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白雪姫の奇跡 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1406
白雪姫の奇跡 Spellbinding 1990」
シャーロット・ラム 松村和紀子





 原題は「呪文で縛る,魅了する」
 ヒロイン:ベリンダ・ハント(22歳)/元保険会社社員(イギリス中に支店網を持つ大きな保険会社)/緑色の目,赤銅色に波打つ髪/
 ヒーロー:ヴィンセント・ギャレット(?歳)/投資銀行経営/筋骨逞しく,肌はオリーヴ色,目は淡い灰色,意志の強そうな顎,引き締まった厳しい顔つき,持ち家はディリンガム・プレイス,元恋人マグダリン/
 8カ月間意識不明のまま入院。助手席に同乗していた車にトラックが突っ込み,その事故で意識が戻らないまま8カ月間ベッドに横たわったままだったベリンダが,目覚めた!病院の医師も看護師も奇跡だと大喜びをしますが,ベリンダにとっては意識が戻ってからの方が大変でした。真実を知るまでも時間がかかるものですね。「雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪」が童話の白雪姫の形容ですが,本作のベリンダは,赤銅色の髪と緑色の目です。また文中「シャロットの姫」という表現も登場しますが,おそらくテニスンの詩を指していると思われますが,外に出ると死んでしまうという呪いをかけられ,鏡を通してしか外を眺められない姫と同じようにベリンダも退院後も体力回復が十分ではなく外出できなかったことを指します。8カ月もベッドに縛り付けられれば,脚の筋肉も相当落ちるでしょうし,ふらつかずに歩くこともかなり難しい状態だったろうと思われます。病院でのリハビリだけでは不十分で退院後も日々,リハビリに取り組まなければならないでしょう。そんな心細い状況の中,婚約者のリッキーの兄ヴィンセントが放った一言は,ベリンダの目覚める一週間前にリッキーはすでに結婚したということでした。シャーロット・ラムらしい独特で童話的なストーリー展開。たちまち彼女の物語の世界に読者を引きずり込みます。原題で表されているようにヴィンセントの魅力に徐々に嵌まっていくベリンダ。そしてヴィンセントもまた幼なじみマグダリンではなく,弟リチャード(リッキー)の恋人だったベリンダを愛してしまっていたのです。リッキーと交際はしていたものの,リッキーは末っ子の甘えん坊で,人を愛するよりも自分が愛される方を選ぶタイプ。しかも事故の影響で自分ではなくベリンダが昏睡状態に陥ったことへの罪悪感を強く持っていたのでした。そのため両親やリッキー夫妻に会わせたヴィンセントに恨みの気持ちを抱いたものの,リッキーへの思いを吹っ切ることができたベリンダ。そんな何でも自分の思いどおり事を運んでしまうヴィンセントを強い口調で非難することはあっても,それは裏返ってヴィンセントに甘えてしまう自分を認めたくないという気持ちの表れでもあったのです。退院後ヴィンセントの家で過ごすことになったベリンダ。ヴィンセントはリッキーと会わせたくないために,ベリンダを監視するという名目で家に連れて行ったのですが,それはあくまで名目で,ベリンダに強く惹かれてしまい,深い関係を持ちたいという欲望が湧いていたからでした。そして,ベリンダもまた「私はヴィンセント・ギャレットに恋をしている。血の気の引いた顔を両手で覆い隠したが,そうしたところで真実から逃れることはできなかった。彼と目が合うと,心臓が激しく打った。私は彼を愛している。なぜそんなことに?いったいいつ恋をしてしまったの?」ヴィンセントの両親は初めベリンダを受け入れる気持ちはありませんでしたが,リッキーとメグの仲を裂こうとしているのではないというベリンダの言葉を信じたようです。しかもヴィンセントとマグダリンの関係ともかかわらないようにという言外の圧迫を感じたベリンダに対して,ヴィンセントはきっぱりとその懸念を打ち消すのですが,自分がヴィンセントから想いを寄せられていようとは思いも寄らないベリンダ。ヴィンセントは単に欲望を持っているに過ぎないと思っていたのです。ヴィンセントのプロポーズをきっぱりと断るベリンダ。さぁ二人の間の気持ちのすれ違いは解消するのでしょうか・・・。体調が少し好転してきたベリンダはやはり母親の元に帰るべきだとニュージーランド行きの飛行機に乗ろうとヴィンセントの家を密かに脱出するのですが,空港近くのホテルについて翌朝のフライトを待っている間に,ヴィンセントに発見されてしまいます。「私の望みは愛よ」と告白するベリンダ。それに対して,ヴィンセントもまたマグダリンとの関係を明かすのでしたが・・・。そして入院中,昏睡状態にあったときにヴィンセントが取った行動を知って,ベリンダはヴィンセントの愛を確信するのでした。「白雪姫」「昏睡状態なんていうよりずっと素敵だわ。」「するとあなたは王子様かしら?」この一文に本作の本題が凝縮されています。


