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愛という名の足枷 [アン・メイザー]

SHALOCKMEMO1407
愛という名の足枷 Morelli's Mistress 2016」
アン・メイザー 深山 咲





 原題は「モレリの愛人」
 ヒロイン:アナベル(アビー)・レイシー(?歳)/カフェ兼書店店主/美人で,膝のところで組まれた細く長い脚,長身,卵形の顔,高くまっすぐな鼻,魅惑的な唇,プラチナブロンドの髪,桃のようになめらかな肌/
 ヒーロー:ルーク・モレリ(?歳)/開発会社社長/すらりとした長身,黒い髪と浅黒い肌,危険なまでに魅力的/
 アン・メイザー17冊目の読了本です。イギリス,ロンドンとウィルトシャーの小村が主な舞台でした。ウィルトシャーはイングランド南部バースにも近く,ソールズベリーやマルボロといった知名度の高い町も抱える地域のようです。
 冒頭,5年前の二人の出会いと現在が交錯したミステリアスな展開が描かれます。1946年生まれのアン・メイザーは齢70を超えていますが,未だに凝ったストーリー展開と登場人物の心理描写の見事さが光ります。そして,常に社会問題を織り交ぜている点も,見識の高さがうかがわれ,ロマンス作品というだけでなく,苦悩を抱えた人間の生き方,愛の偉大さが主題になっていることも作品の魅力の源泉と言えそうです。
本作のヒロイン,アビー・レイシーの美しさ,スタイルの良さが強調されると同時に場面場面でのアビーのファッションの細かい描写がリアルです。ウィルトシャーの片田舎アシュフォード・セント・ジェームズの再開発を巡り,5年前に一夜の関係を持ちかかったアビーとルークが再会します。アビーは当時まだ人妻でした。しかし夫の虐待を受け,母の病気療養にかかる費用をネタに離婚できずに悩んでいたところでした。その事情を知らなかったルークはアビーを身持ちの悪い悪女と決めつけてしまったのです。しかし5年後に再会しても,なおアビーの美しさや魅力は反って増していました。今回は再開発を担当するのはルークの会社。離婚後なけなしの遺産をつぎ込んでなんとか経営している小さなカフェ兼書店も再開発されれば立ち退きを要求され,その後どうやって生活して良いか方法を考えなければならなくなります。しかしアビーの心配は生活のことよりも自分を悪女と思い込んでいるルークの存在の方でした。周囲の住民たちにはアビーとルークの関係は知るよしもありませんでしたが,時折高級車で訪ねてくるルークがアビーと知り合いであることはなんとなく想像がついたのです。隣家の写真店主グレッグ・ヒューズなどはアビーが知り合いであることを利用してルークに再開発を思いとどまるために交渉していると思い込む始末です。一方ルークの父オリヴァー・モレリは近くで療養中であり,ロンドンから時々ルークはこの地を訪れることになっていますが,それはアビーの元を訪れる言い訳になってしまいます。10歳の時,母親が自分と父親を捨てて他の男性の元に走った経験から,ルークは女性との関係を長く続けることを頑なに拒否してきました。アビーが既婚者であることがわかったとき,強くアビーを非難したのもそんな経験があったからでした。やがてアビーの母は亡くなり,やっと暴力的な夫との離婚が成立して現在の商売を始めたアビーにとって,5年前のルークとの一夜の出会いは忘れてしまいたい出来事でもありましたが,相変わらず見るだけで眼を引くルークに惹かれてしまう気持ちを抑えることは難しいことでした。誘われるままにカフェの2階の住居で関係を持ってしまうアビー。しかし店員に体調の変化を指摘されて自分がルークの子供を身ごもったことを知ったアビーはルークの会社を訪れて事実を告げます。同時にシングルマザーとして生きて行くことも宣言するのでした。犬のハーレーと自分と子供の二人と一匹の生活が自分の望んでいること,社会的な成功者で富豪のルークとの愛のない結婚生活など考えられない。でもルークに会うだけでルークを求めてしまう自分がいる。でもルークは結婚を求めているのではない,愛人を求めているのだ。そう言い聞かせているアビーでした。
 5年前に何か事情があって夫がいる身でありながら自分と出会ったのではないかと考え始めたルークは,密かにアビーの元夫ハリーのことを調べるように自分の運転手であるフェリックスに命じたあと,交通事故に巻き込まれ,命を落としかける大怪我を負います。ルークは意識が混濁する中アビーの名前を呼びますが,アビーは家族ではないことで集中治療室に入ることはできませんでした。その後一般病室に戻った後もルークはアビーの入室を拒否するのです。次第に目立ってきた腹囲を気にしながらひたすら控え室で待つアビーに,ルークの父親は病室に入るように気を遣ってくれます。しかし退院後もルークはアビーの来訪を断り続けるのでした。事故の結果頭蓋に穴を開けたり内臓の一部摘出そして片足を引きずるようになってしまったルークは,自分の世話をアビーに押しつけることはできないと,自分の気持ちを隠し,アビーに会わないようにしようと決意していたのです。その時はすでにフェリックスからアビーが元夫から暴力を受けていたことを知ってしまっていたのでした。これ以上アビーを苦しめることをしたくないというのがルークのぎりぎりの決断でした。しかし敢然とアビーはルークの父親の許可を得てルークに会うのでした。どんなにやつれても,どんな姿でもルークを愛する自分の気持ちを偽ることはできない。逆にルークを愛おしく感じる自分の気持ちは強まるばかり。そんなアビーの気持ちの機微を作者は見事に描ききっています。
 少々長いエピローグで二人の1年後のことが書かれています。無事産まれた息子マシュー。そして結婚後もますます強まる二人の愛が描かれていて,読者は読了が幸せな気持ちになります。バツイチ同士の純愛物語ですが今月最高のイチオシロマンスです。


