前妻の妹も同じような人物であろうと想像していたのですが,見かけは普通の女性,しかも言いたいことをずばずばというアイオナンスを逆に興味深く見ている自分に戸惑います。2週間での結婚式,さらに披露パーティや国民の前へ進んで出ようとするアイオナンスを信頼し始めます。しかし,前妻に煮え湯を飲まされた経験からして,アイオナンスの行動が計画的に自分を騙そうとしているのではという疑いを払拭しきれません。アイオナンスは国際的慈善団体の代表者を尊敬していましたが,その団体がマックスの亡き父が創設し,マックスが跡を継いでいることは秘密にされていたために知らないでいたのですが,アイオナンスが気持ちを告白したとき,すぐには自分が代表者であることは言い出せませんでした。このことがのちに二人の間の亀裂を大きくします。現国王のマックスの祖父,そしてアイオナンスと姉エロイーズもまたすでに両親を亡くし,独善的で権威主義の祖父の元で育ちますが,常に美貌と愛らしさで知られるエロイーズの影に隠れるように過ごさざるを得なかった自分が,皇太子妃という表舞台に登場することになろうとは想像もしていませんでした。マックスの表に出ない優しさに触れ,ほとんど男性との関係を知らなかったため,ちょっとマックスに触れられただけで意識してしまう自分を戒めつつ,なんとか息子を授かるためにはとハネムーンの夜は大胆になろうとするのですが・・・。マックスの心の中にはエロイーズが生きているのではと思うアイオナンスですが,実際はマックスとエロイーズの間には愛にあふれた心の交流は存在していなかったのです。そのことをマックスがアイオナンスに告げたのは二人がアイオナンスの育った自分の領地である山上の城に二人が到着し,雪で帰途につけなくなったときでした。本当はマックスとの関係を考え直すために一人で領地に行こうとしたのですが,マックスが出かける予定だった出張が相手の都合でキャンセルされたため,マックスがアイオナンスを送るという名目で二人で出かけることになってしまったのでした。領地の人たちに暖かく迎えられたアイオナンスとマックス。エロイーズとアイオナンスを育てたといっても良い家政婦の言葉,「エロイーズは愛らしいだけの子だったが,アイオナンスはしっかりして心根の優しい子だった」と聴いたことにより,マックスのアイオナンスに対する疑念はすっかり晴れていくのでした。そして打ち明けた慈善団体の代表者であること。教育や産業などを国民のために改善していきたいという思いは,しかし,アイオナンスにとっては,代表者だと言うことを打ち明けてくれなかったマックスに対する落胆に変わってしまうのでした。さて,マックスの謝罪はアイオナンスの心に届くのでしょうか。
 大御所ペニー・ジョーダンらしい大きなスケールのロイヤル・ロマンスです。17-18世紀からちっとも進歩していないフォーテネグロに降り立った21世紀の皇太子夫妻が,国の近代化の基礎をしっかりと築いていけるのかというヒストリカル的要素ふんだんなストーリー。マクロとミクロの両方の視点が156ページにしっかり詰め込まれた秀作です。


タグ:ロマンス
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悲しいすれ違い [サブリナ・フィリップス]

SHALOCKMEMO1353
悲しいすれ違い Greek Tycoon, Wayward Wife
( Self-Made Millionaires 2 ) 2010」
サブリナ・フィリップス 霜月 桂