タグ:ロマンス
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弟の花嫁 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1370
弟の花嫁 Forbidden Fruit 1991」
シャーロット・ラム すなみ 翔




HQB-767
16.11/¥670/198p

R-1006
93.06/¥640/156p


 原題は「禁じられた果実」
 ヒロイン:レオニー・プリーストリー(?歳)/秘書/華奢な体,金髪,瓜実顔,青い瞳/
 ヒーロー:グレッグ(ガイル)・ケント(?歳)/社長,マルコムの兄/灰色の目,黒く濃いまつげ,たくましい頬骨,意志の強そうな唇,黒髪,頑丈そうな体つき,優雅な胸板,締まったウエスト,長い脚/
 シャーロット・ラムの禁じられた恋の物語です。性格の正反対な兄弟が二人とも愛してしまった女性レオニー。華奢な体に明るすぎるほどの金髪とほっそりした瓜実顔に青い瞳。優雅で古典的な美女というイメージですが,先に弟が手を出してしまったため,生真面目な兄はぐっと我慢。しかしその弟が結婚式を前に事故で亡くなってしまいます。しかも花嫁予定者のお腹には二人の子供が・・・。正式に義妹となる前に夫となる人を失ってしまったので正式には義妹ではありませんが,義妹となる人レオニーに惹かれていた兄は弟の死に衝撃を受けつつも,彼女を守ろうと決意します。自分が惹かれていることをひた隠しにして・・・。本心を隠さなければならないためどうかするとレオニーへの言葉は辛辣で強いものになりがちです。そして産まれてくる予定の子供はケント家の大切な跡取り。そのため,子供を取り上げるぞと脅しながらレオニーへの結婚を迫ります。自分を嫌っていると思っていたガイルが自分にプロポーズしたことに驚きつつ,子供と一緒に暮らすためにはこの提案を受け入れなければならなくなり,不承不承提案を承諾するレオニーですが,ともに暮らすうちに,自分がガイルに惹かれていることに気付きます。そして夫となる予定だったマルコムは次第に記憶から遠くなっていくのでした。それでもガイルは自分の体を手に入れたいと思っている様子が垣間見えるのですが,なかなか心を開いてくれません。一大決心したレオニーは,ガイル獲得作戦を開始するのですが・・・。複雑な状況で出会った二人が真実の愛を見つけて行くまでを描いた作者らしい作品です。弱い立場に置かれながら母親としてすっかり成長し自分の望む物を手に入れようと凜とした決意をしていくレオニーの姿に読者は惹かれること間違いなしの秀作です。


タグ:ロマンス
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嫉妬 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1338
嫉妬 Disturbing Stranger 1978」
シャーロット・ラム 林 真澄




