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甘美な背徳 [ジュリア・ジャスティス]

SHALOCKMEMO506
甘美な背徳 A Most Unconvetional Match 2008」
ジュリア・ジャスティス 大谷真理子





 とにかく一気読みしました。ヒロインはそれほど身分の高くないエリザベス・ロワリーという未亡人。ブロンドの美しい女性で夫を亡くしたばかりで,一人息子デイヴィッドとともに暮らしていますが,世事に疎く,すべて身の回りのことは夫や家政婦・執事に任せきりであったため,夫が急逝した後は家事の切り盛りが一気に自分の肩に掛かってきて,使用人たちに給料を払うことも,財産の管理も何もできない,しかし趣味の絵を描くことだけに没頭する生活をしています。一見弱々しいけれども心の強さと男に負けない気概を持つ自立したヒロインが多い中,逆に珍しく甘えん坊さんのヒロインです。
 ヒーローのハル・ウォーターマンは,上流階級では知らぬ者のない堂々とした母親にでくの坊扱いされているものの,鉱工業が隆盛しつつあった当時,自らの才覚で豊かな財力を蓄えつつあった男性であり,親友の妹であるヒロインの夫が亡くなったことを知り,生活を助けるためにロワリー邸を訪れます。人前,特に母親の前に出るとうまくしゃべれなくなることに劣等感を持ち,上流階級のレディを早く娶るように母親からせっつかれていることに嫌気がさし,何とか母親に会わないように画策する愛すべき人物です。
 ロワリー邸を訪れたハルと最初に出会ったのは息子のデヴィッドで,幼いうちから寄宿学校に入れられ,いじめられた経験を持つハルは,デヴィッドとすぐにうち解け,デヴィッドも父親を亡くしたばかりの寂しさからハルを慕うようになります。経済的に困窮することが目に見えたロワリー家の財産の整理と多少の投資を勧めるハルが,自分の息子の信頼を得たことを知り,エリザベスはハルに信頼を寄せますが,夫の親友であったサー・グレゴリー・ホルバーンは,ハルが社交界では受け入れられないでくの坊であるとエリザベスに告げ,ハルを遠ざけるようほのめかし,自分の援助を受け入れるようにロワリー家の執事まで仲間に引き入れ,エリザベスを愛人にしようと画策します。エリザベスの方もサー・グレゴリーが自分を大切に思ってくれているようだということと,夫を亡くしたばかりであること,そして小ずれで未亡人の自分がハルのような上流階級の独身男性に気に入られ,彼の気持ちが自分に向けられているものかどうかを確信できないため,二人の気持ちは微妙にすれ違っていきます。そして,二人の気持ちはハルが仕事の関係で二週間ほどロンドンを離れた後に再びあったとき,瞬時に燃え上がるのでした。
 とてもスピーディなストーリー展開で,それほど大きな,思いがけない事件もなく淡々と物語は進んでいくのですが,二人の気持ちの微妙な変化が見事に表されており,特にハルがエリザベスやデヴィッドを勇気づけ,訥々とした語り口調で賢明に励ましていく姿にさわやかな読後感が得られる秀作です。


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野性の花嫁 [ジュリア・ジャスティス]

SHALOCKMEMO475
野性の花嫁 The Untamed Heiress 2003」
ジュリア・ジャスティス 江田さだえ





 「独立心のある(飼いならされていない)女相続人」という原題のちょっと厚手のヒストリカルです。「untamed」には,「社交界の常識にはあてはまらない」とか,「社交界に慣れていない」という意味も含まれているでしょうが,「社交界の常識に汚されていない」というふうな強い意味も含まれていそうなので,「野性の…」と邦題がつけられたのかもしれません。
ヒロインのヘレナ・ランバース。表紙の絵では亜麻色の髪と濃いグリーンの目の口元が可愛い割には気の強そうな美女が振り向いている姿が,豪華な屋敷の大広間で,濃いブルーの生地と白いレースの襟元のドレス姿で描かれています。この背丈のこの若さの少女がもし少年の格好をし,長い髪を帽子に隠していれば,当然少年と見誤られるでしょう。ヘレナは時に屋敷の中で息が詰まると,少年の格好をして,自由の空気を吸いに屋敷を抜け出して行くのです。好奇心の塊であり,知りたい事には危険を顧みず,いわば社交界の女性の常識では考えられない行動をするのですが,それが,いちいち清々しく,愛らしく感じられるのです。もともと,幼いころ母が愛人のもとに出奔して父のもとに残され,徹底的に苛め抜かれるというDVを体験するのですが,そのため,社交界の礼法を全く身に付けずに育ちます。背中や首には鞭打たれた跡が残っているため,常にのど元までのドレスを着たがり,くるぶしがすっかり隠れるような長いドレスを着ているため,妙齢の婦人としては社交界の常識を外れた格好をしているのでした。しかし,頭の回転が速く,男性顔負けの知識をもち,読書に没頭するという,まさに好奇心の塊でもあるのです。しかも,父が亡くなり,一人では使いきれないほどの遺産を手にしているとあっては,格好ばかりで手元がさびしい貴族男性の格好の標的,花嫁候補にもなるのです。
結婚が遺産相続の上では非常に有効な手段だった当時,一家を支え,妹を社交界にデビューさせようとしていたヒーローの陸軍大尉アダム・ダーネルにとっては,当時社交界でなかなか男性の好みがうるさいといわれていた幼馴染で持参金の豊富なプリシラに求婚していたところに現れた,この不思議な少女(実は20才だったのですが)ヘレナ・ランバースが豊富な遺産と結婚が許されない後見人的な存在となったことは,いかにもややこしい関係になってしまっています。しかも,この風変わりな少女が莫大な遺産の持ち主であることは,知られていなかったのですから。
 生まれて初めて自分の行動に優しさと理解を持って接してくれたダーネル一家とその使用人たち,そして母親の事務弁護士だった男性によって徐々に社交界に登場していったヘレナではありましたが,アダムとの思いを断ち切り,遠くから自分を見つめていた母の愛人の母親から,出生の秘密を聞かされた時,無慈悲で認否人の自分の父親の血をひいていないことに心から安どして,本当の父のいる南国の島へと渡るのです。しかし,アダムを失った心の痛みは本当の父に会ってもなかなか癒されるものではありませんでした。大団円ではアダムが光の向こうから現れ,まるで映画の一シーンのよーに素晴らしい再会を喜び合う二人の姿に読者は,心の底から安どと温かい心に包まれるのです。一気に読み進められる377ページの傑作です。


