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シンデレラの献身 [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1089
シンデレラの献身 The Taming of Xander Sterne
(闇のダリウス,光のザンダー 2) 2015」
キャロル・モーティマー 深山 咲





ダリウス・スターンとザンダー・スターンの双子の富豪をヒーローにした連作の第2巻です。前作ではダリウスが,本作ではザンダーがヒーローとなります。前作のヒロイン,アンディがダリウスと結婚し,事故で怪我を負っているザンダーの世話をするためにアンディの親友サマンサ(サム)・スミスがザンダーの元にやってきます。シングルマザーのサムは娘のディジーを連れています。子供が家にいることに慣れないザンダーはいくつかのルールを守らせようと考えていますが,それを言い出す前にさっそくデイジーが走ってきたためにバランスを崩して倒れてしまいます。それを助けようと前に出たサムが逆にザンダーの上にのっかてしまったから大変です。すぐに二人を追い出そうとするザンダーですが,シングルマザーであるサムには今回の短期の仕事の収入が大切な生活費になる事情があり,必死に頼み込みます。やっといくつかのルールを決めたことでなんとか居場所を確保したサムですが,その後も何度か慣れない仕事とザンダーの圧倒的な男性的魅力にボンヤリして失敗を繰り返してしまいます。このあたりがサムの可愛らしさですし,デイジーもその後ザンダーにすっかり慣れザンダーを信頼している様子にサムも驚きを隠せません。いつしかザンダーを愛してしまっていることに気付くサム。そんな時,デイジーを幼稚園送っていったときに前夫が現れます。そしてサムに愛人になれと言い寄ろうとするのでした。デイジーの誕生を望まず,和解金を断る代わりにデイジーの親権を条件として離婚したサムですが,まさか離婚後3年も経ってから前夫が現れるとは思ってもみませんでした。サムが悩んでいる様子に気付いたザンダーはその理由が前夫にあることをなんとか聞きだし,手を打ち始めます。そして契約期間が迫り,もうザンダーに会えなくなるかもしれないサムはついにザンダーの愛を受け入れることにします。翌日前夫が怒鳴り込んできたとき,サムはザンダーの助けを借りて前夫を追い払うのですが,同時にザンダーとの関係を知られないためにはここを出なければならないと言い,デイジーと小さなフラットに移っていったのでした。数週間後,ダリウスとアンディの後押しもあってザンダーはサムの元を訪れるのですが・・・。
2作品は本当に関連強い作品です。ザンダーが何故サムの前夫の行動に腹を立てるかなど,前作を読んでいないと理解できない部分が結構ありますので,未読の方は是非順番どおり読むことをオススメします。モーティマーの近作の中では本当に傑作だと思うイチオシ,ミニシリーズです。


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愛にむせぶ白鳥 [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1071
愛にむせぶ白鳥 The Redemption of Darius Sterne
(闇のダリウス,光のザンダー 1) 2015」
キャロル・モーティマー 山本みと