HQSP-121
16.08/¥540/224p

R-0107
81.06/¥525/173p


 原題は「平穏をかき乱す未経験者」
 ヒロイン:ローラ・ホーラム(20歳)/家事手伝い/山猫のような目と虎のような気性,緑の目,プラチナブロンドの髪/
 ヒーロー:ランドール・メルシエール(36歳)/メルシエール社社長/灰色の目,力強い顎の線,黒い髪,角張った顔/
 愛に不器用なヒーロー,ヒロインの互いの愛に気付くまでを描いた秀作です。ゆがんだ関係や深い,本当の愛の心理描写を描くのに優れた作者らしい作品。40年近く前の作品ですが,イギリス上流階級なら今でもありそうな描写で時を感じさせない静けさと激しさを併せ持つ作品です。
 病気がちな母の面倒を見ながら暮らしているローラは父の会社の新社長ランドールが,恋人のトムの仕事に関連した貧困地区で出会った年かさの男性であることを後に知ります。そして父が会社のお金を使い込みそれが会計検査でバレてしまったことで,社長のランドールとの間で盟約がかわされたことを聞かされたのでした。つまりローラとランドールが結婚すればこの件は見逃すということに・・・。トムへのローラの気持ちを知っている母親はランドールの申し出を受けてしまったローラを心配しますが,本当のことを母に知られてはならないという父の言葉を重く受け止め,平気を装って心配しないよう言うのでした。母親の様子を見に毎日家に寄るトムは,優しく親切でローラを大切にしてくれてはいますが,つっけんどんな態度を時々取るランドールとは違い,兄であり,友でもある存在です。ランドールとの間にあるのは,火花を散らすような激しい感情でした。そしてランドールに触れられたりするとうっとりしてしまう自分にローラは戸惑います。口では「大嫌い」という言葉を大声で直接ランドールに向けるくせに,かまわれないと寂しくなり,体を求められると自分からすがりついてしまう矛盾した自分の感情に余計腹を立ててしまうローラの行動に,思わず読者の笑いを誘います。ついにランドールとの結婚が決まり,ローラは式の準備に翻弄されます。二人にどんな将来と生活が待ち構えているのか。トムへの思慕の念を抱きつつも,ランドールはローラの心からトムを追い出そうと躍起になるのです。そして二人の間には便宜的で身体の関係のみの結婚という言葉が飛び交います。気持ちは別物,という合意でした。ベニスへの新婚旅行で二人の間に激しくも優しい時間が過ぎていきます。美貌のアメリカ人未亡人とランドールの間に過去に関係があったのではないかと嫉妬を覚えるローラ。そしてロンドンに戻り,メルシエール家での生活が始まります。母の様態を気にして実家に行ったローラはトムに出会いますが,別れ際ローラを迎えに来たランドールとトムの間に火花が散ります。そしてやがてランドールは家でもローラを無視するようになってしまいます。もう自分は飽きられてしまったと思い込んだローラ。ランドールは自分に気持ちを向けず,相変わらずローラがトムへの思慕を持ち続けていると勘違いしていたのでした。そしてローラは自分の妊娠に気付き,トムに診察をして欲しいと願い出るのですが,トムはインドへの医療奉仕に出かけることをローラに告げます。悪阻とトムの話に気を失ってしまったローラを屋敷のベッドにトムが連れて行ったところに間が悪くランドールが現れ,トムとランドールは殴り合いになってしまうのでした。離婚したいのかと問うランドールにローラは事情を話し,ランドールへの愛を告白するのでした。
 16歳の年齢差をどうやって乗り越えて行くか。自分の気持ちに気付くまでの紆余曲折も巧みに織り交ぜながら,ローラの精神的成長が描かれた秀作です。それにしても顔を見ただけでローラの気持ちがすっかり読み取れてしまうランドールが自分への愛を強くもっていることに気付かない若さがなんとも言えず歯がゆい感じで,面白く,一気読みできる作品です。HQSP版の表紙がローラの美しさ,若々しい純真さ,緑色に光る目,ふっくらした頬,透き通る肌がしっかり表されたモデルさんが,読者を引きつける抜群のイメージです。


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夕映えのロンドン [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1306
夕映えのロンドン Pagan Encounter 1978」
シャーロット・ラム 馬渕早苗




PB-168
16.05/¥700/174p

R-0044
80.07/¥450/174p


 原題は「快楽主義者との遭遇」
 ヒロイン:リー・ウエスト(27歳)/弁護士事務所秘書/長身,卵形の顔,青い眼,淡いブロンドの髪,スリムな姿態/
 ヒーロー:マティソン(マット)・ヒューム(?歳)/ワールド・ガゼット社社長/灰色の目,銀筋の混じった黒髪/
 「ロマンスタイムマシンの1作」です
従妹のアンが恋人に捨てられたという訴えに腹を立てているリー。アンの就職先である大新聞社の「ワールド・ガゼット社」の社長,マット・ヒュームがその相手でした。愛らしく末っ子で両親の愛を一身に受け,兄姉たちとはいつも一人特別扱いされていたアンはリーを頼ることがしばしばあり,リーもアンの頼みをいつも聞いてしまうのでした。リーは小さい頃から独立心を持ち,17歳で最初の恋に落ちますが,今はフィリップというコンピューター技師と婚約しています。しかし,結婚まではフィルの要求には従えないといつも断りの言葉を口にしています。ところがフィリップがサウジアラビアへの六ヶ月の出張の前に結婚しようと申し出たのにリーは出張後に結論を出そうとやんわりと断ります。ところがエレベーターの中で出会った男性から突然キスされ,不思議とそれに反応してしまっている自分に気付き愕然としたのでした。そしてその男性こそ,アンを捨てたマットだったのです。ここからマットの傲慢で容赦ないリーへの侵攻が始まります。なんとかその魔手を逃れようともがくリーですが,同時に身を投げ出したいという気持ちとも戦うことになります。そして自分の秘書としてリーを新聞社に無理やりヘッドハンティングしてしまいます。そんなこんなで,すっかりマティソンに取り込まれてしまうリー。マットを付け狙う美女キャシー・ロードとのいざこざもちょっとしたエピソードに終わり,マットへの愛におぼれていくリー。ちょっとヒロインとしては情けないかぎりのリーのロマンスの物語。1978年のシャーロット・ラムの作品です。


