SSブログ

虹に願いを [マーシー・グレイ]

SHALOCKMEMO1454
虹に願いを Rainbow's Promise 1993」
マーシー・グレイ 関口諒子




HQB-794
17.04/¥670/200p

HR-013
02.10/¥557/156p
L-0635
94.11/¥610/156p


 原題は「虹の約束」
 ヒロイン:リリー・アン・ジョーンズ(24歳)/保険会社「ネズビット・ヒューフネーグル社」社員,ハウスキーパー/身長174センチ/
 ヒーロー:ジョシュア(ジョシュ)・ディレーニー(34歳)/作家/身長190センチあまり,黒髪,美しい顔立ち,鼻筋が通り,頬は引き締まり,顎はがっしり,ふっくらした口元,長く濃いまつげ/
 「心配いらないわ,雨はいつだって止むんだもの。神様がね,もう洪水は起こさないって約束したのよ。だから雨が上がると,約束の印に空に虹を架けてくださるの」という幼いサラの言葉に慰められるリリー・アン。「でも人間が約束するときは虹は見えないみたい」「洪水」とは,もちろん「ノアの箱船」に登場する洪水のことでしょう。地球上にはびこった人間という悪の存在を一度リセットするために無害なワンセットずつの生き物を残してすべてを流し去る雨を降らせた洪水。ノアと園は小舟に乗った生き物たちは神と新たな契約を結びその印を虹という形で残した。という美しいお話しで原題どおりです。
 仕事募集の新聞広告を見てジョシュア・ディレーニーの元を訪れたリリー・アン・ジョーンズは,石と木材でできた広大な農家風の家で身長190センチはあろうと思われる長身の男性に迎えられます。リリー・アン自身も174センチと女性としては長身ですが,ジョシュアを見上げるしかありませんでした。「間違いなくこの人は,今までに私が出会った男の人の中で最高にハンサムだわ」とその外貌に興味を持ちます。そしてそんなハンサムなジョシュアが盲目であることにすぐ気づいたのです。家にはサラとサミュエルという二人の子供がおり,その面倒を見て欲しいというのですが,二人は普段はとても素直で聞き分けのいい子供なのです。しかし前のハウスキーパーだったミルドレッドが亡くなってしまい,その後やって来たリーナもすでに辞めてしまい,家の中はジョシュアがものに躓くほど雑然としていました。リリー・アンは自分の父親がこのジョシュアに定期的にまとまったお金を送っていたことで,なんらかの詐欺か恐喝に逢っているのではと疑ってここにやって来たのでした。しかし盲目で二人の子供を養育している人がそんなことをしているとは・・・。「このまま帰るわけには行かない。今となっては。それは彼の外見に惹かれたからでもある。永遠に見つめていてもいいと思うほどだ。しかし,それだけではない。彼のプライドがなぜか私を不安にするのだ。援助など要らないという拒絶の態度が。」と,リリー・アンはそのままこの家に残ることにしたのでした。サラとサミュエルの養育を巡っては福祉事務所の担当官から忠告を受けつつあるようです。兄夫婦の子供である二人を遺言により引き取りはしたものの,盲目の男性一人で二人を養育することは困難を極めます。なんとか力になりたいとリリー・アンは本来の父のお金をだまし取っている人という疑いを捨て,巻き込まれ的にハウスキーパーを引き受けてしまうのでした。「リリー・アンは彼をじっと見据えた。やっぱりそうだわ。こんなに強そうに見える人だけど,子供たちを失うのが怖いのよ。規則にとらわれすぎたソーシャルワーカーは,ジョシュアの目が見えないことにばかり気を取られてしまうのかも知れない。愛情も家族の絆も,簡単に消え失せるとでも考えているのだろう。私の方は,彼のすべてに魅了されている。父とジョシュとの関係はまだ分からないのだから,それを探ろう。」と自分に言い聞かせて・・・。そしてその関係に疑いをもったのはジョシュの失明の理由を聞いたときからでした。「カンザス州のハイウェイで,あの事故を起こした酔っ払い」のせいだったのです。父が事故を起こしたことを知っていたリリー・アンはその被害者がジョシュアではないかと,あまりの時期や事実の符合に愕然とします。4年前の事故で負った傷のせいでジョシュアが失明した。自分がその事故の加害者の娘だと知ったら,きっとジョシュアは自分を憎むに違いない。ジョシュとその甥姪たちを愛し始めていたリリー・アンは自分が気づいたこの事実をひたすら隠そうとします。そしてなんとかしてジョシュの力になりたいと。失明以来作家としての仕事ができなくなってしまったことを知ったリリー・アンはかつて担当していたデータ入力の仕事を生かして,ジョシュアの作品の口述筆記をすることを申し出ます。「困難を克服しなければ何も試みることはできない」というかつてのイギリスの文豪サミュエル・ジョンソンの言葉を思いだしたジョシュアはリリー・アンの申し出に勇気を振り起こし,時間を見つけて作品の口述を二人三脚で始めるのでした。この間の二人の仕事上だけではない心の交流が,本作の温かな雰囲気を盛り上げていきます。ところが,福祉事務所からやって来たソーシャルワーカーのミセス・ラドロウがとんでもないことをやってのけてしまいます。リリー・アンと父の関係を暴き出し,4年前の事故の加害者の娘であることを調べだしてジョシュアに教えてしまうのです。ジョシュアの妻になり,子供たちとともに家族になることを夢見だしていたリリー・アンにとっては,最悪の事態になります。事実を告げられたジョシュアからの鋭くきつい言葉。リリー・アンは謝罪と家を出ることをなくなく決意しなければなりませんでした。そしてその時に子供サラの言った言葉が冒頭の言葉なのです。さらに続けて「リリー・アンがこのおうちを出て行かないって約束してるときに,空を見たんだけど。だからジョシュおじさんに聴いたの。そうしたら神様からの合図は目に見えないから,人を信じるか信じないかは自分で判断しなきゃいけないんですって」という言葉に読者は泣かされます。「罪を許さず人は憎まず」という心境にジョシュアはたどり着けるのでしょうか。とにかくあたたかい作品です。ヒーローが盲目なので,ヒロインの外見についてはほとんど語られないのですが,心根の美しい女性であることは間違いないですね。
 本作の作家マーシー・グレイはたった4冊の作品を残しただけの作家でほとんどプロフィールは分かりませんが,4冊すべてが翻訳され,そのうち1冊が再版されたものです。いずれ他の作品も再版されることを切に願う次第です。


