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公爵令嬢の恋愛入門 [キャロライン・リンデン]

SHALOCKMEMO596
公爵令嬢の恋愛入門 A Rake's Guide to Seduction 2008」
キャロライン・リンデン 上京 恵





 キャロライン・リンデンのリース家シリーズの第3弾です。兄マーカスやデヴィッドの跡ばかりをついていた妹のシーリア。兄たちが幸せな結婚をしているのを見て,社交界デビューの年に,自分に熱心に求婚してくれたバートラムと結婚します。しかし,なかなか二人の間に子供ができないことなどから夫は次第にシーリアから離れて行ってしまい,先に亡くなってしまいます。夫の父親を一人ぼっちにしてはいけないと思っていたシーリアのもとに,母親から実家に帰ってくるように言われ,喪服のままシーリアは実家に帰ります。そして,母親が企画した3週間のハウスパーティで・・・。
 前作「公爵代理の麗しき災難」のような,派手な活劇シーンは最後のところにちょっと出てくるだけですし,シリーズ第1弾「ためらいの誓いを公爵と」のようにひねったプロットもありません。ほとんどを占めるのはハウスパーティに招かれたそれぞれの人々の様子と,シーリアの心の動きです。しかし,アンソニーをめぐる人々の思惑が微妙に変化していき,最期までアンソニーを信頼できないでいるシーリアの母親の気持ちが劇的に変化するところは,リンデンの筆力の見事さというべきでしょうか,シリーズどの作品でも描かれる社交界の正統的な人々の心の狭さと,リース家の人々の度量や心の広さを通して,社交界に対するリンデンの考え方を表しているものと思います。単独でも十分に楽しめますが,前作,前々作を読んでいた方が,リース家の家族関係が分かってすんなり読めるかもしれません。


公爵代理の麗しき災難 [キャロライン・リンデン]

SHALOCKMEMO521
公爵代理の麗しき災難 What a Rogue Desire 2007」
キャロライン・リンデン 岡本三余





 「ためらいの誓いを公爵と」に続く,リース兄弟ものの2作目です。前作で問題児として兄の結婚に一役買ったリース家の弟デヴィッドですが,兄夫婦が大陸に新婚旅行に出かけるとあって,その期間の公爵としての仕事の代理を引き受けます。しかし,これまで放蕩者として,公爵の仕事など,何一つこなしたことのない自分が,何とか役に立ってみようと決意したことも確かです。そんなデヴィッドをいくつもの不幸が待っていたのですが・・・。
 公爵の身分を表す紋章付き指輪をして,兄の仕事場へと乗った乗合馬車が,追いはぎの一味に襲われ,指輪をとられてしまいます。そして,同乗していた美しい未亡人を守ろうとして殴られ,昏倒してしまいます。兄の仕事を完遂するためには代理であることを示す指輪がとても大切なものであると考えたデヴィッドは,すぐさま,ロンドン中の質屋をめぐり,指輪に懸賞金を掛けたのでした。そして,連絡のあった質屋で指輪を売ろうとしていた人物を待ち構えていると,そこに現れたのはなんと,乗合馬車の美しい未亡人ではありませんか。捕り手に突き出すか,追いはぎの一味を自分の手で突き止めるか。未亡人がその場には指輪を持っていなかったため,女性を自分の家に連れて行き,仲間のことを探ろうとします。
 それまでは,数人の悪い友達とロンドンで放蕩の限りを尽くしていたデヴィッドですが,幼い頃から自分をかばってきてくれた兄に恩返しをしようと本気になっていて,公爵としての仕事を兄の家の執事や事務員の助けを借りながら,何とか果たしていきます。しかし,家に連れてきた未亡人はなかなか自分のことや仲間のことを話そうとはしません。しかし,未亡人が図書室にある戯曲に興味を持っていることに気づいたデヴィッドは,美しいドレスを着せてミセス・グレイと名乗らせ未亡人を王立劇場での観劇に伴います。初めて劇場での観劇に興奮したミセス・グレイは,デヴィッドの本当の優しさに次第に心引かれ,自分の本名がヴィヴィアンであることや出自を語り,ついにはデヴィッドのキスを受け入れます。しかし,弟がいて,いやいやながら追いはぎの一団と一緒にいることは告げられないでいます。
 そのころ,街道でブラック・デュークという盗賊団の台頭が噂となり,一度はデヴィッドもその仲間ではないかという疑いを掛けられます。ブラック・デュークこそが自分の指輪を持っていると推測したデヴィッドは,街道の乗合馬車に乗り,捕り手よりも早く盗賊団を見つけ出そうとします。ミセス・グレイことヴィヴィアンも,下々の言葉を自由に話せるという特技をデヴィッドに納得させ,一緒に行動することになります。
 二人は盗賊の首領に出会うことができるのでしょうか。さらにヴィヴィアンの弟サイモンを救い出すことができるのでしょうか。絶体絶命の危機に陥ったとき,果たしてデヴィッドを救うのは誰なのでしょうか。
 物語は意外な展開を見せ,すべては収まるところに収まるのがロマンス小説の醍醐味ではあるのですが,本書では,たとえ,過去にどんなことがあっても,自らの努力や才覚で,人は自分の人生を切り開いていくことができるのだというビルドゥングス・ロマンの王道を十分に示す秀作となっています。


