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メイドは一夜のシンデレラ [アビー・グリーン]

SHALOCKMEMO1409
メイドは一夜のシンデレラ A Heir to Make a Marriage
( One Night with Consequences 16 ) 2016」
アビー・グリーン 藤村華奈美





 原題は「後継者づくりの結婚」
 ヒロイン:ローズ・オマリー(22歳)/メイド/肩まで波打った赤みがかった金髪,金色の細かな斑点のある大きくて緑色の瞳,白い肌にそばかす,170センチのほっそりした体型,まっすぐな鼻,ふっくらした唇,高い頬骨/
 ヒーロー:ザック・ヴァレンティ(ザカリー・リンドン・ホルト)(?歳)/実業家,リンドン・ホルト家の後継者/碧眼,金茶色の髪,浅黒い肌,力強い顎,引き締まった口もと/
 父の入院費を保証する条件である契約にサインしたローズ。それはリンドン・ホルト家の後継者づくりのためにザックを誘惑することでした。父親はリンドン・ホルト家のお抱え運転手,そしてローズ自身は屋敷のメイドに過ぎません。ザックが独立するためにリンドン・ホルト家を出てから母親を引き継いでメイドの職に就いたローズですから,ザックと顔を合わせたことがなかったのですが,父がお抱え運転手だったことから,その気になればその娘であることに気づいた可能性もないわけではないでしょう。しかしパーティに現れたローズの美しさを見る限りとても運転手の娘にしてメイドとはザックには思いも寄らなかったことは確かです。母方のリンドン・ホルト家から独立したザックは,祖母に当たるジョスリン・リンドン・ホルトが自分の子供にリンドン・ホルト家の全財産を受け継がせようとしていることを知っています。しかし,自分の両親を父の身分が低いからと勘当してしまった祖父母を許せず,父方のヴァレンティを名告って自分で事業を興し,成功を収めていました。そして恋愛/結婚ということが自分の両親のように不幸を生むものだと強く思っています。ある結婚披露仮面パーティに偶然現れた美女が,まさか祖母ジョスリンの命を受けたリンドン・ホルト家のメイドだとは全く気づかず,それでも魔法の森で出会った妖精のようなローズに惹かれてしまいます。ザックの方はもちろんアメリカで最も金持ちの独身男性という評判であり,雑誌で見たよりも本物の方がずっとすばらしいとローズたちまち夢中になってしまいます。もし雇い主のジョスリンとの契約さえなければ一度で良いから・・・。ザックに声を掛けられ,自分がメイドであることは明かしますが,「リンドン・ホルト家の」とは明かしません。ザックとは住む世界が違うと,自分を卑下するローズにザックはますます惹かれてしまいます。これまで出会った女性の自分への反応とはまさに真逆な反応だったからです。ザックが自分に惹かれるとは思いもしなかったローズですが,声を掛けられると判断力をなくしてしまい誘われるままについて行ってしまいます。そして自分の初めてを捧げてしまうローズ。雇い主との契約に強く罪悪感を覚え,ザックが電話を受けているスキに部屋を後にして逃げていくのでした。雇い主との契約は心臓病を患った自分の父の手術費用を出してもらう代わりに,ザックを誘惑しその子供をリンドン・ホルト家の子供とするというものでした。しかし元々気の進まないこの契約がローズの心に重くのしかかっています。すっかりザックに惹かれてしまい純潔を捧げた相手を愛さずにはいられず,しかし嘘をついて相手を騙すことに強い罪悪感を持っていたからです。自分の元を逃げだしたローズに対して,ザックは他の女性ならいつまでもしがみつこうとするのにアッサリと自分を捨ててしまったローズのことがますます忘れられなくなり,必死に探し回り,ついにローズの住まいを探し出すのでした。ところが一夜の関係の後再びローズはザックの元から逃げだします。今度はなかなか見つからずにいるとき,「マンハッタンのメイド,妊娠してリンドン・ホルト家の賞金を手に」という記事がでるのでした。「彼女はザックの実家のメイドで,彼の祖母に雇われていたというどす黒い感情が彼の胸に渦巻いた。祖母の仕業だと気づくべきだった。喜んで祖母の共犯者になりたがる女はいくらでもいるだろう。」と,ローズを探し出して手厳しい言葉を投げつけようとしますが,会ってしまうとすぐにも欲望を感じ,ザックはローズを求めてしまう自分をもてあまし,すぐそのままローズをイタリアの別荘に連れて行ってしまいます。もともと父の故郷だったその地で,妊娠したローズを監視するという名目で生活することになりますが,ザックはなんども「そんなことではないのよ」というローズの言葉に聞く耳を持ちませんでした。祖母と契約して自分を騙した女,しかし自分の子供の母親でもあり,その妖精のような美しさと純真さに惹かれる自分を抑えきれず,やがてザックはローズをニューヨークに返します。そしてローズの言うように父親が重い病気であることを突き止めるのでした。祖母との契約の件を除けば初めからローズは本当のことを言っていた。と気づいたザックはローズへのいとおしさを止めることができず,祖母との契約を破棄したローズの面倒を徹底的に見るようになるのでした。
 MB版の表紙にはゆたかな蜂蜜色の髪を持った女性が描かれておりローズの美貌を彷彿とさせます。そして口もとの愛らしさがまさに妖精を思わせます。しがないメイドのシンデレラストーリーですが,過去と家族の呪縛から逃れ愛を獲得していくザックの成長譚でもあります。「一夜の成り行き」シリーズ中でもイチオシの作品。


タグ:ロマンス
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鳥かごのシンデレラ [ペニー・ジョーダン]

SHALOCKMEMO1408
鳥かごのシンデレラ Some Sort of Spell
(ベレア家の愛の呪縛 1) 1987」
ペニー・ジョーダン ( Frances Roding 名義) 松本果蓮





