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夜色の愛につつまれて [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO459
夜色の愛につつまれて Mine Till Midnight 2007」
リサ・クレイパス Lisa Kleypas lisakleypas.com 平林 祥





リサ・クレイパスの「壁の花」シリーズの関連作です。「壁の花」シリーズでは第1巻の「ひそやかな初夏の夜の」を読了していますが,本書のスピンオフになっている「冬空に舞う堕天使と」は未読ですので,単独の作品として読むことができました。
かつてはジプシーと呼ばれていた民が,最近はロマ(ロマニー)と呼ばれ,ユダヤ人とは異なった意味で,ヨーロッパの人々からは異なった生活様式をもつ人々として差別意識の対象になっていたようで,その民の生活や価値観を正面から取り上げた作品として読むのも面白いかなと思います。
ヒロインのアメリア・ハサウェイほか,ハサウェイ一家の人々は変り者ばかり。兄のラムゼイ子爵レオ・ハサウェイは,かつてはしっかり者のハサウェイ家の長男で将来を嘱望された建築家でしたが,愛する人ローラを失ってからは,すっかり酒びたり,賭博びたりの生活を送るようになり,物語の後半ではアヘン屈に浸ってしまうという問題行動をするようになり,自殺願望も高くなっています。妹が手に入れてきた幻灯機のスイッチを切らないまま眠ってしまい,家の火事を招いてしまいます。ヒロインのアメリアはそんな兄と妹3人の面倒を見ながら,ハサウェイ家を切り盛りするしっかり者の長女。しかし,責任感が強すぎて自分の幸せなどは考えてはいけないと思い込む頑固さを持っています。次女のウィニフレッドは透き通るような肌と美しい容貌,そして誰にも負けない優しさをもつものの,流行病にかかって死線をさまよってからは,体力が落ち,無理のできないからだになってしまいます。三女のポピーと四女のベアトリクスはまだ幼く,しかもベアトリクスは精神的に不安定になると気付かないうちに物を盗んでしまうという病気を持っているのでした。さらにハサウェイ一家にはロマの青年メリペンが同居し,ウィニフレッドに深い愛を感じているものの自分の出自を気にして,そのことを隠そうとしているのでした。
そんな,変わり者の一家を作者のリサ・クレイパスは「壁の花」シリーズのスピンオフとして,ハサウェイ一家シリーズを創作しているようです。本書はその第1巻にもあたります。
さて,ヒーローは「冬空に舞う堕天使と」にも登場するロマとアイルランドのハーフであるキャム・ローハン。幸運の女神に魅入られ,得たお金を使い切ろうとするごとにその投資が当たり,逆に金持ちになってしまうという変わり種。ロマにも受け入れられず,しかも,アイルランド人の要素も持っているために移動と定住という相反する生活様式のどちらかの選択を迫られているという悩みも抱えています。そんなキャムはアメリアに恋をし,ハサウェイ一家を助けようとしますが,兄レオや,同居人メリペンには認められない存在です。結婚すれば,一家の大黒柱を失いかねないと考えているアメリアにとっても,愛を全うすることに大きな障害があることを常に意識しています。
そんな二人がどんなふうにハッピーエンドを迎えるか,物語には周囲の人々や白人とロマとの確執,火事や20万匹以上のハチが大きな巣を作っているハチの間の存在,そして崩れかけたラムゼイ屋敷などいくつかの問題を縦糸に,二人の愛が徐々に高まり,互いの存在を離れがたいものに感じて,将来を共に過ごそうとする二人の気持ちの高まりを横糸にして物語は進行していきます。
さらに,兄レオがローラの死を乗り越えていけるのか,ウィニフレッドとメリペンの恋の行方は,幼いベアトリクスの病気はなおるのか,など次作に込める期待ももちつつ,大団円を迎えます。
キャムの最後の言葉「愛する人,自由ならようやく見つけました。ここに,あなたとの人生に」が,この物語のスタートであり,ゴールでもあるように思えます。


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