ティアラは世継ぎのために [シャロン・ケンドリック]

SHALOCKMEMO1453
ティアラは世継ぎのために Crowned for the Prince's Heir
( One Night With Consequences 20 ) 2016」
シャロン・ケンドリック 東みなみ





 原題は「王子の後継者のために冠を」
 ヒロイン:リサ・ベイリー(?歳)/服飾デザイナー/小柄,豊かな胸,緑色がかった金色の瞳,カールしたキャラメル色の長い髪,ミルクのような肌/
 ヒーロー:ルチアーノ(リュック)・ガブリエル・レオニダス(?歳)/マルドヴィア公国大公/長身,黒髪,ブルー(サファイア色)の目,深いオリーブ色の肌/
 シャロン・ケンドリック20冊目の読了本です。一夜の出来事からのヒーロー,ヒロインの関係を描いていくこのシリーズも,20冊目を迎えました。本作はもう初めからヒーローが大公ですから,後継者問題となることは自明のことですが,ロイヤルものにはヒロインの才能がどのように生かされていくのかという点も見逃せないですね。本作のヒロイン,リサ・ベイリーはドレス・デザイナー。大公妃としてふさわしいのか,国の人々はどのように彼女を受け入れていくのか,恋敵はいないのか,と前途多難な二人の行方にさらに後継者問題を絡め,となかなか難しいテーマに作者のストーリーテリングの手際が問われるところです。デザイナーのリサとリュックが出会い,6週間付き合った時,リュックは自分の身分を明かさずただのリュックでした。妹に赤ん坊が産まれ,ロンドンのベルグレイヴィア地区にあるブティックを経営することで生活費と全く働く意欲のない妹の恋人の二人を養うのは,リサにとって次第に経済的な負担になりつつあります。2年後,このブティックをリュックが訪れます。その時には,リサはリュックが大公であることを知っていました。今やただのリュックから身分違いの大公へと変貌を告げたルチアーノ。「僕に向かって,リサほどずけずけと口をきく者はいない。それにこれほどひるまず,まっすぐに僕を見つめる者もいない。」というリサに逆にルチアーノは魅力を感じていたのでした。現在付き合っている女性がいないから友人の結婚式に同伴して欲しい,というルチアーノの頼みを初めは二の足を踏んだリサでしたが,社交界の有名な人たちが集まる結婚式に自分のデザインした服を着ていくことでいいコマーシャルになるというルチアーノの甘言に乗せられるように,リサはYesを言ってしまいます。「大好きな妹ブリタニーは大学を中退し,かわいいタムシンの母親になった。そしてタムシンの父ジェイソンの言いなりになっている」現状から,リサのブティックはなかなか利益が上がらない状況を改善していかなければなりません。アイルランドの不動産王コナル・デヴリンと産業界の大物の娘アンバー・カーターの結婚式となれば,そこに集まる人たちに会うだけでも自分のデザインを披露することに大きなメリットがあるはずです。「ルチアーノが体しか求めていないのは,最初から分かっていた。個人的な話はできないとはっきり言った理由も,簡単には想像はついた。大公であるルチアーノが外国人に心を許すなどあってはならないからだ。」ということを十分承知の上でリサは「ルチアーノと時間を過ごせば,今度こそ彼を心の中から閉め出せるかも知れない」と期待したのです。「おとぎばなしの中にいるみたいだとリサは思った。