SSブログ

乙女の告白 [エリザベス・ロールズ]

SHALOCKMEMO503
乙女の告白 The Dutiful Rake 2002」
エリザベス・ロールズ Elizabeth Rolls elizabethrolls.com 海老塚レイ子





 イギリスで生まれ,オーストラリアで暮らしているヒストリカル作家エリザベス・ロールズのシンデレラ・ストーリー。
 スキャンダルで社交界から見捨てられた両親亡き後,ひどい吝嗇家である大叔父のサミュエル・ラングリー伯爵に家政婦同然にこき使われていたマーガレット・フェロウズは,インフルエンザにかかり,床に伏せっていたため,サミュエルの伯爵位を継いだマーカスに数日会えなかったが,高熱の中で医者の診察と,親切に看病してくれたマークのことはうろ覚えに覚えていました。しかし,熱も下がり,新しい伯爵を出迎えたときに,マーガレット(メグ)に声をかけたのは,親切にしたマークではなく伯爵としてのマーカスでした。自分をこのまま家においてくれるはずがないと思い込み,メグは家庭教師に雇ってくれるはずだった家に訪ねますが,両親のスキャンダルが災いして子供に悪い影響を与えると,家庭教師を断られてしまいます。嵐の中を徒歩で歩き出してみたものの,行く当てもなく結局,伯爵家に戻ると,マーカスは,家にとどまるように,そしてさらに自分と結婚してほしいとメグに告げます。
 病気の自分に親切にしてくれたマーカスがきっと自分を守ってくれると信じて,イエスの返事をしたメグでしたがが,マーカスは結婚の条件として,契約結婚であると説明します。自分を愛してくれるために結婚を申し込むのではなく,子孫をもうけるため,そこそこ社交界でのつとめを果たしてくれれば,互いに自由に生きることを約束しようというマーカスの申し出に,メグには承諾するしか道は残されていなかったのです。
 病気が回復し,1ヶ月後に結婚すると,マーカスはメグの美点に次第に気づき始め,愛情をも感じるようになりますが,自ら宣言した結婚の条件からなかなか逃れられず,素直にメグに愛しているとは告げられないマーカス。そしてマーカスの姉,ダイアンの教えもあって次第に上流階級になじんでいくメグでしたが,いつになっても自分の無知によって夫に恥をかかせるのではないかという恐れから,自分の心を素直には夫に告げられないメグでした。そんな互いの気持ちのすれ違いから,メグはついに夫に対して,「好きですって? どうして好きにならなければいけないの? 結婚にそんなことを望む男性がどこにいるの? 愛は結婚以前のところで求めるものだとばかり思っていたわ。 財産や地位や安定した生活のために結婚するのが当たり前なんだと。」と怒りをぶつけてしまいます。これはまさに,当時の上流階級での結婚観をみごとに言い表している台詞ではないでしょうか。
 その後,ある出来事がきっかけで,マーカスは,メグに恋をしていることに気づきます。「今,マーカスは愛を知ってしまった。そんなつもりはまったくなかったのに,契約を交わした後,メグに恋をしてしまった。思えば浅ましい契約で,自分が恥ずかしい」と。この感情は,まさしく,「マイ・フェア・レディ」での,舞踏会の後の教授の気持ちではないでしょうか。作者がシンデレラストーリーをえがく上で,あの高名な映画を下敷きにしているのは間違いないと思います。
 不幸な生い立ちから,令嬢らしい教育を全く受けてこなかったメグの境遇にも感情移入してしまいますし,それにしても,自らの才能や,美貌に全く気づかずに,ひたすら仮面をかぶって,表面的な感情を押し隠し,それをうまい言い回しで言いつくろうメグ。そして,自ら宣言してしまった結婚の条件に縛られて,素直に自分の気持ちを妻に伝えられないマーカスの言動など,上流階級の虚飾が,メグとマーカスの感情の変化やことばを通して,とてもやんわりと指摘されている本書の背景には,イギリスで生まれ,オーストラリアで暮らしている作者の体験がかなり関わっていると思います。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。