 原題は「あるタイプの女性の魅力」
 ヒロイン:ベアトリス(ビー)・ベレア(27歳)/作曲家個人秘書/小柄で丸みを帯びた体型,鳶色の髪,はしばみ色の瞳,なめらかな肌/
 ヒーロー:エリオット・チャーマーズ(30歳代)/実業家/190センチ,シルバーグレーの瞳,焦げ茶色の髪/
 ウィンブルドンにあるビクトリア朝様式の立派な屋敷。俳優だった両親が亡くなり,兄弟姉妹の面倒を見ながら母親代わりを勤めるベアトリスは,もう27歳ながら,男性との交際の経験もなく青春を過ごしてきました。双子の弟に妹そして末の弟,そこに両親の再婚によって生まれた異父妹とその異母兄。大家族といっても過言ではない七人の男女が織りなすシリーズの開幕です。といっても,本作で一気に二人が片づく予定ですから(笑)。5年前に亡くなったペニー・ジョーダンが前世紀末に別名義フランセス・ロディングで描いた未訳のシリーズです。さて,双子のベネディクトとセバスチャンは背が高く金髪の21歳,18歳のミランダは黒っぽい髪,末弟で17歳のウィリアムは金髪とそれぞれ両親の特徴を引き継いでいるようです。ベアトリスの両親チャールズとクレシダは結婚,離婚,再婚とクレシダが19歳でベアトリスを出産し,その後すぐ離婚,そしてそれぞれが再婚し,クレシダは歳の離れた実業家と再婚し,前妻の子供エリオットと,再婚相手との娘ルシーラが誕生します。つまり母の再婚によりベアトリスには義妹とその異母兄という複雑な兄弟ができたわけですが,エリオットとはまったく血のつながりがないことになります。その後,両親は再度結婚し,前述の四人の弟妹が誕生したという複雑な関係になっています。本作ではこの血のつながりのない義兄エリオットとベアトリスの運命的なロマンスを描いています。俳優同士の元も生まれた四人と美貌の母後を受け継ぐルシーラはそれぞれ美しさもスタイルの良さも兼ね備えた男女でした。一人ベアトリスのみが女性らしい起伏に富んだ体型をしており,自分は弟妹たちのようにはなれないとあきらめの気持ちが先に立ってしまいます。そのため,エリオットがフラットの修理を理由に同居し,ベアトリスになにかとちょっかいを出しても,逆に自分はからかわれているだけだと物語の終盤に至るまでずっと思い込んでいるのです。亡き母の美貌を受け継ぎ女優を目指すルシーラは,ベアトリスを「醜いアヒルの子」と呼び,平凡で地味なかっこうしかしないベアトリスに何かと難癖を付け自分勝手に生きています。下の弟妹たちはすっかりベアトリスを母親代わりとして頼り切り,ビーと呼んでなにかと頼み事をするのですが,そろそろ自分自身の人生も考えていかなければと一念発起して秘書として働くことを決意したのでした。それには弟妹たちはみな反対するのですが,一時交際していたロジャーもベアトリスとの将来は弟妹たちもついてくることだと知り,さっさと逃げだしたのでした。そんな状況がいつまでも続いては人生がなくなってしまうと,一大決心したのです。きょうだいたちの面倒を見る新たな家政婦も必要ですが,エリオットのナニーだったヘンリエッタ・パーカーが来てくれ,我が儘な弟妹たちともうまく生活してくれるようになり,ベアトリスの仕事もうまくいき始めます。
 エリオットが,このウィンブルドンの屋敷に越してきたのはもちろんフラットの改修という理由もあるのですが,それは言い訳で,本当はベアトリスへの気持ちを抑えきれなくなっていたからでした。しかし,大勢の兄弟の中でベアトリスに気持ちを伝えることはできません。そのため何かと理由を付けてはベアトリスを連れ出し,時々気のあるそぶりを見せるのですが,男性経験のないベアトリスはそれに気づかないこともあり,逆にエリオットを意識するあまり反抗的な態度も取るのでした。それを弟妹たちから指摘されるとますますエリオットへの反感が増してくるのですが,次第にエリオットを男性として意識するようになっていきます。「エリオットが女性としての私に興味があるように振る舞った理由を突き止めよう。絶対に何か裏があるはずだもの」と考えてしまうベアトリスでした。しかしエリオットに連れ回されるたびに,「私はなぜエリオットの言いなりになっているのかしら」という思いと「人生を一変させる真実が,波のようにのみこむ・・・私はエリオットを心から愛している」と気づいたことで,少女の心から大人の女性への心へとベアトリスが成長したことがうかがえます。エリオットのベアトリスへの褒め言葉「最高の骨格と透明感のある美しい肌を持つ君」という表現はまるで人物模型を表現するようでこの言葉で女性が自分が褒められたとは感じないだろうと思うのですが・・・。
 シリーズ開幕とあって登場人物が多いので,二人のロマンスにはあまり触れられませんでしたが,ベアトリスがエリオットから逃げ回りつつも深い関係になっていく様子がいかにも純情な少女らしさと相俟って思わず微笑んでしまう作品になっています。出張先のイタリアで出会ったルチアによって本来の美しさに気付き,女性としての自信をもっていくところがとても印象的です。


タグ:ロマンス
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愛という名の足枷 [アン・メイザー]

