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愛なき一夜の贈り物 [クリスティ・ゴールド]

SHALOCKMEMO1369
愛なき一夜の贈り物 The Sheikh's Secret Heir
( Bajul 5 ) 2015」
クリスティ・ゴールド 藤峰みちか





 原題は「シークの秘密の相続人」
 ヒロイン:キラ・ダージン(?歳)/王宮の管理責任者/コバルトブルーの瞳,つんと上を向いた鼻,華奢な顎の線,金色の肌/
 ヒーロー:タレク・アズマル(?歳)/実業家,実はバジュールの王子/鍛えられた脚,割れた腹筋,広い肩,黒い瞳/
 石油産出国バジュールを巡る物語です。すでにラフィーク,ザイン,アダンの3兄弟が揃い,それぞれに愛する人たちと幸せな生活を送っている王宮ですが,その王宮の管理人キラ・ダージンがヒロインとなります。キラは宮廷の庭師,料理人であったダージン夫妻とともに王宮の敷地内に住み,3兄弟に可愛がってもらった,いわゆる妹的存在でした。その王宮に客が一人やって来ます。王国の事業に投資するためにやって来た富豪で事業家のタレク・アズマルでした。実はタレクは先王の婚外子だったのですがその証拠は彼自身も持っておらず,実父だった養父が亡くなる直前に彼に告げたことだけがその事実を伝えることだったのです。従って王家の誰もそのことを知るものがいませんでした。シリーズ第3弾で末弟アダンの母が兄弟のナニーだったエレナだということが判明しますし,その他にも兄弟姉妹がいるかも知れないというのが3兄弟の共通の思いだったようです。終盤でタレクがそれを明かす場面が登場しますが,3兄弟はそれを驚くことなくすんなり受け入れてしまうのは,そういう事情があったからなのでしょう。タレク自身は実父だと思っていた父からその事実を聞かされ,先王ばかりでなく王家全体に憎しみを感じていました。そしてその思いを直接ぶつけるのではなく,自分を認めてくれなかった先王に認めさせたい思いで懸命に働き,事業を発展させて富豪となったのです。そして投資を口実に宮廷に入り込むことに成功します。しかし父である王はすでにこの世を去ってしまっていました。
 6週間前,キラはタレクと熱い一夜を過ごしたのです。その後全く音信がなかったのに再び目の前に現れたタレクは,キラに数週間自分の仕事を手伝って欲しいと,しかも国王ラフィークの許可はすでに得ているというのです。自分の仕事はその間前ナニーだったエレンが引き受けてくれるというのです。キプロス島での新しいリゾートの開設に伴う細部の判断にセンスと知恵を貸して欲しいというのがタレクの依頼でした。翌朝キラは診察を受けに王妃でありラフィークの妻マイサの元を訪れますが,マイサが下した診断は「妊娠している」という衝撃的な言葉でした。6週間前のあの一夜でタレクの子を身ごもったことがわかったのです。キラには「母はカナダ人で偏見がありませんが,父はバジュール出身で伝統を重んじるたちであり未婚の娘が子供を産むと知ったら喜ばないだろう」という事情がありました。しかしその両親は実の両親ではなく,キラは養女だったのです。タレクが父親としてふさわしい男性かどうかをキプロスに滞在する2週間のあいだに確認できるかも知れない。タレクが父親にふさわしいと判断したら妊娠のことを話そうと心に決めたキラはタレクとともにバジュールを後にします。このタレクとの会談のときの堂々とした態度がキラの性格と物怖じしない人生に対する自身のようなものを読者に感じさせます。タレクはキラが王族メヘディ家のことをよく知り,情報源になってくれるのではないかという企てを持っていました。「キラを利用する計画がうまくいかなければあらゆる手段を講じて確証を見つけ出そう。そして王家の息子たちに取り入り,やがては自分がバジュールの先王の婚外子であることを公にする。僕は彼らの兄なのだ。」と第1章が締めくくられます。各章の末尾が意味深な言葉で次の章への興味を惹きつける効果を狙い,読者をどんどんと物語へ引き込んでいく,これが本作の面白い点の一つです。第2章ではその晩の王家の晩餐の後,キラはタレクの依頼に同意しキプロスに同行すると返事をします。その条件として互いを愛人ではなく友人として信頼し合っていきたいとキラは提案します。「彼との間の信頼なんて,もろい砂糖菓子のようなものだ。私が何を隠しているか知れば,彼は私を二度と信頼しなくなるだろう。」とキラは考えますがタレクの方にも秘密があることをこの時キラは考えもしませんでした。ただこれ以上二人の関係の再燃は困ったことになるという想いだけで友人としてという提案をしたのでした。翌朝出かける前にエレナと仕事の引き継ぎをしているとき,タレクとキラの間に何かあったとエレナに感づかれてしまい,妊娠のことまで気付かれていたことに驚くと同時に,8年前に無情に捨てられた過去の経験を思い出してしまい,男性を信じてはいけないという過去の経験から慎重にならざるを得ないことを固く心に誓うのでした。第3章ではキプロスのタレクの邸宅に到着し,月2万ユーロで借りており管理人夫婦もいることに驚きます。