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愛を宿した個人秘書 [ダニー・コリンズ]

SHALOCKMEMO1467
愛を宿した個人秘書 The Consequence He Must Claim 2016」
ダニー・コリンズ 遠藤康子





 原題は「彼が請求すべき結果」
 ヒロイン:ソーチャ・ケリー(?歳)/個人秘書/ブロンド,華奢な体型,清らかな顔立ち,美しく丸みをおびたヒップ/
 ヒーロー:セサル・モンテロ(?歳)/世界的科学技術企業の経営者,スペイン貴族カスティリョン公爵の息子,子爵/青い目,青い瞳(アクアブルーの瞳),黒い眉/
 前作「イタリア富豪の孤独な妻(SHALOCKMEMO1420)」の関連作です。3年間も個人秘書をしてきた雇い主と目眩く一夜を過ごし,婚約を断るつもりで婚約者に会いにいった雇い主のセサルは事故に遭い全身に大火傷を負います。それと同時に事故前の1週間の記憶も失ってしまっていたのです。まぁいろんな状況の変化を説明するのに記憶喪失はとても都合のいい設定ではありますが,1週間分のみの記憶喪失はあり得ないとは言えないまでもかなり特殊な例なのではないでしょうか。そこがまずは引っかかってしまって,なかなか読了までは遠い道のりでしたが,ソーチャがセサルを思う真摯な愛情と,二人の間に結晶が宿っていること,そして育ちが良く美貌に溢れてはいるけれども,意地悪で自分の都合しか考えない愛情の薄いお嬢さんでセサルの婚約者だったディエガの存在などロマンス小説に欠かせない人物設定が揃っている本格的ロマンスであることは,本作の大きな魅力となっています。「あの夜の出来事は必然だった」とソーチャは回想します。個人秘書として一線を画しながらも3年間セサルを愛し続けてきたソーチャ。「でもその結果,この先セサルと結ばれて一生幸せに暮らせるのだと思い込んでしまった」一方で「自分がセサルの結婚相手にふさわしくないことは百も承知していた。」結局自分は「取るに足りない小さな存在なのだ。」一夜を過ごしてセサルの愛を確信したと思っていたソーチャですが,病院に見舞いに行ったソーチャをセサルに会わせないためにディエガは「セサルはとても後悔していたわ。婚約を今にも発表しようというときに,どうしてあんな行為に走ってしまったのかって。それに,あなたを欲望の対象にしてしまったことも,後悔していたと思うわ。それまではとても尊敬していたのにね」とディエガに言われてしまい,当時のセサルの気持ちはソーチャとディエガが入れ替わった立場だったことを確信してはいても,セサルの家族やディエガの家族から見れば,ディエガの言い分が正しいことを否定するだけの確証は,セサルが記憶を失ってしまっている現状では何処にもなかったのです。モンテロ家とフエンテス家の婚姻関係が大きなビジネスのチャンスであることから,セサルが入院している間に着々とディエガとセサルの婚約の話しは進んでしまっていたのでした。未婚の母として地域社会の中で蔑まれてきた母が不憫で,「子供が出来たと打ち明ければ,母は辛い香子を思いだし,再び苦しむだろう。それに子供の父親がセサルだと証明できたところでどうなるのだろう?子供が出来れば結婚してもらえるとでも思っていたの」だろうか。名家としては単なる秘書の子供ではなく家柄にふさわしい名家の令嬢が後継者である息子の相手としてふさわしいと考えるだろうし,最悪産まれてくる子供を取り上げられてしまうかも知れないと思い至ったソーチャは,それ以上ディエガに言い返すことはできないまま,会社を辞めて実家に帰るのでした。それから数ヶ月。無事出産を終えたソーチャを再びあり得なそうな出来事が襲います。当日複数の出産が行われ,救急患者も搬送されてきたためにソーチャの子供と同時間帯に出産した別の女性オクタヴィア・フェランテの子供が取り違えられてしまったのでした。我が子を連れてこられた二人の産婦が互いに我が子ではないと気づいたのです。そしてそのことは検査の結果,女性たちの言い分を確認するために,病院はソーチャの赤ん坊の父親であるセサルに問い合わせしてしまいます。セサルに出産を知らせるつもりのなかったソーチャの知らないところでそんなことが行われていたのでした。病院側はもちろん責任問題に発展することを恐れ,確証を持って赤ん坊を正しい両親の元に返すことが求められており,血液型やDNA検査が必要であることはもっともなことではありますが,産後すぐのソーチャは病院側がそんな対応をとることは思ってもみませんでした。ソーチャはセサルのセカンドネームをとって「エンリケ」と赤ん坊を呼び,アイルランド風に「リッキー」という相性も考えていました。そして父親欄にセサルの名前を記入していたために病院はセサルに連絡を取ったのでした。
 一方怪我が落ち着き結婚式を間近に母親が式の準備に忙しくしているところで,ソーチャが事故後自分の元を勝手に退職してしまったことに腹を立てていました。「ソーチャは秘書として働いていた間,ビジネスライクな姿勢を崩さなかったので,二人の関係が上司と部下の枠を出ることはなかった。」というのがセサルの記憶だったのです。そんな時セサルの携帯電話にロンドンの病院から連絡が入り,赤ん坊取り違えの確証を得たいので血液のサンプルを送ってくれと言われ,「記憶のない1週間の内に子供が出来てしまったのだろうか?」と思い至ります。記憶が戻ったわけではなく類推したセサルはロンドンに飛ぶのでした。セサルと出会った「ソーチャはずっと前から,セサルと愛しあう瞬間を思い描いてきた。それなのに,その記憶をセサルと共有することができないなんて。」という状況に,読者はその哀れさにぐっと引き込まれていきます。第2章のこのロンドンの病院での事務的な看護師の対応やセサルとの再会で動揺するソーチャの気持ちの揺れの対比がすばらしく効いています。セサル自身は愛情の薄い両親の元で育ったために愛する男女の間でどんな会話が必要なのかという見本がなく育ちました。ディエガとの結婚もそんな家同士の結びつきに過ぎないのは分かっていましたが,結婚とはそうしたものだという思いしかなかったのです。赤ん坊に接するソーチャの態度を見て「セサルは赤ん坊を抱いたことがなかった。それにいつか自分に子供が出来ても,育児は妻や使用人がするものだと思っていた。そう,子供というのは誰から面倒を見てくれる存在でしかない」と思っていたセサルはソーチャがエンリケに授乳する様子を見てふと赤ん坊と母親という存在に新しい感情が芽生えつつあることに気づくのでした。かつて有能な秘書のソーチャが一度だけ取り乱したことがありました。アイルランドに住む7歳の姪が数時間行方不明になったと連絡が来たときです。その時のソーチャの愛情の深さにセサルは感動したものでした。セサルがなぜ出産を知らせてくれなかったかと問い詰めると,病院に見舞いに行ってもセサル側の家族もディエガも会わせてくれなかったと訴えられます。「あの日,私たちはその話をしたのよ。あなたは結婚をためらっているとわたしに打ち明けた。だから婚約を破棄することにしたのかと思ったの」とソーチャに打ち明けられて愕然とするセサル。「結婚式は取りやめた」と話すセサルは,ソーチャに「わたしはそんなことをして欲しいなんて言ってないわ。あなたに何かを望んでいるわけではないから心配しないで」とはっきり言い返されてしまいます。「息子のために何かしたいのなら,それはあなた次第よ。でもわたしはシングルマザーとしてエンリケを育てていくわ」と毅然として言うソーチャにセサルはある決意をするのでした。二人の結婚に至るにはなお紆余曲折があるのですが,セサルの事故と1週間分の記憶喪失を埋めるように過去と現在が何度も往復して物語られるのが,充実感をもたらします。そしてセサルがソーチャとエンリケに対して愛に溢れた家庭を築いていけるのだろうかというのが終末までストーリーを引っ張っていくのです。そういう意味で本作はセサルの成長譚というべき作品かも知れません。苦労人ソーチャが世の酸いも甘いも知り,そして秘書と雇い主という関係から夫婦の関係,母親,父親としてエンリケにどう対応していったらよいまで含めて,精神的にセサルよりずっと大人でお姉さん的な存在であり,男性にとってある意味頼りがいのある女性として描かれているのが,女性読者からしたらあまり気持ちのいいものではなくなるのかも知れません。そしてさらにディエガの罠がソーチャに仕掛けられたとき,セサルはソーチャに本物の愛情を感じているのを実感していきます。内容の濃い秀作です。


タグ:ロマンス
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脅迫された花嫁 [ジャクリーン・バード]