 原題は「ギリシア人富豪と強情な妻」
 ヒロイン:リバティ(リビー)・デリカリス(旧姓:アッシュワース)(?歳)/旅行会社「ケイト・エスケープ」ツァー・コンダクター,ライアンの妻,貴族の令嬢/豊かなブロンドの髪,繊細な顔立ち,小麦色のきめ細かな白い肌/
 ヒーロー:オライアン(ライアン)・デリカリス(?歳)/レジャー会社経営/力強い顎,つややかな黒っぽい髪,澄んだブラウンの目/
 結婚してから5年。結婚数週間で一日18時間も働くようになった夫との結婚生活に満足できずに家を出たリビーは,5年後に離婚申立書を手に夫の会社を訪れます。邦題のとおり,二人の間の溝がなかなか埋められないのは互いの本当の気持ちがずっとすれ違っていたためだということを最後まで引きずっていくストーリー展開です。なんともはやこんなにもすれ違うのか,そしてすれ違いの原因は?ということを作者は手を変え品を変え披露して見せます。いや読ませます。すれ違いの手の内が読者に明かされるためますますイライラ感がつのり,同時に哀れみを感じさせ,「悲しい」という言葉どおりになっていく展開に,読後,してやられた感が逆に爽やかさをも感じさせる見事な作品です。
 2010年版のHQロマンスの更新の段階で,作者の作品を整理してみて,本作と「ひと月だけの恋人」の2作を購入しました。「プリンスの秘密(SHALOCKMEMO567)」では,地中海の島国モンテズを舞台にした作者ですが,本作はギリシアが舞台。ツァー・コンダクターをしているリビーは,夫に離婚申立書にサインをもらい,この5年間宙ぶらりんだった二人の関係に終止符を打とうとアテネを訪れます。「遂に自分のもとに帰ってきたか」と期待を膨らませるライアン。この1年女性と触れあう機会もなく鬱々としていたライアンは今,会社の経営だけではなく,古里のメタメイコスの市長の座を賭けて選挙運動を開始したところだったのです。市民に受け入れられるためには身持ちの堅さや幸せな結婚生活を送っているというイメージづくりが何よりも求められていると選挙参謀から忠告を受けたばかりでした。そんなこととはつゆ知らないリビーはまさに「飛んで火に入る」状態だったわけです。「とりあえず2週間だけ一緒にメタメコスに行ってくれれば書類にサインしよう」というライアンの言葉に,まだ二人がやり直せる機会があるかもしれないと密かな期待をしたリビーですが,彼の地で出かけたパーティで,初めて夫が選挙の候補者であることを知ります。「あぁ,また,私は利用されただけだった。5年前と同じ過ちを繰り返している」とがっかりするリビーですが,二人の間の相性は抜群で異性として惹かれ合う関係は5年前と同じです。とりあえず2週間を過ごし,きっぱり別れよう,という気持ちのリビー。リビーはかつて父親から何から何まで指示されたとおりに生きるしか道がなかったため,なんとか自立して名前どおり「リバティ(自由)」に生きたいと願っていました。結婚によってその道が開けると期待したリビーに,君は働く必要がないと,また家に縛り付けられる生活,しかも夫は忙しくて話しをする暇すらないという状態に耐えきれずに家を飛びだしたのでした。一方ライアンは貧しく育ち,ドアマンから上り詰めてリビーの父親に昇進させてもらい,ある程度の地位に立ったときにリビーにプロポーズしたのですが,リビーの父親に冷たく一蹴されてしまい,身分の違いを嫌というほど思い知ったのでした。その後二人は駆け落ちしてアテネに落ち着いたのですが,リビーが自分の元を去ったのはやはり身分の違いのせいだと思い込んでいたのです。かつて双子の弟を貧しさゆえに治療を受けさせてもらえず肺炎で亡くしたライアンは,富豪となり,故郷に錦を飾って市民のための病院をつくるなど市民生活の改善に邁進しようと決意して選挙に立候補したのでした。自分にかまってもらえないのは自分に魅力が内政だと思い込んでいたリビーもまた,ライアンの過去を聞き,今自分がライアンを支えなければと理解ある妻の振りをするのですが,それでもライアンには喜んでもらえず,関係を深めることができませんでした。そして選挙前日,明日が終われば二人の謂わば契約的なこの生活も終わりだという気持ちからか二人は深い関係を結びますが,リビーが避妊薬を服用していることに驚いたライアンは,二人の関係が元に戻って2世誕生を期待したのは間違いだったとリビーを責めます。ライアンが子供を欲しがっていることにすら驚くリビー。でもやはり二人の間には深い溝があると別れを決意します。翌朝離婚申立書にサインしたライアンに別れを告げて,タクシーを呼んだリビーですが・・・。
 最後の最後まで二人は本当に別れる,ロマンス作品には珍しい悲話かと思ってしまうほど劇的な最後の一節でした。これが作者にしてやられたと思わせられる本作の幕切れです。


