SSブログ

汚れなきギリシアの愛人 [リン・グレアム]

SHALOCKMEMO1446
汚れなきギリシアの愛人 Bought for the Greek's Revenge 2016」
リン・グレアム 山本みと





 原題は「ギリシア人の復讐のために買われて」
 ヒロイン:プルネラ(エラ)・パーマー(23歳)/動物保護センター「アニマル・コンパニオンズ」職員,獣医志望/小柄,アクアマリンの瞳,睡蓮の花のような柔らかでつややかな唇,火花を放つような赤毛,茶と赤の間の金属色の髪,美しい顔立ち,磁器のような肌/
 ヒーロー:ニコロス・ドラコス(30代)/ホテル経営者/濃い色の肌,黒髪,溶けたカラメル色の瞳,アスリートのような引き締まった体,長い脚/
 エラの婚約者だったポールが亡くなったとき,その叔父サイラス・マクリスがエラの世話をしてくれた。事業に失敗し体調を崩した父を継母は捨てて行ってしまい,実母も他所で自分の生活を送っており,父の面倒を見るのはエラしかいません。そのためサイラスの手を借りてポールを見送ることになったのでした。その際ラスに恨みをもつホテル経営者のニコロス・ドラコスがエラの元を訪れ,父の経営する家具店の経営権を肩代わりしていると言います。そしてその代償として自分の愛人になるよう要求したのでした。身長が低く華奢で十代の少年のようにほっそりした妖精然とした自分が愛人というイメージからは正反対であると一応言い訳はしたものの,ニコロスの言うことを聞く以外今自分にできることはないことはわかっていました。エラは逆に「結婚して」と迫ります。「説明したでしょう。結婚指輪なしでは私を手に入れられないって。私だってあなたと結婚したいわけじゃないのよ。でも,それで家族が満足して心配がなくなるなら,私は家族のためにそうするわ。」と決意を告げるエラ。サイラスへの復讐を誓うニコロスは「なんとしても復讐を果たすべきだし果たすつもりだ。他の人間が巻き込まれようがかまわない。罪悪感を抱くことは許されない。エラは単なる駒なのだ。」そして,ロンドンのニコロスの家で同居することになるのですが・・・。純真な,婚約者がいても純潔なままだったエラはニコロスに惹かれていくことにショックを受けます。ニコロスもまたエラの純真さに感動を覚えます。ニコロスの動機を十分には知らないエラですが,サイラスとは会ってもいけないし,話してもいけないというニコロスの言葉を理解できないでいました。しかしニコロスが出張中やってきたサイラスに部屋で乱暴されそうになって初めてニコロスの言うことの意味を知るのでした。サイラスがポールとエラの面倒を見ることにしたのは,サイラス自身がエラに邪な思いを抱いていたからだったのです。そしてポール亡き後,いよいよこれまでの貸しを取り戻そうとエラに迫ったのでした。折良くニコロスが帰宅して助けてくれなければエラはサイラスによって汚されるところだったのです。自分がニコロスに惹かれていることを確信し,ニコロスがなぜサイラスへの復讐を誓ったかを聞かされ,そしてさらに婚約者だったポールの驚愕の事実をサイラスに聞かされたエラは,ニコロスもまた自分を求めていることを知り,「私も彼を受け入れよう」と,しかし「完璧さや永遠の愛を期待するつもりはない」と悲しい決意をするのでした。さて二人のすれ違った愛は実るのでしょうか。
 運命によって出会った二人が過去を乗り越えて愛を見出すまでを描いた,リン・グレアムらしいラブロマンスです。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

億万長者の無垢な薔薇 [メイシー・イエーツ]

