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偽りのくちづけは伯爵と [ソフトバンク文庫]

SHALOCKMEMO581
偽りのくちづけは伯爵と Goddess of the Hunt 」
テッサ・デア Tessa Dare  tessadare.com 旦 紀子





 カリフォルニア在住のヒストリカル作家テッサ・デアの初邦訳本です。夢見がちでお転婆な娘ルーシーが憧れていたのは准男爵のトビー・アルドリッジだったのですが,どんな女性もがその口車に乗せられる,いわゆる社交界の持て男。兄ヘンリーとも友人同士です。しかし,トビーが結婚しようとしていたのはヘンリーの友人の妻の妹のフィオナ・ハサウェイでした。上品で上流階級としての持つべき女性の常識をすべて兼ね備えた,つまりお嬢様のソフィアとお転婆で針仕事やピアノやといういわゆるお嬢様的な趣味を一切持たないルーシーはいわば正反対の二人。初めはトビーを争っての虚々実々の嫌味合戦や睨みあい,嫌味の言い合いが起こりますが,ある手紙をきっかけに,二人は心を許しあえる仲になります。
 さて,ルーシーが幼いころから知り合いだった伯爵でヘンリーの友人,ジェレミーとは,いつも互いに悪口の言い合いをする関係でした。男の子のようにふるまい,冒険心を絶やさないルーシーはヘンリーの友人たちからも,結婚には向かない女のことしか認識されていませんでしたし,兄のヘンリーもいつもルーシーに好きなようにやらせていたのです。気安い気持ちでルーシーはトビーの気持ちを射止めるための練習台としてジェレミーに突然口づけを迫ります。その時から,いやそれ以前から,ルーシーのこの男っぽい性格や行動,そしてぜったい泣かない女の子としてしか見ていたジェレミーは,それ以降,ルーシーを女性として意識し始めたのでした。
 その後,トビーがフィオナを花嫁にすることにきめたところから,ルーシーとジェレミーの関係は急転直下,二人が一緒にいるところを多くの人に見られたことをきっかけに,ジェレミーはヘンリーにルーシーとの結婚を宣言します。しかも,明日。それをきっかけに,それまで全く妹の行動に干渉しなかったヘンリーも,急に妹のことに口出しするようになります。表面的には干渉しようとしていなかったヘンリーですが,実は妹として可愛く思っていたのでした。ジェレミーにとっても,ルーシーの飾らない美しさ,女性としての美しさに気付き,男としての欲望を抑えることができなくなっていたのでした。口では嫌味を言われるのが分かっているルーシーも,こんな兄やジェレミーの奥底にある優しさには本能的に気付いていたのです。それでも口答えしたくなる性格や,大人しくしていられない性格に,戸惑ったり,後悔することは止められはしません。こんなルーシーの前向きで明るい性格,そして,思ったことを思い切ってやってしまう潔さに,読者は強く惹かれていきます。
 急な結婚ではありましたが互いに憎からず思っていた二人です。普通ならこれで物語は終わるはずでしたが,さにあらず,結婚は形ではなく,互いの愛を確認しあってこそ本物の結婚になるのだということに後半全部が費やされます。ロンドンではなく,ジェレミーの領地であるコルビンズデールアビーに到着した二人には,生活感の違いや,ジェレミーに起こった幼いころの心の傷に一つ一つ遭遇しては,ジェレミーへの愛を確かめていくルーシーの心の成長が綴られていきます。そして,カタルシス的に夜中に痴ほう症の叔母を探しに出たルーシーを追ってジェレミーが発見したのは,ルーシーを愛していることを素直に告げられるようになった自分でした。
 こんな風に,二人の心の葛藤と成長を,ユーモアの中に詰め込むことのできるテッサ・デアは,そうとう力量のある作家といえると思います。




愛の花に抱かれて [ソフトバンク文庫]

SHALOCKMEMO547
愛の花に抱かれて Tempting The Prince 2007」
パトリシア・グラッソ Patricia Grasso patriciagrasso.com 谷 真帆子




