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公爵と乙女の秘密 [デボラ・シモンズ]

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公爵と乙女の秘密 Heart's Masquearade 1989」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons deborahsimmons.com 岡 聖子




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デボラ・シモンズのデビュー作。この作品の後,「不機嫌な花嫁 Fortune Hunter 1992」「シャーロットの冒険 The Vicar's Daughter 1995」など元気で愛らしい乙女たちが続々と登場する,デボラ・シモンズの世界を読者である私たちに示してくれることになります。
さて,ヒロインのキャサリン・アンバーリーは,父を亡くし,母にも死なれ,遺産をいとこのエドワードに継がれてしまい,さらに命を狙われることになります。お転婆で,上品な社交界の生活よりも,自然や乗馬など男の子のような好みを持って生活してきたキャサリンは髪を切り,キャットととして少年の姿になり,私拿捕船に紛れ込み,キャビンボーイとして船長ランサム・デュ・プレイや船の仲間の中で暮らし始めます。18世紀の帆船での生活を,海洋小説で読んできた者としては,いかにお転婆な乙女とはいえ,マストを昇ったり,帆を修理したりということが,なまなかなことではできないことは容易に想像がつきますので,ちょっとこの設定は無理があるかなとも思いますが,親切な航海士のボースンや巨人で心優しい船員などがかなりキャットを気に入って,かばってくれたおかげで,この船の旅も不可能ではなかったようです。ボースンとは通常,掌帆長を指すのですが,小型の船では航海士も兼ねるのでしょうから,名前というよりは役名といったところでしょう。この船の中では本名などを知る必要もないのかもしれません。
船長ランサムには宿敵のデブリンという闇のボスがいて,手先を使って汚いやり方でランサムの財産を少しずつ無くそうという動きをしていました。キャットは叔母のもとを訪ね,やっとキャサリンとして,平安な日々を過ごしますが,そこに,貴族の公爵としてランサムが登場します。キャサリンがキャットであることは気付かれないものの,ランサムに憧れていたキャサリンのみならず,どこか見覚えのある感じから,ランサムもキャサリンに惹かれていきます。秘密を抱えたままの二人の関係は,時に近寄り,時に遠ざかります。その駆け引きの面白さをデボラ・シモンズは十分に読者に示してくれます。デビュー作にしてこの技法。まさに,デボラのストーリーテラーとしての面目躍如。しかも,ヒーローにもヒロインにも過分な感情移入をせず,どちにらがわからも,バランスのとれた書きっぷりであり,二人の駆け引きが決して嫌味にならずに物語が進行するうちに,敵役が登場し,キャサリン=キャットの冒険行と,息もつかせぬ展開も待っています。
また,脇役として登場するバルバドス島のアメリア叔母やランサムの親友でフランス人の放蕩者ルネなど魅力的な人物も顔を出し,シリーズものにしてもいいようなすばらしいキャラクターに恵まれた作品でもあります。
惜しむらくは,敵役となるデブリンやその手下のリチャード,そして悪役になりきれない伽遠のいとこのエドワードなどがちょっとかすんでしまっているところでしょうか。そのため,終末がちょっと尻切れの感じが否めませんでした。




ライラックの天使 [デボラ・シモンズ]

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ライラックの天使 A Man of Many Talents 2003」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons deboragsimmons.com 平江まゆみ





デボラ・シモンズのハーレクイン文庫は,主にハーレクイン・ヒストリカルで既刊のものがほとんどですが,これは文庫版で出ています。
ヒーローのモアランド子爵クリスチャン・リードは,ほとんど,お金持ちのボンボンに過ぎないのですが,巻き込まれ型とでもいうか,幽霊退治で名を馳せてしまい,今回,ヒロインの女相続人アビゲイル・パーキンソンの絶っての希望に引き寄せられ,というか,祖父の伯爵からの断れない勧めもあって,シベル・ホールという歴史的な建物の幽霊退治に行くことになってしまいます。恥かしがりやで芯の強い,女家庭教師のように姿勢を崩さないアビゲイルと,平凡な貴族のクリスチャンが,なぜかほのぼのとした会話を交わし,どことなく作品全体にユーモアがあふれているという作品に仕上がっています。原題の「たくさんの才能を持った男」というのも,クリスチャンを単なる甘やかされた道楽者とみなしていたアビゲイルが,自分勝手な想像と,クリスチャンのちょっとした格好付けを,思いがけないクリスチャンの才能と思い込み…という,どこかちぐはぐで,それが読者の苦笑を誘うということになっているのだと思います。しかし,最後に「あなたは数えきれないくらいたくさんの才能を持つ人よ。・・・幽霊退治の専門家・・・学者・・・悪党としてのあなたも」というアビゲイルの言葉があるように,本人も気づいていないクリスチャンの素晴らしい活躍が,デヴォンのシベル・ホールに隠された謎と財宝,そして悲劇的な愛の物語を一つ一つ解いていきます。最後のどんでん返しと,エピローグ的なアビゲイルのモノローグが実に見事に余韻とライラックの香りを残す名作です。さすが,デボラ・シモンズ。