SHALOCKMEMO1445
億万長者の無垢な薔薇 Carides's Forgotten Wife 2016」
メイシー・イエーツ 中 由美子





 原題は「カリディスの忘れられない妻」
 ヒロイン:ローズ・タナー・カリディス(23歳)/主婦/淡いブロンドの髪,華奢な体つき,すらりとした首筋,かすかに上を向いた鼻先,ピンと伸びた背筋,大きな青い瞳/
 ヒーロー:レオン・カリディス(33歳)/企業家/黒い瞳,/
 記憶喪失ものです。しかも,かなり作者の愛に対する哲学的な主張が随所に見られるかなり固い作品という感じがしました。離婚寸前だった,というより政略結婚的に式は挙げたものの,夫は全く妻を顧みず純潔のまま2年を過ごしたローズは,夫が交通事故に遭ったという知らせを聞き,夢中で病院に駆けつけます。「存在感があり,力強くてカリスマ性があった」夫のレオン・カリディスがベットに横たわっている姿にローズは離婚を切り出せないまま,夫を伴って家に帰ります。10歳の年齢差のある夫にかつて憧れを抱いていたローズ。もし「彼が死んだら,その喪失感は耐えがたい」と父を亡くしたローズに頼れるのはレオンだけだったのです。しかし全く自分を省みず好き勝手に外で過ごしているレオンとこれ以上結婚生活を続けても自分の孤独は癒やされないと,自立することを決意したローズでしたが,この夫の怪我,そして記憶喪失によって,夫婦間に新たな関係が築けるかも知れないという希望が生まれたのです。いずれ完全に記憶が戻れば再び夫は自分から離れていってしまうかも知れないという恐怖と,それでも今だけは夫は自分を頼り切っているという状況との間でローズの心は揺れ動きます。幼い頃に母を亡くし,ずっと父の言うとおりに生きてきた内気で本好きで引きこもりがちだったローズ。一方どうしようもないプレイボーイだった夫。夫が父の会社を永久に所有するには5年間の結婚生活が必要だという婚前契約期間はまだ2年しか過ぎておらず,夫が離婚に応じるはずがないとはわかっていたものの,彼に会社も屋敷も手に入れさせても,自由を手にしたいという気持ちを抑えきれなくなっていたローズにとって,夫の世話をする今の状況は夫との関係を修復できる唯一で最後の機会かも知れないのです。自分の気持ちはどうだったんだろうか。本当に10歳年下の幼妻に関心がなかったのだろうか。これほど魅力に溢れた女性に関心がなかったなどとは信じられないとレオンはローズを誘惑したい気持ちに駆られます。「私が知っているのは,あなたが父の下で働いていたことだけ。卒業を待たずに働き始めて十代の頃は使い走りみたいな仕事もしていたようね。父の目にとまってからは後継者として指導を受けていたわ」というローズの言葉に対してもなんの記憶も戻ってきません。父はなぜ,自分にレオンを与えたのだろうか。今になってみればその真意を父に聴いておけば良かったとローズは思いますが,レオンに手に触れられただけで「体に稲妻が走り,体中がパチパチと音を立てると息が詰まり膝が震え」るほどの衝撃を受けるほどうぶなローズには,まさにこの機会にもっと夫を知りたいという気持ちが湧いてくるのでした。「それなら今から事実を作ればいい。僕らが新しい人生を歩めないはずはない。君が話してくれた夢は,僕も気に入った」と迫る夫の言葉にローズもあやうく自分の気持ちを明かしそうになりますが,夫の周りにいた女性たちへの嫉妬心も湧いてきます。そして夫の欲望の対象になることで再び自分の自由が失われるのではないかという怖れの気持ちが再度強くなっていくのでした。会社のスタッフや友人たちには幸い記憶喪失の件は知られていません。事故による怪我を理由にしばらくは二人きりの時を過ごしていますが,体力的には回復してきた夫の誘惑についに応じてしまうことでかつて描いてきた夫への憧れが今でも失われておらず,夫を愛していることに気づかされるローズ。「レオンは男性としてのすべての要素を兼ね備えていた」「ローズが求めてきた男性像はレオンが規準だったのだから」と,レオンの情熱を自分への愛だと信じかけたところで,地味で本好きな少女だった自分がカリスマ性を持つ夫に本当に愛されるはずがないとローズは気づいていきます。少しずつ細かい記憶を取り戻しつつある夫が再び自分から離れていってしまうという喪失感と,周囲の女性たちへの嫉妬心の間で苦しむローズ。そんな時二人の前に現れたのは,赤ん坊を連れた女性でした。そしてその赤ん坊は夫レオンの子供だというのです。絶望感に陥ります。その赤ん坊イザベラは見るからに夫の子供であることが分かるほどそのDNAが感じられる女の子でした。「あなたが浮気をしていたときも,辛いなんて絶対に言わなかった。あなたが差し出すものだけを私は受け取った。あなたが床に投げつけたパン屑すら私は舐めた。だって私は悲しみに暮れた情けない奴隷だから。でももうあなたの奴隷なんかじゃない」と心の痛みを吐露するローズ。こんな言葉を夫に投げつけたことなどなかったローズでした。「彼女は自分を憎んだ。レオンを憎むのと同じくらいに。こんなときでも彼を求める自分を憎んだ。自分を苦しめる男性に,慰めてもらおうとする自分を憎んだ。しかしレオンの記憶の中によみがえってきたのはかつて結婚していた妻と同時に失った一人息子マイケルでした。この事実はローズは知らなかったのです。そしてレオンの記憶と深層心理の中にある,人を愛すると失ったときの衝撃は倍になって自分に返ってくることから幼妻ローズを愛してしまわないように,自分の心を守るためにわざとローズに触れなかったことに気づいていくのです。幼子イザベラには罪はない。少なくとも夫の子ではあるのだ。自分が育てなくてだれがイザベラの面倒を見ることができるのか。と父にも夫にも捨てられたローズはイザベラを愛さずにはいられなくなるのでした。二人の住む屋敷には亡き母が作った小さなバラ園がありました。クムゾン・ローズが咲くそのバラ園の存在こそローズという名前の由来だったのです。そこで夫の心の闇を知り,その理由を考え続けたローズは,ついに愛を獲得するために戦う決心をするのでした。一方でレオンの側に,記憶が戻るにつれて如何に自分がローズを傷つけてきたかに気付き,自分は無垢で純真なローズを傷つけまいと逆にローズを避けてしまっていたことを知ります。自分などはローズにふさわしくないのだと。さて二人の心は本当に寄り添うことができるのでしょうか。愛を恐れる気持ちからレオンは立ち直れるのでしょうか。すれ違った二人の深層心理に迫り,最後には愛の勝利を高らかに歌うメイシー・イエーツ渾身の作品です。


タグ:ロマンス
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

富豪が残したあの夜の証 [キャサリン・マン]

SHALOCKMEMO1444
富豪が残したあの夜の証 His Pregnant Princess Bride
( Bayou Billionaires 1 ) 2016」
キャサリン・マン 野川あかね