SBNV-PG-04-05
10.03/\914/479p


絶好調カザノフ・シリーズの第4弾。前作「あなたに愛の歌声を」でステファン王子と結婚したフランボウ姉妹の長女ファンシーの妹ベルとステファンの兄のミハイルのロマンス。ベルは「庭の女神」と呼ばれ,花を元気づけるという才能の持ち主。また,料理や菓子作りにも抜群の才能を持つ愛情深い女性ですが,ある夜,帰宅したところを襲われ,頬に刃物の傷を残されてしまい,結婚をあきらめてしまいます。そんな彼女が庭で花に話しかけているところを見かけたミハイル王子は,亡くなった妻との間に設けた一粒種,エリザベスの母にふさわしい人を探していたのですが,ベルの美しさに一目ぼれしてしまい,求婚を決意します。兄弟たちやベルの姉妹に相談を持ちかけたミハイルは,作戦を練り,ベルを一人で傷を癒すために一軒家に転居させ,偶然襲われて記憶をなくした男性という役を自ら演じることにより,ベルとの結婚を成就させようとします。
時あたかもロンドンでは切り裂き魔が夜の女性たちを次々に襲い,バラの花と1ポンド金貨を置いていくという事件が連続して起こり,ベルの隣人だったアレックスや妹のレイヴンが犯人を追いかけているところでした。さてミハイル王子の作戦は見事にはまったように見えたのですが,二人のロマンスはどのように発展していくのでしょうか。
本作は前作とほぼ同じ時期を異なった人物からの視点で描くという実験的な作品であり,連続して描かれる物語というよりは,1作の表裏,つまり2作で1作とでもいう作者の意図が見事に成功している作品です。前作の出来事や人物の会話が,本作でも時に触れて登場し,読者は既視感と記憶にある会話に触れ,「ああ」や「おお」を心の中で叫びながらさらに深い感動を味わっていくことになります。
カザノフ家の王子たちや,フランボウ姉妹,そしてベルに意地悪をする3人の貴族令嬢たち,また,各家の執事たちやフランボウ姉妹の実の父とその後妻の公爵夫人など,前作でも登場した人々が実に生き生きと描かれ,さらに印象を濃くしていきます。
そして,終末に用意された驚愕の事実。切り裂き魔の正体。などなど,とにかく読者を飽きさせないサービス満点の超傑作をどうぞお楽しみあれ。できれば前作と連続して読むことをお薦めします。






あなたに愛の歌声を [ソフトバンク文庫]

SHALOCKMEMO545
あなたに愛の歌声を Pleasuring the Prince 2005」
パトリシア・グラッソ Patricia Grasso patriciagrasso.com 羽田依里子





 「どんなに仕事が忙しくとも,ちょっとの時間を見つけて読もうとする。しかも,細切れの時間でもストーリーにきちんと着いていける。さらには,登場人物がすっかり頭の中に入っている。」
 こんな三拍子そろった作品には,なかなか出会うことができません。パトリシア・グロッソのカザノフ・シリーズはまさしくこんなシリーズです。これまで読んだ作品の中では,リンダ・ハワードの作品群以外には出会ったことがない,といっていいぐらいです。
 さて,本作のヒーローは,カザノフ兄弟の末っ子,ステファン王子です。前作で,オペラ劇場の歌姫にステファンが惹かれる場面が登場し,しかもそのヒロインがファンシー・フランボウであることが,きちんと伏線が張られています。しかし,本作を読んで驚くのは,ファンシーは7人姉妹の長女であり,その7人には双子がふた組あり,さらにはそれぞれが謎の能力をもっているという設定です。長女のファンシーはもちろんオペラの主役を務めるほどの美声の持ち主,他にも,動物と話ができる,人の心が読めてしまう,などなど人知を超えた能力をもった娘たち,さらに末っ子のレイヴンに至ってはテレキネシスの使い手であるというすごい姉妹です。彼女たちの母親はフランスの貴族の出でしたが,イギリスの貴族の愛人とされてしまい,夫をしたいつつも捨てられて亡くなるという悲しい生涯でした。長女のファンシーはそのことをよく覚えており,絶対に父親を,さらには貴族全体を受け入れまいとする気持ちから,歌手としての自立の道を歩もうとしています。さらには,前作のジンジャーと同じように数字に強い妹,動物と話のできる妹などが力を合わせて競馬で増やした資金で事業に投資し,父親の事業を苦しめようとするなど,徹底した仕事ぶりを見せてくれ,憎しみによるドロドロしさではなく,さわやかさを感じさせます。
 本作のもう一つの筋は「薔薇連続殺人事件」です。死体の瞼と唇を縫い合わせて,全身を薔薇の花弁で覆う,という猟奇的な連続殺人事件が続いています。シリーズにずっと顔を出すアマデウス・ブラックが事件を負っていますが,犯人を最後に言い当てるのは意外な人物です。そして,7人姉妹の本当の父親は果たしてだれか。それが明かされたとき,シリーズの人間関係がますます複雑に絡み合っていきます。次回作のヒーローとヒロインもすでに本作に登場しており,とても楽しみです。今月には次回作も発売されるようです。




