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無償の恋人 [キャシー・ウィリアムズ]

SHALOCKMEMO764
無償の恋人 His Temporary Mistress 2013」
キャシー・ウィリアムズ 片山真紀





ヒーローはIT企業を中心とする企業経営者ダミアン・カーヴァー。ヒロインは美術教師ヴァイオレット・ドルー。ヴァイオレットの妹フィリパはダミアンの会社でIT技術者として働き始めたのですが,男にだまされて企業秘密を漏らしてしまいます。会社を解雇されただけではなく犯罪者として告発されようとしています。両親を亡くした後,姉妹二人きりで苦難を乗り越えてきたのですが,ヴァイオレットはフィリパにとっては姉でもあり,親代わりとしても生きてきました。生来の愛らしさを自覚し,次々と男性を乗り換えてきたフィリパに対してヴァイオレットは,自分が妹に比べて男性を惹きつける魅力に欠けていると自覚し,まじめに生きてきました。初めフィリパが謝罪に来たのだと勘違いしていたダミアンは,ヴァイオレットが現れたことに驚きます。そしてフィリパのしたことが会社に与えた損害を賠償するか,それが無理なら検察に告発し,自分のしたことの責任をとらせるつもりだと冷たく言い放ちます。なんとか穏便にと考えてぎりぎりの思いで会社を訪れたヴァイオレットですが,ダミアンには事情を考慮して妹を許すつもりがないことを思い知らされます。意図的にしたのではなく男にだまされたことを強調したヴァイオレットですが,一歩も譲ろうとしないダミアンの言葉にあきらめて社長室を出ようとしたところで,ダミアンはヴァイオレットに意外な提案をします。自分の母親が癌にかかり手術間際であること,そして母親の納得するような伴侶候補を連れて行くことが治療の上でも有効であること,という理由で偽装の恋人にならないかという提案でした。
ここまでは,ロマンス小説ではありがちなテーマです。初めは偽装でもいずれは二人の間に気持ちの高まりが見られ,大概男性の方が「愛」という言葉を言い出せないで一度は別れるが,なんらかのきっかけで再び出会い,男性も「愛」の言葉を告げてハッピー・エンドというのがパターンのように思います。本作では母の手術と治療というエピソードに加えて,ダミアンの障害を持つ兄の存在があります。教師であるヴァイオレットにとっては,これは特に問題でもありませんでした。しかもダミアンの兄のドミニクは車椅子での生活ではあるものの,頭もよく,はにかみ屋ではあるもののとてもしっかりした人だったからです。かつての恋人にこの兄の存在で別れを告げられたダミアンが「愛」を信じなくなったのもうなずける理由です。そして母と兄にすっかり気に入られたヴァイオレットですが,遂にはダミアンから「愛」の言葉を聞くことができずに別れようと言い出します。そして,治療のためにロンドンにやってきた母から会いたいと連絡を受けて訪れたダミアンの家で元恋人がダミアンに寄り添っていたところと出くわすというお約束の出来事で二人の別れは決定的に・・・。という予想どおりの流れになるのですが,ここからダミアンがとった行動は意外でした。先が見えそうなパターンどおりの作品だけにあっという間に読み終えてしまいました。しかも最後のダミアンのとった行動もきっぱりしていてとても気持ちよく読了できます。
原題の「Temporary」を「無償」と訳したところに,訳者の苦心が見えます。


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