 原題は「彼のおめでた王女の結婚」
 ヒロイン:エリカ・ミトラス(エリカ・ビルギッタ・インゲル・フライヤ・ミトラス・オブ・ホルスグロフ)(歳)/北欧の王家の五人姉妹の末娘/プラチナブロンドの長い髪,ブルーの目,曲線美,バイキングの女戦士のような堂々とした体躯,長い脚/
 ヒーロー:ジェルヴェ・レイノー( Gervais Reynaud )(歳)/フランス系アメリカ人,アメリカンフットボールチーム「ニューオーリンズ・ハリケーンズ」のオーナー/黒い髪,整った顔立ち/
 著者の17冊目の読了本です。そのストーリーテラーぶりや多彩なキャラクター造型にはいつも感心させられていますが,この「Bayou」シリーズ(原作は2作がキャサリン・マン,2作がジョアン・ロックの作品)は2016年に出版されたシリーズのようです。海運業をベースに成功を収めアメリカの名門一族となったレイノー家の4兄弟をヒーローにしたシリーズの第1作目で,本作は長男のジェルヴェがヒーローとなります。4兄弟,ジェルヴェ,アンリ,ジャン=ピエール,デンプシーという兄弟の名前が表すようにケイジャンと呼ばれるフランス系人たちの多いのニューオーリンズの街が舞台となっています。デンプシーだけがちょっと語幹の違いを感じさせますが,彼は異母弟なので,そうなっているようです。さて驚くべきは,ヒロインのエリカ・ミトラルが北欧の王家の本物のプリンセス。王家と言っても実質的な支配権はなく称号のみが残っているようですが,まぁ西欧の王家は今はどこもそうでしょう。エリカの母アノーラ・ミトラスは王妃としての気概と気の強さを全面に押し出すいわゆる貴族的女性。そして双子を含むエリカの姉たちはそれぞれ末娘の彼女をおもちゃのごとく扱ってきたのでした。そのため,エリカにとっては独立心旺盛で男性を初め誰にも頼りたくないという強い意志を持った女性に成長したのです。軍に所属し善戦の看護兵になりたかったのにもかかわらず,親の横やりで通訳として後方支援に廻らざるを得なかったミトラス大佐としての彼女は,兵役をまもなく終え,大学院で看護学を学ぼうとしていました。一方ジェルヴェは父親が不義を働き異母弟のデンプシーの存在を13歳の時に知り,その影響で母が家を出奔したまま亡くなっており,そのことをきっかけに父親とは不仲になってしまいますが,祖父のレオンに引き取られた4兄弟はそれぞれアメリカンフットボールのチームにかかわり,オーナー,監督,選手として破綻しかけたチームを再生しようと頑張っているところです。
 さて,ロンドンで行われたフットボールの試合で出会ったエリカとジェルヴェは,すんなりと一夜を共にしてしまいます。そして3カ月後ニューオーリンズにエリカが妊娠を告げにやって来たのでした。しかも後の検診で双子であることが判明します。エリカを忘れられずにいたジェルヴェはプロポーズしますが,エリカは自分の計画の中に大学院への進学を秋に控えていることから首を縦に振りません。たった一夜の出来事だけで,互いのことを知りもしない相手とは結婚できないというのです。それからは,ジェルヴェのプロポーズ大作戦がスタートします。なんとか互いを知ろうと2週間のニューオーリンズでの同居を提案したジェルヴェ。その家には認知症になりかかった祖父も同居しています。エリカを大切にしてくれる祖父と,ジェルヴェの兄弟たち,そして突然のエリカの一家の訪問などいくつかのエピソードを経て,エリカはいつジェルヴェにイエスの返事をするのだろうか。そしてそれはたった一言の言葉がすべてでした。キャサリン・マンらしいロマンスに溢れた作品です。すでに結婚しているアンリとソフィアなど4兄弟のロマンスの行方が気になるシリーズです。


タグ:ディザイア
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

シンデレラ失格 [ミシェル・スマート]

SHALOCKMEMO1443
シンデレラ失格 Helios Crowns His Mistress
( Kalliakis Crown 3 ) 2016」
ミシェル・スマート 朝戸まり





