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愛を宿した個人秘書 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1467
愛を宿した個人秘書 The Consequence He Must Claim 2016」
ダニー・コリンズ 遠藤康子





 原題は「彼が請求すべき結果」
 ヒロイン:ソーチャ・ケリー(?歳)/個人秘書/ブロンド,華奢な体型,清らかな顔立ち,美しく丸みをおびたヒップ/
 ヒーロー:セサル・モンテロ(?歳)/世界的科学技術企業の経営者,スペイン貴族カスティリョン公爵の息子,子爵/青い目,青い瞳(アクアブルーの瞳),黒い眉/
 前作「イタリア富豪の孤独な妻(SHALOCKMEMO1420)」の関連作です。3年間も個人秘書をしてきた雇い主と目眩く一夜を過ごし,婚約を断るつもりで婚約者に会いにいった雇い主のセサルは事故に遭い全身に大火傷を負います。それと同時に事故前の1週間の記憶も失ってしまっていたのです。まぁいろんな状況の変化を説明するのに記憶喪失はとても都合のいい設定ではありますが,1週間分のみの記憶喪失はあり得ないとは言えないまでもかなり特殊な例なのではないでしょうか。そこがまずは引っかかってしまって,なかなか読了までは遠い道のりでしたが,ソーチャがセサルを思う真摯な愛情と,二人の間に結晶が宿っていること,そして育ちが良く美貌に溢れてはいるけれども,意地悪で自分の都合しか考えない愛情の薄いお嬢さんでセサルの婚約者だったディエガの存在などロマンス小説に欠かせない人物設定が揃っている本格的ロマンスであることは,本作の大きな魅力となっています。「あの夜の出来事は必然だった」とソーチャは回想します。個人秘書として一線を画しながらも3年間セサルを愛し続けてきたソーチャ。「でもその結果,この先セサルと結ばれて一生幸せに暮らせるのだと思い込んでしまった」一方で「自分がセサルの結婚相手にふさわしくないことは百も承知していた。」結局自分は「取るに足りない小さな存在なのだ。」一夜を過ごしてセサルの愛を確信したと思っていたソーチャですが,病院に見舞いに行ったソーチャをセサルに会わせないためにディエガは「セサルはとても後悔していたわ。婚約を今にも発表しようというときに,どうしてあんな行為に走ってしまったのかって。それに,あなたを欲望の対象にしてしまったことも,後悔していたと思うわ。それまではとても尊敬していたのにね」とディエガに言われてしまい,当時のセサルの気持ちはソーチャとディエガが入れ替わった立場だったことを確信してはいても,セサルの家族やディエガの家族から見れば,ディエガの言い分が正しいことを否定するだけの確証は,セサルが記憶を失ってしまっている現状では何処にもなかったのです。モンテロ家とフエンテス家の婚姻関係が大きなビジネスのチャンスであることから,セサルが入院している間に着々とディエガとセサルの婚約の話しは進んでしまっていたのでした。未婚の母として地域社会の中で蔑まれてきた母が不憫で,「子供が出来たと打ち明ければ,母は辛い香子を思いだし,再び苦しむだろう。それに子供の父親がセサルだと証明できたところでどうなるのだろう?子供が出来れば結婚してもらえるとでも思っていたの」だろうか。名家としては単なる秘書の子供ではなく家柄にふさわしい名家の令嬢が後継者である息子の相手としてふさわしいと考えるだろうし,最悪産まれてくる子供を取り上げられてしまうかも知れないと思い至ったソーチャは,それ以上ディエガに言い返すことはできないまま,会社を辞めて実家に帰るのでした。それから数ヶ月。無事出産を終えたソーチャを再びあり得なそうな出来事が襲います。当日複数の出産が行われ,救急患者も搬送されてきたためにソーチャの子供と同時間帯に出産した別の女性オクタヴィア・フェランテの子供が取り違えられてしまったのでした。我が子を連れてこられた二人の産婦が互いに我が子ではないと気づいたのです。