SHALOCKMEMO1466
脅迫された花嫁 A Most Passionate Revenge
( Passion 8 ) 2000」
ジャクリーン・バード 漆原 麗




HQB-809
17.06/¥670/208p

HR-200
(地中海の恋人)
08.11/¥600/156p
R-1801
02.09/¥672/156p


 原題は「ある最も情熱的な復讐」
 ヒロイン:ロザリン(ローズ)・メイ(29歳)/医師/長身,長い脚,金褐色の髪,鮮やかな緑色の瞳/
 ヒーロー:ハビエル・バルデスピノ(39歳)/スペイン人銀行頭取/身長193センチ,たくましい体,ハンサムな顔立ち,漆黒の髪,焦げ茶色で興奮すると金色に輝く瞳/
 現代のムーア人の略奪婚とでも言えそうなストーリーです。夫ハビエルのツンデレぶりが炸裂することも当世風ですが,かといって激しいだけのロマンスストーリーかというとそんなことはなく,「お医者さんと看護婦さんごっこをしたい?」と最後の方の一句にあるように,コメディタッチの部分が時々顔を出し,それがちょっとおしゃれで可愛らしい雰囲気を一つの底流として忍ばせる結果になり,本作をあたたかい雰囲気に仕上げています。スペイン人の頑固で誇り高い,しかも伝統を大切にする国民性を体現するバルデスピノ一族。「193センチのたくましい体にハンサムな顔立ちに漆黒の髪。焦げ茶色の瞳」のハビエルは10年前,大学入学の資金稼ぎをしていたアルバイトでモデルをしていたロザリン(ローズ)と出会い,互いに目眩く一夜を過ごします。しかし,二人の間を裂いたのはハビエルの親友セバスチャンでした。セバスチャンはハビエルに憧れる妹カティアの気持ちをなんとか達成させたいと,ハビエルとロザリンが結ばれないように,二人の間に互いに疑心を抱かせるように嘘を重ねたのでした。結果,不幸な事故で大火傷を負ったハビエルが入院している間にカティアに看護をさせ,数ヶ月後に二人を夫婦にしてしまいます。一方傷心のロザリンはイギリスに帰って医師になるための大学生活を送りますが,妊娠に気付き,ハビエルに連絡を取ろうとしますが,間にセバスチャンが入り込み,ハビエルが婚約し,結婚間近だと,そしてハビエルが愛しているのはカティアだと嘘をつくのでした。この時電話に出たのがセバスチャンであったことも偶然であり,その偶然を生かしたセバスチャンの陰謀勝ちだったわけですが,電話の内容を聞いたロザリンはそのショックで流産してしまい,以来ハビエルには一切連絡を取ろうとしませんでした。そして見事医者になったロザリンは,医者だった両親と同じように世界中を飛び回り海外医療援助機関の医者として,3年間殆ど休暇も取らずに緊急の治療を必要としている人々に手を差し伸べてきたのでした。そんなロザリンの様子を見ていた上司が3カ月間の休暇をとるよう彼女に命じます。それを待ちかねていたのは,両親亡き後彼女の世話をしてくれた叔父夫婦の娘で従妹のアンでした。アンは恋人ジェイミーとの結婚を許してもらうためにジェイミーの一家の長であり,従兄の男性を叔父夫婦と一緒に迎えて欲しいと頼むのです。その従兄こそ,あのハビエルでした。当初10年前の19歳のころとはまったく落ち着き方も異なる医師としてのロザリンに気づかないでいる様子のハビエルにホッとしたロザリンですが,どうしても自分を捨てて流産の原因となったハビエルに冷たい態度をとってしまうのでした。叔父夫婦やアンになんとかハビエルに誠実に対応して欲しいと頼み込まれ,もう29歳になった自分がいつまでも19歳の時を引きずってはいけないと思い直し,普通の会話を心がけますが・・・。その後,ハビエルやジェイミーの祖父ドン・パブロ・オルテガ・バルデスピノが79歳で心臓が弱く病気がちで旅行ができず,婚約の挨拶にスペインに行くときに独身のアンがジェイミーと行動を共にすることはスペインではゆるされないので,お目付役としてロザリンについて行って欲しいと頼まれたとき,たとえ数日でもハビエルと行動を共にするのは気持ち的に自信がないと考えたロザリンはその要請を断ろうとするのですが,一家の財政的な部分はハビエルがすべて把握しており,自分たちの結婚のためにはハビエルの言うことには逆らえないと必死で頼み込むアンの気持ちに負けて,ロザリンは仕方なく一行について行くことになるのでした。そして,10年前のことを逆に恨んでいるハビエルにより強引にプロポーズされ,祖父がハビエルとロザリンの結婚によって少しでも息を長らえることができると説得されると医師としてその申し出を断ることができなくなり・・・。と急速にストーリーが進展していくのですが,ハビエルの亡妻カティアの存在,そして時々現れるイザベルというハビエルに甘えてくる女性の存在などに嫉妬を感じる自分の気持ちにロザリンは未だにハビエルを愛し続けていることに気づいていくのです。時に冷たく自分の思いどおりに人を動かそうとするハビエルと,時に限りなく優しくなるハビエル,そして激しく欲望をぶつけてくるハビエルと時々に違った姿を見せるハビエルに戸惑うロザリンですが,どんなハビエルにも自分は愛を感じてしまうことにロザリンは幸せを感じていくのでした。そして,ついに祖父のドン・パブロを看取ることになってしまうロザリン。その葬儀のあとのパーティで,ロザリンとハビエルとセバスチャンの秘密が明かされていくのです。
 絶世の美女でありながらそのことに気づいていないロザリンの天然さと愛情深さ,ツンデレながら絶対的なカリスマ性を持ちながら後悔を背負って10年を過ごしてきたハビエルの心の傷を中心テーマとして描き上げたジャクリーン・バードらしいイチオシ作品です。


タグ:ロマンス
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シンデレラの最後の恋 [スカーレット・ウィルソン]

SHALOCKMEMO1465
シンデレラの最後の恋 Holiday with the Millionaire
(愛しの億万長者 1) 2016」
スカーレット・ウィルソン 八坂よしみ





 原題は「億万長者と休日を」
 ヒロイン:ララ・キャラウェイ(26歳)/ナニー/甘い物好き,青い瞳,女らしい曲線,長い脚,ブロンドの巻毛,シェフィールドの出身,かわいらしい,誇り高いが自分に自信がない/
 ヒーロー:ルーベン・タイラー(?歳)/スポーツ・エージェント/アイルランド訛りの英語,筋肉質,豊かで黒っぽい髪,暗褐色の瞳,端整な顔立ち,引き締まった腹部,イートン校出身,両親の不仲がトラウマ/
 まさかのダブルブッキング?雇い主家族がバカンスで留守にする間,コナー夫妻の豪邸の管理をする名目で住んでいていいと言われた息子トリスタンのナニーのララ・キャラウェイですが,そこに見知らぬイケメンがやって来ます。ルーベン・タイラー。スポーツエージェントとして世界を飛び回る富豪です。どうやら雇い主夫婦が互いに了承を得ないままどちらにもバカンス中の豪邸に住む許可を出してしまったようです。ララは恋人ジョシュに裏切られ傷心を抱えたまま友人だった夫人アディソンに誘われてナニーを務めることになったのですが,今は住む家を自分を裏切った元恋人とパートナーに乗っ取られてしまい帰る場所もありません。強盗が忍び込んだと思い込んだララは今のソファでくつろぐルーベン・タイラーを後ろから殴り,すぐに警察を呼びます。互いの誤解が解けたのはしばらく経ってからでした。かくも天然なララにルーベンは恋をしてしまいます。しかも,恋人が他の女性と一緒にいるところを見て動転して家を飛びだしてきたばかりのララは満足に着る物さえもってくる暇がありませんでした。夫人のものを借りて着ているに過ぎません。しかもしばらく同居を余儀なくされた相手の男性タイラーはすこぶる付きのイケメン。失恋の痛手から立ち直る暇もなく,すぐに別の男性に気を許してはいけないと,自分に言い聞かせるララでした。ちょっとドタバタ・ラブロマンス的に始まった本作ですが。やがて,ララが昔から夢見ていた豪華地中海クルーズにタイラーも同行することになり,二人のロマンスが次第にクルーズの最中に進展していくことになります。初めに予約していたのとは違う豪華なスイートルームをルーベンが押さえ,しかも着る物さえ,ルーベンがお金を出してくれるという夢のような展開に次第にララの気持ちもほぐれてきます。2週間後には再びナニーとして働き,もうルーベンとは出会うこともないだろうと,気持ちを許すことを拒みつつ,しかしルーベンの幼少期の不幸な生い立ちを聞くにつれ,同情と愛情を感じてしまうララ。そして周囲の人たちを振り向かせる女性としての魅力を振りまきながら,学歴のない自分に自信が持てずに,自分の美しさに気づいていないララに,ルーベンはすっかり心を奪われ,それでもララの将来への夢を捨てずに前向きに行こうとしていく姿に尊敬の念と,それを見守り助けてあげたいという気持ちを抱きながら,欲望にも苛まれていくルーベンの複雑な心境が素晴らしく描かれています。あたたかくちょっぴり愛らしい極上ロマンスです。


