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伯爵の花嫁 [シェリー・ブラッドリー]

SHALOCKMEMO512
伯爵の花嫁 His Lady Bride 2000」
シェリー・ブラッドリー 芦原夕貴





シェリー・ブラッドリーの邦訳第1作です。訳の芦原さんの訳書としても第1作目ですね。
文庫帯には,「森に住む魔術師のもとに,いけにえとして嫁がされ・・・」とあります。確かに冒頭はそんな感じですが,この魔術師というのが,ヒーローのベルフォード伯爵アリク・ネヴィルの世を忍ぶ仮の姿とでもいうのでしょうか,本来は伯爵なのですが,権力闘争に嫌気がさし,森の中のコテージで孤独な生活を送るアリクなのでした。
さて,このコテージに男爵家の娘でありながら,爵位を継いだキャプショー男爵バードリックの姪であり,現男爵の娘たちより美人で気が強いため,徹底的に苛め抜かれてきたグウィネスが家を追い出されるために,魔術師と噂されるアリクに嫁ぐか,命を失うかという究極の選択を迫られて連れてこられます。孤独な生活の中で自分を取り戻しつつあったアリクは,こんな運命で連れてこられたグウィネスとの結婚を仕方なく承諾し,二人は司祭のもとで正式な結婚という道を選択せざるを得ませんでした。しかし,結婚はしたものの,もともと男爵の娘だったグウィネスは,アリクにしか愚痴をこぼせませんし,計略を用いて城に逃げ帰ってみたものの男爵をはじめ城の誰からも相手にされず,再び森のコテージに帰ることになってしまいます。
ところで,時代はバラ戦争末期,15世紀中ごろの物語です。ヨーク家とランカスター家の王位継承問題から内乱に発展したバラ戦争ですが,さて,どっちが白バラでどっちが赤バラでしたっけ?アリクが「白獅子」と呼ばれていたことから白側だったことは想像がつきますが,いずれにせよ,キングメーカーといわれたネヴィル家の爵位を継ぐものですから,イングランドで最も影響力の強い人物であったことは想像に硬くありません。そして,その正体を隠し隠遁生活を送っていたアリクに対して,グウィネスはかなり強く口での攻撃を繰り返すのでした。それでも,アリクは辛抱強くその口撃に絶え,グウィネスもうすうすはアリクの真の優しさに気づいていくのですが,城の女主人としての生活を捨てきれないのでした。
貴族には貴族の生活のよさと同時に,さまざまな意味での責任も伴うものだという精神は,ノブリス・オブリージュという言い方で古来イギリスには長い時間をかけてはぐくまれてきたのだと思いますが,グウィネスからしてみれば,広い城で多くの使用人たちを使って家事を差配する生活というのは,自分の本来の姿であるという思いからはなかなか逃れられなかったようです。
そして,アリクにはアリクなりに,自分の城に戻れない理由があるのでした。ひとつは,元自分の婚約者でありながら,自分の父と結婚してしまったロウィーナという美女の存在です。彼女もまた貧しく生まれ,美貌を元に貴族の生活を獲得するために愛をもとにした結婚を捨てた女性でした。しかし,アリクは,ロウィーナへの愛をもともと感じていたわけではなかったようで,読者からすれば,二人が愛をはぐくんでいなくてよかったと思わせられます。ロウィーナもグウィネスも同じような考えをもっていることから,作者としては両者の違いをグウィネスの精神的な未熟さ=愛らしさというところにおいたようです。とはいえ,グウィネスが誰に対しても食ってかかる様な挑戦的な態度を崩さないところから,いらいらさせられながらも憎めない性格をもっているところが,グウィネスがヒロインとして認められる存在なのかもしれません。
大団円では,爵位と城を失ったアリクが,グウィネスの愛を獲得するためのもうひとつの大きな仕掛けが用意されており,同時にグウィネスの心の成長も描かれて,さわやかな終結を迎えます。
この作品はアリクの友人である,ドレーク・マクドゥーガル,キーラン・ブロデリックがそれぞれヒーローを務めるシリーズ "Brothers in Arms" の第1作目にあたっています。暗い性格に描かれているドレーク,誰にでもひょうきんに話しかける明るい性格のキーランがそれぞれどんなヒロインと出会うのか楽しみです。


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