第4章はキラは元婚約者のことを打ち明けます。カナダの大学で出会ったサウジアラビアのスルタンの息子で2年間つきあって婚約し,別れたこと,その理由は彼女がバジュールの王族の娘ではないことだったこと,実の両親は王宮の料理人と庭師だったことなどを明かし,反対にタレクのことを聞き出そうとしますが,タレクはキラを再び誘惑しようとします。しかしキラの今回の目的はタレクが父親としてふさわしいかどうかの判断をするためだということを思い出しなんとか誘惑の手を逃れます。「私という人間を尊重してもらいたいの。自分が単なる火遊びの相手ではないという実感が欲しいのよ。」「君に関することでは僕の誠実さを疑わないでくれ。君は並外れて素晴らしい女性だ。高い知性を持ちながら,官能的でもある。」とキラに惹かれていることを隠そうとしないタレク。ところが翌日タレクの元に「黒い瞳に金色の肌をした古典的美人」がやってきます。アテナ・クレリデスと名告る彼女は数年前からタレクの秘書兼恋人だった女性でした。キラに惹かれているタレクはアテナとの関係を清算しようとします。しかしアテナはキラがバジュールの料理人と庭師の娘であるという出自を話すと「あなたは使用人の娘なのね」といやみな言葉を残して去って行きます。タレクは庭で石工たちと一緒に作業していました。タレクは育ての父を尊敬し,母親が10歳の時に肺炎で亡くなったことを明かします。母親は先王との関係を自分に告げずに亡くなったことで心に傷を受けていたのかも知れないとキラは考えます。第5章の冒頭はタレクがキラに自分のプライバシーをあまり話したくないという述懐から始まります。プールで泳いでいるキラを見かけ,自分もプールに飛び込みます。「たいていの女は男性とは敗戦が違うのよ。女は時々自分の感情に支配されてしまうの。そうするとあの最も恐ろしい感情である愛が生じてしまったりするものなのよ。」「愛には論理が通じない」「愛はそもそも論理的じゃないわ。」「僕は人生において成功するために地に足をつけておくと決めたんだ」という二人の会話には男と女の気持ちの違いが見事に言い表されています。第6章では二人がパーティに出かけダンスをします。その後,タレクのヨットに行き,キラの方からタレクを誘惑します。「タレクはこれまで誰かを愛したことがなかった。タレクの人生において愛は裏切りを連れてやって来た。母親に裏切られ,父親だと思っていた男に裏切られた。自分の存在を否定した国王位裏切られた。だがキラは違うと思える。」ここでタレクはキラを愛しているのに気付いたのかも知れません。第7章でタレクはモロッコで引き取ったヤスミンという女の子の存在を明かします。「その子の養育であなたの果たす役割は何?」自分の子を愛してくれるかどうか判断するのにヤスミンに対するタレクの気持ちが役に立つかも知れない,そう考えたキラですが,捨てられた自分という過去を明らかにしてヤスミンへの同情を語ります。王宮の使用人だった両親とは別にカナダ人の実父母,たった15歳でキラを身ごもった母親とそのことを知った後に連絡を取ろうとしてもそれを拒否されたこと。しかし養父母である二人によって大切に愛情を持って育てられたことを感謝していることを話すキラに対してヤスミンは充分に世話を受けているからと愛を傾けることをしようとしないタレクの様子から,キラはこれから産まれる我が子にもタレクは愛情を注げないのではと落胆するのでした。そんなタレクを愛してしまっていることにキラは気付きます。キラはタレクに妊娠のことを話そうとしますが,それは二人の永遠の別れになるだろうとも思うのでした。第8章ではヨットから電話した王宮のエレナにヒントとなるタレクの母親のことを話すと,エレナは知っているかもしれないと言います。キラはタレクにヤスミンに弟か妹が欲しくないかと遠回しに言いながらついに妊娠のことを話すのでした。ここまでずいぶん引っ張ってきたなぁという感じですが,このことがタレクに知られることによって物語の展開が急転していくだろうと思っていたとおり,章の最後にタレクは自分の実の父親が先王のアーディル・メヘディであることをキラに明かすのです。これで双方の大きな秘密が明らかになります。そして,9章以降でタレクの母親と先王が実はタレクを捨てたのではなく当時の状況から王がスキャンダルに巻き込まれるのを防ぐために母はこの秘密を墓場まで持っていったこと。そしてそれを知っていた養父が先王も亡くなった今タレクにこのことを話してもスキャンダルにはならないだろうと判断して自分の死に際に秘密を明かしたこと,エレナが決定的な証拠をタレクの母親から預かっていたことなどが明かされていくのです。そして一族とキラの前で明かされるタレクの出自。ここが物語のクライマックスとなるのですが,その後の二人の関係とキラの出産,そしてその後の王家の人々との数年後が描かれていくので,本作がシリーズ最終巻の大団円だということが分かります。
 なにより美しさと知性と愛情深さを兼ね備え,堂々とタレクに太刀打ちしていくヒロイン,キラが全編を通じて煌めいているNICEなヒロインです。それまでの作品を読んでいなくても本作だけで楽しめるイチオシ作品です。