タグ:イマージュ
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天使を抱いたシンデレラ [キャット・シールド]

SHALOCKMEMO1464
天使を抱いたシンデレラ Secret Child, Royal Scandal
( Sherdana Royals 3 ) 2016」
キャット・シールド 結城みちる





 原題は「秘密の子供と王室の醜聞」
 ヒロイン:ノエル・デュポン(27歳?)/ウエディングドレス・デザイナー/つややかなダークブラウンの髪,小柄でスレンダー,薄茶色の目(虹彩は緑色をおびている)/
 ヒーロー:クリスティアン・アレッサンドロ(30歳)/シェルダーナ大公国の第三王子/金色の目/
 訳者結城みちるさんの初仕事。ここまでシェルダーナ大公国の後継者を巡る問題も第1作「プリンスの望まれぬ花嫁(SHALOCKMEMO1332)」「王家の花嫁の条件(SHALOCKMEMO1415)」と続き,いよいよ三つ子の最後クリスティアンの物語となるわけですが,長男ガブリエルの妻オリヴィア,次男ニックの妻ブルックいずれも苦労の末愛を育んでいきます。妹アリアナもいますが,これは続編が書かれるのでしょうか。また大公位を継ぐのは誰になるのでしょうか。そんな期待を持ちながらじっくりと本作を読みました。
 5年前に事故で右半身に負った火傷の跡が肩や首,頬に残っているクリスティアン。ニックとブルックの結婚式で,花嫁のそばに付き添っている小柄でスレンダーな女性,ノエル・デュポンは高名なウエディングドレス・デザイナーです。彼女は長男の嫁オリヴィアのドレスデザインにも関わっていたのですが,クリスティアンとノエルはかつて関係を持ったことがあるのでした。5年前。シェルダーナに生まれデザイナーになるためにパリに渡り,高名なデザイナーについて学び,それからたった2年で頭角を現してイタリアの王子のウエディングドレスのデザインを手がけ一躍有名になっていたのです。それからは,各界の有名人のドレスデザインを手がけ,今では世界中の女性がノエルのドレスを求めるようになっています。「ノエル・デュポン。アレッサンドロ大公家で最も気まぐれな王子の心をなだめることができた唯一の女性」と評されているノエルは大きな秘密を抱えています。「末っ子のクリスティアンは甘やかされて育ち,その愚行はタブロイド紙を度々賑わせている。」つまり三つ子の中で最もスキャンダラスな王子というわけです。5年前浅はかな行動のせいで事故に巻き込まれ体と心に傷を負い,30歳の今,国のために後継者を作らなければならないという立場に立たされているのです。アレッサンドロ大公家が大公位を維持し続けるには,三人の王子の中で誰かが男子をもうける必要があります。妻の条件はヨーロッパの貴族階級出身かシェルダーナ国籍の女性ちいうものです。クリスティアンの母はヨーロッパの貴族階級の中から長いお妃候補のリストを作っていると妹のアリアナに脅かされ,「自分の妻を探すのに誰の助けも要らないよ」と言い返しはしますが,二人の兄たちが次々と王位を放棄し愛する相手を選んでしまった今,自分に期待が一身に集まっていることも十分承知しています。さらに5年ぶりに出会ったノエルは,よそよそしい振る舞いでクリスティアンをいらだたせています。「わたしはあなたにとって都合のいい女だったのよ。付き合っていた2年間など何の意味もなかったかのように突然」捨てられたと非難され,クリスティアンは友情から始まった二人の関係を,そして信頼できるノエルを,率直さと穏やかな優しさを併せ持つノエルに癒やしと慰めを求めたくなるのでした。「きみが必要なんだ」と打ち明けるクリスティアンに「もう,昔のわたしとは違うのよ」とクリスティアンの前を去って行くノエル。ノエルの秘密とは,クリスティアンとの間の息子マークの存在でした。母親と同居して息子の世話を頼み,仕事に打ち込んできたこの数年,クリスティアンにはいずれ分かってしまうと怖れを抱きつつも,マークに父親の存在を問われたときはいないと答えるしかなかったのです。もう少し成長したらその存在をクリスティアンに告げようと思ってはいましたが,5年前に自分は捨てられたという思いが強く,なかなか機会も決心もないままに現在に至ってしまったのでした。深い金色の目は父親そっくり。顔立ちも父親そっくりです。一目でアレッサンドロ家の血を引いていることは明白な息子。クリスティアンに再会して,マーくその存在が知られるのではと落ち着きません。母親からも反抗期を迎えた孫息子に男親の存在が必要なのよと言われてしまいます。結婚式が行われた日の夜の8時35分突然玄関ドアをノックする音がし,クリスティアンが訪ねてきます。今息子と母は2階に上がったばかり,なんとか息子が見つかる前に追い出さなくては,と終末のデートを約束して追い払おうとした瞬間,マークが2階から降りてきてしまいます。「殿下,わたしの息子マークです」というと「きみの息子だって?僕たちの息子だろう」とすぐに見抜かれてしまったのです。金色の目とダークブラウンの髪というアレッサンドロ一族の特徴を備えたマークを見てクリスティアンはすぐに気づいたのでした。さらにクリスティアンを見返し「ぼくが追い払ってあげる」と母親をかばうマークの大公然とした行動にクリスティアンはすぐにマークの父親だと打ち明けたくなるのですが,必至にそれを止めようとするノエルの様子に,一時は引きます。マークが二階に引っ込んだ後,二人は話し合いを持たざるを得ませんでした。「ぼくはマークの父親として認められたい」「息子にわたしと同じ苦しみを味わって欲しくないわ」と二人の意見は食い違います。ノエルは5年前自分がクリスティアンに捨てられたことを指し,いずれ息子もわたし同様父親から捨てられるかも知れないという疑いを捨てることはできなかったのです。
 それからは,クリスティアンによるマークとノエルへの働きかけが激しくなります。しかしノエルは5年前と同じようにクリスティアンへの愛を忘れたわけではありません。「あの子はきみだけの子供じゃない。アレッサンドロ家の血を引く者だ。シェルダーナ大公家の血をね。」と,ノエルへのプロポーズをするクリスティアン。しかし,ノエルはこれは便宜的な結婚に過ぎないと思い込んでいます。クリスティアンとマーク,ノエルの三人はそれからなにかと一緒に行動するようになります。そしてニューヨークからの大きな仕事の依頼があり,ノエルはマークを連れてニューヨークに行こうとするのですが,マークがグズグズしている間に,クリスティアンがやって来て一緒に行くと言い出すのです。ノエルが仕事をしている日中はぼくがマークの面倒を見ようと・・・。マークもまた初めはクリスティアンに敵対心を持っていたのに何日も一緒に過ごす内にクリスティアンをプリンス・パパと呼び,幼いながらも王子である自分の父親という存在に折り合いを付けるようになっていたのです。クリスティアンからのプロポーズを断り続けているノエル。その気持ちを大きく変えたのは,あの5年前になぜクリスティアンが自分の前から去ってしまったのかと言うことの本当の理由を知ったときでした。当時クリスティアンの仲間たちが,ノエルに対して良からぬ関心を持ち,それを偶然聞いてしまったクリスティアンは,ノエルの才能を生かしてパリに行くことを勧めることによって難を逃れようとしていたのでした。ニューヨークで昔ノエルの評判を落とす記事を書いた女性記者がノエルの才能はクリスティアンの力があったからこそ認められたに過ぎないと言ってきたことに疑問を感じ,クリスティアンを問い詰めて分かったことでした。ついにノエルはクリスティアンのプロポーズを受け入れます。シリーズ最終作であればエピローグで大団円となるところですが,なにか尻切れトンボのような感が否めません。これはきっと続編が書かれる気配です。


タグ:ディザイア
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億万長者とかりそめの愛を [アニー・ウエスト]