そしてそのことは検査の結果,女性たちの言い分を確認するために,病院はソーチャの赤ん坊の父親であるセサルに問い合わせしてしまいます。セサルに出産を知らせるつもりのなかったソーチャの知らないところでそんなことが行われていたのでした。病院側はもちろん責任問題に発展することを恐れ,確証を持って赤ん坊を正しい両親の元に返すことが求められており,血液型やDNA検査が必要であることはもっともなことではありますが,産後すぐのソーチャは病院側がそんな対応をとることは思ってもみませんでした。ソーチャはセサルのセカンドネームをとって「エンリケ」と赤ん坊を呼び,アイルランド風に「リッキー」という相性も考えていました。そして父親欄にセサルの名前を記入していたために病院はセサルに連絡を取ったのでした。
 一方怪我が落ち着き結婚式を間近に母親が式の準備に忙しくしているところで,ソーチャが事故後自分の元を勝手に退職してしまったことに腹を立てていました。「ソーチャは秘書として働いていた間,ビジネスライクな姿勢を崩さなかったので,二人の関係が上司と部下の枠を出ることはなかった。」というのがセサルの記憶だったのです。そんな時セサルの携帯電話にロンドンの病院から連絡が入り,赤ん坊取り違えの確証を得たいので血液のサンプルを送ってくれと言われ,「記憶のない1週間の内に子供が出来てしまったのだろうか?」と思い至ります。記憶が戻ったわけではなく類推したセサルはロンドンに飛ぶのでした。セサルと出会った「ソーチャはずっと前から,セサルと愛しあう瞬間を思い描いてきた。それなのに,その記憶をセサルと共有することができないなんて。」という状況に,読者はその哀れさにぐっと引き込まれていきます。第2章のこのロンドンの病院での事務的な看護師の対応やセサルとの再会で動揺するソーチャの気持ちの揺れの対比がすばらしく効いています。セサル自身は愛情の薄い両親の元で育ったために愛する男女の間でどんな会話が必要なのかという見本がなく育ちました。ディエガとの結婚もそんな家同士の結びつきに過ぎないのは分かっていましたが,結婚とはそうしたものだという思いしかなかったのです。赤ん坊に接するソーチャの態度を見て「セサルは赤ん坊を抱いたことがなかった。それにいつか自分に子供が出来ても,育児は妻や使用人がするものだと思っていた。そう,子供というのは誰から面倒を見てくれる存在でしかない」と思っていたセサルはソーチャがエンリケに授乳する様子を見てふと赤ん坊と母親という存在に新しい感情が芽生えつつあることに気づくのでした。かつて有能な秘書のソーチャが一度だけ取り乱したことがありました。アイルランドに住む7歳の姪が数時間行方不明になったと連絡が来たときです。その時のソーチャの愛情の深さにセサルは感動したものでした。セサルがなぜ出産を知らせてくれなかったかと問い詰めると,病院に見舞いに行ってもセサル側の家族もディエガも会わせてくれなかったと訴えられます。「あの日,私たちはその話をしたのよ。あなたは結婚をためらっているとわたしに打ち明けた。だから婚約を破棄することにしたのかと思ったの」とソーチャに打ち明けられて愕然とするセサル。「結婚式は取りやめた」と話すセサルは,ソーチャに「わたしはそんなことをして欲しいなんて言ってないわ。あなたに何かを望んでいるわけではないから心配しないで」とはっきり言い返されてしまいます。「息子のために何かしたいのなら,それはあなた次第よ。でもわたしはシングルマザーとしてエンリケを育てていくわ」と毅然として言うソーチャにセサルはある決意をするのでした。二人の結婚に至るにはなお紆余曲折があるのですが,セサルの事故と1週間分の記憶喪失を埋めるように過去と現在が何度も往復して物語られるのが,充実感をもたらします。そしてセサルがソーチャとエンリケに対して愛に溢れた家庭を築いていけるのだろうかというのが終末までストーリーを引っ張っていくのです。そういう意味で本作はセサルの成長譚というべき作品かも知れません。苦労人ソーチャが世の酸いも甘いも知り,そして秘書と雇い主という関係から夫婦の関係,母親,父親としてエンリケにどう対応していったらよいまで含めて,精神的にセサルよりずっと大人でお姉さん的な存在であり,男性にとってある意味頼りがいのある女性として描かれているのが,女性読者からしたらあまり気持ちのいいものではなくなるのかも知れません。そしてさらにディエガの罠がソーチャに仕掛けられたとき,セサルはソーチャに本物の愛情を感じているのを実感していきます。内容の濃い秀作です。