 原題は「ヘリオスが愛人に王冠を」
 ヒロイン:エイミー・グリーン(27歳)/博物館学芸員,大英博物館からの出向/すらりとした体,豊かなダークブロンドの髪,にじみ出る女らしさ,アフロディーテとまがうばかり/
 ヒーロー:ヘリオス・カリアキス(?歳)/アゴン王国皇太子/澄んだダークブラウンの瞳,長身,浅黒い肌,漆黒の髪,鼻柱にかすかな傷跡/
 「昨年十一月,大英博物館からアゴン王宮博物館に貸与される美術品の運搬チームの一員として初めてアゴンを訪れ,数日間の滞在中に館長のペドロと意気投合した」エイミー・グリーンは,自分を捨てた実母を探すためにアゴンを訪れたのでした。「三週間後には世界中の視線がアゴンに集まる。アストライオス王の即位五十周年を記念する盛大な祝賀行事が催され,各国から指導者や著名人が勢揃いする」行事のため,そして自分たちを育ててくれた祖父でもあるアストライオス国王に対する愛情ゆえに,カリアキスの三兄弟はそれぞれの分野において行事を成功させるための仕事をしてきており,それぞれが仕事の完遂に必要な人材を探して出会った美女たちと愛を育んでいきます。三部作最終巻は長男で皇太子ヘリオスの愛の物語です。三男タロスは亡き祖母の幻の曲を演奏するバイオリニスト,アマリーを愛し,次男テオ(テセウス)は王の伝記を完成させるために伝記作家ジョー(ジョアンヌ)と出会い,そして今また皇太子ヘリオスは王宮博物館の展示を成功させるために学芸員のエイミーと出会ったのでした。ヘリオスはすでに許嫁としてモンテクルール公国の公女カタリナとの婚約を決めていました。王妃となる女性としてカタリナ以上にふさわしい女性は居なかったのです。なぜなら,愛を信じないヘリオスにとっては愛のない結婚を前提として自分の元に嫁いでくれる女性との結婚が絶対条件だったからです。そしてエイミーに出会った瞬間恋に落ちたヘリオスは,祝賀行事までの間,エイミーとの関係を続けようと決意します。勿論カタリナとの結婚を祝賀行事に発表し,その後のエイミーとの関係をどうするかまでは,はっきりはさせたくないという都合のいい気持ちを残しながら・・・。エイミーもまたヘリオスとの関係におぼれていきますが,自分がいかにヘリオスを愛してもヘリオスは自分を愛してはくれないことは重々承知で,それでもヘリオスを拒否することが出来ないでいる自分に,ちょっとずつ言い訳をしながらずるずると関係を続けていくのでした。ヘリオスは両親の愛のない結婚生活を知り,自分も同じようになることを恐れています。それでも皇太子としての務めを果たさなければならない義務感を強く持っていたため,愛のないカタリナとの結婚を決意したのでした。エイミーは実の母ネイサ・ソウキスに捨てられ,その後自分を精一杯の愛情で包んでくれた継母への愛情を忘れてはいませんでしたが実母が自分を捨てた理由だけは知っておきたかったのです。不幸な親をへの気持ちを互いに打ち明け合った二人は,恋人であり友人であり,しかしその関係を明かせない秘密の愛人関係でもあったのです。
 紆余曲折はありましたが祝賀行事は大成功を収め,アストライオス王は数日後癌により87年の生涯を閉じます。ヘリオスへ残した最後の言葉は「愛を抱けない相手との結婚は不幸を招くだけだ」という言葉でした。ヘリオスはそれを自分の両親のことを言った言葉だと受け止めていたのですが,自分もカタリナとの関係を両親と同じにしようとしていることに気づきます。そして自分が本当に愛しているのはエイミーだと強く思ったのでした。すでにイギリスに戻っていたエイミーは引きこもった生活をしていましたが継母の「オレンジを掴みなさい」という後押しの言葉に支えられ,アストライオス王の葬儀に紛れ込んでヘリオスに見つからないように密かにアゴンにやって来ていたのでした。さて二人は互いの気持ちに正直になり王室の障壁を乗り越えることができるのでしょうか。終末には感動的なヘリオスの行動が描かれています。
 三部作それぞれに魅力的なヒロインが登場しましたが,なんといっても第1巻のヒロイン,アマリーが強い印象を持つヒロインでした。
さて,今月はなにかと他に気持ちを引きずられることが多く,読了冊数はみじめなほど少ないのですが,多分に数ヶ月ごとに気分のむらが現れたりするのが原因かも知れません。集中力が切れてしまうことが多く,なかなか一冊を読了することが難しい状況が続いており,やっとのことで本作を読み終わりました。やれやれ。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

すり替わった恋人 [ヘレン・ブルックス]

SHALOCKMEMO1442
すり替わった恋人 Deceitful Lover
( Mediterranean Passions 1 ) 1992」
ヘレン・ブルックス 平江まゆみ