タグ:ディザイア
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奇跡を授かったシンデレラ [スーザン・メイアー]

SHALOCKMEMO1368
奇跡を授かったシンデレラ Pregnant with a Royal Baby
(ザヴィエラの花嫁 1) 2016」
スーザン・メイアー 八坂よしみ





 原題は「王家の赤ちゃんを授かった妊婦」
 ヒロイン:ヴァージニア(ジニー)・ジョーンズ(25歳)/スクールカウンセラー/長い金髪,男心をそそる体,小麦色の肌/
 ヒーロー:ザヴィエラ国皇太子兼財務大臣(?歳)/ドミニク(ドム)・サンチョ/長身,肩幅が広くきらめく黒い瞳,非の打ち所のない唇/
 スーザン・メイアーのザヴィエラ国を舞台とした連作の第1作です。続編「Wedded for His Royal Duty」では本作のヒーロー,ドムの弟王子アレックスと本来ドムと結婚する予定だった王女エヴァのストーリーが語られます。いずれ訳書がでるでしょう。昨年11月以来スーザン・メイアーの作品は2作読了していますが,ほんのり温かいストーリーと魅力的な登場人物など,ロマンス読者の要望に応えてくれる作品が多く,作者の温かい人柄が感じられます。本作も深刻なクーデター場面が登場しても決して流血場面などがなく,対応に追われる国王の策略に面白いように嵌まっていく皇太子の姿がなにか笑いを誘ってしまうなど,皮肉と笑いが溢れた作品に仕上がっています。さて,王家の跡継ぎをつくるための政略結婚を予定していた皇太子ドムですが,テキサス州テラ・マスに住むスクールカウンセラー,ジニーに出会ってしまうと,その美貌と人を惹きつけずにはおけない人柄にすっかり参ってしまい,ついにジニーの妊娠という結果を招いてしまいます。王家の子供を身ごもった女性をアメリカに放って置くわけにはいかずに,祖国ザヴィエラに連れ帰り結婚することになります。婚約予定だったエヴァは弟のアレックスに押しつけられてしまうのですが,元々政略結婚だったため,本作ではあまり問題にはなりません。しかし父王が妻,つまり兄弟の母親を病で亡くした後すっかり国政を投げ出して悲嘆に暮れていた様子を間近で見ていたドムは,愛が人を弱くさせ,ましてや国民の生活と安全を守る王としての責務を投げ出したとしか思えず,結婚はしても愛することはできないと強く思い込んでいるのです。一方思いがけない妊娠により結婚を余儀なくされたジニーの方は,子供のためというだけの結婚では満足できません。しかし愛するドムの心情に寄り添い,ドムの言い訳に何も言わずに次々と周囲の人々の信任を得ていくのでした。そして王家に反抗するシークをも一時は取り込んでしまうのです。特にジニーと子供を守ろうとする警護官たちからは絶大な信任を得てしまいます。そして二人の結婚式のために現役教師の母をアメリカから呼び寄せたドムの心遣いにますます惹かれてしまいます。その母のローズはドムの父である現国王となんとツーカーの関係になってしまいます。次々に愛が芽ばえていくサンチョ家の様子がとても微笑ましく,あまりにご都合主義かと思えますが,なにより読者の意向に沿っていくそのストーリー展開に安心感を覚えながら読み進んでいけます。さて二人の間のカタルシスはどこで起こり,それがどんな結末に至るのか。そこが作者としての腕の見せ所でしょう。そこで起こるのがシークによるクーデターという国家最大の危機です。そして間が悪くそんな時月足らずで生まれてしまう二人の息子。命名の案に登場する「スタートレック」のカーク船長の名前など,そこにも思わず笑いを誘う要素がちりばめられています。そして無事産まれる子供の名前は?そして国王が皇太子に課した大きな宿題とは?一気読み間違いなしの楽しい作品です。