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背徳の女神 [ジュリア・ジャスティス]

SHALOCKMEMO448
背徳の女神 The Courtesan 2005」
ジュリア・ジャスティス 杉浦よしこ





 ワーテルローの戦いからイギリスに帰ってきたジャック・キャリントン大尉。地獄のような戦場から帰還し,旧友たちと旧交を温めているとき,フェンシングの講習を見に行かないかと誘われます。そこで勝った方の剣士が面を外したとき,そこに見えたのは,「彼」ではなく,「完璧な卵型の顔,肌は真珠のように輝き,アーチ形の眉の下で深いブルーの大きな瞳,ふっくらしたピンク色の花弁のような唇,鋳造したての金貨を思わせるきつい三つ編みにした髪」をもつ,ジャックがこれまで目にした中で一番美しい女性,ベルなのでした。そして,ベルにフェンシングで勝てそうなのはジャックだけだという周囲からのおだてに乗せられ,すでにその美しさに心を奪われたジャックは,ベルに挑みます。しかし,ベルが突き出した剣先はジャックの胸を突き刺してしまいます。戦場では生き残れたジャックが女との戯れの剣のレッスンで命にかかわるような大けがをしようとは... 
 周囲がはやし立てたにもかかわらず,怪我を負ったジャックを誰も介護しようとはしません。しかたなくベルは自分の家にジャックを連れ帰り,自分が傷を負わせたジャックを介護するのでした。
 美女の家に紳士が転がり込んだだけでも社交界の格好の噂になることは必定の時代,しかも,その美女とは,パトロンを亡くしたばかりの高級愛人であったベルなのですから,社交界の格好の話題になり,ジャックの名誉は風前の灯で,妹を社交界にデビューさせようとしていたジャックにとっては,大きな痛手となることは容易に想像できることでした。次第に回復していくジャックは,風評とは異なり,ベルが単なる愛人ではなく,教養も政治に対する立派な考えも,そしてなにより社会の下層に暮らす人々に対する温かい思いやりにあふれた人であることを知り,容姿よりもその心根を愛してしまうのです。
 そんなとき,乱暴されて逃げる少女ジェーンを助けたベルは,娼館の女主人のもとに,だまされて連れてこられた女性たちがいることを知り,しかもその背後には,貴族階級の人々も混じっていることに憤りを感じ,その悪事を暴こうとします。証拠をつかまない限りは当局に訴えても取り上げてもらえないだろうということに,なお,憤りを感じながらも,人さらいのようなこの悪事をあばくことが,本書のもう一つのプロットになります。
回復途中のジャックを生家に送り届けようとロンドンを出たところで,暴漢に襲われたベル一行は,ジャックの命をかけた活躍で難を逃れますが,ジャックの傷が再び開き,しかたなく自分の領地で静養することを余儀なくされたベルですが,執事役の元ボクシング・チャンピオンのワトスンや,話し相手のメイ,浮浪児のジェムなど,風変わりな人々との交流で,ジャックは自分の出自とは異なったところで,立派に生きようとする人々がいることを知り,その面倒を見ようとするベルに改めてひかれていくのでした。愛人になる前のベルは一体何者だったのか。その出自はわからないものの,直感的に上流のにおいを感じ取ったジャックは,ベルを愛する気持ちを抑えきれず,時間をかけてベルとの愛を育んでいこうとします。そんなジャックの高潔な気持ちに心を許していくベルなのですが,最後には,越え難い階級の違いを理由に,ジャックと別れようとします。そんな二人のもとをある朝,ロンドンから訪れたルパート卿が,ジャックがベルとのフェンシングのレッスンの勝敗をネタに,賭けをしていたことをばらしてしまいます。高潔だと思って心を許した相手が自分をネタに賭けをしていたことを知ったベルは,ジャックにいらだち,家を出ていくように通告するのでした。

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