SHALOCKMEMO1407
愛という名の足枷 Morelli's Mistress 2016」
アン・メイザー 深山 咲





 原題は「モレリの愛人」
 ヒロイン:アナベル(アビー)・レイシー(?歳)/カフェ兼書店店主/美人で,膝のところで組まれた細く長い脚,長身,卵形の顔,高くまっすぐな鼻,魅惑的な唇,プラチナブロンドの髪,桃のようになめらかな肌/
 ヒーロー:ルーク・モレリ(?歳)/開発会社社長/すらりとした長身,黒い髪と浅黒い肌,危険なまでに魅力的/
 アン・メイザー17冊目の読了本です。イギリス,ロンドンとウィルトシャーの小村が主な舞台でした。ウィルトシャーはイングランド南部バースにも近く,ソールズベリーやマルボロといった知名度の高い町も抱える地域のようです。
 冒頭,5年前の二人の出会いと現在が交錯したミステリアスな展開が描かれます。1946年生まれのアン・メイザーは齢70を超えていますが,未だに凝ったストーリー展開と登場人物の心理描写の見事さが光ります。そして,常に社会問題を織り交ぜている点も,見識の高さがうかがわれ,ロマンス作品というだけでなく,苦悩を抱えた人間の生き方,愛の偉大さが主題になっていることも作品の魅力の源泉と言えそうです。
本作のヒロイン,アビー・レイシーの美しさ,スタイルの良さが強調されると同時に場面場面でのアビーのファッションの細かい描写がリアルです。ウィルトシャーの片田舎アシュフォード・セント・ジェームズの再開発を巡り,5年前に一夜の関係を持ちかかったアビーとルークが再会します。アビーは当時まだ人妻でした。しかし夫の虐待を受け,母の病気療養にかかる費用をネタに離婚できずに悩んでいたところでした。その事情を知らなかったルークはアビーを身持ちの悪い悪女と決めつけてしまったのです。しかし5年後に再会しても,なおアビーの美しさや魅力は反って増していました。今回は再開発を担当するのはルークの会社。離婚後なけなしの遺産をつぎ込んでなんとか経営している小さなカフェ兼書店も再開発されれば立ち退きを要求され,その後どうやって生活して良いか方法を考えなければならなくなります。しかしアビーの心配は生活のことよりも自分を悪女と思い込んでいるルークの存在の方でした。周囲の住民たちにはアビーとルークの関係は知るよしもありませんでしたが,時折高級車で訪ねてくるルークがアビーと知り合いであることはなんとなく想像がついたのです。隣家の写真店主グレッグ・ヒューズなどはアビーが知り合いであることを利用してルークに再開発を思いとどまるために交渉していると思い込む始末です。一方ルークの父オリヴァー・モレリは近くで療養中であり,ロンドンから時々ルークはこの地を訪れることになっていますが,それはアビーの元を訪れる言い訳になってしまいます。10歳の時,母親が自分と父親を捨てて他の男性の元に走った経験から,ルークは女性との関係を長く続けることを頑なに拒否してきました。アビーが既婚者であることがわかったとき,強くアビーを非難したのもそんな経験があったからでした。やがてアビーの母は亡くなり,やっと暴力的な夫との離婚が成立して現在の商売を始めたアビーにとって,5年前のルークとの一夜の出会いは忘れてしまいたい出来事でもありましたが,相変わらず見るだけで眼を引くルークに惹かれてしまう気持ちを抑えることは難しいことでした。誘われるままにカフェの2階の住居で関係を持ってしまうアビー。しかし店員に体調の変化を指摘されて自分がルークの子供を身ごもったことを知ったアビーはルークの会社を訪れて事実を告げます。同時にシングルマザーとして生きて行くことも宣言するのでした。犬のハーレーと自分と子供の二人と一匹の生活が自分の望んでいること,社会的な成功者で富豪のルークとの愛のない結婚生活など考えられない。でもルークに会うだけでルークを求めてしまう自分がいる。でもルークは結婚を求めているのではない,愛人を求めているのだ。そう言い聞かせているアビーでした。
 5年前に何か事情があって夫がいる身でありながら自分と出会ったのではないかと考え始めたルークは,密かにアビーの元夫ハリーのことを調べるように自分の運転手であるフェリックスに命じたあと,交通事故に巻き込まれ,命を落としかける大怪我を負います。ルークは意識が混濁する中アビーの名前を呼びますが,アビーは家族ではないことで集中治療室に入ることはできませんでした。その後一般病室に戻った後もルークはアビーの入室を拒否するのです。次第に目立ってきた腹囲を気にしながらひたすら控え室で待つアビーに,ルークの父親は病室に入るように気を遣ってくれます。しかし退院後もルークはアビーの来訪を断り続けるのでした。事故の結果頭蓋に穴を開けたり内臓の一部摘出そして片足を引きずるようになってしまったルークは,自分の世話をアビーに押しつけることはできないと,自分の気持ちを隠し,アビーに会わないようにしようと決意していたのです。その時はすでにフェリックスからアビーが元夫から暴力を受けていたことを知ってしまっていたのでした。これ以上アビーを苦しめることをしたくないというのがルークのぎりぎりの決断でした。しかし敢然とアビーはルークの父親の許可を得てルークに会うのでした。どんなにやつれても,どんな姿でもルークを愛する自分の気持ちを偽ることはできない。逆にルークを愛おしく感じる自分の気持ちは強まるばかり。そんなアビーの気持ちの機微を作者は見事に描ききっています。
 少々長いエピローグで二人の1年後のことが書かれています。無事産まれた息子マシュー。そして結婚後もますます強まる二人の愛が描かれていて,読者は読了が幸せな気持ちになります。バツイチ同士の純愛物語ですが今月最高のイチオシロマンスです。


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白雪姫の奇跡 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1406
白雪姫の奇跡 Spellbinding 1990」
シャーロット・ラム 松村和紀子





