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秘密の愛人関係 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO511
秘密の愛人関係 The Outrageous Lady Felsham 2008 (Scandalous Ravenhursts 2)」
ルイーズ・アレン Louise Allen louiseallenregency.co.uk 下山由美





愛人と逃避行」に続く第2弾。
 前作のヒーロー,ジャックの妹,ベリンダ(愛称ベル)がヒロインです。こうしてみると,邦訳のシリーズ名「スキャンダラスな貴族たち」というより,やはり原作のシリーズ名「Scandalous Ravenhursts」(スキャンダラスなレイヴンハースト家)のほうが,しっくりきますね。
 さて,本書のヒロイン,ベルは,夫を亡くし,喪が明けましたが,二度と結婚する気はなく,それならばと愛人を持とうと思っています。深夜,バイロン卿の詩集を読んでいたそんなとき,泥酔したハンサムな男性が突然部屋に入ってきて,シロクマのホラスの上でくつろいでいたベルの上に倒れてしまいます。この男性が,以前の家の持ち主でワーテルローの英雄,デレム子爵アッシュ・レイナードでした。そのまま眠り込んで翌朝を迎えたアッシュでしたが,彼に向かってベルは愛人になってくれないかとお願いするのです。前作でもジャックと大公妃の仲を取り持つため思い切った行動をしたベルですが,本書でも,かなり奔放な性格を表しています。互いに一目で惹かれあったベルとアッシュですが,互いに肉体的には惹かれているものの,結婚までは思い至らず,何度か逢瀬を重ねていきます。
 レイヴンハースト家のベルの従姉妹のエリノアは,常に目立たない服装を好み,母親のいいなりになっていて社交界にデビューすることなど思いもしない娘ですが,人のこころの機微には敏感で,ベルがアッシュを,アッシュもベルを愛し始めていることに気づきます。愛のある結婚というテーマは,リージェンシー・ロマンスではおきまりの約束事ですが,エリノアは,二人の思いを互いに気づかせるため重要な役割を果たします。
 さて,さて,二人のロマンスはさておき,本書のもう一つのテーマは,ワーテルローで身体的,精神的に傷を負った元兵士たちが,イギリス社会の中で行き場をなくし,大きな社会問題となっていたということです。英雄と呼ばれるアッシュも,戦いのことは,家族には話したがらないですし,さらには命からがら帰郷した元兵卒たちは職もなく,体と心の病を抱えてその日暮らしの生活をせざるを得ない状況に追い込まれていました。ベルはアッシュが戦のことを話したがらないことを見抜き,これらの人々が自立して生活していくために支援委員会を作り,財政的,精神的支援をしようとします。欧米では,貴族がこのような慈善事業を起こして困っている人々を救おうとすることが,日常の中に息づいていることが本書からも読み取れます。持てる者が,持たざる者に手をさしのべることが常識となっている社会。持てる者と持たざる者が社会に存在していることを認め,援助をすることが自然な社会というのが,成熟した市民社会となるのだろうなぁと思わせる展開です。
 ベルは,いわゆる精神的に成長を遂げていくビルドゥングス・ロマンのヒロインではありませんが,それなりに愛らしく,しかも愛を成就させようと賢明に生きる女性の一人です。


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