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天使のための契約結婚 [アマンダ・チネッリ]

SHALOCKMEMO1385
天使のための契約結婚 The Secret to Marrying Marchesi
( Secret Heirs of Billionaires 6 ) 2016」
アマンダ・チネッリ 結城玲子





 原題は「マルケージの結婚の秘密」
 ヒロイン:ニコール・デュヴァル(?歳)/元子役スター/ブラウンの髪,淡い褐色の大きな目,細く白い手,長い手足/
 ヒーロー:リーゴ・マルケージ(?歳)/服飾メーカーCEO/コバルトブルーの瞳,190センチ近い身長,短い黒髪,生粋のイタリア人,浅黒い肌/
 パパラッチから逃げ続けるニコールと娘のアンナ。ニコールはパパラッチのレンズからあんなの写真を撮らせまいと懸命に・・・。派手好きで男性から自分の魅力で金を貢がせることしか能のない母ゴールディに幼い頃からマスコミの前に立たせられてきたニコールは娘のアンナが小さい頃からパパラッチの餌食になり,物心ついた頃に傷つくことになることは避けたいと必死に隠れて生きてきました。このラニークという田舎の村の小さな庭付きの一軒家ラ・プティットに隠れ住み,やっと我が家らしくなってきたと思っていた矢先でした。もうこれ以上経済的に転進を続けることは難しくなってきていたのです。アンナの父親,マールケージグループの総裁リーゴ・マルケージとのたった一夜の関係から授かった一粒種をニコールは初めてで唯一の自分の家族として大切に育ててきたのです。結婚と離婚を繰り返し次々変わる母ドールディの夫たちを父親だと思ったことはありません。パパラッチから逃れてラ・プティットにたどり着いたとたん黒いジープから現れたのはリーゴの部下のアルベルトでした。かつて一夜の関係を持ったリーゴの部屋から自分を追い出した男。しかしこのままこの家にいても次々にパパラッチに襲われてしまい家から出ることができなくなってしまうことは明らかでした。言われるままにマルケージのフラットに引っ越します。DNA検査で自分の娘であることがはっきりしたアンナにどう接して良いのか分からないリーゴですが,パパラッチを避けるためにはニコールと結婚して一緒に暮らすしか方法がないと考えます。ちょうど業務提携を交渉中だった大会社との契約を成功させるためにも今スキャンダルをほうって置くことはできないというのも大きな理由でした。アンナの存在をマスコミにリークしたのはニコールで,それは自分から金をせしめるためだと思い込んでいるリーゴはニコールを手元に置いておくことが絶対的に必要なことだったのです。今回のマスコミの動きは実は今の夫との離婚後の自分の生活を安定させるために娘と孫を利用しようとしたニコールの母ゴールディの仕業でしたが,母と娘が全く違った考えを持っているとは考えずらいリーゴからしてみると,ゴールディの所業であろうがそれをニコールが知らないはずがなかろうというのが納得のいく考えだったのです。しかし,これは全くの誤解で,ニコールはひたすら自分が母から受けてきた精神的虐待から自分の娘を守ろうとしていたのでした。二人の婚約を発表するパーティに現れたニコールをみて,はっと目を見張るリーゴ。かつて名子役として芸能界で活躍していたニコールはその美貌は長じてますます洗練されてきたことは間違いありません。二人の婚約をマスコミに広めることでパパラッチからの執拗な追求から逃れるというのがリーゴの会社の広報部の考え方でした。そのためマスコミの取材を一社に限定し,取材者もこちらで認めた者だけにするということにしたのですが,なんとそこに現れたのは,ニコールの知り合いでした。しかも悪意を持ってニコールを取材しようとしてきた女性,つまり,現在の母親の夫の前妻の娘ダイアンだったのです。あわてて記者を追い出し,他の記者に変えるように要求したリーゴ。もうこの時点ではリーゴもニコールを信じ始めており,しかも小さなアンナを自分の娘として守りたいと本気で考えていたのです。パーティに集まったリーゴの家族,弟のヴァレリオとリーゴの両親,リーゴの前妻から家族中が裏切られたことをみんな心配していたのですが,ニコールとアンナに両親はすっかり好意を抱き,大切に思ってくれるのでした。そして招待してもいないのに現れたニコールの母ゴールディの傍若無人な振る舞いにさすがのリーゴもあきれ果て,丁重に追い返すのでした。この一件で母と娘の関係をすっかり理解したリーゴは,これまで自分がいかにニコールを信用せずに気持ちを傷つけてきたのかに思い至るのでした。しかし,前妻のひどい裏切りに愛を信じないリーゴは,ニコールの気持ちに応えることはできないと思い込んでいます。過去を乗り越えて二人の本当の愛を成就させたいニコールとの気持ちのすれ違いがこの後のストーリーを展開させていきます。イタリアのトスカーナの別荘での新婚旅行も結局ニコールのリーゴへの愛を深めはしたものの一人のパパラッチの出現でついに終わりを告げてしまいます。リーゴはいつ,前妻の裏切りを乗り越え,ニコールとの本当の愛に目覚めるのでしょうか・・・。
 初訳本となったアマンダ・チネッリの作品です。中心となる舞台がパリ,トスカーナのうつくしい風景となる作品で,悪辣なマスコミの取材攻勢,さらにはニコールの母ゴールディ・デュヴァル,リーゴの前妻リディアという敵役を配してメリハリのあるストーリーを展開していきますが,往年の名手の作品とは異なり洗練度が今一つの作品でした。