タグ:イマージュ
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イタリア富豪の秘密の休日 [キャシー・ウィリアムズ]

SHALOCKMEMO1367
イタリア富豪の秘密の休日 The Surprise De Angelis Baby
( Italian Titans 2 ) 2016」
キャシー・ウィリアムズ 南 亜希子





 原題は「デ・アンジェリスの驚きの赤ちゃん」
 ヒロイン:デリラ・スコット(21歳)/クルーズ船の臨時絵画講師/姉とコッツウォルズのコテージのギャラリー経営,ネプチューンとムーンの娘/背が高くてすらりとしたからだ,赤から赤褐色までさまざまな色合いが混ざっている髪,キャラメル色の肌/
 ヒーロー:ダニエル・デ・アンジェリス(29歳)/リゾート会社社長/身長190センチ,兄よりやや明るい髪,グリーンの目,ブロンズ色に焼けた細い左右対称な顔,黒くて濃いまつげ,くすんだブロンドの髪/
 サントリーニ島から始まる地中海クルーズ船の旅。そんなすてきな前半の物語です。「シンデレラは偽りの妻(SHALOCKMEMO1349)」で登場したデ・アンジェリス家のテオの弟ダニエルが本作のヒーローで,テオとアレクサは家族の関係でちょっとだけ顔を出します。ダニエルは経営状況の妖しいクルーズ船を買収しようと,地中海クルーズの旅にサントリーニ島から乗り込みます。ダニエルはクルーズ船ランブリング・ローズ号のオーナーのジェリー・オクリーは大富豪の父親から受け継いだすばらしい船を海賊でさえ見逃しそうな代物に変えてしまったと考え,自分が買収に成功したら,乗組員の誰を残すべきか誰を整理すべきか実際に数日間乗船してみて見極めようと思っていたのです。船内を廻っているときに気付いたのは絵画教室の講師でした。絵心などは全くないダニエルでしたが,そんな自分にもていねいに説明してくれるデリラに興味を持ったダニエルはバレリーナのように優雅なほっそりした体型の女性,普段自分が好んでつきあっているグラマーな体型の女性とは正反対で,着ているものも身体の線を隠すような野暮ったい格好の女性に好意を抱いてしまう自分に驚いています。かつて自分を裏切った女性ケリー・クローズを思い出すと,自分の財力にばかり興味を持ってしまう女性という存在を信用しないで独身でいることを信条としているのを当然と思っていて,アレクサという女性と結婚した兄のテオの気持ちを信じられない思いで眺めているのですが,この飾り気のないデリラという女性は,これまで知った女性とは全く違う存在であることを,何日間の交際の末に分かり,そしてデリラから離れられなくなってしまうのでした。数日間しか休みを取っていなかったダニエルはクルーズに乗っている期間を延長し,数日から数週間へと日延べしながら,デリラと深い関係を続けていくのでした。初めに深い関係になったとき,デリラもまた自分を真剣に求めてくれ,目眩く時間を二人で過ごすことができたのですが,やがて二人とも船を下り,さらにはもう二度と会うこともないだろうということは互いに確認し合っていたのです。最後に船を下りるとき,デリラはもうダニエルを愛してしまっていたのですが,二人の間に将来はないことは充分分かっていました。そして,ダニエルが本当は富豪であり,自分が働いてきたこのクルーズ船を買収するために自分を利用したことを知り,再び男性に裏切られたことに深く傷ついてもいたのです。
 下船から1カ月ほどして,デリラは自分の体の変調に気付き,検査薬で調べてみて妊娠していることの気付きます。そのことをダニエルも知るべきだと思ったデリラはロンドンの会社にダニエルを訪ねます。そこで妊娠のことを話すと,ダニエルは予想外の行動を取るのでした。初めから二人の将来は結婚という形には結びつかないと思っていたデリラはシングルマザーとして生きて行くことを想定し,ダニエルが子供の養育費の負担と,時々子供に会にくること位しか考えていませんでした。「ダニエル・デ・アンジェリスのように傲慢でうぬぼれの強い男が私の突然の来訪を全く違う風に受け取るであろうことを考えもしなかった。彼は私が負けを認めて戻ってきたと思っているのだ。彼との関係を辞めたところから再開するために。それも,自分がお金を私の鼻先にぶら下げたからだと思っている」「本当にお金が欲しくて私がここまで来たと思っているの? お金と交換に体を差し出すために?」「気の毒な人ね」「女はみんなお金目当てだと信じるあまりに,そんなものをなんとも思っていない女性もいるとは考えもしない」というデリラの痛烈な非難の言葉にダニエルは驚きますが,子供という存在にダニエルは感動を覚えていたのでした。「僕は子供の人生に積極的な役割を果たすつもりだ。たまに会うだけではそれはできない。それから親権を争うこともしない。君がどこかで出会った男に子供の親権を取られるのはゴメンだ。もちろんぼくも独身気分で女の後を追うつもりはない。」といいながら,ダニエルはデリラに結婚をいいだしたのでした。ダニエルは愛のためではなく子供と自分の体を求めているだけだとこの便宜的な結婚の申し出を冷めた視点で捉えたデリラですが,次々に自分のことを心配してやさしい気配りを持って接してくれるダニエルに次第に心を開いていきます。しかしダニエルの優しさが愛に基づいたものだとは信じられないデリラ。ダニエルは果たしてこのデリラの心の冷たい塊を溶かしていけるのでしょうか。
 いつもどおりにキャシーの作品は最後が唐突に終わってしまいます。本作もいつもの終わり方ですが,それも彼女の作品の魅力の一つなのでしょう。突然足場を外されたような強烈な余韻で締めくくられます。前作のアレクサが大人の魅力を持っていたのに比して,本作のデリラはいかにも若い,しなやかな美しさと芯の強さを持ったヒロインでした。