SHALOCKMEMO1463
億万長者とかりそめの愛を Seducing His Enemy's Daughter 2015」
アニー・ウエスト 知花 凜





 原題は「敵の娘にそそのかされて」
 ヒロイン:エラ・サンダーソン(26歳)/訪問看護師/180センチに近い身長,すらりと伸びた脚,スリムだがくびれのある理想的な体型/
 ヒーロー:ドナート・サラザール(30代半ば)/企業買収の実業家/彫りの深い端正な顔,すっきりとした唇,長いまつげに縁取られた藍色の目,おおらかな笑い声/
 逃げた姉のフェリシティの身代わりとなったエラ。弟ロブも。亡くなった大伯母ビーがなんとも多大な影響を・・・。「選択の余地はない。おまえもよくわかっているだろう」という父の脅しにも近い言葉。それは「娘を自分の思いどおりにさせたいときの父の常套手段」でした。「わたしは変わった。フェリシティも,ロブも変わった。それなのに父は自分のこどもたちの変化にまったく気づいていない」,こんな父をもった三人きょうだい。しかも「父にとって,真ん中の子供はどうでもいい存在だ」とエラは「良心のかけらもない父親から逃げたい一心で,十代で家を飛びだし」ます。「相手はドナート・サラザールだぞ」と父の脅し文句はさらに続きます。「お前たちが結婚すれば,われわれの仕事上の繋がりは強固になる」「サラザールの援助がなければ,わたしの身は破滅する。それにエラ,わたしは家族との絆も強めたいと思っているんだ」と,手を変え品を変え,サンダーソン家に嫁ぐようエラを説得するのでした。「人生で本当に大切な物はお金では買えない。だが父にそう言い返したところで鼻で笑われるだけだ。」と訪問看護師として平凡な生活を送るエラは諦めの気持ちでした。しかしドナートにあった途端「この人は,(父)レグ・サンダーソンの言いなりになるような男性ではない。」「ドナート・サラザールは我が道を行く男。一匹狼タイプに違いない」そして「美しい」とエラは感じてしまいます。「美の化身」「自然が織りなす風景を連想させる雄々しい美しさ」「危険な匂いがする」男性と父のパーティで出会ったとき,エラはドナートに「君は美しい。怒ると銀色に輝く瞳も,威勢のいい言葉が次々と飛びだす唇も,悩ましげに揺れるヒップも,胸も,そして長い脚も,美しいとしか表現のしようがない」と手放しの賛辞を与えられ,「だって,父の思いつきはどう考えても常軌を逸しているもの」と言い,「フェリシティはあなたとは結婚しないのよ」とあくまで自分より美しいフェリシティにはパートナーをすでに得ていることを理由にドナートの誘いを断ろうとするのですが・・・。「遂に積年の恨みを晴らすときが来た。復讐は蜜の味と言うが,エラというおまけがついた今,その味はより甘美なものとなるだろう」,実は,ドナートがサンダーソン家に近づいたのには理由があったのです。ドナートはエラが去った後,エラの父レグ・サンダーソンが,「それはつまり,気に入ったということか?あのエラを?」とエラの美しさをまったく認めていないことに腹立たしさを覚えます。「尻軽」ではなく「頭の回転が速く,率直でもある」エラを,社交欄の記事で喧伝されている姉フェリシティの影に隠れてその存在すら今日まで知らなかったエラのことをよく知りたいと思うようになっていました。レグに問われるままに「結婚は」「したいと思っている」と答え,「こいつは,自ら進んで悪名高い男の腕の中に娘を押し込もうとしている。」ことにさらに腹を立て,復讐心がさらに高まるのでした。そしてエラへの連絡に携帯番号を聞いたのに,父親であるレグは娘の番号を自分の携帯電話に登録さえしていなかったことを知ります。ドナートの計画はエラとの結婚式を盛大なものにし,突然中止させてサンダーソンの資産を払底させ,騙されたことに気付いたときに復讐が果たされるというものでした。経済的に相手をどん底に突き落とす。その手段としてエラを活用しようとしていたのです。翌朝突然電話を寄越したドナートにサラは二度と会うつもりはないといいます。昨夜帰宅してからインターネットで調べたドナートの過去。「十代の頃に罪を犯して刑務所に入っていた」「彼の魂胆は分かっている。誘惑しようとしているのだ」。しかし次のドナートの言葉はエラを震撼させます。「僕の援助がなければ,きみの父親は破産する。彼は自分が生き残るためにけっこおんばなしを持ちかけてきた。きみが僕と結婚しなければ彼には1セントも入らない。レグ・サンダーソンは今まで築き上げてきたすべてを失い地に落ちるんだ。それでもいいのか?」結局,ドナートの方が1枚も2枚も上手だったのです。そしてシドニーの宿になっているドナートの友人宅に訪ねることになってしまいます。次々に繰り出されるドナートの誘惑。エラもまたドナートが欲しくてたまらなくなります。丁々発止の駆け引きの間,ドナートは純粋にエラに惹かれてしまっている自分に戸惑います。二人は瞬く間に恍惚の中に飛び込んでしまうのでした。そして,互いの生い立ちを話し合うことになります。ドナートはなぜ地味な自分と結婚したがっているのか,という問いがいつも頭から離れないエラ。自分を悪党だといいながらも,インターネットで調べた限り彼のスタッフが誰も辞めたがらないことからして見かけとは違う部分をもっているはずだと,看護師をしている経験から彼の人格を見抜いたエラ。「インターネットの記事を思い起こした。まだ十代だったドナートは40歳の男性を殴り,相手は病院へ運ばれたのだ」「あなたには守りたい人がいたのね?」「ぼくはただのろくでなしだよ」「彼は少年時代に負った傷を抱えて生きている」琴に気付き,エラは大胆で衝動的な行動を取っていきます。「彼とは体だけの関係」と心の中でつぶやきつつ,大粒の涙を流すのでした。この切ない感が溢れた場面が本作の読みどころの一つです。そんな時,レグからエラに電話が入ります。事業を立ち直らせるため,弟が蓄えた資金をつぎ込もうとする父。2週間後も二人はまだ会い続けています。クライミングや買い物など一緒に過ごすうちにどんどんドナートに惹かれていくエラ。そして時々見せる傷ついた心にエラはますます惹かれていきます。看護師としてのやさしさがドナートの心の傷を癒やしたくなっていくようです。ドナートもまた「お金でわたしは買えないわよ」とエラに言われたとき,自分の復讐にエラを利用するという考えに嫌気がさしていくのです。しかし親しくなればなるほど互いに子供時代の触れられたくない話題に触れそうになる微妙な会話に,互いに警戒心を抱いてしまう二人でした。しかし,二人は婚約し,結婚式に向けた準備に取りかかります。姉フェリシティとの電話で,姉がエラに申し訳ないと思っていることを打ち明け,頭のいいエラのようになりたかったといわれたことで姉妹の絆を感じるのでした。一方金銭面でドナートと言い争いになってしまったエラはドナートの過去を問いかけます。本物の恋人としてドナートの存在を感じ始めていたエラはやはり将来のことをどうしても頭に描いてしまうのです。経済的取引によるいわゆる便宜的な動機から始まった二人の関係。でも興味本位ではなくどうしてもドナートの本当の姿を知りたいと思うようになっていたのでした。そして12歳で母を失い,面倒を見てくれていた父親代わりにも死なれ,養護施設を転々としていた十代。そして母に暴力を振るった男性を殴って刑務所に入った過去。刑務所での生活と学んだことで出所後に大成功を収めたこと。そんな十代の頃のドナート少年に同情し,大人になった大胆不敵で情け容赦ない大物実業家を愛してしまったことにエラは幸福感をもっていました。そんなエラとの毎日の生活に「自分の中の何かが変わったのか。」と思い始めるドナート。そんなドナートにエラは自分の父のことを打ち明け始めます。「取引内容を記載した書類があっても,たとえあなたがそれに同意したとしても,決して父を信用しないで」とドナートを気遣うエラは弟の遺産に父が手を付けたことを打ち明けます。それはすでにドナートにとっては自明の事実だったのですが,「レグ・サンダーソンの犯した数々の犯罪が明るみに出たら」エラも傷つくのではないかと心が痛むのでした。今は,目的のためにエラを利用していることは忘れよう。
 ウエディングドレスを取りにいって,着ることのないドレスの素晴らしさにため息をつきながら,「でも,もしも本当に結婚するのなら・・・。もしも本物の恋人同士だったら・・・。」ともしもが頭の中で渦巻くエラ。「わたしは彼に強く惹かれている」ことを,「彼に恋をしている」ことを確信したエラは,これ以上偽りを続けられないと思います。「ドナートはロブを助けると言ってくれた」「お金の不安が消えた今,もうこれ以上演技をする必要はない。」と思う一方「ドナートは結婚を望んでいる?」「彼もわたしのことが好きなの?」と期待を打ち消すことができなくなっていました。その時ドナートにかかってきた電話が聞こえてきて,父を騙そうとしているドナートの企みに気づきます。ついに「きみの父親への復讐だ」と打ち明けるドナート。さぁ,いよいよ大詰めでエラはどちらを信用するのでしょうか。父か愛する人か・・・。
 月初めに読み終わっていた本作ですが,SHALOCKMEMOにまとめる余裕がなくて,今になってしまいました。改めてストーリーを追ってみて本作のスピード感溢れる,そして簡潔に二人の気持ちの動きが描かれた本作を一気読みしていたのだと気づきました。間違いなしのイチオシ作品です。