 原題は「呪文で縛る,魅了する」
 ヒロイン:ベリンダ・ハント(22歳)/元保険会社社員(イギリス中に支店網を持つ大きな保険会社)/緑色の目,赤銅色に波打つ髪/
 ヒーロー:ヴィンセント・ギャレット(?歳)/投資銀行経営/筋骨逞しく,肌はオリーヴ色,目は淡い灰色,意志の強そうな顎,引き締まった厳しい顔つき,持ち家はディリンガム・プレイス,元恋人マグダリン/
 8カ月間意識不明のまま入院。助手席に同乗していた車にトラックが突っ込み,その事故で意識が戻らないまま8カ月間ベッドに横たわったままだったベリンダが,目覚めた!病院の医師も看護師も奇跡だと大喜びをしますが,ベリンダにとっては意識が戻ってからの方が大変でした。真実を知るまでも時間がかかるものですね。「雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪」が童話の白雪姫の形容ですが,本作のベリンダは,赤銅色の髪と緑色の目です。また文中「シャロットの姫」という表現も登場しますが,おそらくテニスンの詩を指していると思われますが,外に出ると死んでしまうという呪いをかけられ,鏡を通してしか外を眺められない姫と同じようにベリンダも退院後も体力回復が十分ではなく外出できなかったことを指します。8カ月もベッドに縛り付けられれば,脚の筋肉も相当落ちるでしょうし,ふらつかずに歩くこともかなり難しい状態だったろうと思われます。病院でのリハビリだけでは不十分で退院後も日々,リハビリに取り組まなければならないでしょう。そんな心細い状況の中,婚約者のリッキーの兄ヴィンセントが放った一言は,ベリンダの目覚める一週間前にリッキーはすでに結婚したということでした。シャーロット・ラムらしい独特で童話的なストーリー展開。たちまち彼女の物語の世界に読者を引きずり込みます。原題で表されているようにヴィンセントの魅力に徐々に嵌まっていくベリンダ。そしてヴィンセントもまた幼なじみマグダリンではなく,弟リチャード(リッキー)の恋人だったベリンダを愛してしまっていたのです。リッキーと交際はしていたものの,リッキーは末っ子の甘えん坊で,人を愛するよりも自分が愛される方を選ぶタイプ。しかも事故の影響で自分ではなくベリンダが昏睡状態に陥ったことへの罪悪感を強く持っていたのでした。そのため両親やリッキー夫妻に会わせたヴィンセントに恨みの気持ちを抱いたものの,リッキーへの思いを吹っ切ることができたベリンダ。そんな何でも自分の思いどおり事を運んでしまうヴィンセントを強い口調で非難することはあっても,それは裏返ってヴィンセントに甘えてしまう自分を認めたくないという気持ちの表れでもあったのです。退院後ヴィンセントの家で過ごすことになったベリンダ。ヴィンセントはリッキーと会わせたくないために,ベリンダを監視するという名目で家に連れて行ったのですが,それはあくまで名目で,ベリンダに強く惹かれてしまい,深い関係を持ちたいという欲望が湧いていたからでした。そして,ベリンダもまた「私はヴィンセント・ギャレットに恋をしている。血の気の引いた顔を両手で覆い隠したが,そうしたところで真実から逃れることはできなかった。彼と目が合うと,心臓が激しく打った。私は彼を愛している。なぜそんなことに?いったいいつ恋をしてしまったの?」ヴィンセントの両親は初めベリンダを受け入れる気持ちはありませんでしたが,リッキーとメグの仲を裂こうとしているのではないというベリンダの言葉を信じたようです。しかもヴィンセントとマグダリンの関係ともかかわらないようにという言外の圧迫を感じたベリンダに対して,ヴィンセントはきっぱりとその懸念を打ち消すのですが,自分がヴィンセントから想いを寄せられていようとは思いも寄らないベリンダ。ヴィンセントは単に欲望を持っているに過ぎないと思っていたのです。ヴィンセントのプロポーズをきっぱりと断るベリンダ。さぁ二人の間の気持ちのすれ違いは解消するのでしょうか・・・。体調が少し好転してきたベリンダはやはり母親の元に帰るべきだとニュージーランド行きの飛行機に乗ろうとヴィンセントの家を密かに脱出するのですが,空港近くのホテルについて翌朝のフライトを待っている間に,ヴィンセントに発見されてしまいます。「私の望みは愛よ」と告白するベリンダ。それに対して,ヴィンセントもまたマグダリンとの関係を明かすのでしたが・・・。そして入院中,昏睡状態にあったときにヴィンセントが取った行動を知って,ベリンダはヴィンセントの愛を確信するのでした。「白雪姫」「昏睡状態なんていうよりずっと素敵だわ。」「するとあなたは王子様かしら?」この一文に本作の本題が凝縮されています。


タグ:ロマンス
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億万長者の怯えた花嫁 [ジェニファー・フェイ]

SHALOCKMEMO1405
億万長者の怯えた花嫁 The Greek's Nine-Month Surprise
( Bride for the Greek Tycoon 2 ) 2016」
ジェニファー・フェイ 松島なお子





 原題は「ギリシア人の9カ月のサプライズ」
 ヒロイン:ソフィア・ムーア(?歳)/ホテルの客室清掃スタッフ/魅惑的な唇,美しい体つき,茶色の瞳,笑顔と快活さが魅力/
 ヒーロー:ニコラオス(ニコ)・ストラヴォス三世(?歳)/複合企業の経営者,キーラのはとこ/ブルーグレイの瞳,黒髪/
 「キリアカスの花嫁(SHALOCKMEMO1357)」の姉妹編です。リゾートホテル「ブルー・タイド・リゾート」で開かれたキーラとキリアカスの結婚式披露宴の場面から幕が開きます。キーラのはとこニコラオス(ニコ)とキーラの同僚ソフィア。「ソフィアはニコのことを古風だと感じていた。感情を表に出さず,踊るときの振る舞いも礼儀正しい」ニコに対してアタックをかけるソフィア。そして三ヶ月後。ソフィアはニコの子供を身ごもっていることに気づきます。「ストラヴォス・トラスト」という複合企業を一人でしょって立つニコは仕事一辺倒ですが,あの時の一夜からソフィアのことを忘れられずにいます。そしてソフィアに告げられた「妊娠」という一言に,ニコは驚愕します。自分が父親?女性からしつこくつきまとわれるこれまでの体験とは逆に,子供は一人で育てるというソフィアの言葉に,そしてソフィアが客室清掃係の制服を着ていたことに,初めてソフィアの職業に気づいたニコ。いつかは結婚しなければと思いつつも,キット便宜的な結婚しかできないだろうと思っていたニコは,ソフィアに強く惹かれているにもかかわらず愛のある結婚などは思いも寄らなかったのです。しかも自分を求めようともしないソフィアに戸惑いと逆に強い興味を抱いてしまいます。その後祖父からの遺言に従って,世界各地に散在する企業帝国のホテルに少しずつ残された祖父からの遺産を確かめる旅にソフィアを清掃スタッフとして同行し,ソフィアの夢である大学への進学と就職を支援する提案を持ち出したニコは,今すぐにはソフィアと離れることができないと考え,欲望を抱いていることにさらに驚くのです。そして旅の途中での再度の熱い夜。そしていつしかソフィアもニコからいずれ飽きられてしまうという怖れと,それでも少しの間だけでも魅力的なニコと一緒にいることができるという甘えを自分に許そうという気持ちとの間で揺れ動きます。ハワイでの滞在を延ばしていた二人に決定的な瞬間が訪れます。ニコはついにソフィアにプロポーズするのですが,ソフィアは無碍にもニコの申し出にノーを突きつけるのでした。社会的,経済的な大きな壁が二人の間にはそびえ立っていることと,男性に頼った生活をしたくない,いずれ飽きられる自分が自立しなければこの子供を育てることはできないという強い責任感が言わせた言葉でした。そして最後に残されたプライドが・・・。ニコはソフィアへの気持ちをどうにもうまく表現できないでいたのです。金銭的援助や子供の将来を考えての便宜的な結婚を考えている自分の言葉が,ソフィアへの愛であることに気づいていなかったのです。そのため愛しているの一言を思いつかずに,ソフィアからノーと言われたことを理解できませんでした。しかし,最後に祖父からの手紙の言葉にはっとしたのでした。「失敗から学べ。仕事に没頭しすぎて大切なものをおろそかにしてはいけない。人生で最も大切なものは愛だということだ。」という祖父の言葉に,初めてニコはソフィアへの気持ちが愛であることを知るのでした。
 キーラとソフィアはすっかり親友になってしまっています。そしてニコを案ずるキーラの気持ちがソフィアにも伝わっていくところが,ホッとさせます。エピローグのギリシアでの出産と四人プラス一人の男の存在がとても平和で愛に溢れた場面になっており,ロマンスの王道をしっかりと見せてくれます。ジェニファー・フェイ2訳目の作品ですが,作者の実力が評価できる作品です。


