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あのキスの記憶 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO514
あのキスの記憶 A Lover's Kiss 2008」
マーガレット・ムーア Margaret Moore margaretmoore.com 飯原裕美





 マーガレット・ムーアの作品は本当に久しぶりに読了しました。ほぼ2年半ぶりです。
 どの作品も圧倒的な力で心に残るものを常に書き続けている作者ですが,本作はリージェンシーもので,ちょっと軽めの感じがしました。というのも,ヒーローのダグラス・ドゥルーリー卿(Sir Douglas Drury)が,これまでの作品のような自信に満ち溢れた,運命に立ち向かっていく前向きなヒーローではなく,ちょっとナイーヴで,運命を呪い,周囲の人々に表面的には自信に満ち溢れているようでも,なにかガラスのように崩れてしまいそうな雰囲気が漂っているからだと感じられました。
 さて,本作ですが,ロンドンの下町でお針子をしているフランス娘ジュリエット・ベルジュリンヌ(Juliette Bergerine)は,夜半に取っ組み合うような音を聞き,一人の男性が四人の風体が宜しからぬ男たちに襲われているところを目撃し,下宿屋の窓からジャガイモを投げつけて男たちを追い払います。さらに襲われていた男性を自分の部屋に引き上げ,介抱します。時恰も1819年。ワーテルローの戦いから間もなく,ロンドンでの治安もあまり感心しない時代。フランス人である自分はイギリス人から憎まれていると感じているジュリエットは,兄を探すためにロンドンでお針子をしながら情報を集めていたのでした。ジュリエットの部屋のベッドに助け上げられたサー・ドゥルーリーは,意識が混沌としている中で,ジュリエットの唇を奪い,マ・シェリーとフランス語でささやきかけ,そのまま意識を失ってしまいます。これが二人の出会いでした。サー・ドゥルーリーは准男爵で法廷で刑事事件の弁護士として広く名を知られた名士であり,さらにはロンドン社交界に複数の愛人を持っていることでも知られるドンファンでした。また,蜘蛛の研究書で知られるブロムウェル卿(愛称バギー)や,親しい友人のスマイス=メドウェイ夫妻など周囲の人々が目覚しい活躍をします。
 サー・ダグラスが襲われた後,ジュリエットも謎の男に脅かされます。二人を襲った男たちには共通点があることを危惧し,二人はブロムウェル卿の屋敷にかくまわれ,ボウ街の捕り手たちに調査を依頼しますが,なかなか犯人が見つかりません。そこで,ジュリエットの案で二人が婚約したという噂を社交界に流し,敵をおびき寄せることになります。サー・ドゥルーリーは,はじめはその案に賛成できなかったのですが,その頃には二人の間には互いへの想いが強まっていたのでしょう。二人はいとこ同士と偽り作戦を開始します。その後は,お約束どおりなかなか作戦がうまくいかず何度か二人とも危ない目にあったり,互いの瞳の中に気持ちを読みあったりするのですが,ジュリエットの兄の捜索と二人を襲った悪漢の捜査の両面の謎はなかなか手がかりがつかめません。しかし,二つの謎があるところで絡み合い,究極の危機がやってきます。二人はバギーやスマイス=メドウェイ夫妻の助けを借りて,この危機を乗り切ろうとするのですが・・・。
 互いの運命的な出会いから,過去に二人の運命はすでに出会っていたこと,そして運命より愛の力が強いことを証明した作品です。前半では,これまでの作者のヒーローとは異なるヒーロー像を感じていた斜麓駆ですが,後半はやっぱり困難に負けずに力強く立ち向かうヒーローと,自分の運命に立ち向かっていくりりしいヒロインの姿が描かれ,勇気を与えられる一作に仕上がっています。


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