タグ:ロマンス
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ジェシカの愛情研究 [ペニー・ジョーダン]

SHALOCKMEMO1366
ジェシカの愛情研究 Research into Marriage 1986」
ペニー・ジョーダン 三木たか子




HQB-759
16.10/¥670/200p

R-0622
88.08/¥578/156p


 原題は「結婚への調査」
 ヒロイン:ジェシカ(ジェス)・(26歳)/作家,心理学者/長身,脚は長く,ウエストが細く胸は豊か。銅色の髪,透き通るほど白い肌,気分次第でグリーンにも金色にも見える目/
 ヒーロー:ライル・ガーネット(35歳)/開業医(神経外科医)/寡夫,スチュアートとジェームズの父,オックスフォード近郊のサットン・パルバ在住/長身,豊かな褐色の髪,青い目/
 ヒロイン,ジェシカ(ジェス)の苗字が明らかにされていません。ときどきこんな作品もあります。まあすぐにヒーローの結婚してしまうので旧姓はどうでも良いということなのでしょうが・・・。結婚式もとても簡単に済んでしまい,描写もほんの数行です。いわゆる便宜的な結婚から,生活しているうちに次第に愛に気付いていくパターンですが,二人とも会った瞬間に惹かれてしまうのです。二人が結婚に至るきっかけとなったのは一つは義兄の存在がありました。姉のアンドレア・チャーズはいささか気持ちの弱い人で,現在妊娠中ですが,夫のデビッドは隙あらばとジェシカに言い寄ろうとするのです。父を亡くし,その遺産を受け継いでいた姉妹に,デビッドは姉の方との結婚を選んだのですが,本当はどちらでも良かったようです。ジェシカはそんな義兄におぞましさしか感じなかったのですが,うぬぼれ屋で道徳心のないデビッドはジェシカが自分に色目を使っていると人前でなれなれしくすることから始まって,顔を合わせるたびに厚かましく誘いをかけてきます。なんとかそんな姉夫婦から離れたいと思っていたやさきにライルに出会います。9年前,母はすでにジェシカが大学に入った年に再婚して新しい夫とカナダで幸福に過ごしており,大学卒業後ジェシカは心理学者として著作をしたため,それが売れ行き好調であり,現在は3冊目の著作に取りかかっているところでした。「こと結婚に関し,何の幻想を抱いてはいない。結婚はただの肉体的欲望を越えたものに基づかなくてはならない」というのが現在執筆中の著作の中心テーマでした。調査を進めれば進めるほど【見合い結婚】が理想の結婚形式だと確信するようになっています。そこで,ジェシカは新聞に自分を売り込む記事を掲載してもらい,それに反応してきたのがライルだったのです。一方ライルは妻と離婚しようとしていたときに事故により妻の死という事態に遭い,,神経外科の専門医のとしての職を投げ打ち,二人の子供を育てるために田舎であるサットン・バルパで開業医を始めたところでした。妹夫婦になにかとこどもたちの面倒を見てもらいながら頑張ってきたのですが,スチュアートとジェームズは母に捨てられたという心の傷をもち,反抗期であることも含めて何かと父であるライルの言うことを聞かず,叔母のジャスティンにも反抗的態度を崩さないのでした。