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君主と砂漠の秘め事 [シャロン・ケンドリック]

SHALOCKMEMO1384
君主と砂漠の秘め事 The Sheikh's Christmas Conquest
( Bond of Billionaires 2 ) 2015」
シャロン・ケンドリック 中村美穂





 原題は「シークのクリスマス征服」
 ヒロイン:オリビア(リビー)・ミラー(29歳)/B&B「ワイトウィック・マナー」経営,元厩務員(馬にささやく者)/小柄,赤みがかった淡い茶色の長い髪,そばかすのある顔,琥珀色の目/
 ヒーロー:サラディン・アル・メクタラ(?歳)/ジャズラタン王国国王/長身,鋭い眼光,ブロンズ色の肌/
 「もし何かを学んだことがあるとしたら,人は過去に生き,過去に支配されてはならないということだ。サラディンと,彼の心に住み着いている美しく若い妻のように。」くも膜下出血で19歳の美しい妻を失ったサラディンはその後一生誰かを愛することを拒み続けてきました。そんなサラディンが探し出したのは「馬にささやく者」と競馬界で知られていた厩務員のオリビア(リビー)でした。サラディンの愛馬バルカンが怪我をしてもう競走馬としては働けなくなったものの,まだその優秀な血統を残すことで次代の活躍が期待できたのですが,弱り切っている馬を獣医も厩務員たちも手の施しようがなくなっていたのです。むりやり,B&Bの改修費を負担するという契約でジャズラタン王宮に連れてきたリビーは,バルカンの脚に触れたとたん,バルカンは生きる意志を示すという奇跡が起こります。まさに「馬にささやく者」の面目躍如たる出来事でした。小柄で鼻の周りにそばかすの散った白い肌を持つイギリス女性がなぜこんなに自分の心の中に忍び込んでくるのか,しかも自分の指示に従わない人間も,ましてや女性がいるとは考えもしていなかったことに驚きと理解不能な気持ちの中でサラディンはリビーを誘惑し,リビーもまたこの人ならば自分の純潔を捧げても悔いがないと二人は雪に閉ざされたワイトウィック・マナーの暖炉の前で愛し合います。ジャズラタンでも砂漠のオアシスに馬で遠乗りにいった二人は瞬く間に関係を深め,その後,王宮の中でもサラディンは自分に言い訳しながらリビーを求めずにはいられませんでした。しかし,若くして失った妻を美化するあまり自分の気持ちに正直になれないサラディンとの将来はないことに傷ついたリビーはジャズラタンを去る決意をします。さてサラディンはリビーを呼び戻せるのでしょうか。
 英国人らしい,砂漠の国と競走馬の飼育とがストーリーの中心になる作品です。国王にも毅然と「ノー」と言えるリビーの爽やかさと濃厚な二人の愛の関係が描かれた傑作です。


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秘書の報われぬ夢 [キム・ローレンス]

SHALOCKMEMO1383
秘書の報われぬ夢 One Night to Wedding Vows
( Wedlocked 60 ) 2016」
キム・ローレンス 茅野久枝