タグ:ロマンス
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イタリア大富豪と小さな命 [レベッカ・ウィンターズ]

SHALOCKMEMO1352
イタリア大富豪と小さな命 The Billionaire's Baby Swap
(モンタナーリ家の結婚 1) 2016」
レベッカ・ウィンターズ 大谷真理子





 原題は「億万長者の取り違えられた赤ちゃん」
 ヒロイン:ヴァレンティーナ・モンタナーリ(23歳)/工学部大学院生いわゆる理系女でシングルマザー/金髪,ブルーの目/
 ヒーロー:ジョヴァンニ・ラウリート(32歳)/医療機器メーカーのCEO/黒い目,黒髪でV字の生え際/
 モンタナーリ家の3兄妹のシリーズの第1巻です。これは3作のシリーズになるのでしょうか。次作の「The Billionaire Who Saw Her Beauty」は原作がすでに書かれており兄妹の長兄リニエーリ(32歳)がヒーローとなっているようですが,次兄のカルロ(30歳)がヒーローとなる第3作目はまだ原作が書かれていないようです。ともかく第1作の本作は長女で兄妹の末っ子ヴァレンティーナがヒロインとなります。舞台は風光明媚なイタリアのカンパニア州サレルノ県アマルフィ。ナポリに近いリゾート地です。アマルフィという都市は「帰れソレントへ」で有名なソレントから東へ20キロ弱,州都ナポリから南東へ40キロ弱という位置関係にあるようですイタリア半島の名が靴の形の丁度弁慶の泣き所の辺りに位置する部分で,人生一度はいってみたいところでしょうね。作中にもクラシックの曲やオペラの歌い手たちの名前が何人か出てきます。音楽好きな人には容易に雰囲気が想像ができる名前が頻出するため,斜麓駈にとってもこの部分はすごく好きなところです。ルチアーノ・パヴァロッティ(1935-2007)はもちろん,ナポリ出身のエンリコ・カルーソー(1873-1921),盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリ(1958-),マリオ・ランツァ(1921-1959/USA=映画「歌劇王カルーソ」)などの歌手の名前が出てくるとともに,エドゥアルド・グリーグ(1843-1907/NOR)のピアノ・コンチェルトや「トロルドハウゲンの婚礼の日(抒情小曲集第8集第6曲)」などの曲名が登場します。ヒロイン,ヴァレンティーナな妊娠中にこのグリーグのピアノコンチェルトをよく聴いたというのですが,あんな重々しく悲しげな曲を聴いて果たして胎教に良いかと言われると首をかしげざるをえませんが,まあそれも好き好きかもしれません。日本だったら普通はモーツァルトやシューベルトなどの軽めのものが好まれるのでしょうが・・・。
 さて,ストーリーですが,産気づいて病院に向かうヴァレンティーナと兄のリニエーリの車に,そして同じ頃同じように産気づいて病院に向かうジョヴァンニの別れた妻タターニア・コルレートの救急車が出会い頭の事故。そして二人の男の子が産まれます。ところが病院で赤ちゃんの足に付けるネームを取り違えてしまいます。退院後ヴァレンティーナ自分の子供が自分だけでなく,両親にも似ていないことに気付いてしまいます。念のためとDNA検査を要請するヴァレンティーナたちモンタナーリ家。そして同日に生まれたもう一人の赤ちゃんと取り違えた可能性が発覚します。ジョヴァンニは出張中に電話で呼び出され,病院での説明を受け,血液検査を受けますが,やはり自分の子供だったと思っていた赤ん坊が取り違えられていたことが分かるのでした。しかし,互いに赤ん坊を交換したところが双方の赤ん坊とも激しく泣き叫びます。声が聞こえたジョヴァンニが赤ん坊を抱いたまま廊下に出てみると,やはり赤ん坊を抱えたヴァレンティーナとばったり。交換してみると赤ん坊たちはすっかりおとなしくなってしまいます。生まれてからの2週間半の間互いの子供たちはすっかり刷り込みができてしまい,産みの親よりも育ての親の方に馴染んでしまっていたのでした。病院を訴えようかと祖父母たちが騒いでいるのに対して,ヴァレンティーナはそれは子供のためにはならないという考えをジョヴァンニに話し,ジョヴァンニも同意見でした。ヴァレンティーナは大学の先生であるマッテオに騙されて妊娠してしまい,母親からも恥だと言われ,兄たちの支えを頼りにしています。ジョヴァンニもまた,元妻のタターニアが仕事中毒のジョヴァンニに離婚を突きつけ,別れた跡に妊娠に気付いたため,子供の顔も見たくないという元妻の言葉に傷ついています。しかし二人とも子供たちをこよなく愛する気持ちは強く,なんとか子供たちがそれぞれの本来の親の元にうまくなじめるように数日間一緒に過ごしてみようと言うことになるのでした。そしてそれぞれが,これまで出会ったことのない異性への興味を感じてしまうのです。赤ん坊取り違えという社会的問題を扱うのかと思いきや,親同士のロマンスに発展するという意外な展開が続いていきます。出産したばかりのヴァレンティーナはもちろんジョヴァンニとの深い関係は結べませんが,互いの信頼度がどんどん高まっていき,ベストパートナーという位置づけで一緒に過ごすようになります。もう互いの愛は確実になっているのですが,元妻タターニアの父は娘とジョヴァンニとの復縁を望み,会社のCEOの地位と引き替えに策略を練ってくるのでした。自分がいることで愛するジョヴァンニが苦労する姿は見たくないとヴァレンティーナはジョヴァンニの家を出るのですが・・・。そしてジョヴァンニが取った思い切った行動とは・・・。
 MB版の表紙のヴァレンティーナはかなり大柄な感じの,23歳とは思えない老けぶりで表情が写っており,ジョヴァンニの言うように「これほどの美しい女性」とは見えないのでちょっと興ざめですが,互いに資産家の家に生まれ周囲の人々にも大切にされている二人であっても,心の中に隙間があり,その隙間を埋める存在として,いわば運命の二人として出会っていくようすが巧みに描かれているところが本作の魅力だと思います。美しいイタリアの景色と幸せな家族を作り上げていく二人の愛がほのぼのとした幸福感を醸成する癒やしの作品です。