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氷の富豪が授けた天使 [アンナ・クリアリー]

SHALOCKMEMO1462
氷の富豪が授けた天使 The Night That Started It All 2013」
アンナ・クリアリー 土屋 恵





 原題は「すべてが始まった夜」
 ヒロイン:シャリ・レイシー(28歳)/絵本作家/グリーンの瞳,ブロンド,なめらかな脚/
 ヒーロー:リュック・バレンティン(36歳)/「ダビオン社」重役/長身,黒い瞳/
 2011年7月に「禁じられたスクープ」が邦訳されてから2016年4月に「侯爵に言えない秘密(SHALOCKMEMO1226)2009」まで4年半邦訳のなかったアンナ・クリアリーですが,ここのところ立て続けに邦訳が出ています。シリーズものや短編作品が多い中で非シリーズ作となっているようです。
 魅力的なヒロインが登場する彼女の作品ですが,本作のヒロインはシャリ・レイシー。ヒーローやヒロインの名前のリストを作ろうと考えたときもありますが,なかなか時間が取れずにいます。そのなかでも,シャリというヒロイン名はあまりないのではないでしょうか。オーストラリア作家のアンナ・クリアリーですが,豪州ではありふれた名前なのでしょうか。どちらかというとイギリスのビクトリア朝風の名前がかいま見られる豪州ですが,「シャリ」って有名人いたのかな?あるパーティで出会ったヒーロー,リュックとシャリ。一夜の関係を結びますが,後で知った事実,リュックはシャリの元婚約者の従兄弟だった。という設定です。シャリの人間性を疑いつつもシャリの魅力に嵌まってしまうリュックとのロマンスというねじれ現象がどう解決されるのかを描いているので「氷の富豪が授けた天使」という邦題が作品内容を見事に言い表していると思いました。会社の金を使い込んで逃亡したレミー・シェニエールはシャリの兄ニールの妻エイミーと双子のきょうだい。そしてリュックはエイミーとレミーのいとこ(男女が交じっているため,きょうだい,いとこをひらがな表記),双子の母親マリスとリュックの母親ラレーヌは姉妹の関係ですが,ちょっと関係が入り組んでいるので,混乱してしまいがちです。リュックにはマノンという恋人がいたのですが,妊娠に対する拒絶反応から二人は別れてしまいました。パリの本社からシドニー支社にやってきたリュックはレミーの不在を知らされます。数日間連絡が取れないと言います。会社の口座の残高不足を説明させ,横領の事実を突きつけようと勢い込んでやって来たのです。レミーのアパートを訪ねてみるとメイドだというシャリが応対しますが,体よく追い払われてしまいます。リュック自身,かつてスキャンダル記事に悩まされたことがあるのですが,今回の社員の使い込みによって会社に与える損害は金額に留まらずイメージダウンに繋がってしまうことは必死です。できれば本格的捜査が入る前に問題解決を図りたいところです。一方,昨日レミーに暴力を振るわれたシャリは顔に青あざができてしまっています。関係が悪化して豪勢なアパートから引っ越す準備をしていた矢先の出来事だったのでレミーとの決別を決意していたシャリでした。しかし兄ニールの40歳の誕生日パーティには何をさておいても参加しなければなりません。絵本作家のシャリはアザを隠すために右の頬骨の上に蛙の絵を描くという奇抜な格好でパーティに参加します。100人を超える友人たちが集まっているニールとエミリーの屋敷のパーティでリュックとシャリは出会います。昨日のアパートではインターホンの応対だけだったため顔は合わせていません。エミリーにレミーが来ないと言うのも辛そうなシャリの様子をエミリーは心配そうに見守ります。シャリを見かけたリュックはゾクゾクするような興奮が背筋を走り抜けます。魅力的な瞳は男の心を奪う瞳だと興奮を覚えてしまうリュック。視線を感じたシャリですが,高級そうなスーツに黒いシルクシャツ,長身で均整の取れた体をしている見知らぬ男性が兄ニールのそばに立っていて,自分に視線を向けているのです。兄に誕生日のお祝いの言葉をかけると,シャリはリュックに紹介されて驚くのでした。自分の婚約者だったレミーのいとこ,昨日アパートを訪ねてきた男性だと気づいたのです。かつて女性とのなんらかのスキャンダルをきいたことを思いだしたシャリは,リュックにエミリーとは似ていないのねといいますが,自分はシェニエール一族ではなくバレンティン一族だと説明されます。魅力的なリュックの深い声と唇につい引き寄せられそうになる自分に戸惑うシャリ。シャリの奇抜な格好を見たリュックはシャリを「刺激的で,セクシーで,遊び心のある女性」と表面的な判断をしてしまいます。しかし「鈍感で,内気で,退屈な女性」とシャリは自分を評したのです。外のテラスに誘われ,二人は欲望にさそわれるままに近くのボートハウスで体を重ねるのでした。その時使用したのはシャリのバッグの中に入っていた小さな包み。それは何年か前に路上で渡されたものですでに使用期限を過ぎていたものだったのです。たった一夜の出来事がその後の二人の運命をすっかり変えてしまいます。一度家に戻って翌朝パリに戻るというリュックの滞在先のホテルで逢おうとしていたとき,リュックはシャリが昨日アパートにいた女性だということに気づいたのでした。シャリとレミーとの関係を知ったリュックはすっかりシャリへの不信感にとらわれてしまいます。リュックに非難されてシャリはパーティ会場から逃げだし,アパートに逃げ帰ります。アパートの前で待ち伏せしていたリュックに化粧を落として青あざに気づかれたシャリはレミーに暴力を振るわれたことを打ち明けざるを得なくなりました。数週間後,レミーが事故で命を亡くしたことを兄に告げられたシャリは,胃の中のものを戻してしまいます。双子のきょうだいを亡くしたエミリーを気遣うシャリ。しかしシャリはレミーの死を悼む気持ちはなく,反ってリュックへの激しい感情は止められずにいるんのでした。一方パリに戻ったリュックもレミーの事故死の報に接しますが,シャリへの心の揺らぎは消えずに残っていたのです。レミーの告別式でリュックとシャリは再会します。10歳の時に母親の葬儀で葬儀に対してトラウマを負って以来,歳の離れた兄が親代わりとしてシャリを支えてきました。兄が妊娠している妻を気遣いレミーの葬儀にはシャリに参加して欲しいと頼まれたのを断ることができなかったのです。そして葬儀の最中に気分が悪くなりあわてて外へ走り出て戻しているときリュックが追いかけてきます。レミーの母親マリスを始め,婚約者の死を悼んでいると周囲の人たちは同情してくれたのですが,リュックに連れ出されてリッツホテルに連れて行かれます。車中でのキスは二人の欲望の再燃を告げる結果となりました。「はっきりさせておきたいの。シドニーでのことはすべて,一夜限りのことだった,と。お互いに,すべて忘れるべきだと思う」とシャリはリュックを敬遠するのですが,いつのまにかリュックはスイートルームを取り,そこで再び二人の熱い思いは燃え上がるのでした。翌朝再び吐き気を催したシャリはさすがに自分の体の変調に気付き始めていました。そしてキットでの検査で陽性が出たことに呆然としてしまいます。「私は子供を産みたいの?」と疑問形。シングルマザーになる覚悟などもなく,経済的不安も大きい状態で自分の母親が生活を維持するのに大きな苦労をしていたことが思い出されます。リュックに伝えるべきだろうか・・・?絵本作家であるシャリにとってパリの美術館巡りは大きな経験でした。2日間の滞在の予定を変更し,リッツでの1週間の滞在という夢のような日常は,いずれ妊娠の発覚とともに消え去るのだろうと予想されます。「不安は増すばかりだった。今でこそリュックは好意を抱いてくれている。でも妊娠を打ち明けたらどうなるだろう?たちまち手のひらを返したように冷たくなるかも知れない。」と甘い考えをもってしまうシャリですが,読者はここできっと妊娠の事実を知ればリュックはレミーの子供かと疑いシャリを非難するだろうと想像してしまいます。それより,シャリは自分とリュックの将来に期待を持ってしまっており,リュックのかつての恋人マノンのことなどをのんびりと聞いているのです。リュックの母親ラレーヌのもとに連れて行かれて,周囲はレミーの婚約者としてシャリを見ていることに気付き,リュックの子供を身ごもっている自分がいたたまれなくなってしまいます。そしてサイドボードに置かれた壺を見た途端,シャリはレミーに受けた暴行のフラッシュバックに襲われ気を失ってしまうのでした。医師の診察を受けるまでもなくリュックの母親に妊娠を気づかれてしまうシャリ。さぁ二人はどうなる?
 シドニーとパリ,地球の反対側で暮らす二人に将来はあるのか。リュックはどんな決意をするのでしょうか。そしてシャリは?魅力的な二人の愛の行方を,見事に描ききった秀作です。絵本作家らしいシャリの末尾の言葉が,とても洒落ています。