元バレリーナのミランダ・ジェイコブズ,愛称アンディがヒロインです。バレリーナとしての才能が開花し,マーゴ・フォンテーンの再来と目されていましたが,ステージからの落下事故により腰と脚に裂傷と骨折を負い,プリマとしての夢は儚くも消えてしまいます。しかしそこから立ち直り,苦しい数度の手術とリハビリにより,バレエスタジオを立ち上げ,こどもたちの指導をするところまで回復していました。アッシュブロンドの髪と大きなグリーンの瞳,高い頬骨とまっすぐな鼻,先のとがった顎,バレリーナとしての細身の体型だけでなく,どこをとっても魅力的な美貌に恵まれた彼女ですが,脚の傷跡だけは残っており,彼女はそれをずっと気にしながら生きてきました。余り人前に出たがらない,そして美しい脚も傷跡を隠すために隠すような服装をしていました。姉の夫,コリン・フリーマンの勤務する会社の共同経営者ダリウス・スターンとザンダー・スターンは,双子でしたが,風貌は全く対照的であり,闇のダリウス,光のザンダーというのがもっぱらの呼び名でした。しかし,二人とも女性ならば誰でも振り向かずにはいられない男らしい高い身長と広い肩幅という体格に恵まれていました。アンディの誕生日を祝うためと称して,姉夫婦に連れて行かれたのは高級レストラン「ミダス」。スターン兄弟が経営するホテルのレストランであり,ちょうどその日,兄弟の母であるキャサリン・ラティマーの誕生日を祝うパーティが同じ場所で開かれていたのです。二人は遠くに座っていたものの,互いに相手に気付き,視線を交わすことになってしまいます。ザンダーの明るく陽気な感じとは異なりダリウスは周囲を恐れさせるような浅黒い肌と厳つい顔でしたが,アンディはダリウスの方に惹かれます。
その後,何度か二人の出会いがあり,次第に互いの苦しみを話す機会がありました。普段は女性に対してだけでなく誰にも心を開かないダリウスでしたが,アンディに対しては素直に心の中を打ち明けてしまうのでした。アンディの脚の傷に対してもダリウスは嫌悪感を持たず,こどもたちの帰ったあとのバレエスタジオで,またアンディのフラットの居間のソファで,ニアミスを繰り返し,ダリウスの言葉にアンディは次第に昔の自信を取り戻していくのでした。そしてアンディをライヴァル視するティア・ベラミーがアンディの事故の時,ワザと怪我をさせるために押したことを告白し,さらに慈善パーティで踊って欲しいとダリウスの母から頼まれたことを断るように脅迫してきたときも,ダリウスがそれを聞き,アンディを励ましたのです。父が双子とその母に虐待を繰り返していて,酔った勢いで階段から転げ落ちて命を失った過去も,ザンダーと母はダリウスがかかわっていたのではないかと疑いを持っていたのですが,互いにそのことを話し合うことができずに過ごしてきた20年間の葛藤を,アンディはダリウスに勇気を出して話し合うべきだと勧め,家族の信頼を取り戻せるよう促すのでした。この時点ですでに10歳年下のアンディがダリウスのお姉さんのような存在まで自信を取り戻していたのです。明らかに経験豊富なダリウスに対して,アンディは愛の力でダリウスの心の闇を追い払っていく役割を果たしていきます。この二人の関係がすごく素敵で,読んでいて本当に心が温かくなります。そしてアンディもまた勇気を出して自分に怪我をさせたティナを告発し,自分の人生を取り戻していくのでした。
次作では怪我を負ったザンダーがヒーローとなりますが,傷ついたザンダーの心を癒やしていくサマンサ・スミスはどんな女性でしょうか,楽しみです。


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完璧なクリスマス [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1067
完璧なクリスマス His Christmas Virgin 2010」
キャロル・モーティマー 寺尾なつ子





登場人物の名前がクリスマス・ストーリーにふさわしく,聖書の人物名と一致します。ヒロイン,メアリーはマリア,ヒーロー,ジョナスはヨナ,ジョナスの祖父ジョセフがヨセフ等々。完璧なクリスマスというタイトルは第9章に出てきます。クリスマスまであと2週間,つまり12月の第1週目に物語は始まります。レストランでのキスからはじまり,二人の関係は日を追うごとに次第に深まっていきます。そしてそれぞれ誰かが邪魔したり,言い争いをしながら,どうにも二人ともとどまれないところまで気持ちが高まっていくところが,キャロル・モーティマーらしいストーリー展開の見事さです。もっとも深い関係は第10章で,ヒロインのメアリー・マグワイア(通称マック)の倉庫を改装したフラットの3階のアトリエで登場してくるので,他の作品に比べるとかなり遅いペースですが,これがストーリー・テラーとしての作者の本領発揮というところでしょう。そして,数日前から繰り返されてきたヒロイン,マックの家への小さないたずら,ガラスが割られたり外壁にペンキでいたずら書きされたり,車のガラスが割られたりといった小さな出来事の犯人が分かったとき,二人の関係は終わりを告げたかようになります。ジョナスから逃げるように実家のデヴォンに帰ったマックが,イブのミサに出かけようとしたとき,玄関にジョナスが立っている,という意外な(ある意味予想されたとおりというか)展開でハッピーエンドに進んでいきます。突然訪問してきたジョナスにマックの両親が歓迎の言葉をいうところなども,クリスマスらしいというか,実に暖かい感じがして良い場面です。