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イタリア富豪の孤独な妻 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1420
イタリア富豪の孤独な妻 The Marriage He Must Keep 2015」
ダニー・コリンズ 竹内さくら





 原題は「彼が守らなければならない結婚」
 ヒロイン:オクタヴィア・フェランテ(23歳)/主婦/従順で誠実,読書好き,控えめながら磨けば輝くような美しさ/
 ヒーロー:アレッサンドロ(サンドロ)・フェランテ(30歳)/複合企業のCEO/広い肩,キリッとした口もと,知的な眉,端整な顔立ち,深いグリーンの瞳/
 今月の赤ん坊取り違えものの二つ目です。こちらは取り違えが病院のミスではなく,悪意のある犯罪でスタートします。どうも自分の赤ん坊とは違うようだと母親同士が気がつきます。ヒロイン,オクタヴィアの夫アレッサンドロが病院内の監視カメラで確認したところ,アレッサンドロのいとこでオクタヴィアにつきまとっていたプリモが意図的に取り替えた様子が映っていたのです。プリモは産気づいたオクタヴィアが救急車と病院への連絡を頼んだのにもかかわらず,わざと連絡を遅らせ,いよいよ大変な事態になってから救急車を呼び,あやうく母子の命を奪おうとしたにもかかわらず,さらに出張中のアレッサンドロにはオクタヴィアが自分を避けているために気づくのが遅れたと夫婦間の不信感をつのらせるような言い方をしたのでした。信頼していたいとこがなぜこのような犯罪行為を犯したのか理由がわからずに初めは信じがたいと思っていたアレッサンドロでしたが,画面の映像という証拠と妻のそれまでプリモから受けた嫌がらせから,断固たる措置を執ることにしたのです。結局どちらが自分たちの子供か検査結果がはっきりするまで通常の入院よりさらに1週間がかかってしまいます。その後イタリアの祖父の家にやって来た三人ですが,アレッサンドロの叔父であるプリモの父や従姉妹たちの冷たい視線といやみという対応に会います。そして祖父までもがオクタヴィアに対して冷たい態度を取るのです。妻と息子を守らなければ・・・。アレッサンドロの心に強い決心が浮かびます。ここにおいて,初めて本当の意味で結婚の重みと妻に対する愛に目覚めたアレッサンドロでした。しかし夫婦愛が強い絆となっていきます。オクタヴィアもまた,ただおとなしいだけの妻というこれまでの自分から,かつて父親の死に責任を感じ続けてきたアレッサンドロの心の闇を知り,深い愛情を感じ,夫を守りたいという思いを抱くのでした。これまで父親の言うとおり自分の気持ちを殺して言うとおりにしてきたオクタヴィアですが,両親に孫のロレンツォを見せに行ったとき,ついに感情が爆発し,二度と会わないと宣言します。その後はオクタヴィアもフェランテ家の城ともいうべき我が家の女主人として自分の感情を押し殺すことなく,いうべきことを堂々と述べるようになるのでした。そして赤ん坊取り違えの時以来連絡を取ってきたスペイン人のソーチャとセサルの夫妻を別荘に招いてチャリティー・オークション・パーティを開いたのでした。夫妻とは幸せな週末を過ごし,その後アレッサンドロの祖父との関係も改善し,アレッサンドロの母もしきりと孫に会うために城に来るようになり,幸せな状況の中で唯一オクタヴィアの心を塞いでいるのは,二人の結婚がいわば便宜結婚であり夫の愛を信じられずにいることでした。これほど信号を出しているのに互いに愛を確信できないでいる二人に読者はいら立ちを覚えてしまうのですが,出会いのきっかけがきっかけだっただけに言葉にすることが必要なのでしょうか。そして,ついに言い争いに発展してしまいます。さて二人は本当に愛を信じ合えるのでしょうか。第11章とエピローグまで解決を待たなければなりません。