従兄弟の幼いピーターを木に縛り付けてその下でたき火をしてガイ・フォークス遊びと言い張るなどのワルがき的な態度を示すようになった二人に耐えきれなくなったジャスティンは,例のジェシカの新聞記事を見つけ,二人にはきちんと向き合ってくれる母親が必要だと兄のライルを説得するのでした。ライルは妻は必要ではないし,望んではいないとしても,自分の子供たちに母親役の人が必要だとこの話しを断ることができない切羽詰まった状況にあったのでした。「26歳で未婚,自活の手段あり」という記事だけを頼りに妹の勧めに頼らざるを得なくなったライル。そして,サットン・バルパにやって来たジェシカの金色の目とライルの青い目が出会います。恋に落ちるということ自体を信じていないとするジェシカと,妻との関係がうまくいかなかったことにより女性が信用できないライルが,出会った瞬間でした。スチュアートとジェームズという子供の母親役が自分に求められている立場であり妻は必要ないというライルの言葉に,反ってそれこそ自分が望むものだと言い切るジェシカ。そしてこの二人と子供たちという四人の奇妙な家族ごっこが始まるのでした。初めはジェシカにも打ち解けない子供たちですが,初めに兄のスチュアートがジェシカに信頼を寄せるようになり,兄を手本にしていたジェームズも次第に打ち解けていきます。逆にライルこそが家族の中で浮いた存在になってしまうほど三人が寄り添い,近づいて行くのでした。ジェシカに出会ったジャスティンは初めからジェシカの味方です。ジャスティン一家も皆ジェシカを歓迎し,瞬く間に周囲の人の信頼を得ていくジェシカにライルはますます惹かれていくのですが,初めに妻は必要ないと言い切り,自分も夫婦としての関係を望んでいないというジェシカに強い欲望を抱くという矛盾に悩み,どうしてもぶっきらぼうにならざるを得ないというライルの態度にとまどいながら,ジェシカもライルに触れてみたいという欲望を抑えるのに苦労しています。そんな二人にクリスマスという神からの贈りものの季節が迫ってきました。ガーネット家の四人にとって,これは家族としての紐帯を深める格好の機会となるのです。ジェシカは「本当のお母さん,あの子たちにとって私はそういう存在になったのだろうか」と子供たちに対する愛情を感じ始めます。そして夫であるライルの男性としての魅力にも強く惹かれ始めて行きます。「こうなることは出会った瞬間から分かっていて,そしていまそれが現実になったのだ。この人を愛していると分かった以上」と深い関係になります。しかし,二人の間にはもう一つ,互いに想いを寄せる別の存在があるのではないかという想いがくすぶっています。ライルには前妻のヘザーの存在が,そしてジェシカには義兄のデビッドの存在が・・・。二人はこの疑心を乗り越え本当の結婚が成就できるのでしょうか。そしてジェシカの愛情に関する研究の著作は完結するのでしょうか。邦題がまさにぴったりの作品です。
 数日前に読了していた作品ですが,メモをまとめるのが遅くなってしまいました。ちょっとそのまま映画になりそうな,映像を思い浮かべながら楽しめる素敵な作品です。


タグ:ロマンス
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