売り渡されたプリンセス [ケイトリン・クルーズ]
SHALOCKMEMO1085
「売り渡されたプリンセス Pure Princess, Bartered Bride 2009」
ケイトリン・クルーズ 平江まゆみ
ベドルジハ・スメタナというチェコ(当時ボヘミア)の作曲家の作品に歌劇「売られた花嫁」というのがありますが,本作の原題[Bartered Bride]はまさに,そんな意味を含んでいます。祖国のために親に言われるがままに結婚式当日まで新郎に会ったこともない花嫁,ガブリエルがまさにそれです。ミラヴァキアという地中海の小国の王太女,つまり女性王位継承者であり,国の財政的援助を期待してフランス人実業家リュック・ガルニエとの結婚式でそれらしく対応しなければならなかったガブリエルですが,どうにも我慢ができなくなって披露宴の途中で会場を抜け出し,パリ,ロンドンを経てロサンゼルスの親友の元に身を寄せます。すっかり新婦に裏切られたと思った新郎のリュックは1週間後,やっと見つけたガブリエルの元に駆けつけるのですが・・・。そこから二人のロマンスが本格的にスタートします。プリンセスらしい落ち着きと清純さと対人関係のうまさを身に付けたガブリエルですが,それをリュックは演技していると感じています。なんとかガブリエルの本音を引き出したいとあの手この手を尽くすリュック。会って間もない夫との関係をどのように築いていったら良いか分からないガブリエル。初めは夫を恐れ,しかしその後妻としての務めを果たそうとしますが,同時にこれまで自分が父親の現国王の言いなりになってきたことを不満に思い,なんとか自立心を持ち続けたいと願う新婦ガブリエル。二人の虚々実々の心理戦が展開されていきます。仕事中心の生活を送ってきたリュックもまた,計画どおりいかないガブリエルの行動に虚を突かれつつも,次第に自分の気持ちがこれまでの生活とは違った面を持ってきていることに当惑することも多く出てくるのでした。そんな二人の心が近づいたと思われたとき,互いの心に相手に対する疑念が芽生えます。その原因を作ったのはパパラッチのシルヴィオ・ドメニコでした。かつて過激な取材の結果リュックに殴られたことに恨みを持ち執拗にリュックを追いかけ続けてきたシルヴィオは,ロンドン滞在中のガブリエルに近づいて夫の元愛人との過激なテープの存在を匂わせ1万ポンドの要求という脅迫に至ります。もはや夫を信じていたガブリエルですが,パパラッチ嫌いの夫がまた傷つくのを恐れ,この要求に従うことにします。そしてシルヴィオは現金受渡の場所にリュックを呼びつけ,ワザと現場を見せるという卑劣な手段でリュックの心に疑念を抱かせるのでした。すっかり騙されたリュックはガブリエルを非難し離婚を言い渡すのですが・・・。
美貌と頭の回転の良さと純真な心を持つガブリエルにすっかり読者は魅了されるでしょう。本作は[Bride on Approval]のミニシリーズの幕開けを告げる1作です。
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