タグ:イマージュ
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ボスへのせつない恋の証 [モーリーン・チャイルド]

SHALOCKMEMO1404
ボスへのせつない恋の証 
( Pregnant by the Boss 2 ) 2016」
モーリン・チャイルド 野川あかね





 原題は「ボスのための赤ちゃん」
 ヒロイン:ジェニー・マーシャル(?歳)/グラフィックデザイナー/小柄で抜群の曲線美,ブロンドの巻き毛,ブルーの目/
 ヒーロー:マイク・ライアン(?歳)/「ケルティック・ノット・ゲームズ」共同経営者/長身,ブルーの目,広い肩幅,黒髪,ブルーの目/
 ゲーム会社「ケルティック・ノット・ゲームズ」の三人の共同経営者のロマンスを描いたトリロジーの第二作目です。前作「億万長者の残酷な求婚(SHALOCKMEMO1308)」はアイルランドが舞台で赤毛の美女アーニャ・ドノヴァンがヒロインでした。本作は舞台をアメリカ西海岸ネバダ州ラフリンに移し,やはりゲームの雰囲気をもつホテルの改修をするために会社のグラフィックデザイナーとして才能をもつブロンドの美女ジェニー・マーシャルがヒロインとなります。作中には次作のヒロインとなるケイト・ウエルズの存在がちらほらしていますが,赤毛,ブロンドときて,おそらくブルネットか?で,HQ版のペーパーバックの表紙を見ると案の定,パープルのドレスを着たブルネットの美女が映っていますから,三人三様の女性を登場させたのだなと設定の工夫が見られます。次作「Snowbound with the Boss」の翻訳が待たれますが,3つ目のホテルはラスヴェガスの南ですが人口七千人ほどの町ラフリン(Laughlin)のようです。モハーベ湖から流れるコロラド川,スピリット山と内陸ではありますが豊かな自然が近くにある変化に富んだ場所のようです。ラスベガスの空港から車で40分ほどとありますから交通の便も良いようですね。ググってみるとすぐに「Harra's Laughlin casino & hotel」の写真が出てきますが,窓からの眺めが砂漠と川とオアシスという3拍子揃った風光明媚なところのようです。ちょっとエジプトの風景といわれれば納得できるような場所です。このホテルとカジノがセットになったリゾートがラスベガスでは当たり前なのでしょう。日本でもIR法が成立しましたから,数年後にはこのようなリゾートがこれからできるのでしょう。さて,「ケルティック・ノット・ゲームズ」ではこのようなホテルを大改修し,カジノではなく自社のゲームソフトに登場する伝説と神秘にあふれた架空空間を作り出そうとしているのです。上記のように第1作ではアイルランドに,そして本作ではアメリカ南西部に,そして最終巻はアメリカ北部に最大規模のホテルを買収しています。本作の舞台はこのラフリンの「リバーホーント・ホテル」の改修工事が始まっているところです。ホテルのホールや廊下の壁画を担当するのはジェニー・マーシャル。そしてこのホテルの主担当は共同経営者の一人マイク・ライアンです。二人はかつて出会っていたのですが,マイクの誤解から気まずい別れを経験しています。しかし運命は二人を仕事上も大きく近づけたのでした。そして最初の出会いの時に共にした一夜にジェニーの体にはマイクの命の元が芽ばえていたのでした。しっかりした対策を取ったつもりでしたが,製品が期限切れだったことに気づかなかったため,愛の結晶はしっかりと根付いたのでした。このことがあろうとなかろうと,実は二人は出会ったときから互いを意識し,強烈に惹かれあっていたものの,昔の体験からなかなか互いを正直に認めることができなかったのです。ジェニーは親に捨てられ,おじのハンク・スナイダーとハウスキーパーのベティ・サンダースによって12歳から育てられ大学を出るまで援助を受け続けてきたのです。そして絵画への才能を見つけてくれたのもおじでした。一方,マイクの方は,13歳の時キッチンで母が泣いているのに出くわし,事情を聞いたときに父の愛人の存在を告げられ,それからは父への軽蔑の念を抱き続けていたのです。弟のショーンにはこのことを隠し続けており,弟はこの間の事情は知りません。そのため結婚,家庭というものに不信感を抱き続けてきたのでした。共同経営者のブレイディがアーニャと結婚してむつまじく暮らしているのも,自分には縁遠い話しだと考えています。ところがジェニーに強く惹かれてしまう自分の気持ちに混乱し,なにかと難癖を付けてはジェニーを傷つけようとするのでした。客観的に見るとこのマイクのけんか腰の言葉は理由があってのことだと思われますが,マイクを愛してしまったジェニーは逆にマイクをかばうようになっていくのです。これこそ愛の力。そしてそれを乗り越えなければ自分とマイクの将来はないと思い,妊娠を知らせた後もマイクのプロポーズを断っていきます。おじハンクとベティが育児を手助けするために,おじは自分の会社を売却してフリーになってくれたのです。シングルマザーとして充分やっていけるだけの条件が揃ったこともジェニーにとってはありがたいことでした。さて,マイクの方は両親の不和の原因とその真実が語られる時がやって来ます。そこで知ったことの真相にマイクは愕然とします。実は父の裏切りは無実だったことを。しかしそのことを話してもマイクは信じないだろうと両親が真実を語ろうとしなかったこともあり,これまで誤解のままになっていたのです。マイクがそれまでにジェニーに投げつけたひどい言葉を取り消すことはできず,会社を去ろうとしているジェニーを引き留める方法も思い浮かびません。さて,マイクの信用回復の手段とは・・・?
 ジェニーとマイク。このいかにも古風なアメリカ風な名前の二人が本音をぶつけ合う姿に爽やかさを感じる作品です。


タグ:ディザイア
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アテネから来た暴君 [ジュリア・ジェイムズ]