すべての女性が夢見る,完璧な披露宴」のパーティで銀色のドレスに身を包み,リサはどれほど自分がリュックに想いを寄せられているかに気づかずにいます。「背が低くて胸が発達しすぎたブルネットの女」と自分を見ていたのです。一方リュックことルチアーノには,近くの島国のプリンセス・ソフィーとの結婚が決まっていました。いわば幼なじみですでに両家では二人が結ばれることは互いの国民も納得していたのでした。結婚披露宴の夜,二人は最後の思い出とばかり結ばれます。そして半年後,思いがけない結果。その結果をリサはルチアーノに告げようとしますが,彼の側近秘書のエレオノーラに連絡を阻まれてしまいます。リサは,自分も着ることのできるおしゃれなマタニティードレスのデザインで業績をアップしようと考えます。たまたまインターネットでリサを検索していたルチアーノは妊娠しているリサを発見してしまうのです。翌朝,ルチアーノは許嫁プリンセス・ソフィーの元を訪れ,その脚でロンドンに飛びます。そして,なぜ知らせてくれなかったと非難しますがエレオノーラが取り次がなかったことを知り,即刻彼女を首にするのでした。シングルマザーになることを決意していたリサに対して,大公家の子供であることを強調しますが,「私があなたを解放してあげようとしているのが分からないの?欲しいとも思わなかった子供を押しつけて,あなたの人生をめちゃめちゃにする気はないの。私が産むのは庶民の子供だもの。あなたはプリンセスである別の女性と結婚すればいいわ」とプリンセスを気遣うのでした。ロンドンに来る前にイゾラヴェルデのプリンセスの元に立ち寄ったことを告げ,婚約解消してきたことを打ち明けるのでしたが,「悪いけれど,わたしはもうあなたのものじゃないわ。婚約を解消したことが,なぜ私と関係あるの?二人は一夜限りの関係を結び望まない結果になってしまっただけよ。」と取り合いません。「自由の身になった今,僕は君と結婚できる。」と仄めかすルチアーノに対して「私が結婚すると,あなたは本気で思っているの?」「嫡出子ではない子供が,大公の位を継げるとは思わなかったわ」とさらに拒否するリサ。庶民から大公妃へ,この落差がリサを躊躇させているのです。そしてルチアーノが自分を愛してくれているという確信を持てないことが・・・。
 ルチアーノがリサを食事に誘うと,マスコミへの影響を考え,弁護士同席で子供の扱いをどうするか決めればいいといい放つリサ。「リサの膨らんだお腹にはマルドヴィア公国じゅうの富を集めたよりももっと貴重なものが育っている。自分が赤ん坊をどれほど欲しいと思っているかを悟り」,彼は動揺します。そしてリサのブティックの所有権をすべて手に入れているという脅しめいたことばや「子供の性別がどうであれ,将来的に王位継承法を見直せばいいだけの話しだ」とマルドヴィアでのリサの生活を示唆するのでした。ルチアーノとともにマルドヴィアに向かったリサ。宮殿内での戸惑うことの多い生活にリサは順応できるのでしょうか。そして気になる妹夫婦と店のこと。これらがすべて解決するときが来るのでしょうか。後半は宮殿内でのあれやこれやが語られます。そしてなによりルチアーノがリサを愛することができるようになるのでしょうか。Crownという原題をティアラという王妃を象徴するものに変えて邦題にしたのは,なかなかいいアイディアだと思います。
 エピローグではローズと名付けられた娘が2歳になっています。


タグ:ロマンス

ブラックメイル [ペニー・ジョーダン]