 犯罪的な赤ん坊取り違え事件をきっかけに夫婦が本当の愛に至るまでの過程を丹念に描いた本作。前読作とは違った意味で夫婦の精神的成長が描かれた良作です。


タグ:ロマンス
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天使のためについた嘘 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1222
天使のためについた嘘 A Debt Paid in Passion 2014」
ダニー・コリンズ 小泉まや





 原題は「情熱で払う借金」
 ヒロイン:シレナ(シン)・アボット/秘書/ふっくらした唇,豊かな茶色い髪
 ヒーロー:ラウル・セシヘル/ソフトウェア会社CEO/長身,浅黒い肌/父はスイス人,母はスペイン人
 会社の金の横領。信頼していた秘書から裏切られたラウルは,元秘書を告訴します。そして泥棒呼ばわりし,徹底的に争う姿勢を魅せるのでした。シレナにも事情があって一時的にお金を借り,返す気持ちでいたところに父の事業の失敗でそれが出来なくなってしまいます。義妹の大学の入学金を用立てようとしたのがきっかけでした。継母との間の関係はよくありませんでしたが,義妹はとてもシレナにとっては近い存在で,義妹のためなら疑われることも承知で何でもしてやろうという気持ちにさせられるのでした。ラウルもまた父に裏切られた経験を持ち,義父の娘ミランダがいます。そんな境遇の二人でしたが,ラウルの傲慢さも父の裏切りを許せず,しかも精一杯働いて事業を持ち直し,大きくして来た自負があったからです。熱い夜を過ごした翌日の突然の告訴と逮捕。シレナが驚愕したこの状況は,さらにシレナの妊娠という形でより複雑化していきます。ラウルの子供であることは明らかなのに,シレナは他の男性の子かもしれないと匂わせ,ラウルが悩むに任せます。それぐらいしか自分を訴えたラウルへの反抗的態度は示せなかったのです。予定日の1カ月前,シレナは命を賭けてルーシーを出産します。自分の亡き母もまた出産により弟ともに命を落とした過去をもち,自分が出産に伴う危険の可能性を知っていましたが,それでもルーシーをこの世に送り出そうと決意していたからです。助産師から命懸けの出産であったことを聞かされたラウルは,そのことを自分に知らせてくれなかったと行ってさらにシレナを責めるのでした。自分勝手な解釈で次々とシレナを追い詰めていくラウル。しかし,ラウルの秘書だったシレナはそんなラウルの性格は知り抜いています。しかし自分を信用せず,告訴したことを許すことは出来ませんでした。結局わたしは信用されていない。自分の血を引いた娘を育てるためだけに自分を利用しようとしている。とシレナが思い込んだとしても不思議ではありません。この後,二人の関係はやや蜜月に近くなるのですが,ラウルの義母からの電話でネックレスが見えなくなったという言葉に,ラウルがシレナをちょっと見てしまったことから,ふたたび二人の関係は険悪になります。やはりラウルは自分を泥棒だと思っていると分かったからです。そしてシレナの父が倒れたという知らせ。オーストラリアにルーシーとともに旅立つシレナをラウルは付き添おうとせず,ニューヨークに向かってしまうのでした。険悪な関係から離婚の調停を始めようとした矢先のことでした。あれほど娘を大切にするラウル。離婚すればルーシーを取り上げられてしまうのではないかという恐れもあり,二人の関係の悪化を病気の父には言い出せないシレナ。そんなシレナを喜ばせるために実はラウルはある計画を練っていたのでした。簡単に挙げてしまった結婚式をやり直そうとしていたのです。結局ブレスレット紛失の謎も解け,疑いが晴れたシレナを苦しめてしまったと真剣にラウルは後悔し,これからも片時も離れたくないという思いを強くしたのでした。