 原題は「結婚の誓いへの一夜」
 ヒロイン:ラーラ・グレイ(?歳)/個人秘書/豊かな赤い巻き毛,細い顎,高くせり出した額,なだらかな頬,まっすぐな鼻,エメラルド色の瞳/
 ヒーロー:ラウル・ディ・ヴィットーリオ(?歳)/法律事務所経営者,イタリア名門貴族/身長190センチ,漆黒の眉とひげ,高くせり出した頬骨や額,鷲のような鼻と力強い顎の線/
 家族を大切にするイタリア人でありながら,次々に身近な人たちを亡くしていってしまうラウル・ディ・ヴィットーリオ。今最も頼りにしている祖父セルジオ・ディ・ヴィットーリオが余命数ヶ月のガンを患っていることを告げられ,暗い気持ちになります。祖母を亡くし,母を亡くし,父は自殺し,双子の兄を亡くし,妻と娘をも亡くしたラウルにとって,愛があっても自分には縁がないものと思い込まざるを得ない状況にあったのでした。唯一残された家族である祖父の意に沿うためにはどんなことでもしたい。そう考えていた矢先,祖父からはもうひ孫は見れないだろうが少なくとも嫁になる人と会いたいと強く望まれるのでした。すでに一度結婚し,妻には自分を愛しているのではなくお金に釣られたことを面と向かって言われ,意に沿わない妊娠と堕胎により娘を失ってしまったことを知らされたことにより,二度と結婚すまいと固く心に誓っていたラウルですが,祖父のこの希望は理解できるものでしたし,ディ・ヴィットーリオ家の最後の一人である自分に後継者ができれば家族ができることをも望む気持ちも強かったのです。そんなラウルに絶好の機会が訪れます。青年たちに道で絡まれていた女性をかばったところ,すぐさま自宅についてきて,しかも自ら深い関係を望んでくれたのです。それもすこぶる美しい女性でした。「賢明なリリーと奔放なラーラ」と周囲に思われている双子の姉妹の妹ラーラ・グレイ。それが彼女でした。「安全で安心できる,それが彼女の求める愛だった。友人たちは心奪われる情熱的な恋を願ったが,ラーラは安全と安心を望んだ。」そして上司が振られた恋人の代わりに個人秘書を誘ってやって来たイタリア旅行。上司に誘われた理由が元恋人の代わりだと知らされたとき,腹いせに自分にも恋人がいるんだと,そしてこれまでずっと機会がないまま持ち続けてきた純潔を捧げたいと思った男性こそ,自分を助けてくれたラウルだったのです。偉丈夫で逞しそうなこの男性こそ頼りがいがある人だと思った瞬間,純潔を捧げる覚悟ができたのでした。愛情ではなく欲望により深い関係を持った二人ですが,翌日ホテルに戻るラーラを送ったラウルは,自宅に戻るや,ラーラのことを調べ,帰りの飛行機の時間まで把握して,空港に向かったのです。病を患う祖父を慰めるため,期間限定の結婚をして欲しいという提案を持って。結局,上司に背いたことで職を失うことになってしまったラーラは,ラウルが次々に家族を失い,今まさに唯一の家族である祖父まで失おうとしていることに同情する気持ちをもち,この提案を受け入れます。そして慌ただしく結婚。しかも結婚式にやって来た母と姉は突然のこの結婚に心配な様子です。ラーラはこの結婚が期間限定であることは二人には話しませんでした。そして二人は互いに求め合う気持ちが結婚後も強く続き,ラーラはラウルを愛してしまいます。三ヶ月後妊娠に気付いたラーラ。そのことをラウルに告げようとしていたその時,祖父の危篤が告げられ,病院に向かったラーラは妊娠したことをセルジオに伝えることができたのです。しかし悲しみに暮れるラウルには告げる機会を逸してしまいます。
 ところがラーラの人生は順調ではありませんでした。突然の出血と流産。赤ん坊を失ったラーラは逆に積極的に活動し,体外受精まで考えます。姉のリリーが妊娠していることを知ったからでした。しかもシングルマザーになろうとしています。富豪の夫との間の子供は亡くなり,逆に姉はシングルマザーとなって娘エミリーと幸せになっている。「賢明なリリーと奔放なラーラ」とかつて言われていた双子の関係は「幸せなリリーと不幸せなラーラ」に変わってしまっていたのでした。ラウルとの間の関係も次第に難しくなっていき,ある日町で昼食を取っていると道路の向かいのホテルの前で夫と女性がキスしているのを見かけてしまいます。その相手はラウルの亡妻の親友ナオミでした。二人の元に猛然と駆けつけナオミを追い払ったラーラ。街頭でラーラはラウルを愛している,あなたはどうなのと問いただします。ラウルの沈黙がすべてを物語っていました。荷物をまとめ母の元に去って行くラーラ。「僕は何の価値もない男だ。ラーラはなぜこんな男を愛しているなどと言ったのだろう」という気持ちのラウルと,「私の人生そのものがゴミ箱行きなのだ。」と自虐的になるラーラ。この気持ちのすれ違いのままでは,二人の関係は永遠に平行線をたどっていくでしょう。さぁ作者はこの結末をどう付けるのでしょうか。
 目立たない方の姉がヒロインになるケースは多いのですが,華やかで目立つ方の妹をヒロインとした本作。不安感を抱きながらも強く生きて行こうとするラーラの幸せは最後の最後にやっと花開きます。感動の作品です。