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傷心のプリンス [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1024
傷心のプリンス Prince's Love-Child
(華麗なる兄弟たち 3) 2006」
キャロル・モーティマー 桃里留加





シリーズ最終巻です。3男リックは女優のダイアモンド(ディー)・マッコールを5年間も愛していると思い続けていました。パリでディーと夫のジェロームと偶然出逢ったとき,一緒にサファイア(サフィー)とも再会します。我が儘放題に育ったディーは美貌という点では誰にも劣らないハリウッド女優ですが,かつてリックに継母と継姉から愛してもいない男性と結婚させられると話していたのです。ところが夫のジェロームは本気でディーを愛しており,ディーが他の男性と話をするのさえいやがっています。しかし,ディーにはわざとそんな風に振る舞ってジェロームの嫉妬をあおるのをおもしろがるような様子が見えてきました。そして,サフィーがディーの姉,あのディーを無理やり富豪のジェロームと結婚させようとした義理の姉だと知って,驚きを隠せませんでした。ディーはサフィーの母の再婚相手との間の子供だったのです。そのため姓が違っていたのでした。サフィーとリックは,かつてディーとジェロームの結婚式の晩に,一夜を共にしていたのでした。サフィーやディーとの会話の中にマシューという男性の名前が時々出てきます。マシューが現在サフィーが付き合っている男性ではないかと思ったリック。しかし,5年前リックと一晩を共にしたサフィーは男の子を産んでいたのです。それがマシューでした。パリからロンドンに帰るユーロスターの中で,サフィーと話をしたリックは,5年間ディーを愛し続けていたと思っていたのは全く幻想だったことに気付きます。むしろ,サフィーこそ自分の心の中に居た女性だったことに気付きます。寛大で尊敬でき,なんでもストレートに話をするサフィーは,ディーとは異なった美貌をもつ,話をしていて退屈しない女性,それがサフィーだったのです。しかしサフィーはリックが5年経った今もディーを愛していると思い込んでいます。5年前に一目ぼれしてその人の子供を産み,今でも毎日子供の顔にリックの面影を見てはリックへの愛を深めているサフィー。そんな思いをリックに知られたくないとマシューの存在を知られないように気をつけ,家族の誰にもマシューの父親の名前を明かさないで来たサフィーですが,今でもリックを愛し続けていることは間違いありませんでした。サフィーにとってリックは最初で唯一の男性でした。リックはディーとサフィーが姉妹であることを知り,今はもうディーよりもサフィーに惹かれていることを確信したのですが,サフィーはリックから離れようとばかりしています。
ロンドンに帰ってから数日して,サフィーの家にリックが突然現れます。母親のジョーンとマシューの三人暮らしをしているサフィーですが,マシューの存在をリックに知られないようにするのはもう難しいと思った矢先,マシューがママを捜して居間に入ってきてリックと出会います。あまりにも自分の幼少のころにそっくりなマシューを見て,リックは自分がマシューの父親であることを直感しました。サフィーが4年間も子供の存在をリックに隠していたことを知り,リックは怒り心頭に発して弁護士を立ててあらそうと言い出します。プリンス家の豊かさを知っているサフィーはリックにはその力があり,本気であることを恐れます。リックを帰した後,サフィーはリックと話し合わなければと思い,つてを頼ってリックがニックのところにいるだろうとわかり,ニックの家に行き,3人で話し合うことになります。興奮のあまり強引なことを言ってしまったことをリックは謝罪し,裁判沙汰にするつもりはないことがわかりますが,ニックは冷静に解決策は二人が結婚することだと提案するのでした。自分を愛してもいないリックと子供のためだけに結婚することは出来ないとサフィーはリックのプロポーズを断りますが,リックはサフィーへの思いを断ち切ることなど出来ないほどサフィーを愛し始めていました。リックはサフィーを説得することが出来るのでしょうか。
サフィーの家を再訪したリックとサフィーを待ち構えていたのはディー。そこでディーは,リックにサフィーとマシューを弁護する強烈な言葉を投げつけてくるのでした。ディーが自分のこと以外でこれほど興奮した姿をサフィーも初めて見ます。実はディーもジェロームの子供,それも双子を身ごもっていたのでした。自分が母親になることを実感し始めていたディーはサフィーとマシューを守ろうと大芝居を打ったのでした。その後はディーとサフィーの関係も親密なものになり,さらにエピローグではディーとサフィーの母親ジョーンの生活にも大きな変化が現れてきて,見事な大団円を迎えます。サフィーがリックのプロポーズを断ろうとしたときの心情を表す心の声「リックは今朝、私を求めているとはっきり口にした。リックの欲望とわたしの愛を土台にしてマシューのために幸せな家庭を築けるだろうか。わたしのリックへの愛は消えないだろう。だが,欲望はいずれ消えてしまう。」が印象に残る一言です。
主な登場人物
ダイヤモンド(ディー)・マッコール,ハリウッド女優,深いグリーンの瞳,大富豪ジェローム・パワーズの妻,25歳。
サファイア(サフィー)・パール・ベネディクト,スリラー作家,シングルマザー,琥珀色の瞳,豊かな鳶色の髪,炎と光の美しさをもつ女性,マシューの母親,ディーの異父姉,28歳。
リック・プリンス,脚本家,35歳,深い青い瞳。