SHALOCKMEMO1452
ブラックメイル Blackmail 1986」
ペニー・ジョーダン 中原もえ




HQB-804
17.05/¥670/208p

C-333
96.11/¥640/156p
R-0371
85.02/¥500/156p


 原題は「恐喝」
 ヒロイン:リー・レイヴァン(22歳)/イギリス全土にチェーン店をもつ高級スーパーマーケットのワイン部門の主任バイヤーのアシスタント,婚約者は大銀行家の御曹子,家族はオーストラリア在住,ジルは初恋の人/肩に揺れるつややかな赤褐色の髪,カールした長いまつげ,グリーンの目,整った口元,すらりとした長身/
 ヒーロー:ジル・フレブール・ド・ショ-ヴィニー(31歳)/ワイン醸造主,伯爵,リーの母親とジルの母親は同窓生/黒い髪,額の広い顔/
 互いの母親が学校の同窓生で十代の頃に初恋の相手であったジルの元を訪れることになったリー。6年前のあの頃の気持ちがまだ残っていたなんて!? 再燃する憧れから大人の気持ちへの変化に戸惑いながら,婚約者よりも再会した初恋の人のほうに気持ちが傾いていくキャリア・レディの葛藤を美しいフランスのワイナリーを舞台に繰り広げられるドラマ仕立てのロマンスです。自分をしつこく追いかけてくる女性を諦めさせるためにジルに突然婚約したという芝居を振られたリーですが,驚いている間にあれよあれよと結婚が決まってしまい・・・。でも断れない理由もあったのです。自分の名誉を著しく傷つけてしまう1枚のラブレター。それは男性に縁のなかった自分のことを心配してくれた親友が書いたものだったのですが,その扇情的な内容が今になって自分を傷つけるものになるとは思いも寄りませんでした。しかもそれをジルがもっているとは・・・。それをネタに便宜的な結婚を迫られてしまいジルの申し出を断ることができなくなったのでした。思い起こせばリーはこれまでの人生の中でいくつかのタイミングの悪さで人から誤解を受け,苦労してきたのですが,そこからやっと立ち直りつつあったのです。そして人畜無害の婚約者ドリューとの交際も清いまま推移してきました。ジルへの思いはそれとは真逆の強引さや荒々しさに溢れたものだったのですが,逆にそれが魅力となり,ドリューの魅力のなさにも気づいていくことになってしまいます。ワインの買い付けのために仕事をしている数日間ジルのシャトーで滞在することになりますが,シャトーの家政婦はなにかとリーを目の敵のように扱うのが気になります。後にこの家政婦はとんでもないことをしでかすのです。さて翌々日。リーはパリでジルと結婚式を挙げるという超スピード展開。一方ジルはあの扇情的な手紙をリーが書いたものと誤解し,リーを身持ちの悪い女性とすっかり勘違いしており,そんな女性にふさわしい扱いをと完全にリーを見下しています。帰宅してリーに投げた言葉により思いもかけずに頬に平手を受けたジルは,逆に冷静になり,リーの本当の姿はあの手紙とは違うのでは? と思い始めるようになります。数日後にはリーもジルとのふれあいに違和感を感じなくなり,そして嵐の夜二人は自然の中で結ばれます。「私はジルを愛している」と気づいたリーは,あの夜ジルとの愛の結晶が授かったことを知ります。しかし自分がいかにジルを愛していてもジルは私を愛してはくれない。あくまで期間限定の便宜的結婚という条件は変わっていないのです。「愛される希望は持てないにしろ,時とともにジルの尊敬と信頼は勝ち得られるかも知れない。尊敬と信頼,この二つから案外見事な花が咲くこともある。」と希望を捨てないリー。
 そしていよいよクライマックスとなる大きな出来事がやって来ます。もともと暗闇恐怖症のリーは,例の家政婦と地下のワイン倉庫で在庫の確認をしようと地下室に降りていくのですが,一番奥まった今は使われていない倉庫部屋に入った途端,家政婦によって閉じ込められてしまうのでした。鍵をもっているのは家政婦のみ。ジルを追いかけている未亡人ルイーズの手先の家政婦により,リーは誰からも見捨てられることになってしまうのでしょうか。愛する一粒種とともに・・・。
 勿論,ロマンス作品ですからここはジルが白馬の王子となってリーを助けに駆けつけることになるのですが,分かっていながらも困難の事態にパニックにならずにじっとジルを信じて助けを待つリーの健気さに,読者は愛の深さを感じるのではないでしょうか。ときにこの家政婦の名前がマダム・ル・ボン(善良夫人)というのはなんともフランス風の皮肉が効いていますね。そしてこの事件の背後にはルイーズはもとよりかつての婚約者ドリューも一枚噛んでいたのです。これでもうジルとリーの間のわだかまりは一切消え,「赤ちゃんよりもあなたの愛情のほうをほんの少し余計欲しがっているって言ったら,許してくれるかしら?」という素敵な言葉をリーの口に乗せるのでした。ペニー・ジョーダンらしい骨太で繊細さの溢れる絶品のロマンスが堪能できる作品です。それにしても,文庫版の表紙の,このリーのモデルさんのフランス人形そのものの顔立ちときたら・・・。