SHALOCKMEMO1403
アテネから来た暴君 A Tycoon to be Reckoned With 2016」
ジュリア・ジェイムズ 馬場あきこ





 原題は「無視できない富豪」
 ヒロイン:サラ・フェアハム(サビーヌ・サブロン)(25歳)/非常勤教師,ナイトクラブ歌手,ソプラノ歌手/光沢のある長い金髪,緑色と灰色とその他いくつかの色に変化する瞳/
 ヒーロー:バスティアン・カラヴァラス(30歳代)/実業家/180センチを超える身長,黒っぽい眉,整った鼻筋,官能的な唇,逞しい顎の線/
 「いいえ,これは恋ではない。欲望だ。私が感じているのはそれでしかない。」と自分に言い聞かせるサラ・フェアハム。ナイトクラブの歌手サビーヌ・サブロンと偽ってフィリップとともにやって来た別荘で,なにかと自分の感覚に火を付ける男性バスティアン・カラヴァラスに対して,何でもないと思い込もうとします。いとこのフィリップはもうすぐ21歳になり,カラヴァラス家の莫大な遺産を受け継ぐことができるのですが,それを管理するのはバスティアンの役割でした。自分が常に女性から言い寄られて,かつて大金を持ち逃げされた経験から,バスティアンはサラの噂を聞いて,フィリップを手玉に取る経験豊富な妖婦だと思い込みます。音大卒でソプラノ歌手の彼女が場末のナイトクラブの歌手としてアルバイトをしながら,芝居の主役として(ミュージカルでしょうか)公演の練習中。「戦争の花嫁」という作品では戦争を巡る悲劇のヒロインの役柄です。この役の評価次第では,あきらめて教師としての道を歩くしかなくなるとぎりぎりのところで生活と練習とを両立させているところですが,フィリップが年上の彼女に大金をつぎ込むようなことをさせるわけにはいかないと,バスティアンは自分がサビーヌを誘惑することを決意するのです。というより,もうサビーヌに自分がどうしようもないほど惹かれてしまっているのでした。ナイトクラブの奥の席から鋭い視線を浴びせてくる長身の男性にどきりとしてから,歌い終わって控え室にその男性がやってくるのを密かに心待ちにしてしまうサラは自分の気持ちになんとか打ち克とうとあがきますが,バスティアンがフィリップのいとこだと知ります。無邪気に誘ってくるフィリップの誘いを断ると傷つけてしまうと自分に言い訳をしてフランス南部のリゾート地帯,キャップ・ピエールの別荘で,サラとフィリップとバスティアンの奇妙な生活が始まります。「サビーヌでいることは私を守ってくれる。バスティアンが仕掛ける私の感覚への攻撃から守ってくれる。」とひたすらサラであることを隠し続け,バスティアンもすっかりサビーヌだと思い込み,やがて二人は深い関係を結んでいくのでした。なかなかOKの出ないサラの役柄を象徴するアリア。その練習も行き詰まっていき,監督のマックスはサラに1週間の休暇を与えるのでした。そしてついにバスティアンがサラの正体を知る時がやって来ます。恋に破れたサラ。しかしそれは見事に役柄の肥やしになるのでした。そしてついに声楽祭の公演の日がやってきます。フィリップの財政的援助もあり,余裕を持って公演を打ち上げた劇団は,大成功のうちに無事終了します。フィリップに誘われたバスティアンですが,断りの連絡を入れ,こっそりとホールの最上段でサラの歌を見ていたのでした。そして・・・。
 ちょっともの悲しい雰囲気の漂う大人の恋の物語です。舞台もモンテカルロ,リヴィエラなど南仏の明るい光に溢れた退廃的な風景とフィリップの無邪気なはしゃぎぶりが,サラとバスティアンの暗い愛を照射し,光と影がくっきりとした見事な舞台設定になっています。


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契約外のシンデレラ [キャシー・ウィリアムズ]