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メイドを娶った砂の王 [ケイト・ウォーカー]

SHALOCKMEMO1461
メイドを娶った砂の王 Destined for the Desert King
( Rhastaan Royals 1 ) 2015」
ケイト・ウォーカー 山科みずき





 原題は「砂漠の王と運命付けられて」
 ヒロイン:アジザ(ジア)・エル・アファリム(歳)/ラスタン国有力者の娘/ほっそりして小柄,黒髪,キラキラした黒い瞳,金色の目,静かな声,サンダルウッドと花の香り,左手の小指がわずかにねじれている/
 ヒーロー:ナビル・ビン・ラシッド・シャリファ(歳)/ラスタン国王/長身,深く暗い瞳,顎髭,ブロンズ色の肌/
 ケイト・ウォーカーの作品は5冊目の読了となります。砂漠の国ラスタン国の皇位継承を巡るロマンスを描いたシリーズになっているようですが,作者のWebページの紹介によると第2作目になるようです。
 常に美貌の姉の影に隠れて生きてきたアジザは,ラスタン国王の后候補の姉に付添を頼まれ,いやいやながら王宮に出かけます。国の反対勢力の有力者である父は常に2歳年上の美貌の姉だけを自分の娘のように扱い,「小柄で十人並みの娘」と呼ぶ妹のアジザは常に姉の影に隠れて,誰にも関心を向けられずにいました。その昔当時12歳だったナビルが2歳年上のジャマリアにではなくアジザに関心を向けたことがあり,アジザは無条件で彼に心を奪われたことがあります。しかし自分が国王になったナビルに現在関心を寄せられるはずがない,成長した自分をみても覚えてすらいないだろうと思っていました。かつて国内で反対グループによる暴動が起き,当時皇太子だったナビルは大怪我を負います。その時の傷跡が左頬に今でも残っているのですが,アジザにとってはその傷跡もが愛おしく感じられるのでした。ナビルはすでにその時結婚しており,身ごもっていた妻のシャミラは銃弾に倒れてしまいます。しかし国王としては跡継ぎ問題が浮上し,王妃となる后選びがナビラに課せられた使命でした。シャミラとの結婚はかれの許嫁だったクレメンティーナ・サヴァネフスキとの破局による衝動的なものでしたが,クレメンティーナは隣国マークハザド国王のカリム・アル・カリファと恋仲になり,二人の祝賀会に招かれたナビルはアジザに再会するのです。この時アジザの父は国の反対派と愛国派のキャスティング・ボードを握る有力者として娘のジャマリアとナビルとの結婚を望んでいたのです。そして祝賀会の時に出会ったアジザはとっさにジアと名乗り,ファルーク・エル・アファリムの次女であることを隠したのですが,ナビルの胸にはこの時のジアが強く印象に残ったのです。そして今,ナビルの后選びの有力候補として姉のジャマリアが選ばれ,王宮に呼ばれたとき,アジザは姉に請われてついて行くことにしたのでした。ジャマリアのメイドとして・・・。過去のナビルとの出会いから10年。成長した自分の姿にナビルが気づくはずがない。ましてや祝賀会の夜に出会ったときにもナビルは自分だとは気づかなかったではないか。という思いでいたアジザですが,アジザは十人並みの器量の自分は美しさで競うのではなく頭脳で自分らしさを得ようと大学で語学を専攻し数カ国語を操る才女となっていました。ところが父の元に届いた知らせはジャマリアではなく妹の方との結婚という返事だったのです。「シークはお前を選んだ」と父に話されたときもアジザにはその言葉が現実のものとは思えませんでした。「アジザは少女時代の憧れを手放せそうになかった。あの夜,彼女は長年の自分の想いが幻想に過ぎなかったことを思って涙を流した。しかし,シークの花嫁に選ばれたと父に言われた途端,かつての夢のすべてが押し寄せる波のようによみがえって,新たな希望とおさない頃は想像もしなかった渇望を運んで」きたのです。「アジザが求めていたのはこれだった。他の誰でもない,この男性が欲しかった。」「私はもう誰かのニ番手ではない。何より今後は父に支配され,やることなすこと監視される必要なない。」「自由」という言葉が彼女にとっては他の何者よりも必要なものだったのです。ところがナビルはアジザの幼い頃を覚えていました。ジアと名告ったあのメイドとジャマリアの妹としてのアジザが同一人物であるとは思ってもいなかったのです。結婚式の間はベールで素顔を隠したままだったアジザと寝室で顔を合わせたとき,ナビルはジアがアジザだったことを知ります。そしてエル・アファリム家の娘であるアジザがなぜ自分に嘘をついたのかと,アジザの父の陰謀ではないのかと疑いの気持ちを強くもつのでした。自分を拒絶する強い言葉を投げつけられ初夜を拒否されたアジザ。「自分はナビルの花嫁,ナビルの妻かも知れないが,所詮は便宜結婚の王妃だ。」「彼の心の妻は命を落とし,その穴を埋めることは誰にもできない。」とこれからの長い期間名目だけの妻でいなければならない自分の悲運を嘆くアジザでした。ふたりは数日後,山の宮殿に二人きりで行き,いわゆる新婚旅行替わりの休暇を過ごすことになります。前妻シャミラは自分の立場と裕福な生活ができることだけを考えて自分と結婚し,結婚直後に二人の結婚生活は破綻していたのでした。しかしアジザはナビルの心の中には未だに自分の身代わりのように銃弾に倒れたシャミラとその子供の存在が残っていると思い込んでいます。ここに来て数日でアジザが父ファルークの陰謀の片棒を担いでいるかも知れないという疑惑はすっかり消えていましたが,頑固なプライドが事実を認めることを阻んでいました。かつてシャミラに裏切られた経験がナビルの行動に暗い影を残していたのです。自分がアジザを求めているのと同じくらい彼女にも求めて欲しい。それも王としての自分ではなくただの男として・・・。6日後,二人はどちらからともなく互いを求め合います。「信頼」たった二文字のちっぽけな単語。しかしそれが二人が求めていたキーワードだったのです。「メイドのジア,あるいは僕のプリンセスのアジザ。きみは花嫁候補に挙がっていた他の女性の誰より僕の心をざわつかせた」と心の内を遂に打ち明けるナビル。そしてアジザの頬に自分の顎髭による跡がついてしまったことに気づいたナビルは「シャミラの裏切りの事実を知った日から自分の身を守るように黒々と生やしてきたひげをそろう。ひげと一緒に過去もそぎ落とせるよう願って。」と決意するのでした。しかしそんなナビルの気持ちとアジザの気持ちに微妙なすれ違いが生じます。肉体を得ても心の中はシャミラの影を消してはくれていないと感じていたアジザは自分の体の変調に気づいてもそれがナビルの心を開くことにはならないだろうと思い,そのことを夫に告げることは躊躇します。いずれ自分の体の変化が大きくなれば気づかれてしまうだろうけれど・・・。一度は信頼を感じていた二人の微妙な心のすれ違いと隙間を作者は巧みに描き出していきます。さて二人の信頼はどんな形で取り戻せるのでしょうか。このストーリー展開がロマンス作品の読みどころですね。
 二人の年齢差が7歳であることが読み取れたのですが,現時点で二人が何歳であるかは読み取れませんでした。


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雨のなかの出会い [ジェシカ・スティール]