舞踏室の微熱 [デボラ・シモンズ]

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舞踏室の微熱 A Lady of Distinction 2004」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons deborahsimmons.com 小長光弘美





ハーレクイン文庫は通常過去にハーレクイン社から出版されたものの文庫化が多いのですが,この作品は初訳のようです。しかもデボラ・シモンズ!
案の定,通常のヒストリカルには乗りにくい題材だったのかもしれません。
舞台はナポレオン戦争後のロンドン。まだ,エジプト学が確立する前で,シャンポリオンによるロゼッタストーンの解読が成功する前のことのようです。そのため,エジプトから多くの遺跡や文化財がイギリスに運ばれることにいろいろな意見あることが(これは,現在でもあるのでしょうが),随所に現れています。
大英博物館も登場しますが,まだ収蔵品としては現在の何十分の一,何百分の一という規模のものだったでしょう。貴族たちが金にあかせて個人的趣味で遺跡を買い集めていた,いわゆるブームとなっていたのでしょう。
さて,ヒロインのジュリエットは,背が高すぎてやせぎみ,眼鏡をかけ,地味な服装をしているという,当時の美女の基準からするとやや変わり種ですが,社交界よりもヒエログリフやエジプトの遺跡・遺物の方に興味があうぃ,数種類の言語に通じているという才媛でもあります。エジプト研究は男性の領域,父親にも構ってもらえないことをいいことに,自分の好きなエジプト研究に没頭する毎日でした。そこに,モーガン・ビーチャムという冒険家が多くの遺物やパピルスをエジプトから運び込み,ジュリエットの父親のカーライル伯爵がそれを買い込んだというところから物語は始まります。少々変わり種のジュリエットと冒険家らしい,いわば野蛮な格好のモーガンは出会った時から口論をし合いますが,ふしぎと二人とも互いをこれまでとは異なった価値観で認め合う気持ちが生まれてきます。もう一人敵役のシリル・リンドハ-スト卿が登場しますが,青白くいかにも研究者らしい,しかも威張りくさっている学者風な準男爵です。カーライル邸で自由に研究させてもらっているところからジュリエットも自分に気があるものと自分勝手に思い込んでいる,いかにも現代風な貴族崩れの敵役にふさわしい人物造型です。さて,カーライル邸の舞踏室に運び込まれた遺物を整理しようとしていた三人ですが,どうにも三角関係になってしまいますが,同時に誰もいない夜の間に,物が動かされた形跡や,パピルスの紛失,そしてミイラの手が夜中に空中を浮遊し,驚いた使用人が階段から転げて足を骨折するというような小さな事件が頻繁に起こるようになり,リンドハースト卿はこれをミイラの呪いと吹聴するようになります。それらの小さな事件が次第に大きな事件に発展し,緊張感を高めていきますが,なにせ450ページ足らずの本書ではそんなに綿密なミステリは期待できないと思われます。入口に昼夜を分かたず見張りが立っていても舞踏室ではいろいろな異変が起こったり,いかにも物語は謎めいていきますが,結局はあっけなくその謎が明かされたり,いかにも怪しげなカーライル伯爵やリンドハースト卿が,思い通りの行動をしたりと,謎の深まりはかなり薄いストーリー展開になっています。このあたりがミステリとロマンスの違いなのでしょうね。最後は売り物ではない宝の地図を元にジュリエットとモーガンが一夜のうちに結婚してエジプトに出発したりと,ストーリーはスピードはあるものの,現実離れしたいかにも作り物の感じがしていきます。デボラ・シモンズがストーリーテラーであることは間違いないのですが,本来もう少しエジプト学の蘊蓄が出てきたり,大英博物館の歴史を詳述するなどの工夫があってもよかったかな,と思わせる作品でした。