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嘘と秘密とスキャンダル [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1023
嘘と秘密とスキャンダル Prince's Pleasure
(華麗なる兄弟たち 2) 2005」
キャロル・モーティマー 竹中町子





シリーズ第2弾は次男ザックのロマンスです。前作でニックとジンクスのロマンスをマスコミから隠すためニックにレポーターの注意をそらすことを依頼されたニック。そのレポーター,タイラーと1週間の24時間体制での密着取材を受け入れますが,本当はザックはこれに納得はしていませんでした。迷彩服のようなズボンをはき,小柄で髪をポニーテールにしているタイラーは,普段ゴージャスな女優やモデルを見慣れているザックにとっては特にこれといった注意を引く存在ではないはずですが,なにか他の女性とは違った魅力が感じられます。タイラーとは何者なのか? レポーター側からは自分はこれまでも注目を集められる存在で,いろいろなことを知られているのに,自分はタイラーのことは何一つ知らない。しかもいろいろ聞いてもいつも注意を他のことにそらされてしまい,質問には答えてもらえません。ザックはアメリカの知り合いにタイラー・ウッドについて調査してもらいますが,特に目立った記事は発見されません。ますますタイラーに対する謎が深まるばかりです。ちょっとした挨拶程度のキスにも二人の間に燃え上がる炎を感じざるを得ません。自分を取材する側のレポーターとの深い関係など,想定することすらふさわしくありませんが,それでも,タイラーは過度な取材からザックを守るかのような行動を取るのでした。編集主任に聞いても,タイラーのことは詳しくは教えてくれません。そんな間も,連日暴露記事のような物が新聞に出てしまうのでした。タイラーは明らかに嘘をついているのですが,そうではないような気もします。すっかりタイラーに引き寄せられてしまうザック。なにより一介のレポーターがブランド物のドレスを着てしかも一流デザイナーとも知り合い,そしてアメリカの有名な経済人との交流もあるようです。ついに,タイラーの本名が明らかになります。タイラー・ウッドではなく,タイラー・ハーウッドという富豪の一人娘。しかしなぜ富豪の娘がニューヨークを離れ,イギリスで一介のレポーターとして下町のアパートで貧しい暮らしをしているのか。ますます謎は深まります。嘘をついていたタイラーにその事実を突きつけても謎は解けません。一方タイラーも新聞に暴露記事や写真を載せた犯人を追っていきます。初めは前作で不適切な行動を取って社を解雇されたジェーン・モロー死か考えられなかったのですが,コンビを組んでいたカメラマンのペリーの自分に対するストーカー的行為がエスカレートしてきます。いつまでもしつこく自分に迫るペリーに困惑しているとき,ザックが助けてくれるのでした。ついに秘密を明かさざるを得なくなるタイラー。秘密を抱え,嘘をついていたタイラーにザックは始め腹を立てますが,タイラーを忘れることなど出来なくなっていることにザックは気付きます。そしてタイラーがザックに告白したのは・・・。
仕事一筋のように見えて,良心を捨ててまで取材をすることの出来ないタイラーが,新たな仕事として提案されたのは本を書くことでした。父親からの自立を目指してイギリスに渡ったタイラーの成長譚であり,ザックもまた過去を乗り越え,人を愛することができるようになる大人へ過程を描いた変化に富んだ作品です。前作のヒロイン,ジンクスに引き続き,タイラーもまた魅力あふれるヒロインです。