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パリの青い空 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1303
パリの青い空 Dangerous 1981」
シャーロット・ラム 加藤しをり




HQB-742
16.07/¥670/208p

R-0430
85.12/¥550/156p


 原題は「危険」
 ヒロイン:ローラ・クローフォード(?歳)/療養中の看護師/ほっそりした華奢な体つき,褐色の髪,色白の肌/
 ヒーロー:ドメニコス・アエゲソス(?歳)/富豪/すらりとした長身,せっかちな歩き方,頑固そうに張り出した顎,引き締まった褐色の肌,鼻筋が通り,髪は黒,180センチ以上の身長,幅広い肩/
 働き過ぎで肺炎を悪化させてしまった看護師ローラ。病後の療養を兼ねて16歳の少女アマンダとその祖母グレイ夫人の付添人兼家庭教師としてパリへ旅立つことになります。父親に反抗して奇抜な服装ばかりするアマンダ。「年長者をからかい,相手が怒り出すまで反抗を試みて楽しんでいる」ティーン・エイジャー独特の行動パターンを父親のギリシア系富豪のドメニコスは理解できずにいます。4歳で実の母に死に別れ,8歳の頃から寄宿学校に追いやられていたアマンダの心中をおもんぱかり,ある程度自由を与えつつ信頼を勝ち得ようと少しずつアマンダの心の中に入り込んでいくローラの見事な話術が光ります。18歳の頃からずっと同じ病院で看護師としてくる日も来る日も病院の中で生活してきたローラにとっては,我が儘を言う患者に対応する仕方はお手の物でした。ローラ自身は15歳の時両親とともに乗っていた車の事故で自分だけが助かり,その後看護師の道を目指してきたのです。ユーモアのセンスにあふれつつ真面目な性格のローラ。娘のアマンダばかりでなくグレイ夫人の信頼も得,ドメニコスも仕事を兼ねてパリにやって来ます。パリ見物で出会った少年ピエールとその叔父マルセル・マランとの交際が始まってしまいます。その様子を見て嫌みを言ったりマルセルを敵のような目で見るドメニコス。自分の命に従わずに次々とアマンダやグレイ夫人の信頼を得てしまうローラに,実はドメニコスが最も惹かれていたのでした。しかし自分の母親であるグレイ夫人の過去の過ちを絶対に許せない気持ち,そして妻に裏切られ,一人娘を押しつけられてしまい,その娘すら反抗ばかりしているドメニコスにとっては女性は絶対に信頼してはいけない存在。そんな思いを隠そうともせずにローラとマルセルの関係を疑ってかかり,さらにはアマンダと親しく話すピエールを遺産目当ての危険な存在と思い込むドメニコスに,実はローラも惹かれていくのでした。何故に?と思ってしまうのですが,そこは恋は理屈を超えるということなのでしょう。やがて和解の時がやって来ます。「君のような人は初めてだ。例外のない規則はないというが,君はその例外かもしれない。君のことだけは僕も本当に信じられそうな気がする。」と,ドメニコスに言わせるまでになりますが,ローラはそれでもまだ気を許せません。そして女性を信じられなくなったドメニコスは自分の心の傷を打ち明け始めます。その心の傷を癒やしたいと思ってしまうローラでした。「愛とは僕が考えていたようなものとは違うらしい。」「みんなそうよ。愛ってそういうものなのよ。何が出てくるか誰にもわからないわ」「愛はクリスマスのようなものだな」という二人の会話がパリを舞台にとても洒落ていて素敵な作品です。


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運命の回転ドア [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO1290
運命の回転ドア Body and Soul 1994」
シャーロット・ラム 高田真紗子