タグ:ロマンス

売られた花嫁 [キャロル・ディヴァイン]

SHALOCKMEMO1451
売られた花嫁 Marriage for Sale
( Bridal Bid 3 ) 2000」
キャロル・ディヴァイン 高円寺みなみ





 原題は邦題と同じ
 ヒロイン:レイチェル・ジョンソン(28歳)/アーミシュやフッター派のようなコミュニティの娘/白に近い淡いブロンド,細い巻き毛,小柄,ハート形の顔,蜂蜜色の肌,青緑色の瞳,丸みをおびた豊かな胸,形のいい腰の線/
 ヒーロー:リンカーン(リンク)・モンロー(?歳)/牧場主/長身,赤銅色の肌,まつげも眉も濃い,真っ直ぐな鼻筋,緑色の冷ややかな瞳/
 モンタナ州。コミュニティの娘レイチェルは,自らの市場の競りにかけます。幼い頃から白っぽいブロンドの髪や青緑色の瞳が周囲のひとびとと外形が異なることからいじめの対象となり,コミュニティでは役に立たないと言われ続けてきたレイチェルですが,逆に動物とは自然に接する能力を身に付けることができ,野生馬の調教には馬を傷つけず,道具も使わずに謂わば対話と癒やしの気持ちで手なずけることができる力を身に付けていました。彼女自身が育てたと言える馬を競り落としたハンサムな男性が彼女自身にも同情心をこらえきれなくなり,身請けするつもりで競り落とします。人間自身が競りにかかることに激しい怒りの気持ちを堪えることができなくなったからです。その後彼女には自由にしていいというと,自分を落札した男性とは結婚しなければならないと言い出すのです。それがコミュニティでの競りの決まりだと・・・。仕方なく形だけの式を挙げ馬と一緒に彼女を車に乗せて牧場に連れ帰ったリンクですが,レイチェルは何の仕事をしたら良い?と早速働こうとします。テレビも知らず伝統的な規律に縛られた生活を送ってきたレイチェルに,まずは一般社会での常識と生き方を教えてあげなければ,自由を勝ち取っても誰かに騙されて帰って不幸になってしまうと気づいたリンクは,牧場の人たちと協力してレイチェルの再教育を始めるのでした。
 アメリカという広大な国の中には,いわゆる伝統的なユダヤの教えを忠実に守るアーミッシュの人たちを初めとして,このような閉ざされたコミュニティで伝統的な生活をしている人々が現にたくさんいることは知られています。あの,ピーター・デッカーとリナ・ラザラスが活躍するフェイ・ケラーマンの長編ミステリー・シリーズもこのような正統派ユダヤ教徒のコミュニティからスタートします。いわば現代社会にタイムスリップしたともいうべき純真無垢なレイチェルがどのようにしてリンクへの愛を貫き,愛を獲得していくかという成長譚として,ストーリー・テリングの妙味と涙なしには読み終えられない感動のイチオシ作品です。
 たった4作品しか発表していない佳作作家と思われるキャロル・ディヴァインですが,7月には「プライドと愛と」がディザイアで再刊されます。また,邦題の「売られた花嫁」は,チェコの作曲家スメタナの歌劇のタイトルを意識した邦題なのでしょうか?



タグ:ディザイア

星屑のシンデレラ [シャンテル・ショー]

SHALOCKMEMO1450
星屑のシンデレラ Trapped By Vialli's Vows
( Wedlocked 63 ) 2016」
シャンテル・ショー 茅野久枝





 原題は「ヴィアッリの誓いの罠」
 ヒロイン:マーニー・アリス・クラーク(24歳)/カクテルバーのウエイトレス,ロンドン大学学生/長い金髪,ブルーの瞳/
 ヒーロー:レアンドロ・ヴィアッリ(34歳)/「ヴィアッリ・エンターテインメント」経営者/彫りの深い顔,灰色の目,日焼けした金色の肌,赤褐色の髪/
 シンデレラ・ストーリーとしては何かちょっと悲哀に満ちた作品です。作者お得意の「愛人もの」ですが,唯々諾々とレアンドロの言うとおりに生活していたマーニーが,妊娠。さて愛人から昇格するのかというところで,事故により記憶喪失に。自分が言いすぎたと反省したヒーロー,レアンドロは,これ幸いと,二人の結婚を事実上のものにしようと画策するのですが・・・。マーニーの記憶がいつ戻るのか,これは「記憶喪失もの」で最も重要な要素ですが,作者は結婚式当日まで引っ張ります。そして何かとタイミングが悪くて疑われてきたマーニーに次々とそのもつれた糸を解くように証人が現れ,そしてマーニーの記憶が完全に戻ったとき,マーニーはレアンドロに怒りをぶつけて式場を去ってしまうのでした。ストーリー展開としてはちょっと都合が良すぎる感じがあり,作品としての捻りが今一つですが,まぁそんなに突飛な感じでもないのでありがち,ぐらいにしか思えません。
 複雑な家庭環境の元で育ったマーニーとレアンドロ。二人にはそんな共通点があるのですが,互いにプライドが邪魔してそれを秘密にしています。そのことが二人の誤解の元になるのですが,その誤解が解けたとき,二人の愛は完成するのです。生まれた女の子。名前をイタリア風にステラ(星)としたところが,マーニーが宇宙物理学で学年最優秀をとった経緯とかぶり,これも納得の部分です。