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永遠のジンクス [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1022
永遠のジンクス Prince's Passion
(華麗なる兄弟たち 1) 2005」
キャロル・モーティマー 古川倫子





本シリーズの「プリンス」は「王子」の意味ではなく,アメリカの「プリンス・ムービー」という映画制作会社のオーナーであるプリンス三兄弟の苗字のことです。かつての名優デミアン・プリンスの後継者である三人の息子,ニック,ザック,リックの三兄弟が会社の共同経営者となっています。長男ニックは映画監督,次男ザックは俳優,そして末弟リックが脚本家としてそれぞれ職業を持ちつつも会社を経営しているようです。第1作目の本作は長男ニックの物語です。
世界的なベストセラーとなった小説の作家「J・I・ワトソン」は覆面作家で,その正体が出版社である「スティーヴンズ出版」ですら知らないという徹底ぶり。連絡はいつも私書箱をとおして郵便で行われるだけであり,出版社側も電話番号すらつかんでいないのでした。ニックはこの作品の映画化権を得ようと出版社と交渉してきたのですが,作家本人からは何度も断られてています。出版社の担当者ジェーン・モローが編集者に渡そうとしていた書類から私書箱の番号を盗み見たニックは,張り込みをして,私書箱を訪れた少年を発見します。しかし,少年だと思っていた人間の後を付けてみると,小柄な女性であることがわかります。これがヒロインであるジュリエット・インディー・ニクソンを見つけた瞬間でした。普段交際している女性たちの基準とは全く異なった小柄で赤毛の女性に,ニックは何故か惹かれるものを感じます。それからニックがジュリエットを追いかける日々が始まります。ジュリエットはなぜかジンクスという愛称で友人や家族から呼ばれています。そしてあるパーティに潜り込んだニックは,そこでジンクスに会うことが出来ます。もっともそれは偶然の出会いではなく,ジンクスの親友スーザン(ステイジー)とジョーダンの結婚五周年記念のパーティで,そこに妹夫婦も参加することが分かったからでした。一直線にジンクスの元に行き,話しかけるニック。ジンクスもまた身長190センチ以上あるニックの男性的な美しさに惹かれますが,自分の正体を知られているとわかり,映画化権を得るために自分に近づいてきたニックをあしらうような言葉しか発しません。ジンクスの父は母を失ってから精神的に参って人前に出なくなり,それを隠すことが必要だったのです。もし映画化されるとなればマスコミに父の生活が乱されてしまうことを恐れたジンクスが覆面作家としての自分を演出せざるを得なかったのでした。そしてさらに終盤では作品に込められたもう一つの秘密が存在したのです。身長155センチの小柄で長い赤髪をもつジンクスは,大学で歴史の講師をしている才媛ですが,本作のような12歳の少年のエンターテインメント的な小説を書く女性とはちょっと結びつかない美貌と頑固さを備えた女性です。ニックはあの手この手でジンクスを誘惑していきますが,小説の真の書き手が女性で,ジンクスであることがマスコミに知られてしまい,ニックはジンクスと父のジャックを自分の隠れ家的な家でかくまうことになってしまいます。すでにニックを愛し始めているジンクス,しかしニックと結婚というのは誰が見ても結びつかない概念です。そして作品に込められたもう一つの秘密。これが解消しない限り二人の行く末に愛に基づいた関係はあり得ません。キャロル・モーティマーはこれをどのように解決していくのでしょうか。いつもどおり見事なストーリーテリングで,キャロルは読者にこの問題を解決して見せます。アメリカの映画会社のオーナーである三兄弟がイギリスに滞在中に起こった出来事を短期間の中で見事に愛に結実させていくキャロルの筆力に拍手です。