HQB-796
17.04/¥670/200p

B-379
99.04/¥536/186p
R-1095
94.07/¥640/156p


 原題は「偽りの恋人」
 ヒロイン:リア・クィントン(21歳)/モデル・エージェンシーの社長のアシスタント/シルバーブロンドの髪,グレーの瞳,豊かに盛り上がった胸,細い腰,すらりと伸びた脚,落ち着きのある美しさ/
 ヒーロー:デミトリオス・クウツウピス(?歳)/実業家/冷たいブルーの瞳/
 従姉妹ポピーとリアは性格の正反対な美女です。派手で社交好き,そして歯に衣着せぬ言い方をするポピーに対して,リアは控えめで常に周りの人たちへの配慮を欠かさない優しい性格。ポピーがいないとき二人の住むアパートに冷たいブルーの瞳の男性が押しかけてきます。そしてリアをポピーと勘違いして自分の家に連れ去るのでした。この男性デミトリオスは甥のニコスを実の弟のように可愛がっていました。と同時にニコスの母親で自分の姉のクリスチナが病気がちで心配だったため,ポピーがニコスと交際し,その財産をねらっていると考えて,人物考査のために連れて行こうとしていたのでした。ニコスとポピーの交際を知り,ポピーが行方をくらましたことを知っていたリアは,デミトリオスの言い分に従い,ついて行かざるを得なくなります。自分がポピーと勘違いされていることを知りながら・・・。リアは七歳の時に両親と弟を交通事故で亡くし,ポピーの父親にポピーと一緒に育てられたのです。もっとも叔父のジョンは二人の子供たちにはあまり関わろうとせず,リアとポピーは互いに頼り合える存在となったのでした。銀髪の孤児と赤毛の御転婆娘。長じて二人は美貌の従姉妹同士となり,ポピーとニコスは恋人同士になったのですが・・・。全く風貌の異なる自分をポピーと勘違いしたということは,デミトリオスはポピーに出会ったことがないのだろうとリアは考え,取りあえず勘違いを質さずにいることにしました。
 「(甥の)相手が商売女かどうか見抜ける程度の人生経験は積んでいる」という冷徹な言葉ですが,「君は絶対に違う」「不思議な人だな。これもゲームのうちかい?そのうぶな仕草は,男を惹きつけるための計算なのかな?」といいつつ情熱的なキスを受けて,リアは次第にデミトリオスに惹かれていきます。デミトリオスの姉でニコスの母親のクリスチナはリアとすぐに意気投合しますが,デミトリオスにポピーと入れ替わったことを知られないように質問をはぐらかさなければなりません。結構ヒヤヒヤものの時間を過ごしますが,かつて9カ月間ほどモデルとして働き,水着やカクテルドレス姿で撮影にのぞまなければならないことに嫌気がさし,アシスタントに転身したのでした。モデルの時の男性たちの目に浮かぶむき出しの欲望は耐えがたかったのです。そのためうぶなままこの年まで生きてきたことをデミトリオスに見抜かれて,ポピーとは別人であると気づかれてしまいます。「もっともらしく人を批判するその態度,ぞっとするわ。少なくともニコスは愛情を感じることができるだけあなたよりましね」とつい言葉を荒げてしまったリアはすぐに後悔するのですが,そんなリアにクリスチナは「弟のことで迷惑をかけているんでしょう」と優しい言葉をかけてくれるのでした。クウツウピス姉弟は「母はデミトリオスを生んだときに亡くなったわ。当時わたしは二十歳で結婚したばかりだった。直に父が乗馬事故で亡くなったこともあって私たち夫婦は9カ月だったデミトリオスを引き取ったの。デミトリオスが15歳のときにニコスが生まれたの。母には妹がいてデミトリオスと同い年だったの。そのいとこがデミトリオスと意気投合してね。彼女はイギリスに婚約者がいるんだと言ったわ。デミトリオスはひと夏の遊び相手に過ぎなかったのよ。」と姉夫婦はデミトリオスの親代わりだったこれまでの状況を打ち明けてくれます。従姉妹の女性に裏切られたデミトリオスはその後女性に対して厳しい目を持つようになったのだとリアは理解しました。同時に,その女性に嫉妬を感じてしまうリアでした。デミトリオスはかつて本当に愛した女性キャロラインを亡くしています。しかもキャロラインはリアと似ているというのです。「デミトリオスは初めて会った瞬間から,昔の恨みをわたしにぶつけていたのね。」とデミトリオスの不幸な過去を思いやるのでした。「彼に対するこの思いは愛なの?愛ってこんなに苦しく絶望的なものなの?」
 想像していたポピーと全く異なるリアに「僕は過去の経験から偏見を抱いていたのかも知れない」と打ち明けるデミトリオスですが,やがてニコスとポピーが二人で帰宅します。リアに惹かれながらも,近づいてはいけないと自分をなだめて,欲望と立場の板挟みに苦しむデミトリオスの態度はリアにとっては熱くなったり冷たくなったりする理解を超えたものでした。ついにポピーとニコスの結婚を認めざるを得なくなったデミトリオスは,クリスチナの願いを聞き入れ,結婚式までの準備のためにリアにそのまま留まるように要請します。そして商用でアメリカに向かう直前に親戚の女性クリスティがやって来ます。ことあるごとにリアに意地悪を仕掛けるクリスティ。ポピーは負けずに言い返すのですが,リアは次第に耐えがたくなってきます。そしてデミトリオスの出張中にクリスティはデミトリオスと婚約しており,ニコスたちの結婚式で正式に発表するつもりだと囁くのでした。もうここにはいられないとリアは結婚式の前に帰る決意をするのですが・・・。
 純真で美しく心の優しいリアがまさにNiceHeroineとして大活躍する秀作です。オススメの作品。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

愛は序曲に始まって [ジェシカ・スティール]