 秘書として有能で上司であるラウルの世話をすることに喜びを感じているシレナの,苦しくても愛にあふれた行動にラウルも速く気付いてくれ,と叫びたくなる秀作です。


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パリ,背徳の一夜 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1165
パリ,背徳の一夜 Seduced into the Greek's World 2015」
ダニー・コリンズ 吉村エナ





 ダニー・コリンズの作品はまだ未訳のものが多いですが(本作で4作目でしょうか),これまで訳出されたものは他の作家とのシリーズものが多かったため,独自の作品の訳出は,本作が初めてのようです。しかも本作に登場するヒーロー,デミトリ・マクリコスタの兄姉たちを主人公とした姉妹編もすでに出版されているようで,今後それらの訳出が楽しみです。
さて,本作のヒロインはITスペシャリスト,内容からするとどうもシステムエンジニアっぽい気がしますが・・・,シングルマザーとして5歳の娘ゾーイを育てているナタリー・アダムズというカナダ人女性です。ナタリーの元夫でゾーイの父親ヒースは,結構意気地なしの男性で,結婚生活に向かない無責任男のようですが,その母のクローデットは母性愛にあふれた優しい女性で,いつもゾーイの面倒を見てくれています。自身の両親と弟を亡くしているナタリーにとって実母と同じぐらい頼りになる義母です。さて,カナダのモントリオールにある「マクリコスタ・エリート」から派遣されて,今回はヨーロッパのマクリコスタ・ホテルのIT関連のチェックや講演をして回っているナタリーが,パリで出会ったのが,マクリコスタ兄弟の末の息子デミトリでした。ところで,このパリのホテルのオーナーはデミトリの姉アダラの夫ギデオンですが,デミトリはギデオンとナタリーがフロアで親しげに話をしているのを見て,ナタリーがギデオンを誘惑していると勘違いしてしまいます。どうしてそんな思いに至ったのかを本作で詳しく知ることはできませんが,以前そんなことがあったようだということは仄めかされています。それはきっと別の作品で書かれているのでしょう。([More than a Convenient Marriage? 2013]に登場?)その誤解は姉アダラの説明で解けるのですが,失礼な態度を取ってしまったデミトリとギデオンの間にはなにかわだかまりが残ってしまいます。さて,この件をきっかけにデミトリは「短いブロンドの髪」のナタリーに久しぶりに女性への興味が強く沸くのを感じ声を掛けるのでした。ここでナタリーも小麦色の肌のギリシア生まれのデミトリに元夫以外の男性としては初めての強烈な魅力を感じ,故郷を離れている非日常の中にいるという想いも手伝って,あっという間に二人の関係は深まっていくのです。デミトリほどの男ならきっとモデル美女たちが引きも切らず寄ってくるだろうということはわかっていても,そしてそれらの美女たちに子持ちのバツイチの自分が勝てるはずのないこともわかっていても,デミトリからの誘いに乗ってしまう自分にあきれながらも,その想いを止めることができないのでした。互いの生い立ちや,過去の傷を明かし合った二人は離れがたくなっていきます。そして姉アダラの誕生パーティにナタリーを伴うことにしたデミトリ。ナタリーもデミトリと兄弟家族のあいだにあるわだかまりを聞いていたことから,知らない人たちばかりのこのパーティに参加することにしぶしぶながら同意します。このパーティにはデミトリの異父兄のニックとその妻ローワン([No Longer Forbidden? 2013]に登場?),そして兄のテオとその妻ジャヤ([An Heir to Bind Them 2014]に登場?)も出席しています。ナタリーの励ましもありなんとか家族との和解に成功したデミトリは,テオやニックの励ましで,ナタリーとの仲を真剣に考えはじめます。しかし,子持ちバツイチのナタリーにとって,娘ゾーイがなにより最優先。デミトリとの中もゾーイのことを中心に考えなくてはなりません。さて,子供への関心などなさそうなデミトリがゾーイにどう接していくのでしょうか。終盤でゾーイが発する台詞がとても気が利いています。この素敵な一言が読む者をきっと笑顔にしてくれます。