K-406
16.06/¥670/156p

R-1291
96.12/¥640/156p


 原題は「肉体と魂」
 ヒロイン:マーティーン・アーチャー(27歳)/証券銀行社員/150センチぐらいの小柄で痩せ型,グリーンの瞳,赤褐色の髪/
 ヒーロー:ブルーノ・ファルカッチ(?歳)/銀行家/180センチくらいの長身,小麦色の肌,石に刻まれたような顔立ち,黒い髪,黒い瞳/
 複雑に入り組んだ愛憎をテーマにさせては右に出るものがいないシャーロット・ラムの作品。本作も憎んでいるように見せかけて本当は心から愛している相手との愛の物語です。そして何より驚くのが,脳腫瘍にかかった患者が生きがいをもって生きる意欲をもつことで腫瘍が小さくなり元気になっていくというストーリーです。原題の「Body and Soul」はそんな意味があるのでしょうか?
 証券銀行の経営者チャールズのもとで働き始め,元々持っていた才能を開花させて昇進を続け,みんなに頼りにされているマーティーン。しかし,チャールズは従弟のブルーノをイタリアから呼び寄せ,いずれ経営を任せるつもりだと言い出します。そのブルーノとマーティーンはある日偶然会議が行われるホテル入り口の回転ドアで一緒に挟まってしまい,互いをののしり合ったのが出会いでした。互いにその時,気持ちの中に互いを深く印象づけたのでした。会社にやって来たブルーノに表面的には慇懃に対応しているマーティーンですが,その男性的魅力に太刀打ちするためにはなんとか自分の気持ちを抑えつけなければならずに苦労しています。そして体調の悪いチャールズの代わりにブルーノが行くことになったローマの銀行家会議の最終日に遂に二人は深い関係を持ってしまうのでした。帰国を一日早めて先に帰ってきたマーティーンはその日のうちからインフルエンザで体調を崩し,出勤できなくなってしまいます。ブルーノはその話しを信じず,マーティーンが故意に自分を避けてしまったと感じているのですが,数日後マーティーンのフラットを急襲し,細々とマーティーンの世話を焼くという思いがけない行動に出るのでした。チャールズとマーティーンの関係を疑うブルーノの言葉に敢えて説明も打ち消しの言葉も話さないため,ブルーノはさらに二人の関係を疑い,長期の出張に出てしまうのでした。その間,マーティーンは自分の体調の変化がインフルエンザだけでなく,妊娠によるものだと気付きます。当初誰にも,両親にすらそのことを告げずにいたのですが,次第に服では隠せない状況になって始めて友人にそのことを打ち明けていたとき,出張から帰ってきたブルーノにその話を聞かれてしまいます。チャールズの子か,自分の子か,と聞かれたマーティーンはブルーノを避ける言葉しか話さず,ますますブルーノの疑心はつのっていくのでした。この当たりの緊張感に読者はドキドキしますし,その後,事情を知らないチャールズに子供をどう育てようとしているのか聞かれたマーティーンは,自分だけで育てると言い切るのでした。それに対してチャールズは自分と結婚すれば問題は解決するとプロポーズをしてくれますが,友人以外の感情を持っていないチャールズとの結婚はマーティーンの選択肢にはありませんでした。やがて,チャールズの病気の深刻さを知ったマーティーンは誘われるままにクリスマスをウィーンでチャールズと過ごします。しかしプロポーズを断ったマーティーンとチャールズは気まずい想いを抱いたまま帰国するのでした。ここまで頑固に二人の男性からの求愛を断り続けるヒロインの姿に拍手を送りたくなります。やがて地下鉄事故の影響で産気づいたマーティーンに,病院に駆けつけたチャールズ。そして入院を聞きつけて病院にやって来たブルーノに病院の看護師たちが病室に入れるのは一人の父親だけだといい,後からやって来たブルーノに冷たく対応する様子に思わず読者もクスリとするでしょう。愛らしい女の子が産まれ,名前をローマと名づけるマーティーン。この洒落た命名にも思わず拍手を送りたくなります。次々と溜飲を下げてくれる作者の見事な腕前に完全に参ってしまう秀作です。なお,ホテル入り口の回転ドアは日本では事故が起きてからほとんど姿を消すか,近くに普通のスライド式のドアが付けられるようになりましたが,欧米ではまだ残っているようですね。韓流ドラマでも一流ホテルでは結構見かけます。かつて「スライディング・ドア 1998」という名画があり,ヒロインのグィネス・パルトローの清純な美しさが際立っていた記憶がありますが,ちょっとそれを思い出してしまいました。今はAmazonPrimeにも入っていますから手軽に見れるようになってうれしいですね。