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11月の閲覧履歴 [toppage]

月例の閲覧履歴のアップをすっかり失念していました。遅れましたが,11月分をアップします。

今月は30日間で13冊の読了でした。
月15冊を超えなかったのは2014年の10月以来ほぼ2年ぶりの低成長となってしまいました。ちょっと最近,未読の山がずいぶん高くなってしまっており,KINDLEの中もかなり雑多な本でごちゃごちゃして整理がつかなくなってきてしまいました。少し頑張ろうとと思いますが,ほぼ2日で1冊ペースが精一杯で,休日なども2冊は難しくなってきていますので,年内SHALOCKMEMO1400達成はかなり絶望のようです。

さて今月の閲覧履歴のベストスリーは,
1位 奇跡を授かったシンデレラ
 スーザン・メイアー SHALOCKMEMO1368
2位 弟の花嫁
 シャーロット・ラム SHALOCKMEMO1370
3位 罠に落ちたシンデレラ
 ダイアナ・ハミルトン SHALOCKMEMO1373
となりました。

なお,今月のイチオシ作品は,読了順に,
○ 奇跡を授かったシンデレラ
 スーザン・メイアー SHALOCKMEMO1368
○ 愛なき一夜の贈り物
 クリスティ・ゴールド SHALOCKMEMO1369
○ 蜂蜜より甘く
 ローリー・フォスター SHALOCKMEMO1371
の3作となりました。
閲覧履歴の最も多かった「奇跡を授かったシンデレラ」は「ザヴィエラの花嫁」シリーズの幕開けで,次作(2月刊行予定)の翻訳が楽しみです。
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10月の閲覧履歴 [toppage]

月例の閲覧履歴のアップをすっかり失念していました。遅れましたが,10月分,11月分をアップします。
今月は31日間で16冊の読了でした。月初めにSHALOCKMEMO1350を達成しました。SHALOCKMEMO1400をなんとか年内中にというのが目標ですが,このペースで行くとちょっと難しいかも知れませんね。

さて今月の閲覧履歴のベストスリーは,
1位 純潔の未亡人
 ケイトリン・クルーズ SHALOCKMEMO1356
2位 領主を愛した代償
 リン・グレアム SHALOCKMEMO1359
3位 思い出のなかの結婚
 キャサリン・スペンサー SHALOCKMEMO1363
となりました。

なお,今月のイチオシ作品は,読了順に,
○ 悲しいすれ違い
 サブリナ・フィリップス SHALOCKMEMO1353
○ 領主を愛した代償
 リン・グレアム SHALOCKMEMO1359
○ 思い出のなかの結婚
 キャサリン・スペンサー SHALOCKMEMO1363
○ 億万長者と無垢な家政婦
 ジェニー・ルーカス SHALOCKMEMO1364
の4作となりました。閲覧履歴の最も多かった「純潔の未亡人」はオススメ止まりでした。ケイトリン・クルーズ作品にはまだイチオシ・マークを付けたことがなかったですね。
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無垢なカナリアと王子 [ミシェル・スマート]

SHALOCKMEMO1382
無垢なカナリアと王子 Talos Claims His Virgin
( Kalliakis Crowns 1 ) 2015」
ミシェル・スマート 朝戸まり





