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エメラルドは静かに燃えて [キャリン・モンク]

SHALOCKMEMO532
エメラルドは静かに燃えて My Favorite Thief 2003」
キャリン・モンク 園部亜希





「悲しみに聖女の祈りを」「チャペルから消えた花嫁」に続く,キャリン・モンクのシリーズ第3弾です。第1作から14年が立った1875年のロンドンが舞台です。ジュヌヴィエーヴとヘイドンによって養子に迎えられた少年少女たちのうちのシャーロットがヒロイン。アナベル,グレイスはすでに他家に嫁ぎ,サイモン,ジェイミーといった少年たちもそれぞれの道を進んでいます。シャーロットはジュヌヴィエーヴと同じように,ロンドンで救貧院を立ち上げ,不幸な生い立ちの子どもたちを引き取って自立への手助けをしています。ジュヌヴィエーヴ,ヘイドン夫妻のもとにいた御者のオリヴァー,家政婦のドリーン,料理人のユーニスの3人組は,シャーロットの救貧院を手伝って一緒に暮らしていますが,年長のジャックは船乗りとして海外に出かけているという設定です。
 ロンドンの上流社会を騒がす怪盗「ダーク・シャドー」にシャーロットはある舞踏会で偶然出くわしてしまい,自らも脛に傷を持つ身として,自分を人質にして追撃の手を逃れるよう助言します。怪我を負ったダーク・シャドーことハリソン・ペインは仕方なくシャーロット,オリヴァーに救われ,シャーロットのところに一時匿われます。足を引きずり,可憐な令嬢と見えるシャーロットが,気丈に決断力を持って自分を助けてくれたことから,シャーロットの外見の裏に隠された美点を感じ取ったハリソン(ハリー)は,次第にシャーロットが気にかかっていきます。シャーロットは,自ら経営する救貧院への寄付を募るために,上流階級の舞踏会に参加していたのですが,なかなか寄付を得ることができずにいたのでした。
 そんなとき,シャーロットの実の父,アーチー・バクソンが現れます。アーチーはシャーロットに保護されていた少年を誘拐し,五千ポンドという高額な身代金を要求します。策に困ったシャーロットはハリソンに借用を申し出て,とりあえず,手元にあった八百ポンドを渡すハリソンでしたが,時を同じくして,ダーク・シャドーを名乗る怪盗が出没します。
 シャーロットは無事少年を実の父のもとから助け出せるでしょうか。ハリソンは本当に怪盗なのでしょうか。そしてシャーロットとハリソン,二人のロマンスの行方は・・・。二つのサスペンスと,シャーロットとハリソンのロマンスが絡み合い,絶妙のストーリーが紡ぎだされます。
 キャリン・モンクの作品は前2作もそうでしたが,常に不幸な生い立ちや貧しい人たちに心を寄せるとともに上流階級のスノビズムを対比し,不幸な人々への温かいまなざしと,困難に負けずにたくましく成長していく若い人々への賛辞,そしてオリヴァーやドリーンなど脇役の懐の広い愛情の姿を通して,よく生きるとはなにか,家族とは何か,愛とは何かを,深く温かく描き出してくれる作品ばかりです。シリーズの登場人物が重なり,しかもそれぞれが成長していくので,シリーズを通して読んでいったほうが楽しめると思います。


チャペルから消えた花嫁 [キャリン・モンク]

SHALOCKMEMO518
チャペルから消えた花嫁 The Wedding Escape 2008」
キャリン・モンク 戸坂藤子





 「悲しみに聖女の祈りを The Prisoner 2001」に続く,キャリン・モンクの「孤児」シリーズ第2弾です。
前作では,シリーズ開幕編にふさわしく,子爵の娘ジュヌヴィエーヴとレドモンド侯爵ヘイドン・ケント,それに一風変わったジュヌヴィエーヴの家族の物語が描かれていました。本作では,ジュヌヴィエーヴとヘイドンが出合うきっかけとなった,16歳の少年ジャックがヒーローとなっています。
前作から22年後,つまり,ジャックはすでに38歳。海運業を興し,数隻の船を持って,海外との貿易で名を成しすまでになっていますが,ここのところ自分の所有する船が不審な火災が起こったり,船員たちが事故にあったりという事件が続き,会社の経営が危うくなっています。しかしその原因は不明で,何者かがそれらを画策しているのではと探偵を雇ったりして調べていますが原因はわかりません。さて,ジャックが知り合いの結婚式に出席するためロンドンに来ているとき,チャペルの上の方から,花嫁が気を伝って降りてくるのに出くわします。そして自分を逃がしてほしいと頼まれます。一家の執事兼御者も勤めるオリヴァーとともにジャックはこの娘を馬車に乗せ,ロンドンから逃れたのでした。この花嫁はアメリアといい,裕福なアメリカ人の娘で,今まさに公爵との結婚が嫌で,結婚式の直前で周囲の隙を見て逃亡を図ったのでした。事情を知ったジャックはなんとかアメリアに結婚式に戻るように説得しようとしますが,貴族との意に沿わない結婚や,アメリカ風な率直なものいいに魅せられ,手を貸すことにします。結婚式の直前に花嫁がいなくなったというセンセーションな出来事に,社交界も新聞界も大騒ぎをしていきます。アメリアには結婚前に心に決めた相手がいたので,一旦逃れたジャックのもとからさらに逃げ出し,相手の男性パーシーを訪ねるのですが,パーシーも彼女を愛していたのではなく,アメリアの財産を当てにしていたことを知り,両親の元に戻っていくのでした。ジャックは,アメリアに惹かれているのですが,かつてストリート・チルドレンであった自分の出自や,会社の経営が危なくなっていることから,裕福に育ったアメリアの相手にふさわしくないと思い,アメリアから離れようとします。二人の関係はどうなるのでしょうか。
ジャックにはもうひとつ,自分の出自に関する秘密がありました。しかし,その出自にこだわらず,自分の足で未来を切り開こうとしていきます。このあたりに,貴族社会から,ブルジョアの社会に変貌していくイギリスの歴史が見え隠れしていくのも,作者キャリン・モンクの独壇場です。
大団円では,前作でジャックが引き取られたケント家の兄弟を始め,一同が,前作と同じように見事なチームワークを組んで,ジャックとアメリアの関係をさらに推し進めようとがんばります。この痛快なドタバタ場面は前作同様,信頼に裏打ちされた暖かな家族の紐帯が感じられ,このシリーズの魅力になっています。
本作は,前作から22年後が描かれていますが,原作のシリーズでは,間にもう1作が出版されており,ジャックの妹分シャーロットがヒロインを務めています。この作品の翻訳も楽しみです。