タグ:イマージュ
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せつない献身 [テレサ・カーペンター]

SHALOCKMEMO1351
せつない献身 His Unforgettable Fiancee 2015」
テレサ・カーペンター 秋庭葉瑠





 原題は「彼の忘れられない婚約者」
 ヒロイン:グレース・ディレイニー(30歳)/カリフォルニア州ウッドパークの元保安官,元海軍士官/身長170センチ強,柔らかな曲線を描くほっそりした体,長く美しい脚,8歳の時母が亡くなる,1年半前父を失う/
 ヒーロー:記憶喪失の男JDことジェイソン・ホーク(34歳?)/「ピナクル・エンタープライズ」オーナー,ゲーム開発,ホテルチェーン,コミック出版,テレビ・ラジオ局。アメフトチーム等/身長190センチ弱,5歳で母を亡くし,里子に出され転々としたのち寄宿学校で成長,父とは連絡を取っていない,カリフォルニア大学バークレー校卒,22歳で成功し,27歳で10億ドルの収益を挙げる/
 カルティエの高級時計のみを身に付け,財布をはじめ身分を証明するものを持たずに保安官事務所に身一つで保護された男性,アメリカでは身元不明男性をJDと略称するようです。ミスター・スミスというのもあったような。女性の場合は何でしたっけ?アニーでしたっけ?JDは警察用語でしょうか。ともあれ,ストーリーの前半はこのJDが記憶障害とともに自分の身元を思い出そうとするとひどい頭痛に陥る男性と,父の跡を継いで町の保安官を務めていたグレースとが,身元を確かめるために珍道中をしながら,ちょっとした軽い身体の触れあいに戸惑いながらサンフランシスコまで行くことを中心に描かれています。身元不審なJDをグレースは何かの犯罪に巻き込まれたため記憶を失ったと直感で感じ,決して悪人ではなく,カルティエの腕時計を持っていたことから裕福であろうと想像して元の生活に戻そうと努力します。そしてなにより体調を気遣ううちに,さらにちょっとした身体のふれあいで電流が走ってしまうことに戸惑いながら,次第に惹かれていく様子が描かれるのです。サンフランシスコでFBIの友人にJDの身元の確認を依頼すると,やはり予想どおり彼は有名人でした。コンピュータ用ゲームソフトを開発して大金持ちとなり,さらにホテルチェーンや出版社などエンターテインメントの複合企業を統括するジェイソン・ホークがその正体でした。マスコミには彼のプライベートはあまり知られていませんでした。いわゆるオタクでるジェイソンは雑誌の記事にも長髪でひげを伸ばした状態の写真ぐらいしか公開されていなかったためひげを剃った状態のジェイソンにウッドパークの町の人たちは誰も気付かなかったのでした。自分の住まいにしているサンフランシスコのホテルではもちろんフロントをはじめジェイソンの顔をすぐに見分け,無事に送り届けたグレースですが,記憶はまだ戻りません。2週間を期限にジェイソンの記憶が戻る手伝いをする契約をしたグレースとジェイソンは,互いに惹かれ合っていることに気付きますが,片や超億万長者,片や保安官を失職して職探しをこれからしなければならない女性と社会的な立場の差にグレースは所詮二人の将来はないものと自制します。「彼がただのJDなら良かったのに。そんな思いが突然湧いてきた。同じ世界の人だったら,つきあって一緒に家庭を築くチャンスだってあったかもしれない。」とグレースはつぶやきます。MB版の表紙にはグレースのイメージモデルは,茶色で散切り風のショートカットヘアーでブルーがかったグレイの目の引き締まった顔立ちのモデルが使われています。ヒョウ柄のノースリーブのトップスに腕にはダイヤがちりばめられた腕輪をしています。印象的なのはなんといってもその鋭いながら優しそうな色合いの瞳と高い鼻,そして自己主張をしっかりしそうな口もとです。本文中に描かれたグレースのイメージを見事に伝えているよい表紙です。「私は根をおろした暮らしを望むけれど,彼はホテル住まい。私は秩序を重んじ,彼は混乱を生きがいとするゲームをつくっている」