 原題は「タロス,無垢な乙女を求める」
 ヒロイン:アマリー・カートライト(25歳)/パリ管弦楽団バイオリニスト,バイオリニストとメゾソプラノ歌手の娘/身長173センチ,華奢な体型,豊かな茶色の髪,真っ直ぐに通った鼻,細い顔,アーモンド形の目,グリーンサファイア色の瞳/
 ヒーロー:タロス・カリアキス(33歳)/アゴン王国王子(三男)/漆黒の髪,角張った顎,眉を分断するように刻まれた傷跡/
 名門パリ管(パリ管弦楽団)の第2バイオリン奏者がヒロインということで,ヒロインに期待して読み始めました。祖父である国王が不治の病に冒されていることを知ったアゴン王国の三王子は,他界したバイオリン奏者兼作曲家だった祖母レア王妃のつくった最後の作品を演奏するバイオリニストを捜すため,第三王子タロスにそのミッションを託します。世界数カ所でオーディションを行ってみましたが,なかなか適任者が見つからず,もはや時間切れで,最後にパリの地に来ています。オーディション途中の休憩に通りかかった部屋でタイスの瞑想曲を演奏している女性,これこそ求めていた音だと直感するタロス。25年前に両親を事故で亡くしたとき,レア王妃がタロスのベッドのわきで演奏して慰めてくれた時と同じ曲と音だと直感したのです。そして演奏者がパリ管の第2バイオリン奏者であることが分かりますが,彼女はタロスの申し出を断るのでした。タロスは劇場テアトル・ドゥ・ラ・ムジークのオーナーから劇場そのものを買い取り,承諾してくれなければ劇場を取り壊し団員もすべて解雇するぞと脅迫します。今彼女に断られてしまえば,1カ月後に迫った国王即位50周年記念音楽祭の公演に間に合わないからでした。彼女,アマリー・カートライトはバイオリニストの父とメゾ歌手の母という音楽家の両親を持ち自らも天才少女としてもてはやされた才能溢れる子供でした。しかし12歳の時,あることがきっかけで突然演奏ができなくなり,以来舞台恐怖症になり,長期の医師のカウンセリングの結果,オーケストラでは目立たない第2バイオリンの席であればなんとか舞台に立つことができるようになっていたのです。人前でソロを務めることなどとうてい無理な話でした。タロスの強引な説得に,過去の秘密を明かしてなんとか断ろうとしたアマリーでしたが,タロスは逆に自分がその病気を治してみせると豪語し,遂に契約書にサインさせてしまうのでした。自分の両親がイギリス出身の父ジュリアン・カートライトとフランス人の母コレット・バルテズだということも調べ上げていたタロスはクレタ島の隣国アゴンの第三王子であり,これほど強引に自分を演奏会での演奏をさせたがるのは何か別の理由があるはずだと思い質問を向けてみますがありきたりの理由しか言ってくれません。とりあえず1カ月の契約期間を全うしなければ仲間の団員たちが路頭に迷ってしまうことになります。「いいわ,行くわよ。その代わりどんな結果になろうと私は知らないから」とアゴン王国に向かったアマリーとタロス。天国のごとく美しい島の宮殿の近くにあるジムでボクシングの基本練習やアスレチックをすることで,恐怖心に立ち向かう心構えをつくらせようとタロスはアマリーを連れて行きトレーニングを毎日させ,祖母のつくった最後の曲の楽譜を与えます。あくまでも1カ月だけの契約で音楽祭が終わればパリに戻れることが契約だったため,互いに惹かれる思いを感じながらも深い関係になることを避けるようにしていた二人でしたが,自分の不安な気持ちを取り除くためにさまざまな手立てを使って自分を支えようとしてくれるタロスの優しさと頼りがいのある人柄,そしてなんと言っても長身で逞しい男性的な肉体的魅力にも惹かれ,遂にアマリーは25年間守り続けてきた純潔をタロスに捧げることにします。その夜から数週間は二人はいわば蜜月の期間を過ごします。始終触れあっていないと二人とも満足できない関係になってしまうのでした。アマリーの音楽祭で弾く曲をタロスはなかなか聴かせてもらえませんでした。完全にできあがるまでは人には聴かせられないというアマリーの気持ちをタロスも理解し,尊重したからです。王宮で開かれたプレイベントの皇太子主宰パーティにアマリーはタロスの同伴者として連れて行かれ,タロスの兄王子たちに会うことになります。幼い頃に両親に連れられてセレブたちのパーティに何度も参加した経験のあるアマリーは緊張せずに人々との会話を楽しみます。やがて,アストライオス・カリアキス国王本人の接見の機会がやって来ます。アマリーは「あの曲は愛の協奏曲で陛下に捧げた曲です」と話すと「なぜそれがわかる?」「あの曲には愛があふれています。妃殿下は愛をこめてあの曲を作られた。母としてではなく一人の女性として」と答えるアマリーに国王は王妃の使っていたバイオリンを渡し,「私がいなくなってからもあの子を頼む」とタロスとの関係を知っているように囁くのでした。この祖父のためにタロスは強引に自分を連れてきたのだと言うことを納得したアマリーは,国王のためと言いながらもタロスのためにも演奏を成功させようと決意します。一方タロスの方は逆に自分が強引さがアマリーの舞台恐怖症をさらに煽ってしまったのではないと考え,契約を破棄することを告げる手紙をアマリーに届けさせるのでした。互いに互いのことを思うがゆえに生じたすれ違い。この当たりの葛藤が本作のクライマックスです。そして開かれた祝賀音楽祭。舞台の最後に予定されていたアマリーの演奏する協奏曲はキャンセルすることにしていたタロスですが,進行係が告げた名前は「アマリー・カートライト!」でした。さて,演奏はどうなるのでしょうか。そして二人の関係は?
 静かに盛り上がっていく作品で特にクライマックスまでに二人の気持ちの高まりとすれ違い,そして周囲の人たちのかかわりが見事にマッチして,過去を乗り越えて行く二人の若者の成長譚になっています。読後感の素晴らしいイチオシ作品です。