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略奪 [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO1015
略奪 Sensual Encounter 1983」
キャロル・モーティマー 井上絵里





原題は「官能的な出会い」,これがどうして「略奪」という邦題になったのかよく分かりません。「誘惑」ぐらいならふさわしいと思うのですが・・・。
広告代理店を独力で立ち上げたキャサリン(ケイト)・メアリー・コリヤーがヒロイン。そして会社の大口取引予定会社「メルフォーズ」の社長ジャレド・ローク・メルフォーズがヒーローです。「三ヶ月前の三月中旬」にジャレドとケイトは出会い,丸々二日間,スキンシップを深め合います。その後,ジャレドはカナダへの出張があり,ケイトは偽名のままジャレドの元に連絡先を残さずに別れます。信頼して5年間も貢ぎ続けていたブライアン・リントンに浮気され,ブライアンはそのままコーラルという金持ちの未亡人と結婚してしまいます。ブライアンは画家でした。画廊の経営という不安定な職業と,売れるはずの自分の絵を個展で・・・という夢に出資してくれるコーラルにすっかり嵌まってしまったのです。その傷心を埋めるためたまたま出会ったホテルのバーからジャレドに身を任せてしまったケイトでした。ジャレドと別れた後,ケイトはリチャード・ジェームズという実業家と婚約します。互いに相手の仕事を尊重し合い,愛がなくても結婚により安定した家庭を築くという便宜的な付き合いが都合が良かったからです。ジャレドがスーツではなくブルゾンとコットンパンツという身軽な服装でとおしていたことから,決まった仕事をしていない浮ついた生活をしているとケイトが思い込んでしまい,ジャレドとの交際は再びブライアンとの交際の二の舞になることがケイトには耐えられなかったので,本名や連絡先を告げなかったのです。そしてリチャードが婚約指輪をはめてくれたその日,ジャレドがケイトのフラットにやってきたのでした。しかもその時まだリチャードはケイトのフラットにいたのです。二人の関係を知らせていなかったケイトはとっさに階下に住むジルを訪ねてきた男性だとリチャードに嘘をつくのでした。翌日会社に60本の薔薇の花束をもったジャレドがやってきます。アシスタントのベリルには,兄だと紹介し,さらに嘘を重ねていくケイト。ベリルは自分には兄も妹もいないことを知っているにもかかわらず・・・。ジャレドはその後も泊まるところがないと言ってケイトのフラットに居座ってしまいます。このことがジャレドには定職も家もないのだとケイトに思い込ませてしまいます。「自分と結婚するはずだ」と開き直るジャレドに,ケイトは抵抗できずにキスを深めてしまいます。そして「メルフォーズ」社との契約の場で,重役のハークネスがやっと会ってくれることになり,赴くと,初めは迷惑そうにしていたハークネスが,電話が一本入るや,手のひらを返したように丁寧に応対を始め,契約を前提に話を始めたではありませんか。きっとリチャードが手を回してくれたのだと思い込むケイト。しかしその夜も次の日もリチャードからは連絡がなく,週末はフランスに出張だというのです。メルフォーズとの契約がうまくいったかどうかをリチャードは聞きもしません。そして出張から帰ったら二人の結婚をこのまま進めていいかよく考えるように言われてしまったのです。その背景にはジャレドとの関係をリチャードが疑っているのではと思わずにはいられませんでした。そして,突然フラットにやってきた元恋人のブライアン。どうやらコーラルとの関係が悪くなり,コーラルとは離婚するから復縁しないかと言う始末です。きっぱり断ったケイトですが,今度はジャレドがケイトとブライアンの関係を邪推するようになり・・・。翌週リチャードの元を訪れてケイトはきっぱり婚約の解消を申し出て指輪を返します。そしてリチャードはさもありなんという顔をして驚愕の事実をケイトに告げるのでした。ジャレドが実はロークというのは母方の姓で,本当はジャレド・メルフォーズであること,そして社長であること・・・。だまし続けていたジャレドを許せないケイトですが,自分がジャレドを愛していることにも気付いていました。愛か仕事か,嘘か誠か,この狭間で悩むケイト。大切な契約を目の前にして社を離れ,ジャレドとの思いでのホテルに閉じこもってしまったケイトでした。
常に二者択一を迫ってくるキャロル・モーティマーの作品群ですが,本作も運命のいたずらのようなケイトとブライアン,リチャード,ジャレドとの関係,そしてブライアンの妻コーラルと人物造型のくっきりした配役をしたドラマ仕立ての名作です。製作が1983年とかなり古い作品ですが,古さを感じさせない奔放な登場人物たちが魅力です。