タグ:ロマンス

ボスとの予期せぬ一夜 [サラ M アンダーソン]

SHALOCKMEMO1449
ボスとの予期せぬ一夜 His Illegitimate Heir
( Beaumont Heirs 6 ) 2016」
サラ・M・アンダーソン 大谷真理子





 原題は「庶子の後継者」
 ヒロイン:ケーシー・ジョンソン(32歳)/ビール醸造会社の醸造監督/薄茶色の目,見事なヒップ,ブロンドの髪/
 ヒーロー:ゼバディア(ゼブ)・リチャーズ(?歳)/ビール醸造会社のCEO,ハードウィック・ボーモントの庶子/アフリカ系アメリカ人,グリーンの目,短い髪,広い肩/
 「幻の一夜の忘れ物(SHALOCKMEMO1389)」で本邦初訳の出たサラ・M・アンダーソン最大のシリーズ「ボーモントの後継者」の翻訳が始まりました。ただ,シリーズ第1作ではなく,第6作目からの出版ということで,この後シリーズの訳本が出ない可能性もありそうで,心配です。まあ売れ行きを見てということなのか,本国側の出版事情によるものなのか分かりませんが,複雑な親子関係を理解するためにも第1巻からの翻訳が望まれます。
 さて,本シリーズの背景はビール醸造会社「ボーモント・ブルワリー」をデンバーで経営するボーモント一族は130年にわたる歴史を誇る名家中の名家。しかし前社長ハードウィック・ボーモントは女性関係に締まりがなく,数度の結婚を繰り返したばかりでなく,結婚をしない女性との間にも子女を設け,しかも認知をせずに手切れ金だけを渡して済ましてしまうような男性でした。一体全部で何人の子供がいるのやらすら分からなくなっていたのです。本編ヒーローのゼブことゼバディア・リチャーズもその庶子の一人。母親は美容院を営むアフリカ系アメリカ人です。ハードウィックの庶子たちには白人だけでなくアジア系やアフリカ系までおり,なかなか全員を捜し当てるのも大変なようです。2016年までに7作が上梓されている本シリーズも第1作は長男のチャドウィック・ボーモントがヒーローで,チャドウィックは会社をやめ,別の小さなビール醸造会社を立ち上げています。父親から後継者として厳しく育てられてきたチャドウィックにとって,父の圧力から逃れ,独立するためには別会社を立ち上げるしかなかったのでした。その後何人かの経営者がボーモントの会社をつないでいきますが,前社長の時に経営が行き詰まり,会社は買収されてしまいます。その買収者こそ本作ヒーローのゼブでした。ゼブは貧しい仲から身を起こして事業で成功しペーパーカンパニーを通して静かにそして計画的に会社の買収に成功したのでした。これはまさに自分を認知しなかったハードウィックへの復讐という意味合いもあったのですが,会社に来た初日に自分の元に抗議しに来た醸造監督のケーシーの影響により,ビール造りへの情熱が復讐よりも強く湧いてくるのです。CEOとしてのゼブは同じ庶子のダニエル(アジア系)をDMO(市場調査担当重役)に据えて新たなビール造りに挑戦しようとしていたのですが,それを支えていくのがケーシーという30代初めの女性であることに若干の不安を感じつつも,男性以上に工場で働くケーシーの仕事ぶりと,ビール造りに駆けるプロ意識に感嘆し,同時にケーシーへの欲望に駆られていくのでした。経営者と従業員という関係から二人の関係の進展はしてはいけないことと二人とも思っていますが,次第に芽ばえてくる互いへの尊敬の念と欲望が遂に二人を結びつけます。野球試合の観戦中に中座してケーシーのアパートに行った二人は互いの欲望をぶつけ合い,結果ケーシーには一粒種が・・・。表だった関係にできないと密かに事実を告げるケーシーに,翌日ゼブは結婚を申し込みます。しかし仕事への情熱を持ち続け,いずれMBA資格も取ってビール造りをしたいと考えているケーシーにとって,仕事を辞めて家庭に入るように言われたことで,将来の計画に差し支えるとプロポーズを断るのでした。父親に認められないことで自分の子供には両親揃った家庭を準備したいと強く願うゼブにとって,ケーシーが家庭で子育てに専念することは譲れない条件でした。なかなか承諾してくれないケーシーをメールで報告を求めつつ機会をうかがっていたゼブですが,数日後,向上にケーシーがおらず,携帯にもつながらないことで,ケーシーが会社を辞めたのではないかと慌ててしまいます。そしてケーシーを見つけた先は・・・。
 アメリカのスポーツと言えば,フットボールと野球。本作では野球場が重要な場所としてうまく利用されています。電気工事士の父親の後をくっついて育ってきたケーシーは,普段は飾らずに男っぽい服装や言動をしているのですが,いざ恋に落ちると全くもって女性らしい女性に変身するのです。しかし母親を早くに亡くして自分が母親になることにどうすればいいのかわからずにいたとき,ゼブがどのくらい子育てに関与してくれるのか,その覚悟があるのか,そして自分が好きなビール造りの仕事が続けられるのか。これらをどのように解決していくのかが終末までの興味をひいていきます。