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愛人以下の花嫁 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1102
愛人以下の花嫁 The Sheikh's Sinful Seduction
7つの愛の罪 2) 2015」
ダニー・コリンズ 水月 遙





シリーズ第1作「満たされない大富豪(SHALOCKMEMO1031)」は秘書ボスものでしたが,第2作の本作はシークものです。クアマラ国王ザフィルの妹アミネはクアマラの隣国の国王に嫁いで深い夫婦愛に恵まれていますが,ザフィルの前妻サディラとは政略結婚で1子タリクを設けて癌で亡くなってしまいます。アミルの娘たちバシラ,ユマナの家庭教師として雇われたのはファーン・ダヴェンポート。高給をもらいながら,砂漠の国で英語を教えていますが,ザフィル,アミラ兄妹はイギリス人の母の元で幼少を過ごしており,姉妹の子どもたちも英語はペラペラです。でもイギリスの文化を忘れさせたくないと考えるアミラ夫妻はあえてファーンを雇ったのでした。雇い主と家庭教師という関係というより友人同士という関係にあったのです。ザフィル父子とアミルたち家族は砂漠のオアシスで休暇を過ごしており,そこにファーンも同動します。ザフィルの本名はシーク・イブン・アーマド・アルラキン・イラムというクアマラの名前と,いずれイギリスのソマトン公爵位も継ぐ立場にありました。一方のファーンは一介の家庭教師で,母から男性との付き合いに対する過度の罪悪感を植えつけられて育ち,男性に惹かれるのは「悪いこと」と思わずにはいられない古風な考え方の持ち主でした。しかし,ザフィルの圧倒的な男性的魅力には完全に惹かれてしまい,自分にそばかすがあることや家庭教師らしい見栄えのしない服装でいることでザフィルには相手にしてもらえないと思い込んでいます。ところが,あるとき,遊牧民の少女が盲腸炎にかかった様子を見つけたファーンがザフィルにすぐに病院に運ぶべきだと本気で訴えたことからザフィルのファーンに対する見方がすっかり変わってしまいます。なんと勇敢な女性だろう。これまで自分の命に逆らった女性などいなかったのに,内気のように見えていたファーンが本気で自分の考えを主張するのを見て,ファーンの魅力に改めて感じ入ってしまいます。そして二人の関係は急速に進展するのでした。アミルの娘たちばかりでなくザフィルの息子タリクもまたファーンには親しみと尊敬の念を抱いている様子。関係を持った二人のその後は・・・。そして帰国後,ファーンの妊娠が明らかになります。半年後,アミルからファーンの様子が変だと聞いたザフィルはファーンを探しだし,そして妊娠を知るのでした。一応誰の子かとは聞きますがファーンの口からあなた以外はあり得ないでしょうと言われて,すっかりその言葉を信じ,結婚を申し込むザフィル。自分を愛しているからではなく子供が欲しいからそんなことを言うのだとファーンはがっかりし,すぐにプロポーズを承諾しないのですが,ザフィルのイギリスの母と祖父の住む屋敷で,ファーンはなぜザフィルが愛していると言ってくれないのかを実感することになります。伝統的なアラブの国で外国人女性を妻とすることができなかったザフィルの父親。婚外子として生まれ,国王となるために自分も政略結婚で国の有力貴族の娘との縁談が国を維持するのには必要だという状況にあったからです。しかし,ファーンとの結婚を選択したザフィルの気持ちに応えよう,そしてなによりザフィルと離れて暮らすことに耐えられなくなっている自分に「イエス」と言わざるを得なくなっているファーンでした。幸い,縁談問題はうまく解決し,タリクから「お母さん」と呼んでいいかと聞かれたファーンは幸せに浸るのでした。