SHALOCKMEMO1441
愛は序曲に始まって Facade 1984」
ジェシカ・スティール 中井京子




HQB-797
17.04/¥670/200p

BR-40
91.03/¥490/186p
R-0481
81.08/¥550/155p


 原題は「ファサード(建物の正面)」
 ヒロイン:ソレル・メイトランド(25歳)/元秘書/金髪交じりの明るい茶色の髪,緑色の目/
 ヒーロー:エリス・ガルブレイス(歳)/会社役員/長身,浅黒い肌,がっしりした顎,引き締まった口,黒い目/
 ボスのエリスに首にされた後,老紳士の世話係をしていたソレルは,アルバート・オルレンショウという紳士が亡くなると遺産が残されたことを知ります。オルレンショウの娘シンシア・アーミテッジは,お金にしか目のない,自分の父親を全く世話しようとしなかったにもかかわらず,ソレルに遺産が残されたことを非難するのでした。その遺産によって上流階級の仲間入りをしたソレルは29歳の弁護士ロデリック・ドルーリィにプロポーズされますが,ロデリックの両親モイラとネヴィルはいい人なのですが,ロデリックも良い人過ぎてソレルは惹かれるものを感じませんでした。ずるずると慰められつつ付き合いを続けていましたが,両親の誕生日パーティへの出席を最後にきっぱり付き合いを辞めるつもりでした。ところがこのパーティで,かつての上司で自分をクビにして路頭に迷わせた件のエリスと再会してしまいます。ここからソレルは8年前の17歳で本気で結婚を考えた男性エリスに未だに魅力を感じ,愛していることを自らに否定しようとかなり苦しい思いをするのでした。憎みたいけれども憎めない,離れていたいけれども離れられない,そんな自己矛盾の中でろくに眠れなくなってしまうソレル。このソレルの内面の葛藤が本作の中心テーマになっていきます。エリスもまた,すっかり大人の女性に変身したソレルに再会して混乱します。ソレルと別れた後婚約したウェンダ・サイクスが金銭目当ての中身のない女性であることに気づいたエリスは,婚約を破棄した経験があり,金銭目当ての女性を毛嫌いしていることを知り,ソレルもまた,自分がオルレンショウの遺産を受けたことでエリスに蔑まれるのではないかと気に病むのでした。しかしソレルとの会話はちょっと油断するとジョークの応酬のような砕けたものになってしまい,かつての関係が再燃してしまいがちです。なんとか自分の気持ちを引き締めてエリスをここの中から追い出そうと試みるソレルですが・・・。
 「ぼくは,それほど君を傷つけたんだね」などとやさしく言われると「もう何年も前に克服したわ」と意地を張ってしまうソレルですが,反面遺産相続に関わってエリスに軽蔑されるのではという恐れも同時に感じてしまうのでした。ドルーリィ家と関係を絶てばエリスとの邂逅はなくなるだろうと,密かに引っ越しまでしようとしたソレルですが,引っ越し当日にエリスがアパートに現れ,結局引っ越し先を業者に聞き出されてしまいます。そして部屋に飾る絵を画廊に見に行ったとき,あのシンシアとばったり出会ってしまい,遺産の件をエリスにバラされてしまうのでした。さてエリスの反応は? ここから物語は急展開を迎えますが,ストーリー展開のカタルシスとソレルの心中描写の見事さ,やはり巧者ジェシカ・スティールの面目躍如たる傑作です。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

カリアキスの秘密の跡継ぎ [ミシェル・スマート]

SHALOCKMEMO1440
カリアキスの秘密の跡継ぎ Theseus Discovers His Heir
( Kalliakis Crown 2 ) 2015」
ミシェル・スマート 朝戸まり





 原題は「テセウスの跡継ぎの発見」
 ヒロイン:ジョアンヌ(ジョー)・ブルックス(26歳)/出版社社員/赤毛,ポッチャリ型の体型。色白,高い頬骨,ふっくらした唇,ブルーグリーンの瞳/
 ヒーロー:テセウス(テオ)・カリアキス(34歳)/アゴン王国第二王子/ゴツゴツした鼻,深くくぼんだダークブラウンの瞳,力強い顎,浅黒い肌,,殆ど黒に近い髪,身長195センチほど,細く引き締まった体/
 アゴン王国の王子を巡る3部作「カリアキスの王冠」シリーズの第2作です。作者ミシェル・スマートはかなり大胆な手法でこのシリーズを描いています。つまり3部作がほぼ同時期のストーリーを描いているのです。つまり王子たち3人のロマンスがほぼ同時進行で描かれているわけで,前作で読んだ内容が本作でも裏で進行しているというものなのです。作者の頭の中で3つの作品が同時に進行していないとどこかに破綻が生じてしまうという難しさがあるわけなのですが,前作では気づかなかったこの点に本作を読んでいて気づきました。さらに3人の王子たちの末弟から順に描かれていきますので,最後は長男で皇太子のストーリー展開となるわけです。このアゴン王国を支配してきたカリアキス家のアストライオス王の即位五十周年記念式典がいわばゴールになり,その準備のために前作では亡き王の后だったレアの幻の作品を演奏するバイオリニストを探し,三男タロスがアマリー・カートライトという舞台恐怖症の女性を見つけました。本作では,第二王子テセウスが祖父であり現王のアストライオス王の伝記を完成させるため依頼していたフィオナ・サマラスが急病で入院してしまい,代役として出版社の依頼を受けてやってきたのがジョアン(ジョー)・ブルックス。かつて二人は一夜を共にした経験を持ち,その結果ジョーには4歳になるテセウスとの間の一人息子トビーがいることがテセウスに知られ,その結果息子の存在をジョーがわざと隠していたのではないかという疑いをもたれてしまうというストーリーと,5年前に祖母であるレア妃の病の知らせで急に帰国せざるを得なくなり理由を言わないまま去ってしまったテセウスに自分は捨てられてしまったと思ったジョーがトビーの存在により自分のキャリアを獲得しつつ努力してきたストーリーとが交錯し,不幸な別れ方をした二人が再び愛を見つけ出していけるのかというところが本作の読みどころとなっています。若かりし頃常に注目され続ける王室で第二王子という,皇太子である兄のスペアとしての存在だとしか父親に言われなかったテセウスが,反抗的な行動を繰り返し,テオ・パタキスと名告ってイリア島で泥酔したあげくに慰めをジョーに求めた結果がトビーの誕生となったこと,また母親から期待されず,父親もアルコール中毒という破綻家族の中で,過食気味だった自分の体型に自信が持てずにいたところをハンサムなテセウスに大切にされ,白馬の王子様だと思っていたのに急に去られてしまったこと,そしてまさに本物の王子だと知ったことで二人の間に将来の関係は築けないと言われても,テセウスを愛することを止められない自分の想いを持て余す様子がちょっと哀れで,出産により細身になり充分美しさを獲得した後も自分に自信が持てないでいるジョーが,飾り気のない美しさを発揮していくところが,逆にテセウスの思慕をつのらせていくという絡まり続ける関係が面白さを盛り上げる作品です。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ボスに囚われて [ダイアナ・パーマー]