タグ:ディザイア

炎とシャンパン [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1448
炎とシャンパン The Flame of Desire 1981」
キャロル・モーティマー 安倍杏子




K-458
17.03/¥670/156p

B-007
94.02/¥520/182p
R-0516
87.02/¥578/156p


 原題は「欲望の炎」
 ヒロイン:ソフィー・ベドフォード(19歳)/良家の娘/長いブロンド,すみれ色の瞳/
 ヒーロー:ルーク・ヴィットリオ(38歳)/肖像画家/褐色の瞳,黒い長髪,180センチ以上の長身/
 シモン・ベドフォードの一人娘で継母ローズマリーはかなりの美貌をもち若さの点で継娘に対抗心をもつ30代後半の女性。そしてその一人娘ソフィーはまだ19歳。いわゆる何も仕事のない家事手伝いという立場です。事の発端は,ルークと知り合いであったローズマリーが夫シモンの誕生祝いに愛娘ソフィーの肖像画を依頼したことでした。今時肖像画?と思ってしまいますが,それだけ経済的に余裕のある家柄だと言うことでしょう。「無理だわパパ。絶対に私なんか描かないわ。彼が描くのは美しい女性だけなの。とても気難しくて,相当な有名人でも断られたくらいなのよ」と,言葉に出すソフィーですが,そんなソフィーの美しさを見抜いたのはルークでした。ローズマリーも継娘の美しさを知っているからこそ対抗心を燃やしているのでしょう。パパッ子のソフィーは無理に自分の考えを押しつけたりせずいつも愛情を注いでくれるシモンが大好き。謂わばファザコンなのかもしれません。そんな仲良し親娘の間になかなか割っては入れない継母ローズマリーは時々ロンドンに出かけていって昔の友達などと過ごしています。そんな友人関係の中にルークも入っていました。父がローズマリーを愛していることは十分に知っていますし,そんな父をないがしろにしてロンドンに遊びに行っている継母にソフィーはいつも不満を抱えていました。そんな時,ソフィーの親友ヘレンの家から自転車で帰宅途中,ルーク・ヴィットリオの車と接触してしまいます。幸いすりむき程度の怪我で家まで送るというルークの申し出を断り,すぐに分かるからと正体を明かしませんでした。初めからルークに良い印象を持っていなかったソフィーですが,ルークとちょっと触れあっただけで不思議な気持ちになっていきます。19歳の初心な小娘ソフィーは母親がルークと浮気をしているのではと考え,父親を守るためにも母親とルークを監視しなければという思いから肖像画を描かれることを承諾するのですが・・・。
 アトリエという密室空間で繰り広げられるルークの巧みな誘い。初心で男性とつきあったことのないソフィーにとってはとても太刀打ちできない存在なのですが,ルークの方も初めて会ったときから感じていたソフィーの髪と瞳の美しさから逃れられなくなり,なんと結婚を申し出るのでした。近所の農場の息子ニコラスに男性の気持ちを確かめようとしてみますが,やはりルークに対して自分の中に現れる情熱はニコラスには湧いてきません。二人の結婚は初めは順調でした。何度も自分を求めてくるルークにソフィーはすっかりメロメロになっていきますが,背後に継母の姿を何度か感じてしまいます。自分を独占したがるルークは他の男性との動向も会話すらも禁じるのですが,さらには父親にも嫉妬しているのでした。そのため互いの本音を隠し,些細な食い違いから二人の気持ちはすれ違っていくのです。実家に帰ったソフィーは,継母ローズマリーが父親との間に愛の結晶を得,母娘二人の仲はあっという間に改善してしまいます。ルークへの気持ちを継母に打ち明けるソフィー。ローズマリーはどんなアドバイスをするのでしょうか。
 相変わらずジェットコースターのように次々と物語が進行していき,ヒーローとヒロイン,そして周囲の人々のちょっとした仕草や言葉が登場人物の気持ちを明確に表出していく作者独特の作風が遺憾なく発揮された作品です。ちょっと時代を感じる面もありますが,イギリスならばあり得るかな?ということで許せてしまうところも多いソフィーの成長譚です。