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もう一度あなたと [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO959
もう一度あなたと Storm Centre 1980」
シャーロット・ラム 瀬戸ふゆ子





なんとも壮絶な愛憎劇です。「嵐の中心」という原題どおり,まさにそんな感じのヒーロー,アンドリアス・ケラリデス。そして嵐の中心に吸い込まれて行ってしまう画家ローレン・グレー。ちょっと名前としてはローレン・グレーはロマンチックな感じがしますが,いやいやながら病院へそしてアンドリアスの島へと引き込まれて行ってしまいます。そして自分がいっぱしの画家として生計を立てられるようになったのはひそかにアンドリアスが自分の絵を沢山買ったことに依るものだと知ったときに,その執念の深さ,それを愛情の深さだったと感じるローレンの心境の不思議さが,本作のポイントだったように思います。そしてアンドリアスの愛の深さを知っていた,その母リディアの巧みな話術。初めは悪役一辺倒だったこの母子に対して,それを信用していなかったローレンの父ジミーと画廊経営者でローレンの婚約者フィリップの行動が,善人ぶっていてそれを信じていたローレンがその正体に気づいていく過程は,まさにローレンが嵐に巻き込まれていく感じがよく分かる大逆転の結末となっていきます。それにしても男女の愛の不思議さは常識では計れないということを如実に示す見事な作品です。でも本作を好きになるかどうかは,人によって差があるでしょうね。そんな怖い作品です。


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素足の妖精 [シャーロット・ラム]

SHALOCKMEMO746
素足の妖精 Temptation 1979」
シャーロット・ラム 古城裕子





著名な画家リン・ハワードの娘リンデン,17歳。修道院学校を卒業し,隣人もわずかな田舎で父と一緒に二人きりで暮らし始めたが,天真爛漫で自由に,普段は外でも靴を履かずに生活するような少女だった。そこに車の事故で運び込まれたジョス。人との交渉をあまりせず,画家として仕事ばかりをしている父も,ジョスを気に入り,チェスの相手をするようになる。自由であどけないリンデンを,ジョスも気になるようになり,次第に大人の女性として扱うようになるが,リンデンの方はその事が分かっていない。隣人の息子が村で開かれるダンスパーティに誘った頃から,ジョスはリンデンにドレスを買い与え,リンデンを連れてパーティに出かける。それをよく思わない隣人の息子。ある晩,川で一糸まとわぬ姿で泳ぐリンデンを偶然見かけたジョスは,自分の思いを抑えきれなくなり,行動を共にしてしまう。二人の関係に何となく気づいた父親リン。ジョスはリンに自分が何者であるかを告げ,急にロンドンに帰っていく。実はジョスが結婚していて,急にロンドンに帰ったことを知ったリンデンは,自分が裏切られ,もてあそばれたことを知る。大学に入り,ロンドンで生活を始めるリンデン。2年生になった時,道で偶然ジョスが乗っていたのと同じ色と車種の車を見つけ,思わず駆け寄ってみるリンデン。しかし乗っていたのはリンデンと同じ学生のダニエル・ワイアットだった。やがて親しく付き合うようになる二人。クリスマス休暇でワイアット家を訪れたリンデンを迎えたのは,ジョスだった。実はダニエルはジョスの息子で,ジョスの妻でありダニエルの母だった女性は,長い闘病生活ののち1年前に亡くなったばかりだった。驚愕の再会をしたリンデンとジョス。しかも,ジョスの寝室には父親が描いたリンデンの絵が飾られているではないか。そのことを二人で話し合っているところをダニエルに気づかれてしまい,ダニエルに二人の関係を知られてしまう。しかもジョスは息子よりもリンデンを愛していて結婚して欲しいと申し出る。ジョスへの復讐を誓ったリンデンはこの申し出を受け入れ,1週間後に結婚式を挙げる。そして,リンデンの復讐が始まるのだが・・・。
自由奔放な少女に惹かれた大人のジョスとリンデンとのロマンチックな交流から一転して復讐劇に変化する物語展開。シャーロット・ラムの読者を惹きつけ,手玉にとるようなストーリー・テラーぶりが遺憾なく発揮されている傑作。このパターンはロマンス小説ではたいへん珍しく,まさに傑作という感じがする。はたしてリンデンはジョスを許すことが出来るのだろうか,二人の関係は,ダニエルはどうするのか,この興味を持続させながら,ラムは誰もが納得する結末を用意している。


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