シャーロットの冒険 [デボラ・シモンズ]

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シャーロットの冒険 The Vicar's Daughter 1995」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons 石川 園枝
HQB-02/05.05/\714/365p





シャーロットの冒険
 ハーレクイン文庫創刊第2号。コンテンポラリーを数冊読んだ後では,お口直しにヒストリカルを。そんな思いで読み始めたものの,ヒロイン,シャーロットは,実に生き生きとしており,かなり現代的なお嬢さん。時にコミカルで時にシリアルなシャーロットと伯爵の関係。
ブロンドに青い眼,ウェディングドレスと頭飾りを付けた表紙のシャーロットの姿は鼻筋の通った,気の強さを表すちょっとしゃくれあごの小顔の美女。よく記述どおりのモデルを選ぶものだと感心してしまう。

やさしい牧師の父親と大家族の中で育ったシャーロットと,いくつもの称号を持ち何一つ不足するもののない大金持ちのマクシミリアンが出会った。環境(身分)の異なる二人が結びつく可能性は当時は全くないものの,シャーロットは家族を養うお金が必要,マクシミリアンは身近な人々の愛情が必要と互いに補完する要素を持っている。そのため,二人の相性がすばらしくいいことが逆にいろいろなトラブルを巻き起こす。そのトラブルがまた魅力的なシャーロットによって起こされることで,最後まで暖かく思わずニヤリとさせられるユーモアに満ちた作品に仕上がっている。作者デボラのしてやったりというポートレイトがそれを表している。


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最後の子爵 [デボラ・シモンズ]

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最後の子爵 The Last Rogue
( Regency Quartet 4 ) 1998」
デボラ・シモンズ すなみ 翔




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12.12/¥740/356p

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06.09/¥900/374p
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03.11/¥903/283p


 ジェーンが目覚めると、隣でラリー子爵が裸で横たわっている! 手違いで寝室を間違えてしまったらしいが、おかしな噂が立てば一大事。心配したジェーンの姉夫婦が出した結論は、このままラリー子爵と結婚するというもので…。
 ラリー子爵(Viscount Raleigh)とジェーン(Plain Jane Trowbridge)のリージェンシーロマンスです。牧師の娘でお堅いことこの上ないジェーンが数々のロマンスの浮き名を流してきたラリー子爵デヴィレル・フェアファクスとひょんなことから結婚する羽目に。愛されるわけがないと思いこむジェーン。それは常に輝きを放つ姉シャーロットと自分を比較し,日陰の身に甘んじてきたこれまでの自分の身の処し方に起因していたのです。
 しかし,ラリー子爵はジェーンの表に顕れない美しさに気づき,愛するようになります。さて,二人が住んだクレイヴァン・ホールは荒れ果てていましたが,ジェーンはホールを蘇らせることに意気込みを持ちます。初めは二人を避けていた村人たちもある事件をきっかけに二人に笑顔を見せるようになるのですが,その事件が,クレイヴァン・ホールの謎を解き明かすきっかけになります。そして,なぞの家政婦グレイヴス夫人はいったい何者なのか? 二人の周囲に次々に起こる怪現象はいったい誰が仕組んでいるのか? 幽霊譚,謎解きの面白さも巧みに織り込まれ,読者を引きこんでいく巧みさは,さすが,デボラ・シモンズ。どの作品でも,丁寧な書き込みと次に何が起こるかハラハラドキドキさせる仕掛けがあり,傑作揃いであることは間違いなく,リージェンシーものでも,ゴシック調と幅広いロマンス色を味わえる秀作です。


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伯爵家の事情 [デボラ・シモンズ]

SHALOCKMEMO293
伯爵家の事情 Tempting Kate 1997」
デボラ・シモンズ Deborah Simmons deborahsimmons.com 大谷真理子





リージェンシーものだが,没落した貴族の娘ケイトが良く描かれており,傲慢で,頑固なロス侯爵と似たもの同士のケイトがとても愛すべき女性に描かれており,ちょっと中だるみがするものの,最後のクライマックスで,やっぱりという気持ちにさせられ,読後感がいい。
ケイトの妹ルーシーや,貴族社会の俗物たち,そして叔父で後見人のジャスパーなどいかにもありそうな人物を上手く配することでストーリーに深みを加えている。
ばお,DSCはデボラ・シモンズ・コレクションの略で,本書はハーレクイン・ヒストリカルHS-34で,98年2月刊。


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