SHALOCKMEMO1402
契約外のシンデレラ Seduced Into Her Boss's Service 2016」
キャシー・ウィリアムズ 東みなみ





 原題は「彼女のボスの仕事上の誘惑」
 ヒロイン:サニー・ポーター(24歳)/法律事務所事務員/身長172センチ,銀色がかったブロンドの長い髪,緑色の瞳,天使のようなハート形の顔立ち,短くてまっすぐな鼻,ふっくらした完璧な形の唇,バレエダンサーのように手足が長く細身で優雅な仕草/
 ヒーロー:ステファノ・ガン(31歳)/会社経営者/長身,黒髪,黒い瞳,エキゾチックなブロンズ色の肌,森林のような清潔でとことん男らしい香り/スコットランド人の裕福な地主の父と亡き両親から相当な遺産を受け継いだイタリア人の母との間に産まれた一人息子/
 「マーシャル,ジョーンズ&ジョーンズ」法律事務所に勤務するサニー。無口で近寄りがたい雰囲気を漂わせているのは,最近,失恋を経験し仕事一筋に生きようと,そして弁護士を目指そうという目標を持っていたからでした。その事務所の弁護士に仕事を依頼しに来たのが富豪のステファノ・ガンです。身長190センチの堂々たるハンサム。そして訪れた先のキャサリンとの間に交際の噂が事務所の中では囁かれていました。妻アリシアとの離婚,そして事故死,残された一人娘フローラとの気まずい関係,母親からの再婚の催促,その候補の一人がキャサリンであることはステファノも気づいています。ところがステファノが目にとめたのは,キャサリンではなく,事務員のサニーだったのです。父親が誰かも知らず,酒と薬物と男中毒の母親の元で育ち,学校へも満足に通えなかった11歳までの幼少の頃,そんな不幸な育ち方をしたサニーでしたが,母親のようにはなるまいという強い決意で里親の援助で13歳で奨学金をもらい寄宿学校へ通うことができるようになったサニーでしたが,入学当初から同級生からのいじめ,さらに保護者たちからの冷たい視線に耐えて十代を過ごした彼女が無口で人を信用しない性格になったのも当然のことでした。大学卒業後の2年前から勤め始めた法律事務所と夜のウエイトレスのアルバイトをこなし,しかもどんな仕事にも熱意を持って取り組む彼女は格別美しく,ブロンドの髪に緑色の目,そして天使のような顔立ちをできるだけ目立たない服装に隠し,熱い思いと静かな雰囲気で独立心を持った24歳に成長していたのでした。サニーを目にしたとたん惹かれたステファノ。もちろんそんな彼女の育ち方を知るはずもありません。そしてこれまで女性から拒否されたことがない経験に反して,いかにも自分を遠ざけようとするサニーの態度に逆に新鮮さを感じたのでした。サニーもまた失恋の痛手からは立ち直っていたものの,あたたかい家庭と白馬の王子様を待っていたのは他の女性と同じです。そしてステファノこそ,その条件にぴったり合う,しかし自分には手の届かない,裕福で何一つ苦労をしたことのない育ち方をした男性であろうと,惹かれないように自分を戒めるサニーでした。ステファノはいつも自分に反抗的な娘フローラが,サニーとは親しげに会話しているのを見て,ナニーが帰った後の夜間にフローラの世話をしてくれないかと頼み込みます。フローラもその話しには乗り気になっているのを見て,サニーは断り切れなくなります。しかし同じ家にステファノといることになると考えると,自分の気持ちとは裏腹に体が反応してしまうことに戸惑います。かつての恋人との間には経験したことのない緊張感が漂うのでした。水泳を習う暇のなかったサニーが,フローラによって泳ぎを教わっていたときに突然帰宅したステファノに水着姿を見られて慌てておぼれかけたり,来る予定より早くステファノの母アンジェラが家にやって来て,ステファノとサニーとの仲を憶測したりと,いろいろな出来事がありますが,さらに関係を深めたいステファノはついにスコットランドの母の家にフローラを連れて行くのにサニーの動向を求めるのでした。2週間の期限つきとはいえ,ステファノとの関係が深まってしまっていて,しかも期限つきの休暇,スコットランドから帰るときは二人の関係は終わってしまう,それが二人の将来に発展する余地がないことは容易に想像できるものの,それでもステファノと一緒に過ごせることを楽しんでも良いのではないか,と。そして母とフローラが一日買い物で出かける日,二人は親密な日を過ごします。互いの過去のことを話し合いながら・・・。そしてステファノが前妻との辛い結婚を乗り越えられずにいること,そしてサニーもまた母親の悲惨な人生と同じ過ちを繰り返したくないことを理由に二人は別れを決意します。それから2週間後,契約書類を取りに行くという言い訳をこじつけて法律事務所を訪れたステファノ。サニーにどんな言葉をかけるのでしょうか。物語はクライマックスを迎え,ついにステファノはサニーに愛を告白するのでしょうか。そしてその言葉を待つサニーの返答は?
 MB版の表紙の女性モデルはちょっと違和感がありますね。本作についてはHQ版の勝ちでしょう。でもイメージとしてはサニーはもう少しふっくらした少女のような顔立ちではないかと想像していたのですが・・・。


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恋を演じて [マーガレット・ウェイ]

SHALOCKMEMO1401
恋を演じて Strategy for Marriage
( Contract Brides 2 ) 2002」
マーガレット・ウェイ 井上京子