SHALOCKMEMO1439
ボスに囚われて Bound by a Promise 1979」
ダイアナ・パーマー 山野紗織




D-1756
17.05/¥720/156p

HR-249
09.11/¥600/155p
D-1080
05.04/¥641/155p


 原題は「約束に縛られて」
 ヒロイン:キャサリン(ケイト)・サマーズ(22歳)/作家の秘書,小規模牧場の娘/淡い茶色の瞳,シルバーブロンドの髪/
 ヒーロー:ギャレット・ケンブリッジ(40歳)/航空機メーカー経営者/黒髪,緑色の瞳,浅黒い顔/
 ジョージア州ラニア湖アイランドリゾート。精肉業者の俗物母子の息子ジェシーに家庭の経済的な理由で傷つけられて,傷心を癒やすために作家のモード・ニコルの秘書としてテキサスから湖畔にやって来たケイトですが,そこを傲慢な男性ギャレットに追い払われ,逆に気分が落ち込みます。戸外で気分を晴らそうとモードのクルーザーで湖を疾走していたとき,泳いでいたギャレットにぶつかってしまいます。オロオロしている間にギャレットは岸に上がったのでホッとしていたところ,ギャレットは頭部に裂傷を負い視神経をやられて失明寸前に怪我を負ってしまうのでした。犯人はわたしだと告白するまもなく,見えないギャレットはケイトを別の女性だと思い込み,ギャレットの別荘で暮らすことになってしまいます。不思議な偶然から出会った二人は,やがて互いに惹かれ合うのですが・・・。ギャレットは自分の視力を奪った女性を恨んで頭痛と憎しみに夜も眠れず,またケイトもギャレットに真実を告げる勇気がなく罪悪感で眠れない日が続くという,二人にとって苦しい,しかしそれを表に出さない穏やかな日々が続きます。二人は小アンティル諸島のセント・マーティン島にバカンスに出かけ,視力を失って仕事が手につかないギャレットは反省を執筆する代書をケイトに頼みます。しかし次第にギャレットの病状は悪化し,再び激しい頭痛で倒れてしまいます。病院についていこうとしたケイトはギャレットの執事のヤマに,別荘に戻っていてくれと頼まれ,ギャレットの愛犬ハンターを連れて本土に戻るのでした。ギャレットにはアンナ・サットンという美貌の,しかし心の冷たい,お金にしか興味のない金髪女性がいました。自分にはないセレブなアンナの存在に嫉妬し,ギャレットを愛してしまった自分に気づくケイト。「やはり彼は別世界の住人だ。普通の人間が馴染むことなどできない権力と成功と美の世界の住人だ」「テキサスの小牧場主の娘など,勿論馴染めるはずがない。」「目が見えれば,彼だって,わたしのことなど振り返るはずがないわ。」そして2週間後。別荘がノックされてハンターが吠えだしたのでドアを開けてみると,そこにはギャレットが立っており,ケイトの顔を見るなり「お前!」と憎悪がにじんだ声を発したのでした。ギャレットの視力は戻っていたのです。もはや自分は憎悪の対象でしかない。でもギャレットの視力が戻って良かった。彼への愛を諦めるしかないケイトは悲嘆のうちにモードの別荘に逃げ帰るのでした。さて二人のその後は・・・。
 ダイアナ・パーマーお得意の年の差カップルで傲慢な男性と初心な娘という構図はいつもどおりですが,本作では愛するがゆえに苦しむことになる二人の心情が特に読者の心に迫ります。度重なる皮肉な偶然の出来事に翻弄され,しかし愛する気持ちは止められない男女のストレートな心の内が見事に表現されたダイアナ・パーマーらしい作品です。本作はHQディザイア傑作選として復刊される作品ですが,今回HR版で読みました。


タグ:ディザイア
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

過去からの密命 [沖田正午]

SHALOCKMEMO1438
過去からの密命 (北町影同心 2) 2016」
沖田正午





 ヒロイン:巽 音乃(歳)/北町影同心/
 ヒーロー:巽 丈一郎(歳)/北町影同心,元北町同心,音乃の義父/
 シリーズ第2作を書籍版で読みました。KINDLE化を待っているとなかなか読めないと思い,思い切って書籍版で第4巻まで購入しました。いよいよ,北町奉行から正式に影同心として密命を受け,義父丈一郎はかつてもっていた十手(ジッテ)を受けます。基本的に男性優位社会ですから,実質的に音乃がヒロインとしても,丈一郎が影同心であり,パートナーでもあり,その指導の下に音乃が動くという形は取るのですが,描かれる場面では音乃が単独で女性としての魅力充分に活躍することもあり,いわばお庭番的な活躍をすることもあります。とにかく世の悪を暴き,悪人を亡き夫真一郎のもとに,つまり閻魔様のところに送るというかっこいい段取りができあがっています。
 本編では12年前に起こった事件,十川屋の押し込み強盗と冤罪を受けて獄死した錠前屋の敵討ち,そしてかつて音乃が10歳の時に助け,その後生活苦から巾着切りに身を落とす遺児である兄妹の敵討ちをするという設定になっています。幕閣の閣僚にまで及ぶ真犯人捜しはかなり長い期間がかかり,かつての岡っ引き源三や北町与力の助けを受けながら事件の真相に迫っていきます。とにかく表には出られない影同心ですから丈一郎もなにかとやりずらい面があるのですが,与力の妻が連絡係を務めたり,丈一郎の妻で音乃の義母である律が二人を誇りに思い,何かと気遣うなど,理想的な嫁舅姑の関係と,亡き夫に対する絶対的な忠誠心をもつ音乃の心情が,かなりロマンス小説的な匂いを濃厚に感じさせる歴史小説です。前作からの敵役である勘定奉行の馬鹿息子が時折影を見せたり,町奉行と火付盗賊改方の青い火花などが時代を感じさせます。今で言えばおそらく警視庁の中でも捜査課と公安課の確執のようなものでしょうか。鬼の平蔵で名を売った火盗の中にも,中岡のような腐った連中もいて,しかもそれを利用しようとする井山のような目付方,名前は出ませんが背後にいて,それらと関係する若年寄の存在など,今後のストーリー展開にも関係してくるであろう人々の広がりが予感的に登場してきます。これまで読んだことのない新たな時代小説に感心することしきりです。