SHALOCKMEMO1460
雨のなかの出会い His Pretend Mistress 2002」
ジェシカ・スティール 夏木さやか




R-1839
03.01/¥672/156p

K-485
17.07/¥670/156p


 原題は「彼の愛人ごっこ」
 ヒロイン:マロン・ブレイスウェイト(22歳)/「ハーコート・ハウス」管理人/金髪,濃いブルーの目,身長175センチ,豊かな胸,形のいい長い脚/
 ヒーロー:ハリス・クウィリアン(35歳)/「ウォーレン・アンド・テイバー金融会社」社長/身長190センチ位,冷たい灰色の目/
 7月にセレクトで出る予告が出ていましたので,HQロマンス版がKINDLE化されていたのに思わず手が出てしまってクリックした感じでしたが,読んで損はなかった作品でした。ジェシカ・スティールの作品はいつもちょっといぶし銀的魅力に溢れていますね。
 富豪の家「アルモラ・ロッジ」で家政婦をしていたマロンは雇い主のローランド・フィリップスから性的暴行を受けそうになり逃げだします。それを助けてくれたのはハリス・クウィリアンでした。ハリスは「ハーコート・ハウス」を買い取り改修中でしたが,仕事を失ってしまったマロンが気になり,改修が済むまでの管理人としてマロンを雇うことにします。週末ごとにハウスにやってくるハリスにやがて恋心を抱いてしまうマロン。「幸せだった子供時代を思い出さずにはいられない。惜しみなく愛情を注いでくれた両親,両親が計画していた一人娘の将来。そのすべてが9年前に跡形もなく消えてしまったのだ。」13歳の時,夕食時に知らされた父サイラス・ブレイスウェイトの突然の交通事故死。ショックから立ち直れず精神的に不安定になってしまう母イブリン。それから2年後にアンブローズ・ジェンキンズと再婚した母でしたが,義父の連れ子リーはマロンにしきりと手を出そうとし,それを母に言いだせないままなんとか義父と母の離婚を願うばかりだったのですが,義父に頼り切ってしまっている母を見捨てるわけにの行かず,マロンは高校を中退して働き始めます。マロン20歳のとき,やっと離婚が成立し,マロンと母の二人の生活が始まりますが,ホテルの受付係の仕事だけでは母娘二人の生活はなかなか楽にはなりません。そんな時家政婦募集の求人広告を見て「アルモラ・ロッジ」に仕事を得たのですが,雇い主がとんでもない男性だったとは・・・。つくづく男運のない母娘だと・・・。「ハーコート・ハウス」の修理にやってくる親方のボブ・ミラーや大工のシリル初め,愉快で仕事をきっちりやる人たちに囲まれ,マロンは幸せな毎日を送れるようになり,やっと悪夢からも解放されようとしていたのですが,次第にハリスとの間の関係が深まり,マロンはハリスを愛してしまうのでした。しかしこれまでの男運のなさ,元雇い主から受けた暴行から,男性不信の気持ちがやっと癒やされ始めたマロン。そしてハリスへの深い愛に気づいたマロンでした。そこに現れたビビアン・ホームズという30代の黒っぽい髪をした洗練された美女の存在がマロンを不安に陥れます。ハリスとビビアンの関係は?
 一方ハリスもまたマロンの見事な肢体と正直で純粋な気持ちにすっかり惹かれてしまうのですが,次第にマロンのこれまでの不幸な人生を聴くたびに,ますますマロンを守りたいと思うようになります。「君を想う気持ちに理屈なんて通用しないさ」「わかっていたのは,君と離れた瞬間にもう君の元へ戻りたいと思っていたことだけだ。四六時中」と熱い思いをマロンに告白するまでになんと時が過ぎるのでしょう。どちらも奥手で相手の気持ちをおもんぱかって自分の気持ちを正直に告白できないでいる,愛らしいカップルのロマンスでした。爽やかな読後感を得られる作品です。


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ボスとの熱い一夜は秘密 [エリザベス・レイン]

SHALOCKMEMO1459
ボスとの熱い一夜は秘密 A Little Surprise for the Boss 2016」
エリザベス・レイン 川合りりこ





 原題は「ボスへのちょっとした驚き」
 ヒロイン:テリ・ハモンド(30歳)/秘書/あかがね色の輝きをちりばめたブラウンの瞳,真面目そうな眉,そばかすのあるまっすぐな鼻,意志の強そうな顎/
 ヒーロー:バック・モーガン(?歳)/リゾート会社CEO/
 「ナニーの秘密の恋(SHALOCKMEMO1010)」で邦訳デビューしたエリザベス・レインのボス秘書ものです。ユタ州ポーターホロー。リゾート会社「バケット・リスト・エンタープライズ社」のCEOバック・モーガンと,91歳になる老人介護施設に入所している祖母を抱えた秘書テリ・ハモンドのロマンスです。テリは両親亡き後祖母に育てられて自立してきましたがその祖母が老齢の上,認知症を患い,介護施設に入所中。バックはバツイチで娘のクインは9歳ですが身勝手な母親の元で育てられており,あまりかまわれていないため,愛情に飢えています。「バドミントンのシャトルコック」にでもされているかのように両親の元をいったりきたり。どちらの親も愛娘のためにこれ以上時間を割けないらしいのです。バックはテリの兄の親友であり,いわば初恋の相手ですが,兄のスティーヴは軍隊で任務中に撃たれ,命を落としたのでした。短大を卒業したテリをバックは自分の会社に秘書兼オフィスマネージャーとして雇い,祖母の面倒を見れるだけの高給を与えてくれたのでした。親友の命を救えなかったことで負い目を感じていたのでしょう。妹のテリに仕事を与えることで罪滅ぼしをしてきたのでした。それから10年。テリも30歳を迎えています。自然を生かしたアクティビティーを目玉としたバックの会社で,テリはツアーやフライトの予約から従業員の採用と解雇に至るまで業務のすべてを把握し,バックの右腕として会社とバックのことを知り尽くしています。そんな二人がふとしたことで一夜を共にしてしまいます。テリとの情事でめくるめくような感動を体験したバックですがテリの亡き兄にテリを頼むと言われ,「彼女に手を出すのは聖域を汚す行為に等しい」と考えていました。しかしテリはバックとの関係でとことん悩みます。「あの出来事が二人の関係に変化をもたらすのでと信じたがっていた。」しかし「何があろうと,バックが彼女をこれまでと違う目で見てくれることはないのだ。残る問題は一つだけ。これからどうしたらいいのだろう?」今バックの元を去ると言うことは祖母を預けている介護施設への支払いにも支障を来すことが考えられます。そんな時,バックの別れた妻ダイアンから好きな人と再婚するので娘のクインをそちらにやるのでよろしくと言ってきます。すでに何度もバックの愛娘と会っているテリもこの9歳の生意気盛りの女の子をかわいいと思っていました。突然やって来たクインの面倒を見るために新たにベビーシッターを手配するまで,テリに面倒を見てもらおうと考えます。テリに決意させるために祖母の施設費用を初め,古くなったテリの愛車のタイヤ代も出そうとするバックですが,「上司のベッドに引きずり込まれて,それが二人の間に何か変化をもたらすかも知れないと考えるなんて」とテリはその申し出を断ろうとするのですが・・・。そしてさらに2週間後に会社に辞表を出すつもりだと爆弾発言をするのでした。「テリのためを思ってした行為が,どうして彼女を退職に追い込むのか」バックは理解ができませんでした。クインをつれて墓参りに行ったテリはクインの祖母の墓の近くに兄スティーヴの墓があり,二人は二つのお墓に花束を捧げます。クインを連れ出してくれたことをバックに感謝されたテリは「仕事ですから」と割り切った返事をします。予定されていた大きなチャリティーパーティが開かれるまで会社に留まろう。と決意したテリですが,その間,四人の客とキャンプに付き添う予定だったスタッフが急病になり,バックとテリが引率することになってしまいます。何かと美人のテリに手を出そうとする中東出身の男性たち。VIP客でありながら,バックは何くれと客に対して,テリには手を出さないようにと見守り,注意を促すことになってしまうのでした。そして改めてテリが自分の心の中に大きな根を張っていることに気づくのでした。ところが,5日間のキャンプが終わって帰宅してみると祖母が亡くなっていることを知らされ,落胆したテリはそれを告げてくれなかったバックに即刻辞めさせていただきますと強い口調をたたきつけるのでした。
 一年後のクリスマスイブ,母親譲りの栗色の髪と父親そっくりのブルーの瞳の幼子がクイント一緒にベットの中で丸くなっているというエピローグが語られ,ハッピーエンドを迎えます。とてもすっきりしたストーリーと自立心旺盛なテリ,そしてやっと心の平安と愛情溢れる家族に包まれた少女クインの姿がほのぼのとした読後感をもたらしてくれる良著です。