 原題は「結婚計画」
 ヒロイン:クリスティン(クリスティ)・プルーデンス・パーカー(?歳)/会社員/170センチ,長いブロンドの髪,明るく澄んだ緑色の目,黒い眉,美しい顔立ち,顎のくぼみ/
 ヒーロー:アッシュ・マッキノン(?歳)/牧場主/190センチ,黒く輝く目,腕や背中の硬い筋肉,日に焼けた肌,つややかな黒髪,まっすぐな鼻,きりりとした唇,力強い顎と頬の線/
 従妹の結婚式に招かれざる客が訪れ,アッシュ・マッキノンは声を掛けます。場所はオーストラリアのアウトバック,クイーンズランド州南西部チャネル・カントリー。開拓時代から続く名門マッキノン家の当主アッシュが保有する領地は200万エーカー(1エーカーを約40.5アールとして8000万アール=80万ヘクタール=日本の面積の約2.2倍)。ブリスベーンのマッキノン・リバーサイド邸で結婚式が行われ,披露宴の最中でした。アッシュ10歳の時,ブロンド美人であった母は家族を捨てて他の男性の元に出奔し,2番目の夫との間にも息子が産まれます。その事実がすり込まれてしまったアッシュは女性を,特に母を信じられなくなるのでした。今回結婚するのは叔母メルセデスの娘カリスタです。相手は弁護士のジョシュ・ディーキン。そして招待状を持たずに披露宴会場に無理やり入ってきた女性は,どうも新郎の元恋人ではないかと思われます。従妹の幸せのためにもこの女性を近づけてはいけない,と思ったアッシュは何気なく近づき,ホールから出るように仕向けるのでした。ボッティチェリの絵画の人物のような妖艶な美貌を持つ女性。やはりジョシュとは知り合いだったようです。しかもジョシュに様子を見るとジョシュの側にはどうも彼女に対する未練が残っているかの様子。事情を聞くとミズ・ボッティチェリと勝手に名付けた女性はクリスティン・パーカーと名告り,やはり自分を捨てたジョシュへ仕返しをするために会場にやって来たということでした。しかし,結婚式をぶちこわしにしようとしたのではなく,ジョシュを慌てさせようとしただけだというのです。アッシュは信じることはできません。そしてこれほどの美貌の女性を捨てたジョシュにも腹が立ちます。とにかく新郎新婦が無事ハネムーンに出かけるまでは,彼女から目を離すことができないと思い,アッシュは一計を案じます。叔母にも親類にもアッシュはそろそろ身を固めるべきだと言われ続けてきました。従妹の夫の元恋人という微妙な立場を除けば,美貌のクリスティンに惹かれる自分の結婚相手の条件に沿う女性かどうかを見極める必要があります。そこで,アッシュはクリスティンを自宅に送りとどけ,さらにそのまま領地の牧場に連れて行くことにするのでした。名目は?もう一人の従妹ニコル夫妻が休暇で出かける1カ月間,二人の子供たちケイトとキットも連れて行きたいので,その相手をしてくれないかということにします。幸いケイトもキットも美しいクリスティンが気に入り,彼女も一緒にオーガスタ・ダウンズ牧場に来るということでとても喜んでくれます。こどもたちの話を聞き,クリスティンも断る理由がなくなって牧場への同行を認めるのでした。自身も小規模ながら農業を営む両親の元で育ち,乗馬は大得意でした。アッシュの母はいわゆる都会での生活を好む女性で,この人里離れた,隣家が何キロも離れている場所での生活に耐えられなかったのです。そのためアッシュは結婚相手への厳しい条件を求めていました。「妻,それに母親,若くて,そこそこ器量の良く,思いやりがあって,信頼できて,責任感のある,自立していて分けなく采配を振れるくらい強い女性。マッキノン王国の采配を振るう女性。プラスアルファ,ベッドの上でも素晴らしければ・・・」と正直なところを会話の中でクリスティンに話すアッシュに対して「では,愛は?」「私は愛のない結婚の契約を結ぶほどやけになっているわけじゃないわ。」,かつてジャーナリストとして働いていたこともあるクリスティンはアッシュがなぜそこまで女性に対する見方が厳しいのかを探ろうとします。もし自分とアッシュがここで生活するとしたら,結婚の相手がアッシュだとすれば彼のことを知りたいと思うのは当然のことと思っていたのです。空気を読めるクリスティンはアッシュになにかそれを告げられない過去のこだわりがあることに気づきます。やんわりと時間を取りながらアッシュの母親のことを聞こうとします。また仕事中毒のアッシュに「あなたは自分の人生に愛を取り入れる時間がなかったのよ」と傑作な言葉を投げかけます。週末に邸宅で開催されるクラシック弦楽四重奏団による演奏会の段取りを任せられたクリスティン。これもオーガスタ・ダウンズ牧場で家事を仕切ることができるかどうかクリスティンを試す試みの一つだったのですが,クリスティンはそれに乗ってみようと思います。その時すでにクリスティンはアッシュに恋していることに気付いていました。音楽会には牧場のスタッフだけでなく近所の人たちも大勢やって来ます。その中に,富豪であるアッシュと自分の娘をくっつけたいと考えているミルナーヒル夫人と娘のジェマがいました。ジェマは初めアッシュの家になぜクリスティンがいるのか驚きますが,ニコルの子供たちを見てもらっているというアッシュの言葉にうなずき,使用人のようにクリスティンを考えます。そしてミルナーヒル親子は露骨にアッシュへのアタックをことあるごとに繰り返すのですが,クリスティンに対して,アッシュは幼い頃から知っているジェマには何の興味も持っていないと,それにあの母親がついてくるのなら余計そうだと突き放しますが,美しいクリスティンに嫉妬深いジェマは何かと難癖を付けてきます。「だったら結婚しようじゃないか」とアッシュは平然と言ってのけます。「ジェマのような昔のガールフレンドを遠ざけるための計画の一部?」と返すクリスティン。そして相変わらずクリスティンがジョシュに思いを残していると非難するアッシュ。
 アボリジニーたちにより悪霊の住む土地と考えられているこの土地。いつしかクリスティンはここを愛して始めていることに気付きます。それが土地の魅力なのか,土地を所有しているアッシュの魅力なのか。クリスティンの思いは彷徨いますが,やがてアッシュの申し出を受け入れる気持ちが強くなっていきます。それならジェマにも立ち向かっていかなければ・・・。そしてアッシュからの婚約指輪を受け入れるのでした。そしてニコル夫妻やカリスタ夫妻,その他親族が集まったパーティで二人は婚約を発表することにするのです。ジョシュの未練がましい言動やジェマの横やりはあったものの,ニコル夫妻やカリスタの母が二人を応援してくれ,アッシュと母との間の確執もクリスティンの努力で解消していきます。二人の結婚式にはアッシュの異父弟も介添え役を務めてくれるのでした。
 数あるロマンス作品の中にもこれほど理想的で古典的で完璧な美女が登場することは珍しいでしょう。ヒーローのアッシュも男性の典型と言っていいでしょう。完璧なカップルの誕生に読者も幸せな時を過ごさせてもらえますが,愛と信頼,その大切さも主題としてしっかり作り上げられた作品です。


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トスカーナの愛の証 [スーザン・スティーヴンス]

SHALOCKMEMO1400
トスカーナの愛の証 Boud to the Tuscan Billionaire
( One Night with Consequences 15 ) 2016」
スーザン・スティーヴンス 佐倉小春





 原題は「」
 ヒロイン:カサンドラ・リッチ(?歳)/フィヴィッツィアーノ家のトスカーナの別荘の庭師/形の良い豊かな胸,ほっそりした長い脚,ブルーの瞳,完璧なヒップ,ウェーブのかかった豊かな金髪/
 ヒーロー:マルコ・ディ・フィヴィッツァーノ(?歳)/実業家/隆々とした筋肉/
 SHALOCKMEMO1400の区切りとなる作品でした。イギリスのロック歌手とその妻の間に生まれたカサンドラですが,幼少から面倒を見てもらえず,破綻した家庭の中で育ち,後に代母夫妻に愛情を持って育てられます。一方イタリア人実業家のマルコもまた母が自分を捨てて父以外の男性のもとへ行ってしまい,血も涙もない,愛を知らない仕事一辺倒の大人に育ちます。こんな二人の電撃的な出会いは,他の使用人がすべて出払っているときに,たまたまマルコがトスカーナの屋敷を訪れたときに起こります。使用人には手を出さないというマルコの信条でしたが,カサンドラの思わぬ口答えに遭い,逆に新鮮さから関係を持ってしまうのでした。そしてこの出来事が二人の間にその後の大きな問題が起こっていきます。互いに離れられないほどメロメロに魅力を感じながらも,愛を口に出すことが出来ない関係,そしてパパラッチからの攻撃からカサンドラを守ってやりたいと思うようになるマルコという複雑なロマンスが巻き起こっていきます。経済的な援助を申し出るものの独立心と反抗心の強いカサンドラがなかなか首を縦に振らないことからマルコの中に葛藤が生まれ,同時にカサンドラもプライドか愛かという選択に苦悩することになります。「僕には子供を愛する力がないんだ」「力?」「子供を愛するのに力が必要だなんて初めて聞いたわ」という二人の会話が,一人息子ルカが生まれたときに二人が交わした会話です。「君じゃなきゃだめなんだ」「あなたに耐えられる人は私以外にいないってこと?」とふたりので言い合う,もうこれは仲の良い友達のような関係になっていく二人に,読者は思わずニヤリとさせられるでしょう。素敵な二人の会話が魅力の作品です。
 シリーズ「One Night with Consequences」はまだ続きますし,初期の「愛人島SHALOCKMEMO788」のような傲慢なヒーローの作品は少なくなりましたが,一夜の関係から発展する愛の物語は次第に引き込まれていくシリーズだと思います。


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