親の世代の複雑な国際結婚の問題点を乗り越えられるか,という点にストーリーの焦点をあてた作品です。それにしても,ザフィルへの愛,無条件の信頼を素直に表現するファーンがとても愛らしく描かれた作品です。


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愛の棘 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1008
愛の棘 Proof of Their Sin
"One Night with Consequences 1") 2013」
ダニー・コリンズ 深山 咲





"One Night with Consequences"(結果を伴う一夜とでもなるでしょうか)シリーズの第1巻の翻訳です。このシリーズではすでにスザンナ・カーの「愛人島(SHALOCKMEMO788)」,キム・ローレンスの「億万長者の残酷な嘘(SHALOCKMEMO809)」と読了していますが,ヒロインたちの波瀾万丈な生き方が示される結構エグいシリーズとなっています。本作も,ヒロイン,ローレンの禁断の恋が鮮烈に描かれる作品となっています。そして期待の新人ダニー・コリンズの翻訳第2冊目になります。
ローレン・ブラッドリーは,夫を亡くし夫の両親とも余りうまくいっていません。そして最悪なことに夫以外の人の子供を妊娠しているのです。夫の親友パオロが子供の父親でした。パオロは悲嘆に暮れるローレンが夫をなくしたせいでそうなっているのだと思い込んでいます。そして,亡くなった後も夫を愛し続けているんだねと・・・。それはパオロのみならず周囲の人々共通の思いでした。しかし本当は,これからどうしていったらいいか,子供のことをパオロに打ち明けるべきか,そしてこれからのパオロとの関係を気に病んでいたのです。パオロはローレンに慰めの言葉だけではなく本気でこれから面倒を見ていこうとしています。そして夫亡き後自分が愛せるのはお腹の中の子供だけになってしまうという気持ちで,子供を産む決意をしていたのでした。ところが,実は,ローレンは夫を愛してはいなかったのです。また夫もうわべは別にして,ローレンを愛してはいなかったのです。夫には愛人が複数いました。そして夫は親友のパオロと競うためだけにローレンと結婚したのでした。パオロには婚約者のイザベラがいましたが,互いに愛し愛される関係ではなく,謂わば裕福な家庭同士の便宜的な関係でした。そしてパオロもまた,親友のライアン・ブラッドリーにローレンを奪われてしまったという苦い思い出と,今でも密かにローレンを思っているという罪の意識をもっていたのです。
これまで親に言われたとおり,結婚してからは夫の言うとおりに生きてきたローレンが初めて自分というものを出すことが出来た相手は,パオロだけでした。そしてパオロを愛していることに気づいています。二人が想い合いながら結婚に至らなかったのは,状況がなせることではありましたし,二人とも若い,初めての恋だったからでした。そしてパオロのプロポーズは子供が出来たからというだけのものだとローレンは思い込んでいます。昔からの互いの気持ちを打ち明けられないまま,二人は別れてしまいます。「彼女への愛には欲望と更に強い思いが染み込んでいたからだ。血のつながりよりも深い男女の絆。」家族の期待どおりにイザベラとの結婚を選ぶべきか,自分の気持ちに従いローレンとの生活に向かうべきか悩むパオロの独白です。いつもロマンス小説ではこの互いの気持ちのすれ違いが利用されています。そして最後には愛が勝つのですが,気持ちに折り合いを付けて勇気を出すことが難しいというのも人間らしいというか,それだけに愛は貴重で,可能性と魔力を秘めているのでしょう。


