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落札された令嬢 [クリスティーン・フリン]

SHALOCKMEMO1350
落札された令嬢 Hot August Nights
(愛を知った日 2) 2004」
クリスティーン・フリン 竹内 栞





 原題は「暑い八月の夜」
 ヒロイン:アシュリー・ケンドリック(28歳)/慈善事業家,「ケンドリック財団」取締役/上品で洗練された女性,身長165センチ,ブロンドの髪,美しい瞳,ブリンマー・カレッジとソルボンヌ大学卒業/
 ヒーロー:マシュー(マット)・キャラウェイ(歳)/建設会社社長/身長190センチ,筋肉質の身体,ブルーがかったグレイの瞳,労働者の手/
 シリーズ2作目。ケンドリック家の姉娘アシュリーがヒロインです。兄コードの友人マット。シェルター・プロジェクトで低所得者向けの住宅建築作業をフロリダ州グレーレイクですることになってしまったアシュリー。ふざけてオークションでアシュリーに5万ドルの値を付け,落札してしまったマットですが,特権階級のお嬢様であるアシュリーが実際の大工工事に携われば半日で値を上げてしまうだろうと高をくくっていたのです。唯一の悩みの種はマスコミの密着取材でした。果敢に釘打ち機を手にし,木材も自分で運ぶアシュリーを見て,これは一筋縄ではいかない女性だと考えたマットは,なんとかマスコミ攻勢からアシュリーを守りたいと自然とマスコミとアシュリーの間に割って入ることになります。そんなマットに口ではマスコミに親切にしないと記事でたたかれてしまうと笑顔を向けるアシュリーに,マットは痛々しさを感じてしまいます。つねに良識ある人間だと周囲に思ってもらおうとするアシュリーが,本気でそう考えていることに驚きと,危険な作業にも文句一ついわずに取り組もうとする真摯で誠実な態度に感心し,惹かれてしまう自分にマットは驚くのでした。ジーンズに野球帽,作業用エプロンに安全用ゴーグルという作業員の格好をしていてもアシュリーは常に光り輝き,男性ボランティアたち全員の秘めた騎士道精神を引き出してしまうのでした。田舎の町のしがないホテルでの宿泊にも文句一ついわず,1カ月以上にわたるであろう住宅建築の作業に果敢に取り組むアシュリーの姿に驚くとともに,親友の妹であり,世が世なら王家のプリンセスであったはずのアシュリーと育ちの悪い自分とではギャップがありすぎる,それがマットの本音でした。以前から建築現場にボランティアに出かけ,そこに必ずプロの自分の従業員を複数配置しているというマットの行動を作業の棟梁から聞いたアシュリーもまた,一見ぶっきらぼうに見えるマットが実はかつて兄とともに馬鹿なまねばかりしていた不良少年ではなく立派な経営者に変貌していたことに驚き,表からは見えない心の広さと人に対する優しさに気付いていきます。「普通の家庭や家族が欲しいのかい?」というマットの問いに「そうよ」とアシュリーが答えたのは,二人が一夜を共にした後でした。「自分は骨の髄まで家庭的な人間で,自分の家庭や家族以外に何かを望むなんて想像できない」と考えているアシュリーと家庭的な暖かみを感じることなく幼少時代を過ごしてきたマット,二人の違いは明らかでしたが,互いによい影響を与え合うのが自然だと感じさせるストーリー展開は見事です。
 やがて巨大な暴風雨がフロリダを襲います。工事の遅延を恐れて最後まで暴風雨対策をしていたマットとアシュリーは建築中の家に閉じ込められてしまいます。道路が倒れた木と電線でふさがれてしまい,退避するのがやっとでした。ここで誤植がありました。「避難」が「非難」と表記されています(位置ナンバー4578です)。マスコミの目を逃れ作業ボランティアたちとも離れた二人は自然と互いを求め合うことになりますが,その時すでにアシュリーは自分の身体に変化に気付き始めていたのでした。あの一夜のせいだと分かっていましたが,周囲の目を気にしてなかなかそれを確かめる手段がなかったのです。一時は薬局に立ち寄ったりもしましたが,店員に自分だと気付かれてしまい,検査薬を買うことができなかったのです。そして翌朝,台風一過,晴れ渡った空を見上げる暇もなく,作業員たちが戻ってきたのでした。二人は何事もなかったかのように作業を続け,無事に日常に戻ることになるのですが,作業もあと1週間で終わるところまでになります。そんな時,アシュリーは母のキャサリンから電話を受け,妹のテス夫妻におめでたができたことを聞きます。いよいよ作業も終了し,1カ月にわたるマットとアシュリーの生活も終わりを告げました。二人はそのまま別れ別れになり・・・。アシュリーは姿を消します。実は母親にも迷惑をかけてしまうと考え,アシュリーは妊娠のことを黙ったまま,祖母の元へと行ってしまうのでした。そこでじっくりこれからのことを考えたいと思ったからです。そしてテラスでのんびりしているところに思いがけない人がやってくるのですが・・・。
 美貌と富と自立心にあふれ,常に人への配慮を気にかけながら成長してきたアシュリーが,自分のことを真剣に考えるきっかけを作ったマットへの愛を成就させることができるのでしょうか。終末部でやっと顔を出したルツァンドリア女王にしてケンドリック兄妹の母方の祖母ソフィア・レジーナ・アメリア・レナルディ女王。その見事な采配が本作をハッピーエンドに導きます。読後感の爽やかな作品です。


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