タグ:邦人作家
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

氷の愛人 [マヤ・ブレイク]

SHALOCKMEMO1437
氷の愛人 Signed Over to Santino 2016」
マヤ・ブレイク 春野ひろこ





 原題は「サンティーノにサインされて」
 ヒロイン:カーラ・ナルドッチ(24歳)/フィギュアスケート選手/チョコレート色の髪,アーモンド形の緑の瞳,明るい黄金色のすらりとした脚/
 ヒーロー:ハビエル・サンティーノ(33歳)/会社経営者/金色が勝った褐色の瞳,深くてあたたかい声,熱い胸と広い肩/
 世界大会にも出場するフィギュアスケート選手がヒロインです。怪我で休業中ですが,マネージャーを務める父がいい加減で,自分を食い物にしており,投資の失敗から家計は火の車。もう次の試合場所へ移動する旅費にも事欠く有様です。しかしそんなことを世間に公表するわけには生きません。一方の高級ブランド会社のサンティーノ社の経営者ハビエルは,かつてカーラと付き合い,しかも裏切られたという経験を今も根に持っているプライドの高い男です。「カーラが純潔を捧げた相手。最高にセクシーで決して忘れられない一夜を共にした男性」だったハビエルに借金を申し込むという屈辱の依頼をせざるを得なくなったカーラに対して,復讐を果たすために会社のCM契約という餌でカーラと愛人契約を結ぼうと画策します。しかしそんな提言をしたハビエルは言った瞬間から後悔してしまいます。あれから3年も経っているのに,未だにハビエルはカーラを忘れ切れてはいなかったのです。それは唯一自分の元を立ち去った女性だったことも一員でした。スケートの技術だけではなく,カーラは一人の女性としても美貌,知性,そして深い愛情と性格の良さすべてに100パーセント以上の能力を持った女性です。そんな女性がいい加減な父親の言いなりになっていること自体がハビエルには信じられません。次第にその理由が分かり始めてきます。すべてを持ち合わせたカーラは両親から愛されていないという孤独な気持ちが心の奥に芯のように巣くっていたのです。ありがちな絶対的頂点を極めたものの孤独感。そんなアスリートとしての悩みをカーラもまた持っていたことを,ハビエルが気づいたとき,カーラを守りたいという気持ちを強く持つのでした。しかし自分の元から立ち去った唯一の女性という経験から,ふたたびカーラが自分を捨てていくのではという不安から,何くれとなくカーラに意地悪な要求をしていくハビエルなのでした。好きな子にわざと意地悪をしたくなるという,いつまで経っても子供のような気持ちを抱いているのが男という存在なのかも知れません。そんな男性心理を作者はうまくストーリーの中に取り入れているように思います。
 「カーラの顔をのぞき込みながら,なぜこんなにも惹かれるのか冷静に考えてみた。決して好みのタイプというわけではない。彼の好みはもっと肉付きが良い陽気な女性だ。なのに彼女を初めて目にした瞬間から,この夜のものとは思えない美しさに,ところどころ淡褐色がまじったチョコレート色の髪に,鮮やかな緑の瞳に,そして彼の手に触れてくれと懇願するような華奢な体にとらわれてしまった。」ハビエル。一方「初めて会ったときから,カーラはハビエルに魅了されてしまった。」と相思相愛だった二人がすれ違ったまま3年を経過し,今カーラの怪我によってやっと二人の時間が再び交差していくことになったのです。こんなふうに再会ものは,このあと二人がどんな関係を気づいていくのだろうかという興味と,周囲の状況と折り合いを付けたり乗り越えたりしながら二人の愛を築いていくのかという興味で,一気読みしてしまいがちなストーリー展開が楽しみになっていきます。そして3年前の二人の因縁の場所マイアミのハビエルの別荘に再び戻った二人。そこで二人は3年前の互いの気持ちを打ち明け合うのですが・・・。
 MB版も邦訳版もカーラのモデルはちょっと大人びた大柄な女性ですが,フィギュアの女子選手というのはどちらかというと小柄で愛らしい感じというイメージしかもっていませんでしたので,初め表紙を見たときはちょっと違和感を持ちました。しかし,アメリカのグレイシーやイタリアのコストナーのような大きな選手もいますので,これは単なる思い込みだったかと思い直しました。それよりやはりアスリートらしい鍛え上げられた身体と勝負に対する貪欲なまでの闘争心という部分が選手生命を高めていくことになるのでしょうね。でも24歳というのはフィギュアの選手としてはかなりの高齢と言うべきでしょうか・・・。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。