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嵐のように [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO983
嵐のように Tempestuous Affair 1984」
キャロル・モーティマー 中原もえ





ボス秘書ものです。愛人同然に秘書でありながらベッドを共にして半年,リンジーは当初の申し合わせどおりボスのジョエルアメリカ出張中にジョエルのフラットを出て自分のアパートに帰ります。半年待ってみたものの将来を約束するような言葉や愛を告げられたことがなかったからです。とりあえず半年お試し期間を過ごしてみようということで始まった二人の同棲ですが,実りのない結果に終わります。出張から戻ったジョエルになぜフラットを出たのか問い詰められたリンジーですが,初めからの約束どおりしただけですと,取り澄ました様子で言うのです。すっかり混乱したジョエル。必死に引き留めたりなだめたりしますがリンジーの決意は固いようです。翌日には辞表も提出され・・・。それから二人がヨリを戻すまでのあれこれが描かれているわけですが,リンジーのプライド。秘書としての能力よりもセクハラ的に対応してくる企業経営者たちや,リンジーの姉に一目ぼれしたアメリカの富豪とリンジーの間の友人づきあいを嫉妬の目で見て誤解し続けるジョエル,さらにはジョエルの弟の元妻のリンジーに対する嫉妬と誤解を招くような言動など,まさしく「出来事(affair)」がさまざまあり,賑やかに終盤を締めくくっていきます。「テンペスト」というよりは,シェークスピア劇「恋のからさわぎ」的なストーリー展開で楽しめる作品です。


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高潔な公爵の魔性 [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO978
『高潔な公爵の魔性 Marcus Wilding : Duke of Pleeasure
サマーシズラー2015真夏のシンデレラ所収」 2014』
キャロル・モーティマー 上村悦子





“Dangerous Dukes”「危険な公爵たち」シリーズの第1作目になります。同じ月にPHS(ハーレクイン・プレゼンツ・スペシャル)で第2巻に当たる「高慢な公爵の誤算」(PHS-114)が出ています。
相変わらずキャロル・モーティマーの作品の設定は意表を突く物が多いですね。本作ではヒロインのジュリアナが,未亡人となり,再婚は嫌だけれど愛人をもつためにはそれなりの準備が必要だということで愛のレッスンを兄の親友であるマーカス・ワイルディングに頼みに行くところから始まります。もうこれだけでもドキドキものですが,初恋の相手を実験台にしてしまうジュリアナですが,当時の貴族社会では本当につきあいの幅の狭さが背景にあるものと思われ,あり得ることかどうか分かりませんがありそうなことではあります。そんなあり得なさそうでありそうなことを設定するキャロル・モーティマーの着眼点のすばらしさはいつもどおり他の追随を許さないものがあります。このとんでもないジュリアナの依頼を承諾するマーカスもナポレオン戦争後にジュリアナにプロポーズしようと思っていたところ戦地から帰るとすでに他人の妻になっていたジュリアナに対する想いを引きずっていたことが大きな理由でした。「巨大な肉食獣の雰囲気を漂わせている」マーカスという表現ですでにジュリアナの心境が読み取れます。また,マーカスの書斎の「張り出し窓の前に置かれた日本製の華麗なついたて」という表現でエキゾチックな雰囲気を出してみたり,「上流社会には,体を洗っていないことを隠そうとして強い香水を使う人間がごまんといる」などと当時の社会の裏側を背手くれてみたりと,サービス心旺盛な表現の巧みさも彼女の作品の魅力でもあります。
さて,ジュリアナは身長153センチの小柄な体。悩みは,何かにつけてかつてマーカスに惹かれた舞踏会のことを思い出してしまうこと。結局彼女の提案どおりには事は運ぶのですが,それは決して彼女の意図した方向ではなく,自分自身がマーカスに惹かれてしまっていることに気づくために必要なプロセスになってしまうのでした。このマーカスの五感を使って徐々にジュリアナに慣れさせようというマーカスの作戦は成功するかに見えますが,途中から互いに我慢できなくなってついにはジュリアナが五感を確認しながらことに及んでいくという逆パターンになってしまいます。このあたりのプロセスが笑いを誘うところですが,当人同士はそれどころではないでしょう。読者が俯瞰的に二人の近づいて行く様を見守れるように描いているところも本作の魅力の一つかもしれません。技ありの一作でした。


