信じることができたなら [スーザン・イーノック]
SHALOCKMEMO599
「信じることができたなら Meet Me at Midnight 2000」
スーザン・イーノック 井野上悦子
「ずばぬけた美貌と奔放な性格」のヒロイン,ヴィクトリア・フォンテーヌ。左の表紙のイメージではちょっと表しきれない独特の魅力にあふれたヒロインです。もう少し茶目っ気と愛らしさをたたえた女性のような気がします。
ヒーローは,放蕩者として名をはせているアルソープ卿シンクレア・グラフトン。ナポレオン戦争中大陸各国で放蕩者として名を知られ,5年間を生き延びた筋金入りの男性ですが,実はイギリス政府のスパイとして,暗躍していました。そのアルソープ卿の兄が殺害され,広大な領地を相続することになります。結婚して身を固める必要があるという触れこみでロンドンに戻り,社交界に登場したヒーローですが,実は兄を殺害した犯人をさがし,しかも政府のスパイとして祖国を裏切ったのはだれかを探る役目ももっていました。
あるパーティで二人は運命的な出会いをします。他人の目をはばからず,庭園でことに及ぼうとしたところを複数の貴族たちに目撃されてしまい,アルソープ卿はヴィクトリアに結婚を申し込まなければならない羽目に陥ります。まだまだ結婚ということは考えていなかったヴィクトリアとシンクレアでしたが,ヴィクトリアの対面を守るためにも,また社交界で兄の殺害犯人を捜すという目的をもったアルソープ卿には,二人の結婚はまさしく一挙両得の隠れ蓑にもなったのです。顔を合わせれば互いに皮肉を云い合わないと気が済まない二人でしたが,いつしか自分の本当の姿に気付いてくれる相手であることを互いに知った二人は,本当の恋に落ちてしまいます。
互いに互いの身を案じる二人にとって一番厄介だったのは,互いに互いの身を案じるあまり,互いに本当のことを打ち明けずに,勝手に犯人探しに没頭してしまうことでした。このため,殺人犯に危機に陥れられてしまいます。
さて,二人の運命は,そして互いの心を許し合うのはいつになるのか。ラブ・サスペンスとリージェンシー・ヒストリカルの面白さ満載のアップテンポな好著です。
あなたの心が知りたくて [スーザン・イーノック]
SHALOCKMEMO572
「あなたの心が知りたくて Taming Rafe 1999」
スーザン・イーノック 井野上悦子
スーザン・イーノックの作品を読むのは初めてです。本作は連作"Bancroft Brothers"の第2作目ですが,本書の中でもそのことは随所に表れてくるので,前作を読まなくても問題なく読んでいくことができます。
本書の魅力は何と言っても,ヒロイン,フェリシティと妹メイの前向きな生き方,そしてヒーロー,ラファエル・バンクロフト(通称レイフ)とのやり取り,会話の面白さでしょう。そして,善き人々が全編を通してヒーロー,ヒロインに寄せる暖かい思いやりの気持ちや行動が底流に流れているところでしょう。敵役のディアハースト伯爵ジェイムズですら,ちょっと憎めないほどヒロインに思い入れがあり(たとえそれが自分自身のためであっても),舞台となっているチェシャー州の人々の気質といったものまで感じられるところが,素晴らしい点だと思います。脇を固めるのは,ヒストリカルには欠かせない「執事」。そして,うわさ好きのおばさん。肝心なところでストーリーを進めるのは,これら脇役の人々の活躍があったればこそですね。
さて,重箱の隅の話ですが,訳者のせいではないと思いますが,むしろ編集者のミスとでもいうのでしょうか。324ページに「二万ポンド」ではなく,「二万ドル」と表記されています。話の筋からしても,また前後に出てくる数字からしても,明らかにポンドの間違いではないしょうか。