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仮面の億万長者 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO918
仮面の億万長者 The Ultimate Seduction
(背徳の富豪倶楽部 2) 2014」
ダニー・コリンズ 朝戸まり





富豪倶楽部「Qヴィルトゥス」を舞台にするシリーズの第2弾です。登場人物には全く関連性はありませんので,シリーズの舞台のみが共通しているだけのようです。ただ,謎の人物「ゼウス」が全く正体不明ですので,そのうち,ゼウスを巡る謎解きがあるのかもしれません。第1作はマヤ・ブレイク,第3作はヴィクトリア・パーカーが作者ですが,本作はカナダの作家ダニー・コリンズ作です。原作のシリーズは「21st Century Gentleman's Club」となっていますが,本作では女性会員ティファニー・デイヴィスが参加していますので,必ずしも紳士クラブというわけではないようです。異なる作家によるリレーシリーズですので,あるいは本作のダニー・コリンズが拡大解釈したのかもしれません。
さて,本作のヒロインは次期アメリカ大統領候補を父に持ち,夫の遺産を引き継いで大企業のCEOを勤めるティファニー(ティフ)・デイヴィスです。夫が運転する車が大事故を起こして夫は死亡,自らも大火傷を負って皮膚移植しやっと普通の生活を送れるところまで回復したものの,心に傷を負い,人前には極力出ないようにしています。ヒーローは不幸な歴史を持ち,やっと独裁者の手から民主国家への歩みを始めたばかりのブレグノヴィア国の大統領リザルド・ヴルバンチッチです。かつてのルーマニアを彷彿とさせるこの東ヨーロッパの国の大統領も国の圧政を逃れるため幼少の頃ロシアに渡り,里親の元で育てられ,改革のさなかに国に戻り人々応援を受けて大統領になりましたが,恋人のルイーズを失うという心の傷を抱え,結婚をあきらめています。その二人がQvirtusの会合で出会い,恋に落ちます。しかしそれぞれの背負っている政治的背景から将来を約束することは出来ません。週末にクラブをでてヨットで休暇を過ごしているところをパパラッチに写真に撮られ,タブロイド紙にスクープされてしまいます。善後策を話し合うためイタリアに飛んだ二人ですが,折良くティファニーの両親がスイス滞在中で,ティファニーはリザルドとともに両親に会いに行きます。政治的に利用されてしまうティファニー,前回は悲劇的事故の逢ったということで世間の同情を集め父親の指示が得られたのですが,今回のスキャンダルの相手はまだ国連の承認を得る前の国の大統領ということで,マイナスイメージが強いと判断されるのでした。しかもリザルドの心の中にはルイーザがまだ存在し,自分は愛されていないと思っているティファニーはリザルドの元を離れてしまいます。そんな時,ブレグノヴィア国で鉱山の火災事故があり大統領自らが被害者の捜索に当たっているという報道がなされます。ティファニーは赤十字や夫の親友の助けを得て事故現場に飛び,救出作戦の陣頭に立つのでした。自らも重度の火傷の経験を持つティファニーが被害者の救出やその家族たちの世話に全力を尽くします。最後の一人の救出が済んだのち,リザルドはティファニーをつれて首都に戻ります。その時,宮殿の外で民衆が口々にティファニーの行動に感謝する喝采を送っているのを見て,ティファニーは初めて自分が必要とされていることを知ります。
様々な障害を乗り越え,過去の束縛からのがれて未来を手中にしていく感動的な作品です。カナダのジャーナリストだったダニー・コリンズは2012年にデビュー作「Hustled to the Altar」(未訳)を出してから「チャッツフィールド・シリーズ」を含め多くの作品を発表しており,特に2014年は多くの作品を発表し,2015年も引き続き多くの作品の発表が予定されているようです。


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