タグ:ロマンス
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白雪姫の奇跡 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1406
白雪姫の奇跡 Spellbinding 1990」
シャーロット・ラム 松村和紀子





 原題は「呪文で縛る,魅了する」
 ヒロイン:ベリンダ・ハント(22歳)/元保険会社社員(イギリス中に支店網を持つ大きな保険会社)/緑色の目,赤銅色に波打つ髪/
 ヒーロー:ヴィンセント・ギャレット(?歳)/投資銀行経営/筋骨逞しく,肌はオリーヴ色,目は淡い灰色,意志の強そうな顎,引き締まった厳しい顔つき,持ち家はディリンガム・プレイス,元恋人マグダリン/
 8カ月間意識不明のまま入院。助手席に同乗していた車にトラックが突っ込み,その事故で意識が戻らないまま8カ月間ベッドに横たわったままだったベリンダが,目覚めた!病院の医師も看護師も奇跡だと大喜びをしますが,ベリンダにとっては意識が戻ってからの方が大変でした。真実を知るまでも時間がかかるものですね。「雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪」が童話の白雪姫の形容ですが,本作のベリンダは,赤銅色の髪と緑色の目です。また文中「シャロットの姫」という表現も登場しますが,おそらくテニスンの詩を指していると思われますが,外に出ると死んでしまうという呪いをかけられ,鏡を通してしか外を眺められない姫と同じようにベリンダも退院後も体力回復が十分ではなく外出できなかったことを指します。8カ月もベッドに縛り付けられれば,脚の筋肉も相当落ちるでしょうし,ふらつかずに歩くこともかなり難しい状態だったろうと思われます。病院でのリハビリだけでは不十分で退院後も日々,リハビリに取り組まなければならないでしょう。そんな心細い状況の中,婚約者のリッキーの兄ヴィンセントが放った一言は,ベリンダの目覚める一週間前にリッキーはすでに結婚したということでした。シャーロット・ラムらしい独特で童話的なストーリー展開。たちまち彼女の物語の世界に読者を引きずり込みます。原題で表されているようにヴィンセントの魅力に徐々に嵌まっていくベリンダ。そしてヴィンセントもまた幼なじみマグダリンではなく,弟リチャード(リッキー)の恋人だったベリンダを愛してしまっていたのです。リッキーと交際はしていたものの,リッキーは末っ子の甘えん坊で,人を愛するよりも自分が愛される方を選ぶタイプ。しかも事故の影響で自分ではなくベリンダが昏睡状態に陥ったことへの罪悪感を強く持っていたのでした。そのため両親やリッキー夫妻に会わせたヴィンセントに恨みの気持ちを抱いたものの,リッキーへの思いを吹っ切ることができたベリンダ。そんな何でも自分の思いどおり事を運んでしまうヴィンセントを強い口調で非難することはあっても,それは裏返ってヴィンセントに甘えてしまう自分を認めたくないという気持ちの表れでもあったのです。退院後ヴィンセントの家で過ごすことになったベリンダ。ヴィンセントはリッキーと会わせたくないために,ベリンダを監視するという名目で家に連れて行ったのですが,それはあくまで名目で,ベリンダに強く惹かれてしまい,深い関係を持ちたいという欲望が湧いていたからでした。そして,ベリンダもまた「私はヴィンセント・ギャレットに恋をしている。血の気の引いた顔を両手で覆い隠したが,そうしたところで真実から逃れることはできなかった。彼と目が合うと,心臓が激しく打った。私は彼を愛している。なぜそんなことに?いったいいつ恋をしてしまったの?」ヴィンセントの両親は初めベリンダを受け入れる気持ちはありませんでしたが,リッキーとメグの仲を裂こうとしているのではないというベリンダの言葉を信じたようです。しかもヴィンセントとマグダリンの関係ともかかわらないようにという言外の圧迫を感じたベリンダに対して,ヴィンセントはきっぱりとその懸念を打ち消すのですが,自分がヴィンセントから想いを寄せられていようとは思いも寄らないベリンダ。ヴィンセントは単に欲望を持っているに過ぎないと思っていたのです。ヴィンセントのプロポーズをきっぱりと断るベリンダ。さぁ二人の間の気持ちのすれ違いは解消するのでしょうか・・・。体調が少し好転してきたベリンダはやはり母親の元に帰るべきだとニュージーランド行きの飛行機に乗ろうとヴィンセントの家を密かに脱出するのですが,空港近くのホテルについて翌朝のフライトを待っている間に,ヴィンセントに発見されてしまいます。「私の望みは愛よ」と告白するベリンダ。それに対して,ヴィンセントもまたマグダリンとの関係を明かすのでしたが・・・。そして入院中,昏睡状態にあったときにヴィンセントが取った行動を知って,ベリンダはヴィンセントの愛を確信するのでした。「白雪姫」「昏睡状態なんていうよりずっと素敵だわ。」「するとあなたは王子様かしら?」この一文に本作の本題が凝縮されています。


タグ:ロマンス
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