悲しみに聖女の祈りを [キャリン・モンク]

SHALOCKMEMO504
悲しみに聖女の祈りを The Prisoner 2001」
キャリン・モンク 幾久木犀





原題は「囚人」。カナダのヒストリカル作家キャリン・モンクの「孤児」シリーズの第1作です。「囚人」にしろ「孤児」にしろ,あまり興味を惹きそうにない表題ですが,読んでびっくり,まさに心洗われる愛と悲しみと再生の物語です。
19世紀半ばのスコットランド,子爵の娘ジュヌヴィエーヴ(作者の娘さんと同じ名前だそうです)は,インヴァレアリー監獄でジャックという名の16歳の少年を引き取りにいきます。ジュヌヴィエーヴは,これまでにも監獄に収監された少年少女たちの身元引受人として,家に連れて帰り,愛情込めて育てていたのでした。しかも,自分の家財を少しずつ売って生活費を稼ぎ,さらには監獄のトムスン所長に謝礼まで払って,子供たちの身元を引き受け一緒に生活していたのです。当時の監獄はどんな状況だったのでしょう。現代と比べても収監された人たちの人権が守られるような状況でなかったことは容易に想像できますし,看守たちの収監された人たちへの暴力などもあったことでしょう。それでも,このインヴァレアリー監獄は国内屈指の先進的な環境を備えた場所だったらしいのですが・・・。
そこで,ジャックが看守に暴力をふるわれようとしていたとき,自分の危険を顧みず,ジャックを守ろうとした囚人がいました。囚人は,翌日死刑台に送られる予定のレドモンド侯爵ヘイドン・ケントでした。少年ジャックは,ジュヌヴィエーヴと所長,看守たちがジャックの身元引き受けの手続きをしている間にわざと騒ぎをおこし,監房の鍵をこっそり開け,ヘイドンの脱獄を助けるのです。実はヘイドンは町で暴漢たちに襲われ,自分の身を守るためにその一人を殺してしまったのです。いわば,正当防衛だったわけですが,誰もそれを見ている者もなく,しかも仲間の暴漢たちはすっかり身を隠してしまったため,ヘイドンだけが殺人の罪で死刑が宣告されたのでした。脱獄したヘイドンがジュヌヴィエーヴの家を訪ねてきますが,ジュヌヴィエーヴは殺人犯かもしれないヘイドンが,監獄でジャックをかばおうと自分の身を危険にさらしたことを知っていたので,ヘイドンの心の奥に真の優しさがあることを見て取り,別人に扮したヘイドンと結婚したことにして一緒に暮らすことにします。
ジュヌヴィエーヴの家にはジャックの外にグレイス,シャーロット,アナベル,サイモン,そして弟のジェイミーという少年少女が一緒に生活をし,執事のオリヴァー,家政婦のドリーン,料理人ユーニスが家事を担当していたのですが,子供たちだけではなく,大人たちもかつて何らかの犯罪に手を染め,監獄に収監された経験を持っていました。しかし,本書の全編を通じて,これら9人の一人一人が実に生き生きと描かれ,しかも互いを思いやる気持ちをもって生活し,かつての自分の不幸だったことを乗り越えて生きていこうとするたくましさをもった人たちであることが,読者の心に感動と勇気を与えてくれます。
家族となった人々の生活を支えているジュヌヴィエーヴに収入の道はありません。経済的な危機に陥った一家に,ヘイドンはジュヌヴィエーヴの描いた絵を画廊に持ち込み,グラスゴーで個展を開き絵を売る話を画商に勧めます。画商も絵のすばらしさは認めたのですが,女性が描いた絵を素直に才能を認めるほど当時のスコットランドは女性の地位が高くはなかったようです。そこで,フランスの謎の覆面作家の描いた絵という作り話を仕立てて成功し一家にもやっと光明が見えてきます。ところが,グラスゴーで出会ったかつての親友から,ヘイドンは正体を見破られてしまい,危険を察知したヘイドンが家を出ようとしたところに警官が踏み込んでくるのです。
さあ,ヘイドンの運命や如何に。互いに思いを寄せるようになったジュヌヴィエーヴとのロマンスは成就するのか。そして一家の子供たちや大人たちはこれからどうなるのか・・・。物語は急展開し,一気に解決に向かいます。かつてすねに傷をもつ大人たち,不幸な生い立ちで世の中からつまはじきにされた子供たちがヘイドン救出にさらに大活躍します。まるで痛快時代劇,印籠は出ないものの水戸黄門のようなすっきりした解決にすっかり溜飲を下げることができます。一方,その過程で明らかにされるヘイドンと復讐を果たそうとする敵役との不幸な過去,それぞれが乗り越えなければならない後悔の気持ちがこの作品の奥深さをもたらしています。子供たちがそれぞれ活躍する続編が訳されるのが期待される傑作です。


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