 さて彼の所有するサンフランシスコの「ピナクル」本社ビルに入ると,さまざまな記憶がよみがえってきます。きっかけはエレベーターのなかで出会った婦人の香水だったり,彼自身のペントハウスからの眺めだったりしますが,完全に記憶が戻るのは,なんと彼を裏切り,しかも彼の脇腹の刺し傷の原因となったかつての恋人だったりするのです。彼が激しい頭痛を訴えるたびにグレースは敏感にそれを察知し,薬を飲ませたり,すぐに対応するのでした。そんなグレースにジェイソンはすっかり頼っていきます。そしてグレースを組み伏せて唇を奪い,そのまま・・・。しかしそれはグレースも望んでいたことでした。一度深い関係になってみると二人は一時も離れがたくなっていきます。どこへ行くにも二人で行動するのをジェイソンの仲間やスタッフは,はじめは警戒しているのですが,やがてそれを認めるようになっていくのでした。でもいずれこんな関係は長くは続かないとグレースは思っています。そして記憶が完全に戻り,会社のパーティが開かれた翌日,いよいよグレースはジェイソンの元を去る決意をするのでした。仕事から戻ったジェイソンはまとめた荷物を脇に置いているグレースに仕事を提供するから出ていかないでと頼み込むのですが,グレースが聞きたかった言葉は仕事のことではないのはいうまでもありません。すでに自分からは愛の告白をしているグレースは,だから出ていくのだと言いますが,その言葉の意味をジェイソンは理解できないのでした。やがてグレースが出ていって数日後,ホテルのスタッフがジェイソンの仲間の元にペントハウスで大きな音がしてノックをしても返事がないという訴えがありました。仲間が駆けつけるとジェイソンは取り乱しており,部屋のあちこちにものが散乱しています。グレースを求める気持ちが整理できずに腹を立てていたのでした。そんなジェイソンに仲間はそっとジェイソンの気持ちを思いやり,グレースを追いかけるべきではとアドバイスするのですが・・・。
 たくましいヒロインのグレースにオタクで繊細なジェイソン。身元不明者だったときからずっと面倒を見続けてきたJDと,身元が分かって億万長者で仲間もいることが分かってからのジェイソン,二つの人格のどちらにも恋しい気持ちを感じていくグレースの複雑な心境がしっかりと描かれ,ちょっと甘えん坊かなと思えるジェイソンが最後は男らしく告白していくまでを描いた好著です。記憶喪失ものとしてもストーリーのほころびがなく,脳震盪がキーワードとなってジェイソンの症状がうまく説明されたり,二人の間でジョークのネタになったりと便利に使われているところがうまいなと思わせられました。なお,原題の「Fieancee」が誰を指しているのか,ちょっとわかりにくいですね。グレースとは婚約者の振りはしますが正式に婚約していたわけではありません。ただ,マスコミが彼女と婚約したかのように報じたという伝聞が書かれています。あるいはかつての恋人ヴァネッサのことを指しているのでしょうか,最後にデートした相手としか書いてなかったと思いますが,行方不明事件の直接的きっかけになったのですから。一方,邦題の「せつない献身」は蓋し名訳ですね。グレースの気持ちと行動が込められたタイトルです。