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愛を夢見る家政婦 [ケイト・ヒューイット]

SHALOCKMEMO1381
愛を夢見る家政婦 Larenzo's Christamas Baby
( One Night With Consequences 14 ) 2015」
ケイト・ヒューイット 西山南海





 原題は「ラレンツォのクリスマス(生まれ)の赤ちゃん」
 ヒロイン:エマ・レイトン(27歳)/シチリア島の人里離れた山麓にある別荘の住込家政婦,エヴァの母親,外交官の娘/茶目っ気たっぷりな金色がかったグリーンの目,そばかすの散った輝く肌/
 ヒーロー:ラレンツォ・カヴェリ(歳)/会社経営者/黒髪,銀色の目,長身,筋肉質,片方の眉から顎に描けて頬に一本の傷が走っている/
 ラレンツォが別荘にやって来たのは久しぶりだった。そして弱々しくなっている彼を見ているうちに慰めたくなってしまい純潔を捧げてしまったエマ。翌朝警官が数人エマの寝込みを襲いラレンツォを逮捕すると同時にエマもまた警察の事情聴取を受けることになってしまうのでした。やっと釈放されても別荘はすでに入館禁止になっており,仕方なくエマはアメリカの姉の下で厄介になることになります。ところがあの一夜の結果,エマは妊娠していることに気付いたのです。このシリーズ(One Night with Consequences)も14巻目になりました。一夜の結果の妊娠がテーマのシリーズですが,今のところ27作目まで予定されています。とてもシンプルなテーマなのでもっと書き続けられていく可能性がありますね。
 シングルマザーであるとともに父親が終身刑で刑務所に入っている,生まれてきたこの娘をどう育てていけば良いのか。両親は離婚し,外交官の父の後をついて世界各地を周り写真を撮る生活をしてきたため,特に親しい友人もいませんし,両親を頼ることはできません。母はすでに再婚しアリゾナで生活しています。アメリカのニュージャージーに住む姉のところを頼って2年近くも姉のメーガン夫妻の狭いアパートに一室を借りて生活してきたものの,そろそろ自立した生活をしなければと思っていた矢先,アパートを訪れたのはなんと釈放されたラレンツォでした。
 クリスマスイブに生まれたのでエヴァと名付けられた娘の存在を知られてしまったエマは数日後,エヴァとともにニューヨークのラレンツォの高級フラットに移り住みます。セントラルパークを眼下に眺めるアパートで,三人の共同生活が始まります。ラレンツォの逮捕は実は彼の養父にも等しいベルトラノ・ラグーソが仕組んだ罠でした。しかし調べが進むうちに事件とラレンツォのつながりは無いことがわかり,ベルトラノは逮捕され,ラレンツォは釈放されたのでした。しかし世界各地に大々的に報道されてしまったこの事件はまだ取調中であり,世間の人々はラレンツォが本当の無実であるかどうかを疑っていましたし,エマですら,ラレンツォの無実を信じられませんでした。それは姉のメーガンも同じであり,ラレンツォを疑ってかかっているのです。「LCインベストメント」という新しい会社を興し再出発しようとしているラレンツォですが,世間の目は冷たくなかなか事業がうまくいかないようです。しかしかつて養護施設で育ち,その後路上生活を送っていた経験を持つラレンツォが子供に対しては心底やさしく,しかもナイーブで傷つきやすい心の持ち主だということを知ったエマは,すでにラレンツォを愛していることに気付くのでした。姉メーガンからの忠告でラレンツォを愛している自分が積極的に彼の心を取り戻さなければと決意し,ラレンツォの参加するパーティに同伴し,他の参加者たちがしているラレンツォを非難する噂話を耳にして,さらに愛を強くし,過去との決別をするためシチリアを再訪するようラレンツォを説得するのでした。しかし,ベルトラノと会ったラレンツォは恩人だと思っていたベルトラノが自分を完全に利用するためだけに面倒を見たことを知り,サラに深く傷つくのでした。ニューヨークに戻ったラレンツォをエマは立ち直らせることができるでしょうか。
 御転婆なエヴァの成長が三人の生活の進み具合を陰で物語っていて,快く読み進められる秀作です。「王と身代わりの花嫁(SHALOCKMEMO1195)」のヒロイン,オリビアと本作のヒロイン,エマが家政婦で外交官の娘であるという点で同じ設定ですが,少しずつ状況を変えることで二番煎じには全く感じられません。この辺が作者のうまさなのでしょうね。


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小さな悪魔 [アン・メイザー]

