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放蕩貴族を更生させるには [カーラ・ケリー]

SHALOCKMEMO554
放蕩貴族を更生させるには Reforming Lord Ragsdale 1995」
カーラ・ケリー 大空はるか





カーラ・ケリーのヒストリカル邦訳第2弾です。
シリーズものを著していないカーラですので,前作「ふたたび、恋が訪れて」とはリージェンシーという点を除けば関連性はありません。
今回のヒーローは爵位は継いだものの学生時代に伝説になるような放蕩の限りを尽くし,父をアイルランドの紛争で亡くしたのは自分のせいだという思いから,自分に自信が持てず,さらに放蕩の限りを尽くしているヒーロー,ラグズデール伯ジョン・ステイプルズ。ヒロインは故国アイルランドで反イングランド運動の志士を親切心から家に泊めてしまい,家族全体が反逆の罪を着せられた末,母と弟を亡くし,父と兄がオーストラリアに流刑にされてしまうという不幸を背負い,年季奉公人としてアメリカに売られ,たまたまラグズデール伯のいとこのもとで働いていたため,いとこたちとともにイギリスにわたってきたエマ。ヒーローはアイルランド嫌い,ヒロインはイングランド嫌いと,互いに憎む関係だった二人が,どのようにして愛し合っていくようになるかというストーリーと,心の葛藤,そして互いのためにどんな困難を乗り越えて思いやりを示していくかという相克を描いた感動のラブロマンスです。
当時のアイルランドとイングランドの関係,そしてイングランドとアメリカの関係,さらにはイングランドの流刑地だったオーストラリアとの関係,そうした国際関係が,本作ではイングランドだけが舞台となっているものの,随所に関係を示す記述やコメントが描かれ,雰囲気を作っています。著者が歴史に大変詳しいことが想像されます。
また,年季奉公人という存在,アメリカの奴隷とは異なるもののそれに近い待遇を受けていた人々の生活,そしてなによりもイギリスの貴族社会に対する著者の見方,決して冷たくではなく,一種尊敬の念を持った書き込みが,放蕩貴族を更生させるという突飛なヒロインの思いつきや,それに巻き込まれていく人々の暖かさを描くことによって本書の大きな魅力となっています。
心が寒い思いをしている人にはお薦めの中編です。


ふたたび、恋が訪れて [カーラ・ケリー]

SHALOCKMEMO553
ふたたび、恋が訪れて Mrs. Drew Plays Her Hand 1994」
カーラ・ケリー 松本 都





カーラ・ケリーは,2度のリタ賞受賞に輝くリージェンシーの大御所作家です。本書もリタ賞受賞作。
スペインの前線から帰郷したフレッチャー・ランド侯爵。すっかり厭世家になっていますが,その原因は妻の不貞による離婚でした。当時の貴族にとって,結婚は便宜的なもの。愛情が湧かなければ互いに愛人を作ることの方が自然だったようです。あえて離婚を選んだウィン卿フレッチャーは社交界からかえって白い目で見られたのでした。
一方,ヒロインは最愛の夫を病気で亡くしたばかりの牧師の未亡人ロクサーナ・ドリュー。二人の娘,ヘレンとフェリシティはそれぞれ,父と母にそっくりで,とても愛らしく,活動的な4才と6歳です。しかし,ドリュー一家は,夫の死により,教区牧師の職も住む家も無くしてしまい,明日からの生活を心配しなければならない立場になっています。夫の兄ホイットカム卿マーシャル・ドリューは,判事も務める地域の顔役ですが,夫を亡くしたロクサーナ一家の面倒を見る代わりに,ロクサーナに愛人になることをほのめかす,とんでもない人でした。
そんな時,散歩の途中で見かけた,領主に見捨てられた離れを年10ポンドという破格の値段で借りることができ,しかも領主本人は本館には住んでいないという偶然により,一家は,荒れ果てた家を修理しながら,つましい生活を送ることができるようになったのです。
領主,すなわちウィン卿フレッチャーが厳しい11月の寒さの中で,領地をめぐってきて,凍死寸前で領地にたどりついたとき,誰も住んでいない本館にたどりつく前に明かりのともる離れに住むロクサーナに出会い,一目で恋に落ちてしまいます。ロクサーナも夫に先立たれた喪中の身でありましたが,夫とは違うウィンのたくましい体つきに,惹かれるものを感じたのでした。翌朝,朝食をとるウィン卿が,ヘレンとフェリシティに優しく接している姿を見て,ロクサーナも心を許します。
まだまだ夫の存在を忘れられないロクサーナ,妻に裏切られ,二度と結婚をするまいと決心しているウィンの駆け引きが始まります。そこにフェリシティとヘレン,子供たちが絡み,さらには領地の管理人や料理人,家政婦,子守など,地域の脇役たちがとても温かく二人を,また一家を見守る視線を向け,ウィンがピアノを弾いたり,ヘレンのために作曲まですることや,つつましい生活にくじけることなく常に前に踏み出そうとするロクサーナの姿に,静かでしっかりとした田舎の暮らしの良さが,読者の心にジンとしみわたります。そして,俗物的なウィンの妹や,インフルエンザに苦しむ地元民を懸命に看病する医師,最後は和解する義兄のマーシャルなど,どの人物も生き生きと描かれ,存在感をもって人物造形されていて,その見事さは,まさにRITA賞にふさわしい作品に仕上がっています。


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