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過去からの密命 [沖田正午]

SHALOCKMEMO1438
過去からの密命 (北町影同心 2) 2016」
沖田正午





 ヒロイン:巽 音乃(歳)/北町影同心/
 ヒーロー:巽 丈一郎(歳)/北町影同心,元北町同心,音乃の義父/
 シリーズ第2作を書籍版で読みました。KINDLE化を待っているとなかなか読めないと思い,思い切って書籍版で第4巻まで購入しました。いよいよ,北町奉行から正式に影同心として密命を受け,義父丈一郎はかつてもっていた十手(ジッテ)を受けます。基本的に男性優位社会ですから,実質的に音乃がヒロインとしても,丈一郎が影同心であり,パートナーでもあり,その指導の下に音乃が動くという形は取るのですが,描かれる場面では音乃が単独で女性としての魅力充分に活躍することもあり,いわばお庭番的な活躍をすることもあります。とにかく世の悪を暴き,悪人を亡き夫真一郎のもとに,つまり閻魔様のところに送るというかっこいい段取りができあがっています。
 本編では12年前に起こった事件,十川屋の押し込み強盗と冤罪を受けて獄死した錠前屋の敵討ち,そしてかつて音乃が10歳の時に助け,その後生活苦から巾着切りに身を落とす遺児である兄妹の敵討ちをするという設定になっています。幕閣の閣僚にまで及ぶ真犯人捜しはかなり長い期間がかかり,かつての岡っ引き源三や北町与力の助けを受けながら事件の真相に迫っていきます。とにかく表には出られない影同心ですから丈一郎もなにかとやりずらい面があるのですが,与力の妻が連絡係を務めたり,丈一郎の妻で音乃の義母である律が二人を誇りに思い,何かと気遣うなど,理想的な嫁舅姑の関係と,亡き夫に対する絶対的な忠誠心をもつ音乃の心情が,かなりロマンス小説的な匂いを濃厚に感じさせる歴史小説です。前作からの敵役である勘定奉行の馬鹿息子が時折影を見せたり,町奉行と火付盗賊改方の青い火花などが時代を感じさせます。今で言えばおそらく警視庁の中でも捜査課と公安課の確執のようなものでしょうか。鬼の平蔵で名を売った火盗の中にも,中岡のような腐った連中もいて,しかもそれを利用しようとする井山のような目付方,名前は出ませんが背後にいて,それらと関係する若年寄の存在など,今後のストーリー展開にも関係してくるであろう人々の広がりが予感的に登場してきます。これまで読んだことのない新たな時代小説に感心することしきりです。


タグ:邦人作家
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閻魔の女房 [沖田正午]

SHALOCKMEMO1434
閻魔の女房(北町影同心 1) 2015」
沖田正午





 ヒロイン:巽 音乃(歳)/真之介家内/
 ヒーロー:巽 真之介(歳)/北町奉行所定町廻り同心/
 久方ぶりに日本の時代物を手にしました。本作のヒロイン,音乃は三姉妹の末娘ですが,姉二人とは全く異なり小さい頃から武芸の稽古に明け暮れるほどの御転婆になり,父親もその様子から折に触れて剣術だけでなく柔術や兵法書である孫子の書物など男として育てたのでした。二十歳を超え,女性らしさも身に付けた音乃はりりしさと美貌と知性の三方を兼ね備えた女性として,「江戸広しといえど,これほどの女はそうはおるまい」と時の北町奉行榊原主計頭(かずえのかみ)忠之に言わしめたスーパーヒロインになっていました。嫁ぐ前は勘定奉行の子息との縁談もあったのですが,その男が数年前に通りで町人の幼い兄妹を数人で取り囲み虐めていたところを音乃が割って入って助けた事件の加害者の主犯格であったことが後からわかります。音乃が恋い焦がれたのは強さと優しさを兼ね備え本物のスーパーヒーロー巽真之介でした。互いに惹かれ合っていることを確認する前に,巽家と奥田家が顔を合わせ,すっかり二人の祝言の段取りをしてしまうという,二人の結びつきは運命的なものだったのです。時代劇には珍しい(と思いますが)この展開にすっかり引き込まれてしまいました。音乃の父奥田義兵衛は大目付兼任道中奉行配下の組頭といういわゆる関東廻りの役人でしょっちゅう出張している生活。そして真之介の父巽丈一郎は北町奉行所の同心を引退したばかりと,謂わば武家同士の結びつきであり,家格は異なっても互いに仕事の内容は十分承知している間柄なので,音乃の生い立ちや気性を巽家ではすぐに気に入り,奥田家でも特異な才能を身に付けた娘の嫁ぎ先としては真之介が最もふさわしいと考えたのでした。いくつかの事件の解決に音乃は真之介の求めに応じて知恵を出し,また自ら潜入捜査をし,と大活躍をするのですが,大盗賊をとらえに向かった真之介が命を落とすという不幸に見舞われながら,遂に音乃は真之介との共同捜査をしていた事件を解決するのです。そして亡き夫の意志を継ぐべく北町奉行の求めに応じて女の身でありながら影同心として働くことになる,というところまでが本作のストーリーです。五代将軍の頃ですから元禄文化華やかなりしころを時代背景として,自立した女性をヒロインとするという発想はとても斬新で,シリーズ第1巻らしく説明的個所が多いのですが,正義を愛し町の平和を守るため活躍する奉行所関係の人たちと欲にまみれて非道を犯す武士や町人たちの生活が生き生きと活写され,すがすがしい作品に仕上がっています。KINDLE版ではまだ2月に本作が出たばかりで他はまだ他の作品はKINDLE化されていないのが残念ですが,期待できるシリーズではないかと思います。現時点では第4作まで書籍版が出ており,第5作目が4月に出るようです。
 第2作「過去からの密命」,第3作「挑まれた戦い」,第4作「目眩み万両」,第5作「もたれ攻め」


タグ:邦人作家
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