SHALOCKMEMO1380
小さな悪魔 Whisper of Darkness 1980」
アン・メイザー 田村たつ子




HQB-774
16.12/¥670/200p

R-0425
85.11/¥550/156p


 原題は「暗闇のささやき」
 ヒロイン:ジョアンナ・シートン(20歳)/お嬢様育ちの家庭教師/身長165センチ,細い肩からふくよかな胸の膨らみ,引き締まったウエストから腰の極性,ほっそりした形の良い脚,琥珀色の瞳/
 ヒーロー:ジェイク・シェルドン(39歳)/元コンピュータ技師/事故による傷跡が残る顔,年齢を全く感じさせない不思議な引力/
 現代版「エマ」。「これほど風変わりな仕事を紹介された人が他にいるだろうか」,家庭教師の相手は「男の子みたいな服装と口の利き方をする子供」11歳のアントニア(アニヤ)・シェルドン,そして母親はおらず,父親に至っては「事故のせいで仕事ばかりかマナーまでも失ってしまったらしい」元コンピュータ技師のジェイク・シェルドン。そんな家にやって来たジョアンナですが,学習意欲が無く反抗的な生徒に耐えきれず何度か家庭教師が辞めてしまい,母親が自分を捨てていなくなってしまっただけで無く家庭教師にも見放され完全に自信を失うとともに大人特に女性に対する不信感が強いアントニアに哀れみを感じてしまったジョアンナは,なんとかこの家で頑張ろうとします。ジョアンナ自身も父を亡くし,母親の愛情に恵まれず自分を気にかけてくれるの名付け親のみ,そしてジェイクの妹マーシャと名付け親が親しいことからこの家庭教師の勤め口を紹介されたからでした。しかし意外とアニアは父親に対しては素直で,家政婦のミセス・ハリスはもともとこの家を所有していた前の所有者の頃から勤めていた人ですべてを仕切ろうとします。その割には家の汚れや食事のまずさは気にしてはいないのでした。ジョアンナはアニアと二人でまず部屋の掃除や台所の清掃,食事作りから始めます。アニアも嬉々として一緒に作業をしてくれ,二人の間に心の交流が生まれるようになります。ジェイクは余計や仕事をする必要は無いと言いますが,家事をないがしろにしていた家政婦のミセス・ハリスを解雇する決断をするのでした。そんなジェイクに「殆ど20歳も年上でおまけに成人した息子(前妻の連れ子)までいる男性に異性としての魅力を感じるなんて」と悩みます。この当たりで「エマ」の現代版という設定の匂いがしてきます。自分の能力に自信が無いアニアですが,ジョアンナは彼女のたぐいまれな文章表現力に気付き,その能力を生かすためにも他の教科を勉強することが必要だと諭すとアニアは懸命に勉強するようになります。自然環境や歴史的遺産のたくさん残る北イングランドのこの地はまさに格好の学習材料のある土地でした。新しく家政婦としてやって来たミセス・パリッシュという未亡人はまさに家事の達人で,ジョアンナは彼女に尊敬の念をもち,ここの暮らしに馴染んでいきます。アニアとの関係も深まり,冬物の衣類を買うために町に出ようとしますが,その時隣家の息子ポールが町まで連れて行ってくれると言います。ポールがしきりと自分にモーションをかけてくるのには気付いたジョアンナですが,彼女の目にはもはやジェイクしか映っていませんでした。ジェイクを愛していることに気付いたジョアンナはなんとかジェイクに世捨て人的な生活から立ち直って欲しいと願いますが,逆に自分をジェイン・エアの作品の登場人物ロチェスターだと勘違いしていると非難し,ジョアンナを解雇すると宣言するのでした。失意のうちにロンドンの名付け親の元へ去って行くジョアンナ。そこでジェイクの妹マーシャと出会います。レーブンガースの家で何があったかを聞き,マーシャは兄の居場所を教えてくれるのでした。「君は完璧だ。問題は僕の方にある。廃人同然の僕がどうして君に人生を分け合って欲しいと頼めるだろう。だれもが尻込みするような問題児を抱えた中年男なんだ」と自嘲気味に話すジェイクに「馬鹿なことを言わないで,私があなたを愛していること知っているはずよ」とせまるジョアンナですが・・・。二人の関係はどうなっていくのでしょうか。その解決策は意外にもアントニアが引き金を引いていくのです。
 若く無垢なジョアンナと世捨て人のジェイクという異質な組み合わせに,傷ついた少女アントニアが絡み,三人が力を合わせて人生を築き上げていく壮大なドラマです。名手アン・メイザーらしい1980年の作品,オススメです。


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シチリア大富豪の誤算 [リン・グレアム]