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二週間の恋人 [キャロル・モーティマー]

SHALOCKMEMO937
二週間の恋人 Elusive Lover 1982」
キャロル・モーティマー 中原もえ





85年4月に訳本の出た作品ですが,モーティマーの作品はどれも時代的な古さを感じさせない新鮮な感じがします。本作も例外ではなく,つい最近書かれたかのような印象を受けました。原題は「つかみどころのない恋人」
安宿のメイドとして働き,ぎりぎりの生活をしているイーリンが部屋の掃除に入ると26号室の客がイーリンをからかいます。大柄でたくましくカウボーイのような体つきの男性は,しきりとイーリンにつきまといます。ホテルのオーナーのマイクから連日セクハラを受け続けていますが,ここをクビになるとまた仕事を探さなくてはならないし泊まるところもないイーリンとしては,もう一人のメイドの仕事をするマイクの妻のフランシスがちっとも仕事をせずに,自分一人で40室もの掃除とセッティングをほとんど一人でしなければならないことにも疲れ切っていました。そんなイーリンにとってジョシュとなのるこの男性の相手をしているほどの時間的な余裕はなかったのですが,なんとなく頼りになりそうだジョシュの言葉をむげには断り切れずに,今の仕事よりも有利な条件でジョシュの家の家政婦の仕事を引き受けてしまうのでした。しかも愛人としての役割も果たすことに同意して・・・。人里離れたジョシュの家に連れて行かれたイーリンですが,あわやというところで純潔を守ることが出来ます。それからはジョシュはイーリンに手出しをしないように我慢している様子が見えます。しかしジョシュがジョシュ・ホークという名声を得た画家であることを知り,ヌードの絵のモデルになることを承知した頃には,イーリンはジョシュを愛し始めていました。しかし,ジョシュはなかなか絵を描こうとはしませんでした。描けないことを悩んでいる様子に気づいたイーリンはジョシュが留守の間にキャンバスをのぞいてみます。しかしそこには真っ白なキャンバスがあるだけでした。やがて展覧会が開かれる会場にイーリンも同席します。そして画廊主から魅せられたのは完成した,しかも明らかに自分の体だとわかる絵でした。しかも顔を傾けているために誰かはハッキリとはわからないように描かれた絵でした。ジョシュはイーリンが気づかないうちに数日で絵を完成させていたのでした。ジョシュの究極の愛に気づいたイーリン。そんな純愛物語が描かれた作品です。二人が住む地域で山火事が起こったり,ボブとしか名前を告げなかった義父をジョシュがイーリンの恋人だと勘違いしたり,結構二人の間の誤解やすれ違いが二人の間の距離を広げる要素になりますが,逆にそれが二人の関係を近づけることになったりと,相変わらずモーティマーのストーリーテラーぶりが発揮されています。文庫化の表紙に描かれたイーリンのイメージもとてもそれらしく,少女のようにはかなげに見えながらも,セクシーな大人の感じを表したポーズ,ちょっとモジリアニの作品を感じさせるポーズが素敵です。


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