ためらいの誓いを公爵と [キャロライン・リンデン]

SHALOCKMEMO449
ためらいの誓いを公爵と What A Gentleman Wants 2006」
キャロライン・リンデン 白木 智子





「紳士が望むこと」とでも訳すのでしょうか。牧師の未亡人ハンナとエクセター公爵マーカス・リースのヒストリカル・ロマンスです。
エクセター公爵マーカスには双子の弟デヴィッドがいます。世の中にたった数分生まれた時間が違うだけで,兄と弟という絶対的な違いができてしまう二人。双子の宿命とでもいうのでしょうか。兄のマーカスは長男らしく,生真面目で面白みに欠ける男。公爵家の対面を守るため常に家族に気配りするような性格。一方弟のデヴィッドは人好きのする優れた容姿を利用して,次々に悪さをしでかし,面白おかしく生活している,いわゆるすね者。しかし,そんな弟のしでかした不始末を文句を言うぐらいで,常に後始末をして回る兄のマーカス。
ある時,馬車の競争をしているとき,穴のあいた道路で馬車がひっくり返り大けがをしたデヴィッドを助けたのは,牧師の未亡人ハンナでした。悪態をつきつつも,ハンナに助けられ,本来の優しさを取り戻し,自分のこれまでの悪行を反省し始めたデヴィッドは,ハンナに求婚し,経済的に困っていたハンナを救おうとします。しかし,そんなデヴィッドが思いついた最大のいたずらは,婚姻届に自分の名前ではなく,兄のマーカスの名前を書くことでした。そんなこととは全く気付かず,エクセター公爵家を訪れたハンナを待っていたのは,デヴィッドの出奔と兄マーカスの冷たい視線だったのです。財産狙いで自分との結婚を画策したと思い込んだマーカスの冷たい視線にもめげず,亡父との間の一人娘モリーと公爵邸を訪れたハンナは,すぐにでも帰郷しようと決意するのですが,ここでも体面を気にするマーカスに,社交界のほとぼりが冷めるまでの数カ月,夫婦のフリをするように求められ,経済的にも困窮していたことから,なんとなく公爵家にとどまることになってしまいます。マーカスの義母レディ・ロザリンドと義妹のシーリアはハンナをすっかりマーカスの花嫁と思い込み,なにくれとハンナとモリーの世話をします。ハンナはそんな二人の女性の期待を裏切ることもできず,誤解だとは言い出せなくなってしまいます。
さて,悪行を繰り返していたデヴィッドは偽札作りにもかかわっていたようです。そんなことが公になれば公爵家の対面はとても保てないと思い,マーカスはひそかに当局と取引して,捜査に協力する代わりにデヴィッドがかかわっていても表沙汰にはならないように画策します。はじめはぶっきらぼうで,自分を嫌っていると思っていたハンナですが,そんなマーカスが本当は家族想いのとても優しい男性であることに気づき,次第にマーカスに惹かれていきます。また,マーカスも愛らしいモリーや,自分の境遇にくじけずに自然を愛するハンナの美点に気付き,心憎からず思うようになります。しかし,契約結婚のように過ごそうとしていたことから,互いの思いを打ち明けられずに数カ月が過ぎていきます。後半では,デヴィッドがかかわっていた偽札づくりの黒幕が登場し,公爵家に一大危機が訪れますが,ハンナが機転を利かせて大活躍し,デヴィッドもマーカスも命を救われます。
経済的にも,身分の上でも弱い立場にあるハンナが,気丈に,しかも機転を利かせてマーカスや公爵家の面々に受け入れられ,終にはマーカスと相思相愛の本当の夫婦になっていくストーリーは,心温まり,すっきりした余韻をもたらしてくれます。


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