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靴のないシンデレラ [ジェニー・ルーカス]

SHALOCKMEMO1458
靴のないシンデレラ A Ring fro Vincenzu's Heir
( One Night With Consequences 19 ) 2016」
ジェニー・ルーカス 萩原ちさと





 原題は「ヴィンチェンツォの後継者のための指輪」
 ヒロイン:スカーレット・レーヴンウッド(24歳)/看護助手/黒いまつげ,緑色の瞳,赤毛,愛らしい顔/
 ヒーロー:ヴィンチェンツォ(ヴィン)・ボルジア(?歳)/航空会社「スカイ・ワールド・エアウェイズ」社長/黒い髪,黒い瞳,ハンサム/
 飛行機が苦手な看護助手スカーレットが,最後は信頼する夫の操縦するセスナ機に乗り込むという終結を迎えるまでの感動の作品です。しかも,富豪であり航空会社の社長でありさらに航空機の設計までするというちょっとオタクっぽいヒーロー,ヴィンチェンツォとしっかりと渡り合うだけの智恵と勇気も持ち合わせているときてはまさにNiceHeroineものの極地というべきでしょう。「一夜の結果」シリーズも19作目を迎えました。
 「君には二つの選択肢しか残されていない」という台詞で始まる冒頭。「この書類にサインをして生まれた赤ん坊を養子にだして僕の妻になる」「あるいは,君は頭がおかしいとドクターに公表させて,君を精神科の病院に送る」と,雇い主から究極の選択を迫られたスカーレット。選択を迫ったのはブレイズ・フォークナーというニューヨークの資産家ですが,スカーレットはブレイズの母親の看護をしていたのでした。「君はずっと僕を拒み続けていた。なのにどこかの馬の骨に妊娠させられ,その男の名前を言おうともしない。ガキを厄介払いしたらすぐう,君を僕のものにする。永遠に。」という脅迫をするようなブレイズの母は看護の甲斐なくなくなってしまい,いくらかの遺産をスカーレットにも残してくれたのでした。男性としての欲望ばかりでなくこの僅かな遺産も手にしようというのがブレイズのもくろみだったのかも知れません。さて,その赤ん坊の父親というのが,本作のヒーロー,ヴィンチェンツォ・ボルジアだったのです。ボルジアという名前どおりイタリア系であることは自明のことですが,イタリア男性のセクシーさはロマンス小説ではお約束の一つ。ギリシアの富豪,南米の農場主とともにイタリア男性といえばロマンス界の三大ヒーロー・パターンといってもいいでしょう。ブレイズのロールスロイスから飛びだしたスカーレットは,そのヴィンチェンツォ(ヴィン)が今,結婚しようとしている「セント・スウィザン大聖堂」に飛び込み,祭壇の前に婚約者とともに立っているヴィンに「雇い主に私たちの赤ちゃんを奪われそうなの!」と叫んで周囲を驚愕させるのです。こんな衝撃的な幕開けで本作はスタートします。ジェニー・ルーカスの作品の中でも秀逸な幕開けではないでしょうか。かつて一だけ関係を持ち翌朝には苗字も告げずに姿を消してしまったスカーレットの膨れた腹部を見た瞬間新郎出会ったヴィンは,彼女の後を付けてきた男性が彼女を連れ去ろうとしたブレイズを追い払います。一方花嫁のアンの方に,若い男性が自分は花嫁の恋人だと叫んだのです。結婚式はすぐ中止となり,ヴィンが事態収拾している間,スカーレットはまた逃げだそうとするのですが・・・。ここでヴィンとスカーレットの出会いが紹介されます。二人は2月末に出会い,失意の内にあったスカーレットもヴィンに誘惑されて純潔を失い,翌朝看護師から連絡をもらったのを機に何も告げずに立ち去ったのでした。その後,一夜を共にした相手,ヴィンチェンツォ・ボルジアの名前をインターネットで調べ,社会的な格差に気づいて赤ん坊を一人で育てていく決意をしたのでした。父とともに逃亡生活を送っていたスカーレットは極端に自分の苗字を隠す傾向にあり,このことが二人の出会いを複雑にした結果でした。そう彼女の父は掏摸,盗みなどの犯罪を繰り返し,犯罪者として逃亡生活を送っていたのです。彼女自身は犯罪に手を染めていたわけではありませんが,父の娘だと知られればたちまち疑われてしまうことはわかりきっています。看護助手として立派に通用する技術をもつ自分と赤ん坊の生活ぐらいはなんとかなると考えていたのでした。しかし雇い主のブレントから子供を養子に出してしまうという話しを聞いて危機感を持ち,ブレイズの元を逃げだすことになったのです。そして今日ヴィンが結婚式を挙げる会場は報道ですでに調べていたため,結婚式に飛び込むという大胆な行動に出たのでした。教会からも逃げだそうしたところにヴィンが戻ってきて,スカーレットの苗字を知っており,さらに父親のことも知っているというのです。ブレントがヴィンに教えたようです。1年半前飛行機事故で亡くなった父は,自分の犯した過ちを償おうと銀行に盗んだ金を返そうとしたのですが,仲間に裏切られ自分だけが犯罪者として告発されてしまったのでした。しかし父の死によって残された賠償金をスカーレットは全額寄付してしまい,自立の道をとってきたのです。そこまで知ったヴィンはスカーレットの高潔さに驚き,彼女を守りたいという気持ちを強くもちます。そしてDNA検査で親子関係が証明されたら結婚しようと提案するのですが・・・。ヴィン自身も悲惨な子供時代を送った経験から,自分の子供とは密に関わろうと強く思っていたのです。「子供は堅実な家庭で愛を受けて育つべきだ。子供を見捨てるようなまねは断じてしない。」と8カ月前のスカーレットとの一夜を改めて思い出します。
 それからの二人の行動がジェットコースターのように激しく移動していきます。靴が必要だとして店に入った後に裏口から逃げだしてボストンからロンドンへ,その途中飛行機がアイルランドに不時着ぎりぎりに着陸し,母の知り合いを頼ってスイスに逃れたスカーレットは靴屋で失敬したヴィンの財布を送り返し,それで足がついてヴィンに見つかり,婚前契約書を不問に付すことで結婚を承諾し,ローマに向かう途中でヴィンの父(実は育ての父親?)の元で結婚式を挙げ・・・と,再び愛を交わした二人が愛を確信しても,欲望と愛を混同してはいけないと自分を戒め,素直になれないヴィンにスカーレットはヴィンの愛を確信できない理由を知ってなんとかしたいと思い・・・。という具合に二人の間の関係の深まりの後ローマにたどり着きます。「彼のおかげでスカーレットは自由な気分になれた。」彼女にとって,「自由」という言葉は「愛」と同じように重要な意味を持つ言葉だったのです。その間,ヴィンはブレイズを破産に追い込む企てをしていたのです。恐ろしいヴィンの復讐の話しにショックで破水してしまい,愛息が誕生します。しかしそのために予定されていた航空会社との契約がフイになり,「ヴィンは生まれて初めて,仕事や権力さえ後回してもいいという気持ちに」なり「妻や産まれたばかりの息子を残してはいけない」と感じたのでした。そして愛息に付けた名前は「セント・ニコラス(サンタクロース)」を意味する「ニコラス」通称「ニコ」。なんとも洒落た成り行きではありませんか。バレンタインデーにできた子供の名前がサンタクロースとは・・・。契約する相手との会合の約束が守れなかったため,その後ヴィンは八面六臂の活躍をします。しかしそれは仕事というより,「仕事より家族を優先する」というこれまでヴィンが最も忌むべきだと考えていた心情の正反対の行動に自分で折り合いを付けるためだったのです。そして幸せな中で暮らす二人に最大の危機が訪れます。ヴィンによって破滅させられたあの男が・・・。「私は彼を愛している。彼も私を愛している」と確信し,しかもそれは自分を含めた家族3人が愛し合っているからだと,自由意志により愛を確かめ合えるからだというスカーレットの願いが,ハッピーエンドをもたらします。そして冒頭に述べたあの場面。飛行機が苦手なスカーレットが勇気を出して夫の操縦するセスナに乗る場面へと繋がっていくのです。繰り返し読みたくなるイチオシの傑作です。邦訳版のスカーレットのイメージは赤毛ではありますがちょっと品のない顔立ちのモデルさんですね。MB版の髪は黒っぽいですがうつむき加減のモデルさんの方が絶対イメージどおりだと思います。


タグ:ロマンス
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