SHALOCKMEMO1379
シチリア大富豪の誤算 The Sicilian's Stolen Son 2016」
リン・グレアム 藤村華奈美





 原題は「シチリア人の盗まれた息子」
 ヒロイン:ジェマイマ(ジェム)・バーバー(23歳)/幼児学校教師,双子の妹/姉ジュリー・マーシャルは病的なほど多情で冒険好き,金遣いが荒くギャンブル癖あり/薄青の目,金髪,豊かな胸と豊かな腰,輝かしく波打つ長い髪,ピンクの唇/
 ヒーロー:ルチアーノ・ヴィターレ(30歳代)/実業家,シチリアマフィアのボスの一人息子/193センチの背丈,プロのスポーツ選手並みの体と息を呑むばかりの容貌,ブロンズ色の肌,まっすぐな鼻,高い頬骨,濃い黄金色の瞳/
 顔も知らない父親と麻薬中毒の母親との間に産まれた双子。二人はそれぞれ別の家庭に養子に行き,全く性格の違った女性に育ってしまいます。10代後半に再会した二人ですが,イタリアの大富豪ルチアーノの代理母となったのは姉のジュリーでした。しかもジュリーは自分の犯罪歴を隠すため妹ジェマイマのパスポートを使い,身分を偽って代理母となったのです。それが混乱の元でした。ジュリーは産まれた息子ニッコロ(ニッキー)を育てる気持ちはさらさらなく,結局妹ジェマイマに子供を預けっぱなしにして自分は遊び歩いていたのです。実の母親が残した僅かな遺産も独り占めし,挙げ句の果てに事故で亡くなってしまいます。心優しいジェマイマの養父母はそんなニッキーをもジェマイマ同様に愛し,教師として働くジェマイマの協力者としてニッキーの養育にも当たっていました。そんな時,実の父親ルチアーノがニッキーを捜し当てたのです。パスポートの写真とは若干異なるジェマイマの容貌,ノーメイクの特に美人でも無いジェマイマの実物にもジュリーだと思い込んでいるルチアーノには双子の片割れだとは想いもしませんでした。そのため,弁護士の調査結果からジェマイマをジュリーだと思い込んで,その経歴から金目当てのこすっからい娘と軽蔑していたのです。ジェマイマの婚約者スティーブンは,婚約中でありながら美貌に優れたジュリーの誘惑に負け,ジェマイマを捨てたにもかかわらず,ジュリーが亡くなると復縁を狙ってきます。そんな男性の裏切りに耐えきれずにニッキーの養育のためには何でもしようと思っていました。しかしルチアーノがやって来て,自分がニッキーに対しては単なる叔母に過ぎずニッキーが連れ去られても自分には何の権利も無いことに気付き,とっさにルチアーノが自分をジュリーと勘違いしていることを利用してニッキーのナニーとして自分も連れ言って欲しいと頼み込みます。ジェマイマをすっかり母親だと思っているニッキーの姿を見て,ルチアーノも無理やりジェマイマとニッキーを引き離すことは得策ではないと思い,二人セットで,シチリア近郊の島の屋敷カステッロ・デル・ドローゴに連れて行くことにしたのでした。傲慢なルチアーノに対して初めは恐怖しか覚えなかったジェマイマでしたが,島での生活の中でかつてルチアーノが妻から裏切られ,一人娘とともに妻を失ったことを知り,代理出産という方法をとったルチアーノに心からの同情を寄せて行くのでした。そしてそれは心からの愛情に変わっていくのでした。
 弁護士の更なる調査の結果ジェマイマがジュリーとは別人であることが判明し,ルチアーノは激怒しますが,初めに思い込んでいたジュリーとは正反対で愛情に溢れ奢侈な生活をも望んでいないジェマイマの人柄を見抜いたルチアーノは,便宜的な結婚を提案します。そして心の中では次第にジェマイマに惹かれている自分に驚ろくとともに,かつて妻に裏切られて以来,もう女性を愛することはないという決心が次第に崩れていくのを止めることはできなくなっていくのでした。敵役として登場するのが,かつての妻の妹サンチアの存在です。なにかにつけて姉ジジとルチアーノの関係を利用して自分の書いたジジの伝記を世間に売り込み,あわよくばルチアーノを手に入れようと画策していたのです。ジュリーとジェマイマのように,ここにもまた姉妹を利用しようとする女性の存在,そんな二重のストーリーを作者は設定しています。名手リン・グレアムらしいストーリーテリングです。最後までそれほど劇的な事件があるわけではありませんが,ジェマイマとルチアーノの葛藤を中心に最後は5年後の家族の愛に溢れた生活を描き出し,心温まる物語に仕上がったイチオシ作品です。


タグ:ロマンス
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