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落札された令嬢 [クリスティーン・フリン]

SHALOCKMEMO1350
落札された令嬢 Hot August Nights
(愛を知った日 2) 2004」
クリスティーン・フリン 竹内 栞





 原題は「暑い八月の夜」
 ヒロイン:アシュリー・ケンドリック(28歳)/慈善事業家,「ケンドリック財団」取締役/上品で洗練された女性,身長165センチ,ブロンドの髪,美しい瞳,ブリンマー・カレッジとソルボンヌ大学卒業/
 ヒーロー:マシュー(マット)・キャラウェイ(歳)/建設会社社長/身長190センチ,筋肉質の身体,ブルーがかったグレイの瞳,労働者の手/
 シリーズ2作目。ケンドリック家の姉娘アシュリーがヒロインです。兄コードの友人マット。シェルター・プロジェクトで低所得者向けの住宅建築作業をフロリダ州グレーレイクですることになってしまったアシュリー。ふざけてオークションでアシュリーに5万ドルの値を付け,落札してしまったマットですが,特権階級のお嬢様であるアシュリーが実際の大工工事に携われば半日で値を上げてしまうだろうと高をくくっていたのです。唯一の悩みの種はマスコミの密着取材でした。果敢に釘打ち機を手にし,木材も自分で運ぶアシュリーを見て,これは一筋縄ではいかない女性だと考えたマットは,なんとかマスコミ攻勢からアシュリーを守りたいと自然とマスコミとアシュリーの間に割って入ることになります。そんなマットに口ではマスコミに親切にしないと記事でたたかれてしまうと笑顔を向けるアシュリーに,マットは痛々しさを感じてしまいます。つねに良識ある人間だと周囲に思ってもらおうとするアシュリーが,本気でそう考えていることに驚きと,危険な作業にも文句一ついわずに取り組もうとする真摯で誠実な態度に感心し,惹かれてしまう自分にマットは驚くのでした。ジーンズに野球帽,作業用エプロンに安全用ゴーグルという作業員の格好をしていてもアシュリーは常に光り輝き,男性ボランティアたち全員の秘めた騎士道精神を引き出してしまうのでした。田舎の町のしがないホテルでの宿泊にも文句一ついわず,1カ月以上にわたるであろう住宅建築の作業に果敢に取り組むアシュリーの姿に驚くとともに,親友の妹であり,世が世なら王家のプリンセスであったはずのアシュリーと育ちの悪い自分とではギャップがありすぎる,それがマットの本音でした。以前から建築現場にボランティアに出かけ,そこに必ずプロの自分の従業員を複数配置しているというマットの行動を作業の棟梁から聞いたアシュリーもまた,一見ぶっきらぼうに見えるマットが実はかつて兄とともに馬鹿なまねばかりしていた不良少年ではなく立派な経営者に変貌していたことに驚き,表からは見えない心の広さと人に対する優しさに気付いていきます。「普通の家庭や家族が欲しいのかい?」というマットの問いに「そうよ」とアシュリーが答えたのは,二人が一夜を共にした後でした。「自分は骨の髄まで家庭的な人間で,自分の家庭や家族以外に何かを望むなんて想像できない」と考えているアシュリーと家庭的な暖かみを感じることなく幼少時代を過ごしてきたマット,二人の違いは明らかでしたが,互いによい影響を与え合うのが自然だと感じさせるストーリー展開は見事です。