タグ:ロマンス

ダークスーツを着た悪魔 [サラ・モーガン]

SHALOCKMEMO1447
ダークスーツを着た悪魔 Doukakis's Apprentice
( 21st Century Bosses 2 ) 2011」
サラ・モーガン 小池 桂




K-450
17.01/670¥156/p

R-2735
12.05/¥690/156p


 原題は「デュカキスの見習い」
 ヒロイン:ポリー・プリンス(24歳)/父の会社の補佐/絹糸のようなブロンドの髪,ブルーの瞳,美しい脚のライン/
 ヒーロー:デイモン・デュカキス(34歳)/複合型メディア・グループ経営者/黒い瞳,たくましい肩,褐色の肌/
 2012年に翻訳が出た「21st Century Bosses 2」シリーズの第2巻です。「21世紀のボス」というちょっと大げさな感じのするシリーズ名ですが,邦訳はメイシー・イエーツ「うたかたの蜜月」,トリッシュ・モーリ「一夜だけの婚約者」,キム・ローレンス「オフィスの恋人」と本作の4部作になっているようです。それぞれのヒーロー,ヒロインは取り立てて関係があるようではないようです。イマージュ,ロマンス両方で翻訳の出ているサラ・モーガンですが,イギリスのユーモアとロマンス度の高い作品,そしてシリーズものも多く,多作家の一人といっても良いでしょう。「三つの愛の詩」シリーズでは医師たちと三つ子の看護師という医療ものでNiceHeroineを登場させました。
 さて本作ですが,ボスものと復讐譚の両方の要素を融合させ,妹を守るために会社の乗っ取りを謀ったヒーロー,デイモンが妹の婚約者ピーター・プリンスの娘で妹の同級生ポリーを使ってピーターの行方を突き止めようとしますが,10年前妹とともに学校を退学になったポリーが当初考えていたのとは全く異なる理由で騒動を引き起こし,そしてさらにポリーに惹かれていってしまうという設定になっています。父を探し出すために自分が利用されていることを知りつつ,デイモンの男性的魅力に惹かれて行ってしまうヒロイン,ポリーもまた最後の台詞「おおせのままに。あなたがボスよ」とデイモンの愛を受け入れるまでの気持ちの変化を巧みに描いていきます。PR会社の経営不振が父ピーターの招いた無責任経営にあったこと,そして会社の業績を支えてきたのはひとえに高校卒の学歴しかないポリーとそのチームの斬新でユニークなアイデアによるものであることを知ったデイモンが,自分の経営方針であるきっちりした無駄を最大限に省いた経営方針を見直し,次第にポリーの経営方法を取り入れていくところが読んでいて思わず微笑んでしまう部分なのですが,自由な発想を得るために会社自体がおもちゃ箱をひっくり返したような破天荒な空間になっているのに対して,デイモンのオフィスは無機的な雰囲気でスタッフ用の机も出勤順に勝手に選べる,つまり何処に座っても良い方式だったのですが,ある日突然私物を持ち込んでも良いと変更されてしまうところが,作者特有のブラック・ユーモア溢れる本作の最大の魅力ある部分です。また,ポリーが着ていたピンクのストッキングを初めはデイモンがとがめるのですが,これは今PRを担当しようとしている会社の製品で,PRのコンセプトを最大に引き出すための企画方法だということを知ったデイモンが,ポリーの隠された才能と仕事に対する徹底したプロ意識を目の当たりにして,改めてポリーに惹かれていくところも,尊大なヒーローをぎゃふんと言わせるすっきり部分になっています。ひっきりなしにかかってくるクライアントからの電話に,ワイヤレスのヘッドセットで対応し,同時に従業員たちの個別の問題にも次々と対応していくポリーの働きづめの1日を目の当たりにして,自分以上に仕事に邁進するポリーへの尊敬の念と湧き上がる情熱に,ついに自分の女性観をすて,欲望に負けて行ってしまうデイモンの気持ちの変化にも注目したいところです。一気読み間違いなしの秀作です。


タグ:ロマンス

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。