愛は大空の彼方に [ソフトバンク文庫]

SHALOCKMEMO544
愛は大空の彼方に Seducing the Prince 2005」
パトリシア・グラッソ Patricia Grasso patriciagrasso.com 中川ゆみ





 カザノフ・シリーズ第2弾です。前作「すみれ色の瞳に恋して」で,すっかりパトリシア・グラッソ・ファンになってしまった斜麓駆ですが,普通,シリーズものは,続けて読んでいくとだんだんと作者の同じような言い回しや,読者を意識したちょっと臭い部分が鼻についてくることがあり,何作も続けて読む気持ちがだんだん落ちてくるものですが,このシリーズについては,全くそんなことがなく,ストーリーテラーとしての作者の技巧に見事にはまりこんでいく感じです。
 今回のヒーローはヴィクトール・カザノフ。そして,魅力的なヒロインとして,レジーナ・ブラッドフォード。レジーナの夫チャールズと,ヴィクトールの妻アデルが愛人同士という変わった関係の設定にまずは引きこまれます。しかも,レジーナとヴィクトールに関わる人々が次々に亡くなっていく展開。レジーナの親友ジンジャー・エバンスと,前作にも登場する探偵アマデウス・ブラック。などなど,シリーズものに欠かせない人々がちょくちょくと顔を出し,それぞれの屋敷の執事も,実にいい味を出すと同時にすぐにヒロインを助けようと背後で活躍するなど,名脇役たちに支えられているため,安心して次のページがめくれるところも魅力です。
 そしてなにより,パトリシア・グロッソのヒロインたちが自立を目指し,階級や権力に決して屈しない強い女性の見本のような人たちであり,ヒーローとヒロイン,主役と脇役が交わすウィットとユーモアにあふれた会話の妙。シリーズものでこれだけ特徴を出しながらそれぞれの作品の存在感を出すこの作者は,タダモノではありません。




すみれ色の瞳に恋して [ソフトバンク文庫]

SHALOCKMEMO543
すみれ色の瞳に恋して To Love a Princess 2004」
パトリシア・グラッソ Patricia Grasso patriciagrasso.com 岡本桃子





 ロシアの貴族一族カザノフ兄弟姉妹をヒーロー・ヒロインにしたシリーズの第2弾です。パトリシア・グラッソの作品はこのカザノフ・シリーズがすでに4巻がソフトバンク文庫で邦訳されています。
 本作を読了してみて,グラッソの作品の軽妙洒脱で,アイロニーとペーソスにあふれた会話の面白さを感じました。ストーリー展開も決して不自然ではなく,ロシア貴族のイギリスでの生活というシリーズの設定も面白いのですが,ヒーローとヒロイン,それに執事や家政婦など,さらには子供たちの様子が生き生きと描かれ,貴族の複雑な姻戚関係やややこしい称号など,読みづらい要素があるにもかかわらず,



 例えば,「愛は知らないうちに忍び寄って人を支配してしまう。だが,相手を怖気づかせたくないなら「愛」という言葉はこの胸にしまっておく方がいい。」
 というような,シェークスピアもかくやと思わせるような言い回しやアイロニーが随所に現れるにもかかわらず,何となくほっとするような,また,「うん,ウン」とうなずいてしまうような説得力がある文章は,このグラッソという作家の飛びぬけた頭の良さ,しかも温かい人間らしさが感じられ,素晴らしい読み物になっています。



 というわけで,次はシリーズ第3弾,「愛は大空の彼方に」を読むことにします。


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