 やがて巨大な暴風雨がフロリダを襲います。工事の遅延を恐れて最後まで暴風雨対策をしていたマットとアシュリーは建築中の家に閉じ込められてしまいます。道路が倒れた木と電線でふさがれてしまい,退避するのがやっとでした。ここで誤植がありました。「避難」が「非難」と表記されています(位置ナンバー4578です)。マスコミの目を逃れ作業ボランティアたちとも離れた二人は自然と互いを求め合うことになりますが,その時すでにアシュリーは自分の身体に変化に気付き始めていたのでした。あの一夜のせいだと分かっていましたが,周囲の目を気にしてなかなかそれを確かめる手段がなかったのです。一時は薬局に立ち寄ったりもしましたが,店員に自分だと気付かれてしまい,検査薬を買うことができなかったのです。そして翌朝,台風一過,晴れ渡った空を見上げる暇もなく,作業員たちが戻ってきたのでした。二人は何事もなかったかのように作業を続け,無事に日常に戻ることになるのですが,作業もあと1週間で終わるところまでになります。そんな時,アシュリーは母のキャサリンから電話を受け,妹のテス夫妻におめでたができたことを聞きます。いよいよ作業も終了し,1カ月にわたるマットとアシュリーの生活も終わりを告げました。二人はそのまま別れ別れになり・・・。アシュリーは姿を消します。実は母親にも迷惑をかけてしまうと考え,アシュリーは妊娠のことを黙ったまま,祖母の元へと行ってしまうのでした。そこでじっくりこれからのことを考えたいと思ったからです。そしてテラスでのんびりしているところに思いがけない人がやってくるのですが・・・。
 美貌と富と自立心にあふれ,常に人への配慮を気にかけながら成長してきたアシュリーが,自分のことを真剣に考えるきっかけを作ったマットへの愛を成就させることができるのでしょうか。終末部でやっと顔を出したルツァンドリア女王にしてケンドリック兄妹の母方の祖母ソフィア・レジーナ・アメリア・レナルディ女王。その見事な采配が本作をハッピーエンドに導きます。読後感の爽やかな作品です。


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9月の閲覧履歴 [toppage]

今月は30日間で15冊の読了でした。読了頁数も前月,前々月の半分くらいでした。理由はSHALOCKMEMO1349に書いたとおりです。

さて今月の閲覧履歴のベストスリーは,
1位 スペイン大富豪の結婚劇 レイチェル・トーマス SHALOCKMEMO1336
2位 一夜の子のために マヤ・ブレイク SHALOCKMEMO1341
3位 嫉 妬 シャーロット・ラム SHALOCKMEMO1338
3位 悲しみの白い薔薇 キャロル・マリネッリ SHALOCKMEMO1340
となりました。今月もダントツはなく,全体的に閲覧履歴は少なめでした。みなさん行楽の秋でネットよりどこかにお出かけだったようですね。

なお,9月のイチオシ作品は,
○ 嫉 妬 シャーロット・ラム SHALOCKMEMO1338
○ 六月の贈り物 エリザベス・バーンズ SHALOCKMEMO1339
の2作のみとなりました。大御所強し!
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